コンテンツマーケティングとマーケティングオートメーションの関係を考える

  • コンテンツマーケティングとマーケティングオートメーションの関係を考える
  • 「コンテンツマーケティング」と「マーケティングオートメーション」はお互いにどういった関係なのか?それぞれが生まれたアメリカの歴史を振り返りながら考えてみる。

「マーケティングオートメーション(以下、MA)」とは、あらかじめ設定したマーケティングシナリオを自動実行するためのプラットフォームで、2015年から外資系のベンダーが日本に進出してきたことを契機に、国内のマーケティング業界でも、大きなトレンドとなっている。

当サイトでも報告したが、先月、日本国内で開催された第2回コンテンツマーケティングEXPOにおいては、出展企業のカテゴリとして新たに「MA」が加えられた。他方、各種MAのイベントやセミナーにおいて、登壇者がMAの事例紹介をする際に「コンテンツマーケティング」の重要性を聴衆に説くといったシーンにも数多く遭遇するようになってきた。この2つの大きなトレンドはお互いにどのように関連するのだろうか、というのが本記事で取り上げるメインテーマである。ここで、最初の切り口として、面白いデータを紹介しよう。

2011年1月~2016年6月の日本における「コンテンツマーケティング」と「マーケティングオートメーション」の検索数の推移(Google Trend)

このデータは2011年1月~2016年6月の日本における「コンテンツマーケティング」と「マーケティングオートメーション」の検索数の推移(Google Trend)をあらわしている。全体として、非常に似た推移だということがわかるのだが、それ以外にも以下3つのことが推測されよう:

  1. 日本においては、MAよりも先にコンテンツマーケティングが導入された
  2. コンテンツマーケティングの流行を後追いするかたちでMAも流行
  3. 2016年に入ると、MAの流行度が、コンテンツマーケティングに急接近

さらに「コンテンツマーケティング」と「MA」の関係を読み解いていこうと思うのだが、ここで、アメリカのインフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」(制作:ジェッセ・ノイス氏 )を紹介したい。

このインフォグラフィックが投稿されたのは、今から3年前の2013年と少し時間がたっているのだが、コンテンツマーケティングに至るまでの道のり(歴史)を、インターネット普及期の1993年までさかのぼり、その後20年のキーテクノロジーを5つの山に例えて表現している。各テクノロジーは同時に進化しているので、全体として連続する5つのステップというよりもむしろ、それぞれが独立した山というニュアンスで解釈したほうが実態に近い。また、原文のタイトルが「Content Marketing Software」となっているのは、投稿元が「kapost」というコンテンツマーケティングを実践するためのソフトウェアプロバイダーであるためであることを補足しておく。それでは、順に見ていこう。

テクノロジーの進歩の先に見えてきたコンテンツマーケティング

第一の山|コンテンツへの接続という『キャンプ地』を見つける

インフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」より翻訳・抜粋(※kapost社の許可を得て掲載しております)

ジェッセ氏はこの第一の山を“「インターネット」が爆発し、消費者が「情報」というものにかつてないほど容易にアクセスができるようになった時期”とした上で、“Google Adwordsやブログなどの現在の鍵となるマーケティング製品が生み出された重要な時期”と定義づけている。

インターネットという環境が整った後、コンテンツを発信したいという、コンテンツ制作サイドのニーズが高まり、それを実現するための環境(プラットフォーム)も整備され、実際にコンテンツが量産されていった。次に、良質なコンテンツを望む読み手側のニーズもそれに応じるかたちで高まっていった。十分量のコンテンツ受給関係が成立すると、キーワード検索やアクセス解析といった副次的な環境も順次整っていたという流れである。

第二の山|営業支援システム(SFA)という『頂』

インフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」より翻訳・抜粋(※kapost社の許可を得て掲載しております)

第二の山は、シンプルな取引先管理システム(Contact Management System)が複雑な顧客管理システム(Customer Relationship Management: CRM)や、BtoBにおける営業支援システム(Sales Force Automation: SFA)に発展し、最終的には180億ドルもの一大マーケットを創出した時期として紹介されている。

この第二の山、SFAの開始時期が、実はその他のどの山よりも古いというのが興味深い。初期のオンプレミス型の、単純に取引先または案件の定量的な属性あるいは営業実績をより効率的に管理する目的でつくられたシステムが、それらに加えて営業プロセスをまるごと管理できるシステムに、クラウド化の波を乗り越えながら進化、洗練されていった。現在に至るまでの30年間で、アメリカのユーザ企業が、数々の試行錯誤の末に「CRM」というシステムに対して、適応していったというのは日本との大きな違いだ。

原文では、「SALES FORCE AUTOMATION SUMMIT」とあり、このSUMMITには「頂上」という意味がある。原作者がこの言葉を選んだのは、アメリカのIT業界の総意として、CRMを企業文化として根付かすことに成功した自負であると推測する。

第三の山|ソーシャルマーケティングという『登り坂』

インフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」より翻訳・抜粋(※kapost社の許可を得て掲載しております)

第三の山「ソーシャルマーケティング」は5つの山のなかで最も新しいテクノロジーである。Facebook、LinkedIn、Twitterに代表されるSNSが普及したことにより、消費者が購買の判断を頼る軸として、新たに「つながっている人」という存在が加わり、従来の「企業」からという軸の存在感が相対的に弱まった、と説明がある。

SNS上において、消費者の口コミやレビューが拡散する範囲が、理論上は地球規模に広がり、そのスピードもそれ以前と比較すると異次元のものとなった。絶対的なステークホルダーであるはずの「企業」を介さずとも成立する、消費者の購買決定に絶大な影響を及ぼすSNSを、どのようにビジネスに有効活用するかというソーシャルマーケティングの重要性は、日々増すばかりである。

