“The Art and Science of Content Marketing”セミナーレポート
2012年6月24日から2日間にわたり、DMAが主催するセミナー“The Art and Science of Contents Marketing”がニューヨークで開催された。今回は、本セミナーで紹介されたコンテンツマーケティングの考え方と実践方法について紹介しよう。
今なぜコンテンツマーケティングなのか?アメリカで広がる「コンテンツ」重視の動き
セミナーの紹介に入る前に、改めてコンテンツマーケティングの背景について説明しよう。1900年代からコンテンツマーケティングに類するマーケティングアプローチが存在していたアメリカで、今なぜコンテンツマーケティングが再び注目を浴びているのだろうか?
その答えは、多様化しつつある現代のマーケティング環境と、コンテンツマーケティングの相性にあるといえるだろう。コンテンツマーケティングとは、見込顧客のニーズに合わせ、マスメディアに依存しない形で情報を編集、発信する手法である。2000年以降、インターネットの普及により、情報発信者はマス広告以外の手段で容易に消費者と接点を持つことができるようになった。そして2007年以降、ソーシャルメディアやスマートデバイスが登場。企業自らがコントロールできるメディアが増え、コンテンツマーケティングを実施する環境も整ってきた。
さらに、時代がコンテンツマーケティングを必要としているのも大きな要因だろう。情報がカスタマーに「選ばれる」時代になったからこそ、中核にあるメッセージ設計を見直し、各ターゲットにとって有益な「コンテンツ」を提供することが重視され始めているのだ。インタラクティブなメディアが増え、顧客がより細分化された「個」客になりつつある現在、アメリカでは「コンテンツ」を見直す動きがさらなる広がりを見せている。
セミナー1日目:顧客の心をとらえるコンテンツマーケティングとは
2日間にわたって行われたセミナーは、書籍「Managing Contents Marketing」の内容に沿って進められた。1日目はコンテンツマーケティングの概念と、戦略の立て方について、2日目は、コンテンツマーケティングの実践編をレクチャー。実際にコンテンツマーケティングを導入する上で、Robert氏が紹介していた重要なポイントをいくつか紹介する。
『Focus on the customer’s buying journey』
「企業がどのように商品を売りたいか」ではなく、「見込顧客がどのように商品を見て、どのようなきっかけがあれば購入を意識するのか」をしっかり考えること。企業のマーケティングプランに顧客を従わせようとするのではなく、見込顧客の購買プロセスに合わせて企業がプランを立てることが正しいコミュニケーションのあり方だ。
これはコンテンツマーケティングの最も重要なポイントといえるだろう。難解な機能や最新技術を「商品のセールスポイント」として高らかにうたった広告は数多く存在する。しかしこのような広告には、企業が伝えたい事と、購入者のマインドやニーズに大きなギャップが生じることが多い。見込顧客視点で考えると「買いたくなるツボ」は全く違うところにあるかもしれないのだ。また、購入者像のみならず、購買検討プロセスも意識する必要がある。売ることに関心が偏りすぎると、「認知」と「購入」に対する施策が重視されがちだ。しかし見込顧客視点で考えると、「認知」と「購入」の間にある「情報収集」や「他社比較」なども軽視できないステップであることに気付くだろう。
『Tell a bigger story. Tell a different story.』
商品の素晴らしさばかりをうたう広告は浅はかに響く。商品のメリットをアピールするだけでもまだ足りない。「商品を買うとどんな人生が待っているのか。どんな体験ができるのか。」商品購入のその先にある大きなストーリーを描くことで、ユーザーに商品購入後の生活をイメージさせ、商品の良さを伝えるのだ。また同時に、そのストーリーはユニークでなくてはならない。つまり他者と同じ価値をカッコよく語るだけではなく、新たな展開で、新たな価値を生み出すようなストーリーに仕立てなくてはいけない。
