目的を定め、戦略的に実践しよう!~「実践的コンテンツマーケティングセミナー」レポート~
コンテンツマーケティングの実践に取り組む企業は増えているが、どのように始めていけばよいか迷いを抱えている担当者も多いだろう。今回は、雑誌『Web Designing』によって開催されたセミナーから、コンテンツマーケティングの実践において重要なポイントを紹介する。
2015年12月21日(月)、雑誌『Web Designing』11月号 での「実践的コンテンツマーケティング講座」特集を受け、マイナビが主催する「実践的コンテンツマーケティングセミナー」が開催された。WEB制作会社やマーケティング担当者が100人近く参加する中、株式会社イノーバの亀山將氏、ナイル株式会社の成田幸久氏、そして当コンテンツマーケティングラボを運営する株式会社日本SPセンターの野口聖晃が講師として登壇。コンテンツマーケティングの基礎知識から戦略策定まで、実践に役立つセミナーが3時間にわたり繰り広げられた。
活躍するフィールドや立場の異なる三者が、コンテンツマーケティングにおいてそれぞれ重要視していることを紹介する。
コンテンツは長期積み立て資産!?運用の鍵は「戦略」~株式会社イノーバ 亀山將氏
まず登壇したのは、株式会社イノーバの亀山將氏。株式会社イノーバは、コンテンツマーケティングの企画・運用からマーケティングソフトの開発までを手掛ける会社だ。マーケティング部マネージャーである亀山氏は、書籍の執筆やセミナーを通じてコンテンツマーケティングの認知度向上に尽力している。コンテンツマーケティングが今これほど注目される背景や、取り組む前の心構えとして重要なポイントを、わかりやすい事例やデータを挙げ紹介した。
コンテンツマーケティングは実は昔からある手法。「購買行動」「コミュニケーションの変化」により、今注目されるように。
1900年にパリ万博で配られた1冊のガイドブック。ホテルやレストラン、ガソリンスタンドなど、カーライフを楽しむための情報を集めたこのガイドを配布したのは、言わずと知れたタイヤメーカーの「ミシュラン社」である。亀山氏はこのミシュランガイドが、「タイヤそのものの情報」ではなく「カーライフを楽しむ情報(=役立つコンテンツ)」を届けることでブランド認知を拡大したことを例に挙げ、「実はコンテンツマーケティングは古くから行われてきたマーケティング手法。古くて新しい手法、と言われています」と話を始めた。では、なぜ今これだけの注目を集めているのだろう?
CONTENT MARKETING INSTITUTE が2015年9月に出した調査レポート「B2B Content Marketing 2016: Benchmarks, Budgets, and Trends – North America」 によると、BtoBマーケティングにおいて9割近くもの企業がコンテンツマーケティングを試みた経験があるという。株式会社ジャストシステムが2015年4月に出した「コンテンツマーケティングに関するアンケート調査」 によると、日本国内ではアメリカほどの浸透は見られないが、認知度は半数を超えている。
この背景にあるのは、人々の「購買行動」と「コミュニケーション」の変化だと亀山氏は指摘する。亀山氏によると、一般客の約8割は買い物前に「検索」して情報を集め、BtoB取引においても9割以上の企業は購入前にネットリサーチを行う。さらにソーシャルメディアの普及により、ユーザーの口コミは今まで以上に大きな力を持つようになった。つまり「顧客側の情報ニーズを理解し、先回りしてコンテンツを準備し、顧客に“見つけてもらう”。そのための仕組み作りが必要」になってきているのだ。この変化に合致するマーケティング手法として、コンテンツマーケティングに注目が集まっているというわけである。
コンテンツマーケティングは手間も時間もかかる長距離走。やみくもに走るよりも、「戦略」を。
注目度の高まりとは裏腹に、成功しているコンテンツマーケティング事例は決して多いとは言えない。うまくいけば広告費を抑えながらブランド認知を広げるなど多くのメリットを得られるが、運営体制の構築と継続は容易ではない。前述の、CONTENT MARKETING INSTITUTEが2015年9月に出した調査レポート「B2B Content Marketing 2016: Benchmarks, Budgets, and Trends – North America」によると、BtoBでコンテンツマーケティングを行っている企業の4割程度しかその効果を感じていない。
