BtoBにおけるペルソナ活用法とは?「ペルソナドリブン型リードナーチャリング」を学ぶ
リードナーチャリングの成功の鍵を握るのが「ペルソナ設定」。しかしBtoBでは様々な部署や階層の人物が購買プロセスに絡むため、より複雑になる。BtoBにおけるコンテンツマーケティングで複数のペルソナをどう設定すべきか。その実践方法を学ぶ。
リードナーチャリングのための手法は日々進化を続けているが、その精度を高めるためのキーとなるのが正しい「ペルソナ設定」だ。「ペルソナ」が実際のターゲットに近いものであるほど、マーケティングアプローチは的を射たものになり、成果につながる。しかしながら、リードナーチャリングに取り組んではいるものの「見込み客が購買プロセスの途中で離脱してしまう」など、悩みを抱いているマーケターも多いのではないだろうか。もしかするとその原因は、“ペルソナ設定”にあるかもしれない。とくにBtoBビジネスにおいては、購買プロセスを次のステップに進めるには様々な部署や階層の人物が関わることになるため、ペルソナ設定はより複雑になる。つまり、一人ひとりの見込み客を対象とするBtoCのペルソナ設定と、複数人を対象とするBtoBのペルソナ設定の間には、大きな違いがあるのだ。
BtoBにおいてどのようにペルソナを設定すべきかについては、2015年秋に開催されたContent Marketing Worldのセッション「Content to Conversion: Persona-Driven Lead Nurturing(コンバージョンさせるコンテンツ〜ペルソナドリブン型リードナーチャリングとは?〜)」の内容が参考になる。このセッションの登壇者は、BtoBマーケティングの戦略家であり、BtoBに特化したマーケティング戦略構築支援を行うContent Interactions社の代表・Ardath Albee氏だ。
同氏によると、BtoBでコンテンツマーケティングを行う際のペルソナ活用は、昨今話題に上っている「アカウントベースドマーケティング」そのものだという。「アカウントベースドマーケティング」とは、マーケティングの対象を“企業”(アカウント)という視点で捉えて多角的にアプローチしていくための手法だ。BtoBにおいてどのようにペルソナを設定し活用すべきなのか。その実践方法を学ぶ。
BtoBにおけるリードナーチャリングの特徴とは?
Ardath氏によると、ペルソナドリブン型のリードナーチャリングとは「ターゲットを購入へと導くために、カスタマージャーニー上で“継続的に”エンゲージし続けるために設計されたコンテンツマーケティングプログラム」だ。つまり、キャンペーンで集客したリード全てに対してナーチャリングを行うのではなく、明確に設定したペルソナに対して適切なコンテンツを提供するという、コンテンツマーケティングの良さを統合したリードナーチャリングと言えよう。
リードナーチャリングの進化はおおまかに2段階に分けられる。
一段階目は「単発キャンペーン」型。例えば汎用的なコンテンツをニュースレターとして配信するという、リードナーチャリングの手法としてもっとも多用されているものだ。ニュースレターに反応しなければ、また別のニュースレターを配信するという風に、それぞれのキャンペーンにつながりのない「単発アクション」でもある。目的は購入検討時期にあわよくば候補として思い出してもらえればというレベルであるものが多い。
進化形は「シナリオキャンペーン」型。購買プロセスに沿ったコンテンツ発信をシナリオに基づいて継続的に行う手法だ。個々のキャンペーンに繋がりがあり、長期的に関係を持続させることができるため、信頼関係を醸成することができる。ただし、問題点はメール受信者のみをペルソナとして設定しているケースが多いことだ。
BtoBでは、購買プロセスを次のステップに進めていくための意思決定に少なくとも5〜6人が関わっている。新たな事務機器を購入するにしても、社内システムを刷新するにしても、複数の部署や階層の人間が関与するということだ。このことから情報の受け手一人に対するシナリオに基づいた情報発信は十分ではないとArdath氏は強調していた。
