ゼロクリック検索時代のコンテンツマーケティング:オウンドメディアからオウンドコンテンツへ
最終更新日: 2025.09.12
この記事でわかること
1.Googleだけでなく多様な検索場に対応する「Search Everywhere」の考え方
2.ゼロクリック検索時代に必要な「オウンドコンテンツ × レンタルレール」戦略
3.想起ファネルと購買ファネルを組み合わせた新しいコンテンツ設計
コンテンツマーケティングはこれまで「いかに見つけてもらうか」という発想で発展してきました。ブログ記事、SNS投稿を通じて、ユーザーに自社コンテンツを発見してもらい、そこからサイトに訪れてもらうことが成功の一つの指標とされてきたのです。
しかし今、AIによる要約やゼロクリック検索が広がることで、この前提が大きく揺らいでいます。検索結果から直接サイトに来てもらう確率は低下し、たとえGEO(Generative Engine Optimization)でAI検索に引用されたとしても、クリックされずに情報が消費される可能性が高いのです。
こうした状況を受け、SEO業界では「Search Everywhere」という新しい考え方が登場しています。Googleだけでなく、TikTokやYouTube、Pinterestといった多様な場で人々は検索を行うようになり、それぞれに最適化することが不可欠になってきているのです。その具体的なアプローチを理解するには、この概念の提唱者であるAshley Liddell氏の「‘Search everywhere’ doesn’t mean ‘be everywhere’」という記事が参考になります。
一方で、コンテンツマーケティングの分野では、さらに広い視点からゼロクリック検索時代に対応する考え方も提唱されています。Content Marketing Instituteのチーフ・ストラテジーアドバイザーであるRobert Rose氏は 「Why Content Marketing Is Outpacing Inbound Now (Even on Rented Land)」という記事の中で、「Owned Media × Rented Rail」という考え方を提示しています。ここでいう「Owned Media」は従来のブログやニュースレターといった媒体そのものではなく、オウンドコンテンツ(資産としてのコンテンツ)を意味しています。また「Rented Rail」とは、YouTubeやTikTokといった外部プラットフォームを借りて走らせるコンテンツの流通経路を指します。本記事では、「Owned Media × Rented Rail」を便宜的に「オウンドコンテンツ × レンタルレール」と表記し、以降この呼び方を用いたいと思います。
以上を踏まえ、本記事ではSEO領域における 「Search Everywhere」、そしてコンテンツマーケティング領域における 「オウンドコンテンツ × レンタルレール」 を取り上げ、ゼロクリック検索時代に適応するための新しいコンテンツ戦略を整理していきたいと思います。
1.SEOの新しい視点:Search Everywhere
かつて検索といえばGoogleを意味し、SEO対策とはGoogleの検索結果ページで上位に表示されるように最適化することを指しました。しかし現在では、ユーザーの検索行動は大きく多様化しています。Ashley Liddell氏の記事によれば、日本とは状況が多少異なるものの、次のような変化が見られるといいます。
・若い世代はTikTokで直接検索する・レシピやライフスタイル関連はPinterestで調べる
・実体験や口コミを知りたいときはRedditに行く
・学びや解説はYouTubeを利用する
このように「検索」はもはやGoogle上だけでの行為ではなくなりました。その結果、SEO業界で注目されているのが「Search Everywhere」という考え方です。これは単に「どこにでも露出する」ことを意味するのではありません。検索が発生するあらゆる場で、ユーザーの意図に沿った最適な形で存在感を示すことを指しています。
重要なのは、プラットフォームごとの「流儀」に合わせてコンテンツを展開することです。Ashley Liddell氏は次のように整理しています。
・TikTok:短く共感や発見を生む動画
・YouTube:深掘り解説やハウツー形式の長尺動画
・Reddit:経験談や比較を交えたコミュニティ対話
・Pinterest:未来を想像させるビジュアル集
・Instagram:ライフスタイルに寄り添う短尺リール
同じテーマでも、プラットフォームごとに表現を変えることで、初めてユーザーに届くコンテンツになります。
「Search Everywhere」の狙いは、ゼロクリック検索時代における「認知の入り口を広げる」ことにあります。従来のSEOはGoogle検索に最適化して「発見されること」を中心に据えていました。しかし今や発見の場は多様化し、そこでブランドが最適な形で姿を現さなければ、購買検討に入る前に選択肢から外れてしまいます。
わかりやすくいえば、「Search Everywhere」とは、ゼロクリック検索によって削られてしまった購買ファネルの上層を補う戦略であると整理できます。AIによる要約やリッチリザルトでクリックが減少する分、ユーザーが集まる他の検索場に積極的に展開し、ブランドの存在を認知してもらう。その補完的な役割こそが、「Search Everywhere」なのです。
しかし、「Search Everywhere」を実践して購買ファネルの入り口を広げたとしても、今までGoogle検索から得られていた流入を十分に補えるとは限りません。ゼロクリック検索時代における根本的な課題は、「検索の瞬間にユーザーに思い出してもらえるかどうか」です。この課題を解決するためのアプローチが、次に紹介するオウンドコンテンツという考え方になります。
2.コンテンツマーケティングの新しい視点:オウンドコンテンツ
検索エンジンが購買行動の中心になる前、広告の役割は明快でした。人々の記憶にブランドを刻み込み、購買のきっかけが生じた瞬間に「思い出させること」。それこそが選ばれるための最重要条件だったのです。