多くの企業は「商品が売れること」を目標としているため、その商品がいかに素晴らしく、高機能であるかにフォーカスした広告を制作しがちだ。しかしカスタマーが商品を購入した後には「生活」があることを忘れてはいけない。「この商品を使うと暮らしがどう変わるのか」といった、商品の良さ以上の価値や体験を伝えることができれば、より満足感の高い購買につながる。そして、商品購入後の生活をイメージさせるユニークなストーリーは、口コミにもつながり易いだろう。
セミナー2日目:コンテンツマーケティング成功の秘訣とは
さて2日目は、企業がコンテンツマーケティングを導入する上で、どのように組織を整え、準備するかという方法論についてのレクチャーが行われた。
『Listen to what people are saying.』
コンテンツマーケティングを推し進めると、様々な反響が返ってくるだろう。ソーシャルメディアが普及した昨今、反響が伝わるスピードは早く、及ぶ範囲も広い。しかし、そのことを恐れて消極的な施策を打つのではなく、良い反響も悪い反響も受け止め対処する「体制」を整えるべきだ。「誰」が「どのような判断で」コメントや反論を受け止めるのか。ガイドラインと担当者をあらかじめ決めておき、世の中の反応をうまく取り入れていけば、逆にそれが成功への近道になつながる。
口コミや反響はコントロールできない場合が多い。しかし、一番怖いのは、悪い反響に対応する準備ができていないことだ。ソーシャルメディアなどから発信されるクレームも、対応次第で製品の改善や信頼を得るきっかけにつながる。マイナスの口コミを恐れることなく消費者の声を積極的に取り入れ、マーケティングに活用すれば、より強いエンゲージメントにつながるだろう。
『Plans change all the time. So stay flexible.』
コンテンツマーケティングを実施していくと、予想外の事態が数多く発生する。もちろん、予想以上にうまくいくこともある。もし、計画にない施策が好結果を生んだのであれば、良い結果を活かすために、当初のプラン自体を見直すべきである。ここに一例がある。ある企業が役員ブログを使い、マネージャークラスの見込顧客へのリーチを上げようとしていた。しかし役員だけではブログの更新が間に合わないため、社員にブログを書かせてみた。すると、製品を作る現場の声が反映されている、と社内外で好評を呼んだのだ。この予想外の好結果を活かすべく、今ではこの企業ブログは採用活動や社内活動の発表の場として使われている。コンテンツマーケティングにおいては、最適なメッセージとメディアを選ぶことが重要だ。しかし、上に挙げた例からも、プランニングの時点ですべてを決めつけてしまうのではなく、試行錯誤を重ねながら、その組み合わせが適切どうかを判断する柔軟性も持っておいた方がよいといえるだろう。
一度掲げた目的や、目標を変えるのが難しい場合も多いだろう。だが、コンテンツマーケティングを成功させるためには、顧客の情報ニーズに着目するべきであり、顧客に合わないものを提供し続けるのは本末転倒だ。成功を導き出すためには、柔軟な考え方が必要である。
アメリカのマーケティング担当者に聞くコンテンツマーケティング
以上、セミナーのエッセンスを紹介してきた。アメリカではこのような集中セミナーが開かれることも増え、コンテンツマーケティングが次第に注目されつつある。今回のセミナーには、大手自動車メーカーやNPO法人、保険会社、マーケティングファームなどから約20名が参加。このセミナーに参加した理由として、彼らの多くが「自社内にコンテンツはたくさんあるのに、有効活用できていない」「コンテンツマーケティングに着手したいが、なかなか社内で合意が得られない」などの課題を挙げていた。マーケティングにおいて、半年から数年先を行くと言われるアメリカで、現場の空気を共有できた喜びを感じると共に、改めてその可能性と難しさを肌で感じることができた。日本国内ではまだ広がり始めたばかりの概念だが、日本でもこのような議論が交わされる日が来ることを期待したい。
アメリカ・NYにおいて「Managing Contents Marketing」の著者、Robert Rose氏を講師に迎えて開催されたコンテンツマーケティングのセミナー。講義は2日間に渡り、コンテンツマーケティングの概念と実践についてレクチャー。ディスカッションやアクティビティも交えた参加形式のセミナーにはアメリカ国内の様々な業種のマーケティング担当者が参加、アメリカのコンテンツマーケティング事情を伺い知る良い機会となった。
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