SNSにおける”共創型”ストーリーテリングの事例
魅力的なコンテンツに欠かせない、ストーリーテリング。その中でも、特に注目したい顧客参加型の「共創型」ストーリーテリングについて、4つの事例を紹介します。
Content Marketing Academyの三浦です。先日出版された『DX時代のコンテンツマーケテイング』ではストーリーテリングについての章を担当させていただきました。そこではストーリーの定義やヒーローズ・ジャーニーに代表される優れたストーリーテリングの型について、そして魅力的なストーリーテリングの4つの事例を取り上げました。
ストーリーテリングとは何か。優れたストーリーテリングの特徴とは
ストーリーテリングとは、ストーリーの力をマーケティングコミュニケーションに応用する手法のことです。ストーリーは、米国でプロのストーリーテラーとして活躍するヘイブン氏の定義に依ると「登場人物が困難を乗り越え重要な目的を果たそうと奮闘するその様を詳しく描く叙述である」。(Kendall Haven “Story Proof: The Science Behind The Startling Power Of Story”, Libraries Unlimited, 2007)そしてさらに、古今東西の神話を研究していたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルは、優れたストーリーテリングにはいわゆる「ヒーローズ・ジャーニー」の構成、①日常②試練③解決/帰還の三つのセクションがあると述べています。(クリストファーヴォグラー・&デイビッド・マッケナ『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』KADOKAWA、2013)
本の中ではこれらの理論をもとに、興味深いストーリーテリングの事例をAブランドメッセージが主軸/顧客ストーリーが主軸、B発信側からのストーリーの提示があるか/顧客の参加によるものか、の二軸で整理しました。(エクストラガム ブランドムービー、ポカリスエットNEO合唱、文豪缶詰プラン、女性編集者の私が亀戸でイケメンとデートした結果…)
分類の中で特に注目したのが、顧客ストーリーを主軸にしながら、顧客の主体的なストーリーへの参加を促す「共創型」ストーリーテリングの存在です。
「共創型」ストーリーテリングとは、上図左下の「文豪缶詰プラン」のようにコンテンツの枠組みだけを準備し、顧客の主体的な参加と体験の発信を引き出す仕掛けを作っているストーリーテリングの手法です。(書籍では、ストーリーテリングについて事例の分析も踏まえてより詳しく紹介しています。もしよければ読んでみてください。)
本記事では、そんな「共創型」を体現している、特にSNSを用いた企業の発信事例をご紹介したいと思います。
UGCで共創型ストーリーテリングが成立しやすいSNS発信
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とはFacebookやInstagram、Twitter、YoutubeにTikTokなど、一般ユーザーが発信・交流することができるプラットフォームのことです。皆さんも日常の中で、何かしらのSNSに触れていることと思います。
企業がSNSを使って発信をする際、SNS上で一般ユーザーが企業に関連して発信するコンテンツは、企業にとってもその他のユーザーにとっても非常に魅力的なものです。この一般ユーザーが作るコンテンツをUGC(User Generated Content)と呼びます。これはいわゆるユーザーの生の声です。オンライン上の情報量が溢れている現代では特に、見る人と属性の近い一般ユーザーによる投稿であるため、企業の投稿よりも受け入れてもらいやすいという特徴があります。(参考:https://www.hottolink.co.jp/column/20190326_101527/)
ユーザーがアクションをしやすく、その結果UGCが生まれやすいSNSは、「共創型」ストーリーテリングの発信手段としてもうってつけです。ここからは、実際の企業の「共創型」ストーリーテリングのしかけが巧みな事例を見ていきたいと思います。
味の素:Umami, the fifth tasteのストーリーテリング
グローバル展開を行う味の素株式会社。国外では、日本でなじみのある「味の素」ではなくUmami、the fifth tasteとしてSNSを通じたブランディングに力を入れています。 2013年に日本の「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことをきっかけに、Umamiはヘルシーに風味を良くする味付けとして、世界の至る所で楽しまれています。(参考:https://www.ajinomoto.com/aboutus/umami/5-facts)