やがてSEOの時代が到来すると、状況は一変します。Google検索の上位に表示されることが購買検討の入口となり、企業は「どう検索結果に現れるか」に注力するようになりました。マーケティングの勝負は「検索エンジンに見つけてもらうこと」に移ったのです。
しかしゼロクリック検索やAI要約が広がる現在、その前提は大きく揺らいでいます。検索に表示されてもクリックされず、情報がAIの回答に吸収されてしまう。つまり、SEOを通じて「発見されること」だけでは、購買の決定にはつながりにくくなっているのです。
ある意味、これは広告の原点である「想起の力」が再び脚光を浴びているとも言えます。人は検索エンジンに頼る前に、自分の記憶からブランドを呼び起こすからです。購買の意思決定を左右する本質は、今も昔も「頭の中にどのブランドが浮かぶか」にあります。だからこそゼロクリック検索時代においては、発見されるだけでなく、検索の瞬間に思い出してもらえる存在になることが不可欠なのです。
この課題に応える考え方として、Robert Rose氏は「オウンドメディアからオウンドコンテンツへの進化」を提唱しています。従来のコンテンツマーケティングは、自社サイトやブログ、ニュースレターといったオウンドメディアを所有し、そこにユーザーを集めることを目的としてきました。しかしゼロクリック検索時代では、ユーザーが必ずしもホームに訪れるとは限りません。そこで重要になるのが、コンテンツそのものを資産として捉える発想です。オリジナル番組やシリーズ動画、ストーリー性のあるキャンペーンなど、どこで消費されてもブランドの世界観を伝えられるコンテンツこそが、想起を生み出す鍵となります。
さらに、そのオウンドコンテンツを届けるために不可欠なのが、YouTubeやTikTokといったレンタルレールの積極的活用です。従来は「Rented Land(借り物の土地)」としてオウンドメディアへ誘導するための手段に過ぎなかったSNSや動画プラットフォームは、今ではオウンドコンテンツを広く届けるための流通インフラとして機能します。一方で、自社のホームは、深い体験や限定的な価値を提供する場です。そしてここでいうホームはデジタルに限らず、ブランドが完全にコントロールできるショールームや実店舗などのリアルな場も含まれます。
この二つを組み合わせた戦略はシンプルです。まずレンタルレールでオウンドコンテンツを配信し、多くの人に出会ってもらう。そして関心を持ったユーザーをホームに迎え入れ、「ここでしか得られない体験」を返す。この往復運動を繰り返すことで、ブランドはユーザーの記憶に強く刻まれていきます。
ゼロクリック検索時代のコンテンツマーケティングでは、オウンドメディアとレンタルレールはもはや主従関係ではなく、同等の価値を持つ配布手段になったともいえます。両者をどう組み合わせ、ユーザー体験を設計するか。それこそが、これからのコンテンツマーケティングの勝負どころなのです。
3.まとめ:ゼロクリック検索時代に重要な2つのファネル
ここまで見てきたように、SEO領域で語られる「Search Everywhere」は購買ファネルの上層を補強する戦略であり、コンテンツマーケティングにおける「オウンドコンテンツ × レンタルレール」は想起を強化する戦略として機能します。両者を統合すると、ゼロクリック検索時代のブランド戦略は 「購買ファネル」と「想起ファネル」 の二つの視点で整理できると考えます。
▲従来の購買ファネルに想起ファネルを加えることでゼロクリック検索時代にも対応したコンテンツマーケティングが実践できる。
想起ファネル
目的は、購買のきっかけが生じた瞬間に「思い出してもらう」ことです。将来の需要を作る役割を果たします。
接触:レンタルレール上でオウンドコンテンツに出会う(例:TikTokの動画やYouTubeのシリーズ企画)。広告ではなく「楽しめる」「役立つ」体験として受け止められる。 関与:繰り返し接触することによりフォローやコメントを通じて「このブランドは自分に関係がある」と感じる。ブランドが関心の一部に組み込まれる。 想起:購買や選択のきっかけが生じた瞬間に「そういえばこのブランド」と自然に思い出される。検索される前に選ばれる状態をつくる。 |
購買ファネル
目的は、検索やAI回答の瞬間に「見つけてもらい、購入につなげる」ことです。今すぐの需要に対応する役割を果たします。
認知:Google検索やTikTok検索、AI回答を通じてブランドが発見される。ここはまさに「Search Everywhere」の領域であり、多様な検索場で最適化することで流入機会を補う。 比較・検討:ユーザーがより詳しい情報を求め、他ブランドと比較する段階。ハウツー記事、FAQ、レビューなどが信頼を裏付ける。 購入:最終的にブランドを選び、購入に至る段階。ウェブサイトだけでなく、ショールームや店舗といったリアルなホームもこの体験を支える。 |
ゼロクリック検索時代においてブランドが持続的に選ばれるためには、「思い出してもらうための想起ファネル」と「見つけてもらうための購買ファネル」を両輪で設計することが不可欠です。従来の枠組みは購買ファネルのみを想定しており、想起ファネルは考慮されていませんでした。だからこそ、ゼロクリック検索時代には想起ファネルを追加することが重要になります。
なぜなら、想起ファネルでブランドを記憶に刻んでおけば、購買のきっかけが生じた際にブランド名を入れた検索につながる可能性がありますし、たとえ忘れていたとしてもAI検索の要約内でそのブランドを見た瞬間に「そうそう」と思い出してくれる確率が高まるからです。結局のところ、ゼロクリック検索時代の勝負はクリックではなく、人々の記憶に残れるかどうかではないかと考えます。最も重要な検索エンジンは、いまも昔も「人の頭の中」なのではないでしょうか。
執筆:渡辺一男
CONTENT MARKETING LAB ファウンダー
※本記事は執筆及び画像作成にあたり、生成AIを利用しています。
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