マネタイズを意識し始めたオウンドメディアの現状
Content Marketing World 2017に参加してきた著者が、直近のコンテンツマーケティング事情を紹介する。
今年の9月にオハイオ州クリーブランドで開かれた「Content Marketing World 2017」(CMW)に参加してきた。
当サイトでは何度も紹介してきたが、コンテンツマーケティング関連で世界最大と言われるイベントだ。
初日のキーノートスピーチでは、主催者のJoe Pulizzi氏が直近のトレンドについて話すというのが恒例の流れ。今年のテーマは「コンテンツによるファン獲得」だ。
商品を売ることを真っ先に考えるのではなく、まずはコンテンツによって多くのファンを確立していくことが重要だという。
一旦多くのファンと関係が出来てしまえば、その後マネタイズを含め、多彩な施策につなげることができるからだ。
非常に真っ当な主張だと思ったものの、一方で「なぜこのタイミングで改めて強調するのだろう」とも感じた。
コンテンツによって見込客の信頼を獲得して長期的な関係性を持つことが重要だという考えは、コンテンツマーケティングがこれまで一貫して主張し続けてきたことだからだ。
より詳しい背景が気になったので、CMW開催と同じタイミングで発売されたPulizzi氏による著書「Killing Marketing」に目を通してみた。
結局は刈り取り施策に終始してしまう現状
同書籍にてPulizzi氏は、マーケティングを「コストセンター」として捉える企業が多い現状において、時間や手間暇のかかる長期的なコンテンツ施策が受け入れられにくいと嘆く。
一例として、彼が直接話した、あるCEOによる発言を紹介している。
「マーケティングは税金のようなもの。だから安く済ませ、時には削減することになる。いかにマーケティングにかかる費用をおさえるかに全力を注いでいる」。
コンテンツマーケティングが話題になり始めて10年が経とうとする今でも、このような見方は依然として珍しくないという。
短期視点での数字を追い求める会社にとって、「質の高いコンテンツによってファンの信頼を獲得しよう」という掛け声はキレイごとでしかない。それもこれもマーケティングがコストセンターだとみられてしまっているからだ。より長期的な視野に立ってじっくりコンテンツを作っていくためには、マネタイズなどによってマーケティングセクション自体を自立させる必要がある。そうPulizzi氏は考えているようだ。
オウンドメディアによるマネタイズ事例
マーケティングセクションによるマネタイズ施策のベースとなるもの。それがコンテンツによって集まったファンたちだ。一定数のファンを集めることができれば、彼らに対して多彩なマネタイズ施策を打つことができるようになる。以下がその一例だ。
- バナー・スポンサー広告
- コンテンツ販売
- 有料イベントの開催
- 物販
すでに一部のグローバル企業が、オウンドメディアでのマネタイズに取り組み始めている。
その筆頭といわれるうちの一社が、電子部品などの分野で世界最大級のサプライヤーであるArrow Electronicsだ。
同社は2017年6月時点で、自社商品と関連する技術系メディアを51サイトも保有している。「EE Times」をはじめ業界内では有名なメディアが揃っており、広告収入などによって黒字化しているという。
これらのメディアに集まってくる読者は、将来Arrow Electronicsの顧客になり得るようなエンジニアが中心だ。つまりこうしたメディア運営によって、同社は潜在的な見込客たちと継続的に接触できる環境を作り出しているのだ。
こうした潜在層が同社の顧客になるまでにある程度の時間がかかるかもしれないが、広告収入などによって、その間のマーケティング費用は賄えるというわけだ。
同社がメディアの訪問者をどのように顧客化まで導いているかは不明だ。ただ各メディアサイトのソースを見てみると、マーケティングオートメーションのEloquaが入っているため、検討熟度が高まったとみなしたユーザーに対して、何らかの商品関連情報を送るなどしているのだろう。
メディアそのものになる事業会社、一方で専業メディアの動きは?
潜在層を対象にした長期目線でのマーケティング施策を実施できるようにするために、オウンドメディアそのものでマネタイズする。こうした動きはArrow Electronicsの他にも、Red BullやJohnson & Johnson、PepsiCo、Legoをはじめ、多くの大手企業が方針として明確に打ち出し始めている。
コンテンツによるマネタイズが可能な規模となると、もはや専業メディアとの違いがなくなってくる。オウンドメディアが話題になり始めた数年前から「メディア化する企業」というフレーズはよく言われていたが、ここで起き始めていることは「メディアそのものになる企業」というべき動きだ。
このように物を売っていた会社が、コンテンツによってマネタイズし始めている一方で、コンテンツによってマネタイズしていた会社、つまり専業メディアが物も売り始めている動きも活発になり始めている。
ここでは一例として、イギリスの雑誌出版社Dennis Publishingを紹介しよう。
Dennis Publishingは1974年創業の出版社で、自動車を中心に政治やITなど数多くの雑誌を出版している。そんな同社が2014年、突如としてオンライン自動車ディーラーの「BuyaCar」を買収。雑誌出版社ながら、自動車販売も手掛け始めたのだ。
一見突飛な動きにも見える。しかし長年にわたって自動車情報を発信してきた同社は、自動車の見込客となり得る良質な読者と結果的につながることができていたのだ。
実際に同社が運営する自動車メディア「Auto Express」には、読者を販売ページへ誘導するリンクが複数貼られている。たとえばサイトトップのヘッダーや、個別の自動車のレビュー記事の中などだ。
「Killing Marketing」によると、1日の販売台数は約200台。同社の全売上高の約16%を占める勢いだという。
コンテンツによって集めたファンをベースに、物販を含めたマネタイズをする。図らずも事業会社のオウンドメディアと専業メディアがこのモデルに行き着き始めたことで、結果的に両者によるビジネスモデルの違いがなくなってきている。
またファンが重要なのであれば、一から作るのは面倒だと言わんばかりに、事業会社によるメディア買収が相次いでいる点も直近のトレンドだ。
オウンドメディアによるマネタイズが、今後どこまで一般的になるかは分からない。ただ一つ言えることは、その目的である潜在層を顧客へと育成していく長期的なマーケティングが、さらに重要視されていくということだ。
そこでベースとなるファンを増やすためのポイントは、いかに作り手の熱量を込めたコンテンツを企業として発信できるかだろう。アクセス重視で作られた血の通わないコンテンツでは、集客はできてもその先の顧客化にはつながらないからだ。
執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)
NEWS LETTERをお届けします!
コンテンツマーケティングラボの最新情報を、
定期的にEメールでまとめて、お知らせします
当月の更新情報を翌月初にお届けします。
(購読すると弊社の書籍発売イベントの特典資料をダウンロードできます)