YouTubeの動画戦略フレームワークで考える動画コンテンツの今
コンテンツマーケティングにおける動画活用が活発になっている。動画に積極的な企業はどんな考えのもと取り組んでいるのだろうか。今回は株式会社ビジネス・アーキテクツが主催したセミナーから、動画戦略の考え方や実際の活用事例について紹介する。
株式会社ビジネス・アーキテクツは2015年1月20日、動画を使ったコンテンツマーケティングの重要性を訴えるセミナー「動画コンテンツを考える。設計から、企画、制作、運用まで」を開催した。このセミナーの中から、実際に戦略に基づいて動画を活用する上で特に役に立つ内容であったパナソニック コンシューマーマーケティング株式会社、株式会社AOI Pro.、ナカミノ株式会社の考え方・戦略や活用事例などをお伝えする。
「Hero」「Hub」「Hygiene」…大切なのは、制作するべき動画が3類型のどれに位置づけられるのか考えること
まず最初に、ビジネス・アーキテクツの中江康人代表取締役社長は、「動画コンテンツに興味があるが使い方が分からない」と質問を受けることが多い現状を明かした。
一口に動画コンテンツといっても種類は様々。同社では「マーケティングの鍵を握る3種類の動画コンテンツ」として、「Hero」「Hub」「Hygiene」という3つのカテゴリーに整理しているという。これはYouTubeによるクリエイター向けの公式活用ガイドに記載されているカテゴリー分けだ。
Hero動画は、拡散を目的としたウェブ動画やテレビCMのように、一気にリーチを広げることを狙うコンテンツ。「時間と予算をかけた末に、剛速球を投げる一発勝負型だ」と中江氏は説明する。Hub動画は、企業が潜在顧客との継続的なつながりを持つことを目的とした動画。ビジネス・アーキテクツでプロデューサーを務める伊藤大氏は、「コンテンツを定期的にアップしエンゲージメントを高めることによって、企業が狙う導線への誘導を狙う」と説明する。Hygiene動画は、検索流入を取り込むことを目的としている。「ユーザーの具体化した課題に答えるための動画。ハウツー動画をはじめ、今ユーザーが知りたい情報を分かりやすく説明する」(伊藤氏)。
重要なのは、あらかじめ立てた戦略に応じて最適な動画タイプを選んで制作することだという。今回のセミナーの登壇者の一人、ナカミノ株式会社の塩見則明 代表取締役は、動画が果たす役割を次のように語る。「動画は、顧客とのコミュニケーションツールとしての役割を果たすだけでなく、内容によってサポートツールにもなる。蓄積されてゆくことで、SEO効果も期待できる」。
今回のセミナーでは、この3つのカテゴリーに当てはめながら様々な活用事例が紹介された。その中でも、次の章からはパナソニックの動画戦略などについて紹介していく。
新サービスの認知をHero動画で拡大…パナソニックの戦略とは?
登壇したのは、パナソニック コンシューマーマーケティング株式会社の増田健二氏(eコマースビジネスユニットサービス・ソリューション事業グループ 事業推進チーム チームリーダー)。同社は国内のパナソニック製電化製品の販売や流通、修理・点検などのサービスを手掛けている。
同社は「昔と今と将来を管理するようなアプリになる」(増田氏)というスマートフォン向けアプリサービスを2015年3月にリリースするという。今回のセミナーではリリース前であるためこのアプリの詳細は紹介されなかったものの、リリースに向けたプロモーションにおける動画活用の戦略が明かされた。
この新サービスのプロモーションにおいて重要なのは、スマートフォン向けのアプリをダウンロードしてもらった上で、会員登録、サービスの利用までをスムーズにつなげることだ、と青木氏は語る。そのためにはローンチ直後から新サービスの認知を短期間で広げることが重要だ。そしてこの点を担うのが、拡散させ一気にリーチを広げるHero動画だ。
まずは好奇心が強く日常的にアプリをダウンロードする層を取り込んだ後に、その周辺の層にも広げていく、という戦略を描いているという。
「動画視聴からアプリのダウンロードまでスムーズにつなげるために、スマホ施策に重点を置く」と青木氏は語る。「ローンチしたら一気に(アプリの)ダウンロードを稼ぎたい」と増田氏は話した。
テレビCMとの違いは視聴者の目に触れさせるかに注力する点…大手企業によるHero動画の取り組み事例
先の新アプリリリースに伴う動画戦略事例で紹介されたHero動画とは、具体的にどのようなコンテンツなのだろうか?登壇した映像制作大手AOI Pro.の神吉康太執行役員は、Hero動画の特徴と制作事例を紹介した。
前述の通りHero動画とは、テレビCMのように強いインパクトを視聴者に与えることによって、大幅な認知拡大やブランディングにつなげることを目的とする。ウェブ動画においても、テレビCMと同様の予算や制作ノウハウが求められるという。そのため制作の敷居は高いが、「圧倒的なエンターテインメント性によって、視聴者の感情に訴えることができる」(神吉氏)。
ただテレビCMとの違いもある。「テレビCMは、放映される枠があるため制作に注力することができる。しかしウェブ動画の場合、まず視聴者の目に触れるにはどうすれば良いかを考えなくてはならない。そこが2つの最も違う点ではないか」と神吉氏は語る。Hero動画の事例として、神吉氏がプロデュースを担当したカゴメの事例を中心に紹介した。
最後に神吉氏は、「Hero動画の制作には費用や労力がかかるため、軽いフットワークでの活用は難しい」と語る。動画によるPDCAを効率的にまわすならば、Hero動画だけでなく、比較的手軽なHubとHygieneも同時に活用する必要性を指摘した。
視聴者からのフィードバックを踏まえてペルソナを精緻化する…動画運用の考え方
他のコンテンツと同様に、動画コンテンツにおいても発信後のフィードバックをもとにPDCAをまわしていく必要がある。登壇したナカミノ株式会社の塩見則明 代表取締役は、動画コンテンツにおける運用の考え方と評価指標について語った。ナカミノは、動画コンテンツによるウェブマーケティング支援事業を手掛けている企業だ。
塩見氏によると、発信後の動画コンテンツの運用とは、単に効果に応じて動画を格付けすることにとどまらない。動画へのフィードバックをもとに、ユーザーのペルソナ像をより実態に近づけていく作業が重要になるという。「コンテンツへの反応や視聴者のその後の行動を把握することで、仮ペルソナを精緻化させていく必要がある」(塩見氏)。
また運用の際の評価指標については、「再生数が伸びれば良い、SNSでシェアされれば良いという考えは、正解ではあるもののそれだけではない。現在は多くの会社で様々な評価指標が交錯している状態。これが正解だと断定することは難しい」と塩見氏は話した。
とはいえ最終的なゴールを決めた上で動画を制作することが、効果的なPDCAをまわす上で必須になるとした。
今回、セミナーの登壇者がこぞって「あらかじめ戦略を立てることの重要性」を強調していたのが印象的であった。そしてこの戦略策定の際に紹介していたYouTubeによる「Hero」「Hub」「Hygiene」といったフレームワークは、動画を活用したコンテンツ戦略を策定するにあたって非常に有益といえるだろう。
執筆:三友直樹(日本SPセンター)
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