亀山氏は、即効性は高いが投資をやめれば効果が失われるWEB広告に対し、コンテンツは一度作れば長期に渡り効果を発揮する「長期積立資産」であるという。すぐに資産が増えることを期待するのではなく、「目標」を定め、着実に育てていく姿勢と作戦が重要なのだ。つまり、「戦略の存在」である。
「コンテンツマーケティングの基本は、顧客が知りたい情報を、適切なタイミングと適切な手段で届けること。まずはゴールを決めて、戦略を立てることが重要。よくマラソンにたとえられるが、長距離な分、先にスタートしたもの勝ち。スモールスタートでもいいので、ライバルが始める前に戦略を立て、走り始めてみるのがいい。」と締めくくった。
手間を惜しまず考えよう。「誰に、いつ、何を」届けるか〜株式会社日本SPセンター 野口聖晃
続いて登壇したのは、当コンテンツマーケティングラボの編集長を務め、国内外の最新マーケティング事情に詳しい株式会社日本SPセンターの野口聖晃だ。アメリカからの最新情報を紹介するとともに、より具体的な戦略策定のノウハウを紹介した。
日本でも予想されているコンテンツマーケティングの幻滅期。「戦略」は、生き残りの鍵になる。
「コンテンツマーケティングの鍵は“戦略”」とした亀山氏の話を受け、野口もまた、コンテンツマーケティングにおける戦略の重要性から話を始めた。取り上げたのは、当サイトでも紹介したContent Marketing World 2015のイベント主催者であり、コンテンツマーケティング界のゴッドファーザーとも呼ばれるJoe Pulizzi氏のスピーチだ。
Joe Pulizzi氏はアメリカのコンテンツマーケティングがすでに「幻滅期」に入っていると指摘し、この淘汰の時代を生き抜くヒントは「戦略」にあるとしている。彼が示したアメリカでの調査データによれば、コンテンツマーケティングを「効果的」と回答している企業ほど、「戦略のドキュメント化」を行っていたからだ。アメリカで幻滅期が起こっているということは、近い将来、日本にもその時が訪れるだろうと野口は指摘する。戦略立てのノウハウを持っているか否かが、日本のコンテンツマーケティングの未来を左右するのだ。
さらにその幻滅期を勝ち抜いたアメリカのコンテンツマーケティング事例として、野口はボストンの家電メーカーYale Appliance社の例を挙げた。Yale Appliance社は、据え付けが必要な家電に特化し、販売・設置・アフターサービスを事業内容としている。大手メーカーに比べ、従業員数は50~100人と小規模だが、コンテンツマーケティングに取り組んだ結果、売上は2倍、マス広告費の大幅削減にも成功。彼らが取った戦略については、下記の記事で詳しく紹介されているので、ぜひそちらを参照していただきたい。
アメリカで成功した家電メーカー、Yale Appliance社の戦略の成功のポイントは「Hub & Spokeモデルの活用」と「見込み客の学習促進」
野口曰く、彼らの戦略のポイントは次の二つに絞られる。「①Hub & Spokeモデルの活用」と「②見込み客の学習促進」だ。①のHub&Spokeモデルとは、メールアドレスなどの連絡先を取得するための「Hubコンテンツ」と、そこへの“流入数を増やす”ための複数の「Spokeコンテンツ」を効果的に組み合わせてマーケティングゴールを達成する手法である。Yale Appliance社はこの仕組みにより検討熟度の高い見込み客の情報を効率的に取得することに成功。さらに見込み客のサイトへのアクセス状況や情報ニーズを分析し、必要と思われるコンテンツを出し分けることで、②の「見込み客の学習促進」を実施。その結果をもとに、最適なコミュニケーションを導き出すことができたのだ。
ペルソナの情報ニーズ仮説から始まる、戦略策定フロー
続いて野口は、株式会社SPセンターが実際にある化粧品メーカーのコンテンツマーケティング支援を行った際の事例を挙げながら、戦略策定の方法を紹介した。
戦略を決めるには、「①ペルソナ策定」が最優先される。化粧品メーカーの場合、異なる年代と肌タイプの女性を複数想定し、それぞれのライフスタイルや化粧品選びの傾向から、求めている「情報ニーズ」を仮設立てする。「どのようなコンテンツが適切なのかを判断するには、まずユーザー像を明確にしないと判断できません。ただし、それだけに没頭してもダメ。情報ニーズを抽出するという目的のために検討項目を組み立てましょう」と野口はアドバイスする。