おいしそうな料理の画像をアップするのは、一般ユーザー・食品/飲食業界の企業ともにInstagram投稿の鉄板と言えます。公式アカウントの投稿では世界の幅広い地域のレシピでUmamiを引き出しているものを自社商品使用の有無に限らず紹介。
Instagramの投稿からブランドサイト(https://www.ajinomoto.com/aboutus/umami/umami_recipes)に誘導し、レシピごとにどの材料のうまみがどのように引き出されているかを解説します。風味が豊かながら塩分過多などを避けられるものが特徴です。
そして注目すべきなのがアカウントをタグ付けできる機能を使った一般ユーザーの投稿です。ブランドサイトで紹介されているレシピをもとに作ったということでタグ付けをする人が多いようです。Umami自体は目に見えないためそのままではコンテンツとしてシェアしづらいですが、映える料理をInstagramに載せたいというユーザーのニーズ、そして実はUmamiを引き出すレシピで料理を作っているので健康意識が高いというアピールにもなるというニーズも満たすことができます。インターナショナルかつヘルシーレシピの背後にUmamiがあるというストーリーを顧客の発信とともに蓄積している良い例だと言えるでしょう。
Youtubeではコーポレート発信、味の素製品の成り立ちやレシピ動画が発信されています。そして目に留まるのが日本国外の様々なYoutubeアカウントがUmamiレシピや人がUmamiを感じる仕組みについて解説した動画をまとめたリストです。身の回りにあるUmamiとそのメカニズムについて料理研究家やシェフ、Umami情報をまとめるメディアがそれぞれの視点で解説しています。Ajinomotoの商品を使おう!とPRするのではなくUmamiを生活に取り入れよう、その効能を解き明かそうとするオーディエンスがUmamiの伝道師になっているような構図ですね。
味付けという意味では、レシピの見た目で存在が伝わりにくいUmami。一般的には、消費財や食品系はマスに向けたプロモーションになりがちですが、商品の特性を意識しあえてニッチな健康志向のおいしい料理に関心の高い層と接点を持ち、彼ら彼女らとストーリーを共に作れるような仕組みを意識して作っていることがうかがえます。
三ヶ島製作所:BtoBとBtoCのストーリーの語り分け
三ヶ島製作所は、競輪選手などが使用する自転車の高性能なペダルを作っている埼玉県所沢市のメーカーです。BtoBtoCのような形態と捉えられますが、SNS媒体ごとのストーリーテリングが面白い事例です。
Youtubeの動画では、工場での製造過程の様子やペダル部品の形状などかなりニッチな内容が詳しく解説されており、技術力を踏まえて取引先を選ぶ自転車メーカーや販売店が主なターゲットだと思われます。
Instagramの一般ユーザーのタグ付け投稿がこの企業の見どころです。11/11は #いい心棒の日 にちなみペダルの性能を陰で支える心棒全8種の紹介など、企業発信の投稿もこだわりが強く魅力が溢れているのですが、一般ユーザー(メーカーや販売代理店の先にいるエンドユーザー)によるタグ付け投稿には、世界中の街を背景にたたずむ自転車と多言語で書かれた投稿が数えきれないほど並んでいます。こだわってカスタマイズしたお気に入りの自転車でこんなところに行ったよ、とInstagramに載せたくなるサイクリストたちのニーズを満たしているのはもちろん、こだわって選んでいる人ばかりなので「このペダルがここまで連れて行ってくれたよ」とタグ付けをしてくれる訳ですね。
所沢市の工場の中の様子から、世界中で提供しているサイクリストのファンたちの体験までをひとつながりで見ることができる、まさに共に創り上げた非常に魅力的なストーリーテリングが成立していると言えるでしょう。
UGCが自然と沸き起こる仕掛けを活用した共創型ストーリーテリングは、SNSのプラットフォームを活用すれば気軽に始めることができます。まずはSNSからチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
執筆:三浦 由香子
CONTENT MARKETING ACADEMY リサーチャー
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