コンテンツマーケティング・アカデミーのスタッフ3名が、マーケティングやコンテンツにまつわるテーマについて、気ままにフリートークします。
「コンテンツマーケティング・グランプリ2025」の審査を通じて、多くのオウンドメディアに共通する課題が見えてきました。コンテンツの品質は高いのに、あと一歩が惜しい——そんなメディアに共通する8つの「落とし穴」を、今回は審査の現場からお届けします。
参加者プロフィール
村上健太
コンテンツマーケティングアカデミー、チーフストラテジスト。
企業のコンテンツ戦略立案に携わり、コンテンツマーケティング・グランプリの審査員も務める。
髙山はるみ
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
長年企業ウェブサイトの制作に携わり、オウンドメディアの運営課題に詳しい。
今井静香
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
生成AIの活用に関心が高く、新しいコンテンツ制作の可能性を探求中。

#1 「コンテンツの成功」と「企業の成功」は別物?
村上:今回は「コンテンツマーケティング・グランプリ2025」の審査から見えてきた、オウンドメディアの「落とし穴」についてお話したいと思います。審査で最も多く見られた課題が、「コンテンツと事業成果の断絶」です。コンテンツ自体は評価されているのに、そこから具体的なビジネス成果への接続が見えない。
高山:「記事の品質は高いのに、事業貢献につながっていない」ということですよね。それは具体的にどんな状況なんでしょうか。
村上:たとえば、オウンドメディアで非常に読み応えのある記事を作っているのに、その記事から問い合わせや採用応募、購買、具体的なブランドのファン創出、といった成果にどうつなげるのかが見えない。「コンテンツの成功」と「企業の成功」が別々になっていたり、遠くかけ離れすぎているんです。
今井:たしかに、読んで「良い記事だな」と思っても、その先に何をしてほしいのかが伝わらないと、マーケティングとしてはもったいないですよね。
村上:まさにそうです。この「断絶」が起きる根本的な原因は、コンテンツを作る前の戦略設計が不足していることにあると思います。具体的に言うと、「ペルソナ」の設定があいまいなままコンテンツを作り始めてしまっているケースが多いのではないかと。
高山:ペルソナというと、「30代男性、会社員」といったざっくりしたものを想像しがちですが、それだけだと不十分なんですよね。
村上:その通りです。B2Bの場合、個人属性だけでなく、その人が属する組織の属性——業種や規模、意思決定のプロセスなど——まで踏み込んで設定する必要があります。B2Cでも、その人のライフスタイルや価値観まで描くことで、コンテンツの方向性が明確になります。
今井:ペルソナを設定した先に、どういうステップが必要なんでしょうか。
村上:次に重要なのが、そのペルソナの「情報ニーズ」を把握することです。ペルソナがどんな課題を抱えていて、どんな情報を求めているのか。これをしっかり調べずに「自分たちが伝えたいこと」を発信しているメディアが実は多いんです。
高山:「自社が伝えたいこと」と「読者が知りたいこと」は必ずしも一致しないですものね。情報ニーズの把握が大事だというのは、現場でも強く感じます。
村上:そして、ペルソナと情報ニーズが見えてきたら、それを「カスタマージャーニーマップ」として可視化することが重要です。ペルソナが製品やサービスを知ってから、比較検討し、最終的に導入や購買に至るまでの道筋を描く。その各段階で、どんな情報ニーズがあり、どんなコンテンツで応えるのかを設計するわけです。
今井:なるほど。カスタマージャーニーマップがあれば、「この記事は誰の、どの段階のニーズに応えるものなのか」が明確になりますね。
村上:まさにそこがポイントです。さらに言えば、カスタマージャーニーマップを策定することで、段階的なKPI設計がしやすくなるんです。たとえば、認知段階ではサイト訪問数やSNSシェア数、検討段階ではホワイトペーパーのダウンロード数や問い合わせ数、といった具合に。こうした中間指標を設定することで、最終的なKGI——つまりビジネス成果——に向かって、各コンテンツがどう貢献しているかを測りやすくなります。
高山:KGIだけを見ていると「コンテンツの効果がわからない」となりがちですが、カスタマージャーニーに沿ったKPIがあれば、進捗が可視化されますね。