続く「②カスタマージャーニーマップ策定」では、見込み客がどのような情報ニーズを経て購買に至るのかの道のりを検討する。ここでも、「目的は必要なコンテンツを見出すこと」だと野口は念押しする。どの段階に、どのコンテンツが必要になるか。それを見極めてから(=③コンテンツマップ策定)、初めて「④メディア選定」へと進み、どういった行動をとってもらいたいのか(=⑤CTA / KPIの策定)・どのタイミングで届けるか(=⑥エディトリアルカレンダー作成)に入っていく。
「メディア選定は、コンテンツマップでコンテンツを先に決めてから。誰に、どのタイミングで、何を伝えるのか。それを先に考えないと、効くものも効かない。」野口のこの言葉に、メディアでは無くコンテンツを起点とし全体設計を構築するコンテンツマーケティングの本質が集約されているとも言えるだろう。
正しい目標設定が、コンテンツマーケティングを成功に導く~ナイル株式会社 成田幸久氏
最後に登壇したのは、ナイル株式会社の成田幸久氏。成田氏はこれまでに数々の大手企業PR誌や雑誌メディアを担当した他、有名人ブログのプロデュースやポータルサイトの企画運営など幅広く活躍してきた。そのWEBにとどまらない豊富な現場経験から、マーケティング現場でありがちなお悩みにこそ、適切な目標設定(=KGI / KPIの設定)が効果的であると説いた。
目標設定が甘いと、効果すら測れない
成田氏が紹介した調査データによると、取り組んでいるコンテンツマーケティング施策に対する課題として最も多かったのは「効果を測る指標がない」で、これは全体の半数以上を占めている。
効果を測る指標がなければ、成果が出たかも分からない。それだけ重要にも関わらず設定していない企業が多いのは、事前の目標設定の甘さ、つまり準備不足が原因だと成田氏は主張する。「『コンテンツマーケティングをやってみたい。予算は内容次第、成果が出る提案をヨロシク!』そんなことを言うWEB担当者は必ず失敗します」と一刀両断。では、どういった「準備」が必要なのか。成田氏は事前に考えるべきこととして、以下の6点を挙げた。
- 背景(なぜやるのか)
- 目的(ゴールは)
- ターゲット
- リスク対策
- ユーザーベネフィット
- 展開チャネル
コンテンツマーケティングは、すぐに成果が出るものではない。上記を考える際も、将来的に起こり得そうなことを事前にできる限り洗い出し、長期的な視点で考えておくことが重要だと氏は語る。これに関して会場からは、「ブームだからやってみたい、というクライアントはコンテンツマーケティングに取り組まないほうが良いか?」という質問が出た。「やらないと決めるのではなく、なぜやるのかを徹底的に考えてみては」と成田氏。たとえば氏はクライアントと話す際、ヒアリングシートなどを使って施策に取り組む理由を徹底的に聞き出すという。そうした「準備」を経て、初めて正しい目標を設定でき、効果を測定できるのだと回答した。
KGIからKPIを逆算して導き出す
お悩みで次に多いのが、「最適な予算配分」だ。成田氏は架空のサイトを例に出しながら、KGI から KPIを逆算し、それに基づき予算を導き出すという具体的な方法をアドバイスした。たとえば毎月5件の契約成立をKGIに据えると➡必要な資料請求数は月間500件➡それには5万人のリピーターが必要➡5万人のリピーターに訪問してもらうには月間25万人のUUが必要、といったように、逆算してKPIを設定できる。
こうした目標設定方法はあくまで一例ではあるが、数々のメディアを経験してきた成田氏が見せるノウハウは会場の興味を集めた。セミナーでは上記のKGI / KPI設定を、マンダラチャートを使って導き出す方法も紹介されていた。このマンダラチャートは『Web Designing』11月号でも取り上げているので、「どんな指標を立てればいいのかわからない、目標を可視化してメンバー同士で共有したい」という人は、一度試してみるのもいいかも知れない。
コンテンツマーケティングにおける戦略とは、見込み客の態度変容を促すために、誰に、どんなコンテンツを、いつ、どうやって届けるのか、具体的な施策を考えることだ。異なる背景を持つ3者にもかかわらず、コンテンツマーケティングを実践する上で戦略が重要だという点では共通していたのが、印象的だった。
戦略を持たずにコンテンツマーケティングを実践した場合、たまたまうまくいくことはあっても、再現性の低さから継続することは難しい。また、適切なKPIを設定しなければ、効果が上がっているか確認する術もない。長期的に取り組むためには、KGI、KPIの設定まで含めて戦略を立案し、実行後は定量的な効果測定をすることが重要と言えるだろう。
執筆:近藤智子
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