なぜコンテンツマーケティングはニッチ市場を狙うべきなのか?
多くのコンテンツマーケティング施策でニッチなターゲティングが求められる理由について、事例と共に解説していく。
ニッチジャンルに注力するべき理由
あまりうまく機能していなさそうなオウンドメディアの共通点として、「~~に関する総合メディア」といった形で、コンテンツのジャンル設定やターゲティングがあいまいなケースがある。
集客数を重視するあまり、自然とコンテンツジャンルを広くとってしまうケースもあるようだ。
一方でエッジが効いたコンテンツでファンを集めている施策では、ニッチジャンルに注力していることが多い。
ここでいう「ニッチ」とは、一般のメディアが専門的に取り上げるほどメジャーではない、もしくは専門メディアがあっても数が限られるが、一定のニーズがあるトピック、といったような意味で考えている。
たとえば今回事例として触れる企業によるコンテンツジャンルは、パパ向けの子育て情報やエクストリームスポーツ、半導体・電子部品など、いずれもターゲットが明確に絞られている。
トピックをニッチに絞るべき理由はいくつかある。
不必要な競争を回避できる
まず一つ目は他のメディアと競合する可能性が低くなるという点だ。
仮にコンテンツジャンルをパパ向け子育てではなくママ向け子育てメディア、エクストリームスポーツではなく総合スポーツメディア、半導体・電子部品ではなく総合ITメディアにしたとする。
その場合、プロのメディアをはじめとするその他大勢によるコンテンツと真っ向からぶつかってしまうだろう。
それでも尚、読者を惹きつけてブランディングや顧客化などにつなげられるのならば良いかもしれない。
しかしそこまで強力なコンテンツを制作できるだけのノウハウや各種リソースを持ち合わせている事業会社は多くないだろう。
オウンドメディアとしての強みを活かせる
またニッチなコンテンツに注力できる点こそが、オウンドメディアの強みだという理由もある。
これは広告収入で食べているプロメディアとの比較で考えると、分かりやすいかもしれない。
あくまで一般的な傾向だが、プロメディアの場合、広告収入を稼ぐためにどうしてもアクセス数を増やす方向に引力が働きがちになる。結果的にコンテンツジャンルをある程度広げて集客することになる。
こうした環境では、単発でニッチコンテンツを出すことはあるとしても、ニッチな専門メディアを立ち上げるモチベーションが働きづらい。
一方で一般的なオウンドメディアの場合は、必ずしもコンテンツ自体によるマネタイズを最優先する必要がない。ブランディングやリード獲得、販促といったマーケティングゴール達成が最終目標だからだ。
そのためプロメディアほどにはアクセス数にとらわれず、独自性のあるコンテンツに注力しやすい環境にあると言えるだろう。
読者との関係性を構築しやすい
多くのオウンドメディアの最終目的は、サイトへの集客にとどまらない。何らかのマーケティングゴールの達成、ひいては売り上げにつなげることを狙っている。
そうであれば一回きりの訪問で読者との関係性を終わらせてしまうわけにはいかない。
サイトに何度も訪問してもらう、メディア名を覚えてもらう、さらに理想的には自社や商品に信頼や愛着を感じてもらうところまでいきたいところだ。
「とりあえず多くの人に集まってほしい」という姿勢で作られたメディアによって、こうした高いエンゲージメントを獲得することは難しい。
「これはあなたのために作ったメディアなんですよ」という適切なターゲティングがないため、純粋にコンテンツ力だけで関係性を築かないといけなくなってしまうからだ。
ニッチ施策の事例
ここからは実際の事例をいくつか紹介しよう。
2017年のContent Marketing Worldで評判になった「Direct Advice for Dads」(DAD)というオウンドメディアがある。オーストラリアの保険会社HBFが2016年に立ち上げた子育て情報メディアだ。
施策の目的は、それまで手薄だった30代の若い顧客層を増やすことだという。
この年代が保険への加入を考え始める主なタイミングは、結婚や出産。そうであれば子育てメディアを立ち上げてこの層と接触しよう、という狙いだ。
Content Marketing Awardsという賞の戦略部門で表彰されたこのメディア。主に評価された点の一つが、適切でニッチなターゲティングだ。
「子育てなんでもメディア」ではなく、パパ向けの子育てメディアに特化したのだ。