村上:その通りです。コンテンツマーケティングにおけるカスタマージャーニーマップのポイントは、単純に購買に向かうのではなく、その過程でいかに情報ニーズに応え、顧客が自社のブランドや製品のファンになってもらうかを織り込むことにあるんですね。この戦略設計があって初めて、「コンテンツの成功」と「企業の成功」がつながるんです。
高山:ペルソナを設定し、情報ニーズを把握し、カスタマージャーニーマップを作成する。この3ステップが、コンテンツと事業成果をつなぐ橋渡しになるということですね。
村上:その通りです。審査で高く評価されたメディアは、こうした戦略的な設計がコンテンツの背景にしっかりと見えていました。ペルソナ・情報ニーズ・カスタマージャーニーマップという基本のフレームワークに立ち返ること、そしてそこから段階的なKPIを設計してビジネス成果への道筋を可視化すること。これをおすすめしたいです。
#2 AI時代に「お役立ち情報」だけでは勝てない
村上:次に注目したいのが、「AI検索時代のお役立ち情報の限界」です。生成AI検索が広がる中で、従来型のノウハウ記事やお役立ち情報を出すだけでは、差別化が難しくなってきている。
今井:たしかに、AI検索やAI要約で十分という風潮が広がっていますよね。
村上:ここで重要なのが「ゼロクリック」という現象です。ゼロクリックとは、ユーザーが検索エンジンやAI検索で質問を入力したとき、検索結果ページ上にAIが生成した要約や回答が直接表示されるため、元のウェブサイトをクリックしなくても情報が得られてしまう状態のことです。つまり、せっかく良い記事を書いても、読者がサイトに訪れることなく情報だけ消費されてしまう。
高山:それは深刻ですね。オウンドメディアにとっては、記事を書いてもトラフィックにつながらないということですから。
村上:まさにそうです。ゼロクリックの時代だからこそ「AIの要約で十分だ」と感じるお役立ち情報だけではなく、「サイトに来なければ得られない価値」を提供する必要があるんです。一次情報の深掘りや、情緒価値、独自の切り口、人間への問合せなど、AI要約では代替できない価値の創出が求められています。今回のグランプリ審査でも、「ノウハウ提供以外の価値創出にチャレンジしてほしい」という声がありました。
今井:AIが回答を生成する元ネタになるだけではなく、「このメディアだから読みたい」と思わせる何かが必要なんですね。
高山:AI検索が当たり前になると、「人間にしか書けないもの」「書き手の顔が見えて、想いが伝わるもの」の価値がどんどん上がっていくんですよね。
村上:そうなんです。体験や取材に基づく一次情報、作り手の想いが伝わるストーリー、読者の感情を動かすコンテンツ、こうした要素が、これからのオウンドメディアの生命線になっていくと思います。

#3 「誰に向けて」が見えないもどかしさ
村上:3つ目の落とし穴は「読者ペルソナの不明確さ」です。初めてサイトを訪れたときに、「このメディアは誰に向けたものなのか」がパッと伝わらない。
高山:それはウェブ制作の現場でもよく感じます。サイトの目的や想定読者像がはっきり見えないと、初見で戸惑ってしまうんですよね。
村上:先ほど#1でペルソナの重要性をお話ししましたが、ここではさらに踏み込みたいと思います。ペルソナを設定する際、年齢・性別・職業といった基本的な「個人属性」だけで終わっているケースが非常に多いんです。
今井:個人属性以外に、どんな要素を深掘りすべきなんでしょうか。
村上:大きく3つあります。まず「心理特性」:その人がどんな価値観を持ち、何に不安を感じ、何に期待しているのか。次に「行動特性」:どんなメディアを見ていて、どんなキーワードで検索し、どういうルートで情報にたどり着くのか。そして「購買特性」:その商品カテゴリに対してどんな意識を持っていて、どんな購買行動をとるのか。ここまで深掘りして初めて、読者の実像が見えてきます。
高山:たしかに、同じ「30代の男性会社員」でも、情報感度が高くSNSで比較検討するタイプと、上司の推薦で慎重に動くタイプでは、届けるべきコンテンツがまったく違いますものね。
村上:おっしゃる通りです。そしてさらに重要なのが、読者の「検討状況」と「興味関心領域」を踏まえたコンテンツ設計です。まだ課題を認識したばかりの人と、すでに複数の製品を比較検討している人では、求めている情報がまったく異なります。カスタマージャーニーマップの話ともつながりますが、それぞれの段階で、その人の興味関心に合ったコンテンツを届ける設計が必要なんです。
今井:ペルソナが不明確だと、コンテンツの方向性もぶれやすくなりますよね。