第四の山|マーケティングオートメーション(MA)という『山』

インフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」より翻訳・抜粋(※kapost社の許可を得て掲載しております)

「コンテンツへの接続」、「営業支援システム(SFA)」、「ソーシャルマーケティング」という3つの山を越えてきたが、いよいよ「マーケティングオートメーション(MA)」という山を登ることになる。ここでの文脈としては、やはり第二の山のSFAの存在が大きい。つまり、SFAが普及するにしたがって、次段階として、消費者の購買意欲を示す「デジタルボディランゲージ」を読み取ることにより見込み客を育成したいというユーザ企業からのニーズに対して、「Eloqua」、「Marketo」、「Pardot」といった先駆的なMAプロバイダー企業が対応してきたということである。

アメリカにおけるMAの歴史は意外に古く、開始は1999年とあるが、普及期はおそらく2010年頃からと考えられる。それ以前の20年間で営業支援システム(SFA)の運用文化を熟成してきた企業からしてみると、MAのニーズは、いわゆる「セールスファネル」上で、CRMステージに隣接する川上方向への伸長であり、ごく自然な流れであるし、その2つのシステムを連携し運用させる基礎がすでに備わっている企業も多数存在したと考えられる。

第五の山|コンテンツマーケティングという『頂上』

インフォグラフィック「The Climb to Content Marketing Software」より翻訳・抜粋(※kapost社の許可を得て掲載しております)

5つの山の最後にそびえるのが「コンテンツマーケティング」である。MAから遅れること10年あまり、営業支援システム(SFA)やソーシャルマーケティングなどの環境が整備されていくにしたがって、高まってきたものが良質なコンテンツへのニーズ、つまりコンテンツマーケティングへのニーズである、とジェッセ氏は締めくくる。

コンテンツマーケティング|マーケティングオートメーションを取り巻く、日米間の環境の違い

コンテンツマーケティングとMAの関係について、日米間での違いについて見ていくことにする。ただし、まずは今回紹介したインフォグラフィックの最後の年の2013年以後から今日の2016年までの注目すべき動きを考えてみる。

大きな流れとしては、消費者が情報を得る手段、媒体が今までよりもさらに多様化した。最近ではよく「オムニチャネル(あるいは、マルチチャネル)化」という言葉で説明されるが、これは、消費者がEメール、各種SNS、LINE(アメリカではWhatsApp)に代表されるメッセンジャーアプリなど複数のマーケティングチャネルを縦断しつつ、さらにPC、タブレット、スマートフォンなどの複数のデバイスを横断しながら、さまざまな情報を収集するようになってきたということである。この縦横無尽な動きをする消費者に対してパーソナライズされ、首尾一貫したメッセージを届けよう(One to One マーケティング)というのがこの期間における企業のニーズである。

これに関連し、前述のインフォグラフィック上の4つ目の山「MA」で、大きな動きがある。直近の3年間において、オムニチャネル化に応じた機能拡張、あるいはCRM、SNS、広告配信などのプラットフォームとの連携が強化され、MAが複数のプラットフォームのいわば「ハブ」のような役割を果たす動きが加速している。また、プラットフォームとしてのMAが進化するのと同時に、マーケティング施策におけるコンテンツの本来あるべき姿が改めて見直されている。実際に、この期間にアメリカではコンテンツマーケティングが広く普及し、多くの成功事例も報告されている。

さて、以上がアメリカの状況であるが、翻って、日本はどうだろうか?日本の場合、アメリカと大きく異なるのは、CRMを根付かせることに成功した企業が非常に少ないことである。そのような状況下で、MAよりも先にコンテンツマーケティングという考え方がアメリカから輸入され、その後にMAが持ち込まれた。CRM文化を長年かけて醸成し、MAも十分に咀嚼された段階でコンテンツマーケティングに取り組んでいるアメリカとは実に対象的で、コンテンツマーケティングブーム、MAブームと一過性のファッションとして揶揄する識者もいるようだ。2015年がMA元年と言われるが、MAの運用を軌道に乗せるのに苦労している企業も多いと聞く。CRMが根付いていない組織で、MAという未知のプラットフォームを使い、コンテンツマーケティングを手探りのなか実践することに紆余曲折があることは自明であろう。

ただ、光明の兆しがないわけではない。国内でMAを先駆的に運用してきたユーザ企業やMAプロバイダー(特に新興の国産MA)から、コンテンツマーケティングを啓蒙する動きが高まってきている。海外から優れたメソッドをすばやく吸収することにもともと長けているのも事実だろう。コンテンツマーケティングに抜け道や近道はないが、試行錯誤を堅実に繰り返した先には確かな成果があるはずである。

2004年1月~2016年6月の世界における「content marketing」、「marketing automation」、「コンテンツマーケティング」、「マーケティングオートメーション」の検索数の推移(Google Trend)

当サイトで、マーケティングオートメーションを取り上げるのは、今回の記事が初めてである。昨年2015年にMAが日本に上陸して以来、様々な関連記事を目にするようになった。本家アメリカとの違いに焦点を当て、CRM文化の浸透なきところではMAの運用はうまくいかない、といった論調が多いようだ。しかし、国が違えば、商習慣も運用方法も違ってくるのは当然。古今東西、「CRM⇒MA」が唯一の解という考えはあまりに早計だろう。事実、CRMとの接続を前提としない国産MAも誕生している。広告連動型で、DMP(Data Management Platform)に近いかたちを模索するなど興味深い動きも見られる。コンテンツマーケティングを実践するためのプラットフォームとして、MAが日本でどのように独自進化するかを、そしてもちろん、コンテンツマーケティングの成果を高めるためのMAの使い方についての情報を今後もお伝えしていきたい。

執筆/翻訳:田所浩之(日本SPセンター)

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