すでにママに向けた従来の子育てコンテンツは世の中にあふれている。後発のメディアが全く同じ切り口で乗り込んでも、読者の印象に残るコンテンツにすることは難しいからだ。
しかも「育メン」というワードが出てきた日本と同様に、欧米でも父親による子育てが重要視されてきているものの、それに関連したコンテンツは少ない。
ニーズはあるのに情報がない、しかも自社が支援できるという絶妙なニッチを見つけたことが、この戦略の優れた点だろう。単にせまく絞っただけのメディアではないのだ。
必要性が叫ばれるニッチ施策
いかに適切なニッチに絞り込むか、を念頭に作り込まれたオウンドメディアが海外ではトレンドになってきているようだ。
英語圏ではメディアやコンテンツ間の競争が日本以上に激しくなっているため、自分の庭をうまく見つけた上でコンテンツを広げないと、すぐに埋もれてしまうからだろう。
エクストリームスポーツに特化したコンテンツ群を展開するRed Bullは、BtoC企業の代表例の一つ。
飲料メーカーとして後発のRed Bullは、コカ・コーラやペプシコのように広くあまねくターゲティングするのではなく、まずは少数の濃いファンを起点として広げていく戦略をとっている。
またBtoB企業では、半導体・電子部品大手のArrow Electronicsがよく引き合いに出される。
Arrow Electronicsは、半導体・電子部品関連のメディア買収を繰り返した結果、保有するメディア数が2017年6月時点で51にも上っている。自社に関連するニッチメディアの過半数を手中に収め、競合を締め出してしまった形だ。
こうして自社の見込客であるエンジニアが情報を収集する際に、高い確率でArrow Electronicsによるメディアと接触する環境を作り上げたわけだ。
ここまで徹底してニッチを攻める施策も珍しいだろう。
Content Marketing Instituteの創業者であるJoe Pulizzi氏は、ニッチを攻める重要性をここ数年で繰り返し強調。最近の記事では、次のように述べている。
「みんなを対象にしたコンテンツは、誰もターゲティングしていないのと同じだ」。「自らの定めたニッチジャンルで、圧倒的No1を目指すことが重要」。
どのような施策でもニッチは絶対なのか?
多くのコンテンツマーケティング施策において、適切なニッチを見つけることが戦略フェーズでの最重要項目となってきている。
ただ比較的少数だが、自社の商品特徴やリソース、競合環境などによっては、あらゆる人に向けた非ニッチコンテンツが適切な場合もある。
その一例がPepsiCoだ。
同社は2016年、映像や音楽の制作スタジオをニューヨークのマンハッタンに設立。オリジナルの映像作品などを制作し、外部に配給していく計画を明らかにした。
ハリウッド女優のMeryl Streepや、ラッパーのUsherを起用した映像作品などを予定しているという。
自社制作の有料コンテンツの配信によって、ブランディングとマネタイズを同時に行っていく考えのようだ。
誰もが知る人気女優やアーティストを起用していることから分かる通り、この施策は明らかにニッチ向けではなく、かなり広い層を意識している。
そもそもペプシはあらゆる人々に飲まれ得る非ニッチ商品である上に、Red Bullのように飲料として後発でもないため、非ニッチコンテンツでマスにリーチしようとすること自体は間違いではないだろう。
さらにマスに向けたエンタメコンテンツは、多くの競合メディアとぶつかるため、強力なコンテンツ力と膨大な制作リソースが必要となる点がネックになるものの、世界的な大企業のPepsiCoにはそれが可能というわけだ。
コンテンツマーケティングを実施しようとしている企業の中で、こうした条件に当てはまるケースはおそらく少数派だろう。
そのため多くの企業にとっては、自社に適したニッチジャンルの中で質の高いコンテンツを出すことで、読者の印象に残りやすいメディアを作ることが求められる。
さらにそうしたコンテンツをなるべく多く出し、後発メディアを締め出してしまう、といったやり方が理想的な流れになりそうだ。
次回の記事では、適切なニッチの探し方について解説していく。
執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)
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