村上:まさにその通りで、審査でも「どんな方向けの記事なのか、誰に読んでほしいのかという手がかりがほしい」というコメントがありました。ペルソナの深掘りは、コンテンツ戦略の土台です。ここに時間をかけることが、結果的にすべてのコンテンツの質を高めることにつながります。
#4 「よくある企業ブログ」の壁を越える
村上:4つ目は「独自性・差別化の不足」です。多くのメディアが「よくある企業ブログ」「一般的な社員インタビュー」の域を出ていないという指摘がありました。
今井:「よくある」って言われると辛いですよね…。具体的にはどんなことが足りないのでしょうか。
村上:ここで大事なのは、「顧客理解」と「自社理解」の両方を踏まえたコンテンツ設計です。#1や#3でお話ししたペルソナや情報ニーズといった顧客理解に加えて、自社の強み、理念、独自性——つまり「自社理解」をしっかり言語化することが必要なんです。
高山:「自社理解」というのは、具体的にどういうことですか。
村上:たとえば、「なぜ自分たちがこの事業をやっているのか」「競合と何が違うのか」「どんな価値観を大切にしているのか」。こうした本質的な問いに向き合うことで、そのメディアならではの“匂い”や“空気感”が生まれてきます。審査でも「理念やこだわりを全面に押し出した差別化がほしい」という声が多くありました。
今井:顧客理解と自社理解、その両方が揃って初めて独自性が出るんですね。
村上:その通りです。そしてさらに大切なのが、その2つを踏まえたうえで、読者を段階的に自社ブランドや製品のファンへと近づけていくコンテンツ設計です。いきなり「うちの製品はすごい」と伝えるのではなく、まず読者の課題に寄り添い、信頼を獲得し、共感を育てていく。その延長線上に、自然と自社への好意や支持が生まれるような流れを設計するんです。
高山:「他社とは一線を画す」というのがポイントですよね。似たようなメディアが増えているからこそ、「このメディアはここが違う」というものがあると強い。それは顧客のことも自社のことも深く理解しているからこそ生まれるものだと思います。
#5 作り手の「体温」が感じられることの大切さ
村上:5つ目は、「作り手の顔・文脈の不在」です。「なぜこのテーマを選んだのか」「誰がどんな想いで書いているのか」という語りの文脈が見えないメディアがありました。
今井:「作り手の体温が感じられる」って、確かに読者の共感や信頼につながりますよね。
高山:特にAI時代だからこそ、ここが大事なのかもしれません。生成AIでいくらでも整った文章が作れるようになった今、読者は無意識のうちに「これは人間が想いを込めて書いたものなのか、それともAIが生成しただけなのか」を感じ取っているのではないでしょうか。
村上:まさにそこなんです。読者が求めているのは、正確な情報だけではありません。「この人はなぜこのテーマに情熱を持っているのか」「どんな経験からこの考えに至ったのか」——そうした作り手の体温が文章から感じられたとき、読者の心は動くのだと思いますね。
今井:情報としては同じ内容でも、書き手の実体験や葛藤が織り込まれていると、全然印象が違いますよね。
村上:そうですね。企画の裏側にどんな想いがあったのか、取材でどんな発見があったのか。そうした「人間だからこそ語れること」がコンテンツに込められていると、読者は「この記事はAIには書けない、人間が心を込めて作ったものだ」と感じる。その感覚が、メディアへの信頼や愛着へとつながっていきます。
高山:テクノロジーが進化すればするほど、人間の体温を感じるコンテンツの価値は上がっていくのでしょうね。
村上:審査でも「書き手・作り手の想いや顔が見えないのがもったいない」という声がありました。どのメディアにも必要な視点だと思います。
#6 コンテンツにたどり着けない問題
村上:6つ目は、「サイト回遊・コンテンツ発見の課題」です。コンテンツ量は豊富なのに、読者が目的のコンテンツにたどり着けない構造上の問題です。
高山:ナビゲーションの問題ですね。おすすめ記事やカテゴリ別、レベル別の整理があると、読者はずいぶん楽になります。
今井:まとめ記事や業種別・課題別のガイド記事などの工夫も、読者体験が大きく向上しますよね。せっかく良い記事がたくさんあるのに、それにたどり着けないのはもったいないです。
村上:そうですね。これらは、比較的改善しやすい部分だと思いますので、ぜひ他のオウンドメディアやWEBサイトを参考に、使いやすく見やすいサイトナビゲーションや、ガイドを目指していただければと思います。
#7 「読んで終わり」にしない導線設計
村上:7つ目は、「読者アクションへの導線不足」です。記事を読んだ後に、読者が取るべき具体的なアクション——問い合わせ、申し込み、コミュニティ参加など——への導線が設計されていない。
