JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(4)JTBDをペルソナ設定に活用する
書籍「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授。彼が近年提唱しているJob-To-Be-Done(顧客が片づけるべき用事に着目する)セオリーは、コンテンツマーケティングにも応用可能だ。今回は前回に引き続きJTBDをペルソナ設定に活用する方法を紹介しよう。
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(1)Job-To-Be-Doneとは何か?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(2)Job-To-Be-Done理論は、どんな分野で力を発揮するのか?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(3)Job-To-Be-Doneを使うとペルソナはどう変わるのか?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(5)購買を左右する4つの力を理解する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(6)Job Storyを活用する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(7)JTBDにおけるインタビューテクニック
本題に入る前に、うれしいニュースをお知らせしたい。クリステンセン教授の「Competing Against Luck」の翻訳版が「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」としてハーパーコリンズ・ ジャパンから出版された。本連載では、コンテンツマーケティングに応用するという視点でJTBDを利用しているが、JTBD理論そのものを正しく理解したいという方は書籍をご一読いただきたい。
顧客のミニドキュメンタリーを撮ってみよう
さて本題に移ろう。クリステンセン教授は顧客のJTBDを理解するために、顧客が主人公であるミニドキュメンタリーを撮影する手法を紹介している。もちろん実際に撮影する必要はない。頭の中で想像するだけで十分だ。ただし、以下の5つの項目をふまえる必要がある。
- 顧客は何を成し遂げようとしているのか?(機能的、社会的、感情的側面も考慮する)
- どんな状況下でもがいているのか?
- どんな障害物が立ちふさがっているのか?
- 不完全な解決策を補うために何か努力をしていないか?
- よりよい解決策を決める質は何か?そのためなら何をあきらめることができるか?
例えば、ミルクシェイクの例でいうと以下のようになるだろう。(クリステンセン教授の著書では触れられていないため、以下は筆者の想像によるものである。)
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顧客は何を成し遂げようとしているのか?
機能的側面:車通勤時の小腹を満たすものが欲しい。
社会的側面:もし同僚に見られても恥ずかしくないものが良い。
情緒的側面:自動車通勤の暇つぶしになるものが欲しい。 -
どんな状況下でもがいているのか?
運転中に片手で食べられて(あるいは飲めて)、ある程度長く楽しめるものがなくて困っている。
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どんな障害物が立ちふさがっているのか
ドーナツやベーグルも試してみたが、手が汚れたり、車の中が汚れたりして困った。
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不完全な解決策を補うために何か努力をしていないか
ハンドルがベタベタになるのを防ぐために、ウェットティッシュを車に置いている。
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よりよい解決策を決める質は何か?そのためなら何をあきらめることができるか?
手が汚れず、片手で口に運ぶことができ、30分ほど楽しめるものであれば、味はそれほど気にしない。
上記のように各項目を埋めて頭の中で映像化していくと、顧客の置かれている状況がより鮮明に見えてくる。
では次に、書籍「Webコンテンツマーケティング」で紹介しているスロージューサーのペルソナ、田中理恵さんの情報をJTBDで補強してみよう。
書籍「Webコンテンツマーケティング」で紹介しているペルソナは、プロフィール、商品認知レベル、情報ニーズの3つのパートで構成されている。「プロフィール」は顧客の基本的な属性情報について、「商品認知レベル」は顧客が現在どれくらい商品のことを知っているかどうかについて、そして「情報ニーズ」は顧客が購買プロセスの各段階でどういった情報を必要としているかについて記述している。
ペルソナ像に「情報ニーズ」を組み込む点が当社のオリジナルな部分であり、ユーザーが必要としている情報を適切に提供するというコンテンツマーケティングの肝になる部分である。
しかし、JTBDを知った後に見直してみると、ユーザーの行動は見えるものの、その行動を生み出した動機や状況が見えにくい。これを補うためにJTBDの5つの要素を組み込んでみる。その場所は前回紹介したUdemy社のClaire Menke氏が主張する、ペルソナ、JTBD、カスタマージャーニーマップの関係性に基づけば、プロフィール情報と情報ニーズの間ということになるだろう。
では早速、ペルソナである田中理恵さんの状況を、JTBDを理解するための5つの項目で見てみよう。(今回は例として5つの項目全てを埋めているが、必ずしも全項目を埋める必要はない。必要に応じて該当する項目だけで十分である。)
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顧客は何を成し遂げようとしているのか?
機能的側面:栄養たっぷりのフレッシュなジュースを手軽に飲みたい。
社会的側面:健康や美への意識が高い女性だと周りから思われたい。
情緒的側面:海外セレブと同じような健康的な生活を送っているというプチ満足感を実感したい。 -
どんな状況下でもがいているのか?
とりあえず市販の冷凍コールドプレスジュースパックを購入して飲んでいる。しかし値段の高さや新鮮さに不満を持っている。
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どんな障害物が立ちふさがっているのか
スロージューサーは約3万円するので、購入に躊躇している。
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不完全な解決策を補うために何か努力をしていないか
節約のために、ブレンダーでジュースを作った後、ガーゼで濾してコールドプレスジュース風にしてみたが、手間がかかりすぎて不満を感じている。また、スクイーザーで手絞りしてコールドプレスジュースを作ることもあるが、柑橘系以外には使えないし、力が必要なので不便を感じている。
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よりよい解決策を決める質は何か?そのためなら何をあきらめることができるか?
手軽にコールドプレスジュースを作れるのであれば、多少高くても良いと思い始めている。
ペルソナ像にJTBDを追加することで、購買プロセス上で遭遇する情報ニーズだけでは把握できなかった情報ニーズが見えてくる。例えば、JTBDの「顧客は何を成し遂げようとしているのか?」という項目の「社会的側面」を見てみよう。「健康や美への意識が高い女性だと周りから見られたい」という情報から、「インスタ映えする商品デザインの訴求やレシピ紹介」というコンテンツネタが発想できる。
また「どんな状況下でもがいているのか?」という項目に記述されている「とりあえず市販の冷凍コールドプレスジュースパックを購入して飲んでいる」という情報からは、トータルでみると高くつくのに、目先の安さだけで情緒的に代替品を購入してしまっている状況がわかる。この問題の解消のためには、「結局どちらがお得?コールドジューサーとコールドプレスジュースパック」といったコンテンツネタが発想できる。
結局のところ、情報ニーズというレンズだけでは、顧客の論理的な思考状況は見えていたが、その奥にある情緒的な側面がほとんどみえていなかったわけだ。情緒的な側面がそれほど重要でない商品の場合には問題ないが、例えばバイクや化粧品のように情緒的な側面が購買に影響する度合いが大きい商品では問題となる。そういったケースではJTBDを組み込んだペルソナ像の方が、利用価値が高いだろう。
商品や顧客の特性に合わせて、ペルソナ像の構成要素を変えてみることも必要になるだろう。
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主に理性的な判断で選ぶ商品の場合
プロフィール+商品認知レベル+情報ニーズ
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主に情緒的な判断で選ぶ商品の場合
プロフィール+商品認知レベル+JTBD
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理性的な判断も情緒的な判断も重要となる商品の場合
プロフィール+商品認知レベル+JTBD+情報ニーズ
次回はペルソナ設定やコンテンツ発想のために利用できる、JTBDのもう一つのツールについて紹介する予定だ。
執筆:渡辺一男
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