高山:コンテンツが「読んで終わり」になってしまうと、そこから先のビジネス成果にはつながらないですものね。
村上:ここで意識したいのが、グランプリの審査委員も務めていらっしゃるフジイユウジさんが提唱している「読後感」という考え方です。読者がこの記事を読み終わったとき、どんな気持ちになっているか。「共感した」なのか、「びっくりした!」なのか、「試してみたい」なのか、「相談してみたい」なのか。その読後感を事前に想定しながらコンテンツを設計・編集することが大切なんです。
今井:読後感を想定する、というのは面白い視点ですね。記事の内容だけでなく、読んだ後の読者の感情まで設計するということですか。
村上:そうです。たとえば、課題解決型の記事であれば、読後感は「自分にもできそうだ、まず試してみよう」かもしれない。事例紹介の記事であれば、「うちの会社でも同じことができないか相談してみたい」かもしれない。その読後感に自然とつながるCTA(次の行動喚起)を置くことで、読者は違和感なく次のステップに進めます。
高山:読後感から逆算してコンテンツとCTAを設計する。段階的なコンテンツ設計戦略があれば、コンテンツマーケティングとして次のレベルに進めそうですね。
#8 品質の「ばらつき」をどう押さえるか
村上:最後の8つ目は、「コンテンツ品質のばらつき」です。一部に優れた記事があるのに、全体としての品質が安定していない。
高山:定期的に発信し続ける中で、品質を安定させるのは本当に難しいですよね。
今井:良い文章があるのに読み飛ばしてしまう…というのは、もったいないですね。
村上:ここで見逃せないのが、コンテンツ制作経験者、特にベテランが持っている「言語化されにくい細部の品質」の重要性です。見出しの付け方一つ、リード文の温度感、段落の切り方、写真と文章のバランス——こうした細部の積み重ねが、読者に「このメディアは信頼できる」という印象を与えるんです。
高山:まさに「神は細部に宿る」ですね。マニュアルには書きにくいけれど、読者は無意識にそこを感じ取っている。
村上:そうなんです。ベテランの編集者やライターが当たり前にやっている、その「当たり前」を言語化してガイドラインや編集プロセスに落とし込むこと。これは地道な取り組みですが、メディア全体の品質を底上げする最も確実な方法だと思います。
今井:経験豊富な人の暗黙知を、チーム全体で共有できる仕組みづくりが大事ということですね。
村上:継続的かつ安定した品質での発信体制をいかに構築するか。神は細部に宿る、その意識を持って、一つひとつのコンテンツを丁寧に仕上げていくことが、メディアの信頼性を高めていくのだと思います。それに、作り手としてもコンテンツの品質が上がってくると、自信につながり続けることが楽しくなってきますしね!

まとめ
「コンテンツマーケティング・グランプリ2025」の審査から見えてきた8つの落とし穴。その根底に共通していたのは、「コンテンツを作る前の戦略設計」と、「コンテンツを届けた先の体験設計」という、上流と下流の両方が不足しているという課題でした。
上流においては、ペルソナの深掘り——個人属性にとどまらない心理特性、行動特性、購買特性の理解——から始まり、その情報ニーズを把握し、カスタマージャーニーマップとして可視化すること。さらに、顧客理解と自社理解を掛け合わせて、段階的に読者をブランドのファンへと育てていくコンテンツ設計が求められます。カスタマージャーニーマップに基づいた段階的なKPI設計は、最終的なKGI=ビジネス成果への道筋を可視化し、コンテンツの事業貢献を測定可能にします。
下流においては、読者の「読後感」を想定した導線設計、サイト回遊を促すナビゲーションの工夫、そして品質のばらつきを抑える編集体制の構築が重要です。ベテランが持つ「言語化されにくい細部の品質」への意識——神は細部に宿る——を組織全体で共有していくことも欠かせません。
加えて、生成AI検索の普及によるゼロクリック時代の到来は、従来型のお役立ち情報の価値を急速に変えています。「AIでは生み出せない価値」——すなわち、一次情報の深掘り、作り手の体温が伝わるストーリー、読者の感情を動かす情緒価値——を意識的に設計することが、今後のコンテンツマーケティングにおいてますます重要になると考えられます。
受賞を惜しくも逃したメディアの多くは、「方向性は正しい」と評価されています。上記の課題を一つひとつ改善していくことで、オウンドメディアはさらにワンランク上の存在へと進化できるはずです。
執筆・編集:Content Marketing Academy