BtoBでは複数人が意思決定に関わるという特性から、情報発信のタイミングと、ターゲットの情報ニーズとのタイミングに“ずれ”が生じがち。そのため購買プロセスの重要なタイミングでキャンペーンが終了して「空き時間」ができてしまい、ターゲットは放置状態に。結果的にターゲットが購買プロセスから離脱してしまうことになる。
例えば、あなたがプロジェクトマネジメントシステムの必要性を感じ、あるベンダーのウェブサイトで情報を発見し、閲覧したコンテンツに基づいたメール受信を重ねるごとにナーチャリングされ、購買プロセスを進んでいったとしよう。ここで基準のスコアリング値を超えたため、デモに興味がないかというメールが届いたとする。一人のペルソナのシナリオとしては問題がないように見えるが、あなたが必要な情報は、上司を説得するための情報であるという場合がある。上司説得用の情報と、導入推進者が必要な情報は得てして違うものだ。ここでデモに対する反応がないため、別のシナリオメールが始まってしまったとしたら、せっかくの見込み客を逃してしまうことになる。
では、購買プロセスの初期にある直接のターゲットを大切にしながら、継続的に精度の高いアプローチをするにはどうしたらよいのだろうか?そこでまず押さえておくべきなのが「ペルソナ設定」だ。直接コンタクトするペルソナと、そのペルソナを取り巻く関係者のペルソナを描くことが必要だ。具体的にペルソナを設定するためのプロセスを紹介しよう。
ペルソナを浮き彫りにするために必要な8の項目+12の質問とは?
複数名が意思決定に関わるBtoBのリードナーチャリングにおいても、BtoCと同様にまずは個々のペルソナを深く理解しておくことが必要だ。なぜなら関わる一人ひとりの考え方や価値観が、購買プロセスを次のステップに進められるかどうかの鍵を握っているからだ。同じ会社でずっと働いているのか、数年に一度転職しているのか。情報収集のためにどのようなチャネルやSNSを使っているのか。まずは一人ひとりの細かな傾向を把握することからスタートしよう。
セッションではペルソナを浮き彫りにするために押さえておきたい8つの項目が紹介されていた。
- 一日の過ごし方
購入の意思決定をするタイミングや、それに要する時間などをイメージするために、一日をどう過ごしているのかを知ろう。
- 目的と課題
どういった結果を求めていて、何が障害となっているのかを明確にしよう。
- 人となり
その人のプロフィールから、性格や人物像をイメージしよう。例えば技術部門のスタッフはディテールにこだわる人が多い、転職回数が多い人ならリスクを恐れず決断するタイプ、社歴の長い人なら次の昇級に興味があるかもしれない、などが導き出される。Ardath氏が推奨する方法はLinkedInの活用。その人のプロフィールやどのような人とつながっているのかなどを見て、人物像のイメージを具体化するのだという。
- 越えなければいけない壁
ターゲットが解決すべき最終的なビジネスゴールではなく、もっとターゲットにとって身近なハードルを理解しよう。例えばチームの人間関係はどうなっているのかなど、個人レベルの課題を想定することで、どういう決断をすれば一歩前へ進めるのかを考えるヒントになる。
- 好み
どのようなメディアを好み、どのように情報を得ているのかを知ろう。そうすることで、購買プロセスでのアクションの傾向が見えてくる。
- よく使う言葉
専門用語やよく使うフレーズなど、ターゲットが使っている言葉をよく聞き、理解すること。そうすることで検索キーワードを何に設定すべきかが見えてくる。
- エンゲージするまでのプロセス
コンテンツに触れた後の行動をイメージしよう。ターゲットが好むチャネルに適切にコンテンツを配置することで、エンゲージメントまでのスムーズな流れをつくることができる。
- より深く知るための質問
一人のターゲットをより深く知るためには、会話することがもっともよい方法だ。会話のベースとなるのは「質問」。直接相対していなくても、Ardath氏が提唱する下記12の質問を満たすことでより質の高いペルソナ設定が可能になるという。購買プロセスのどのステージにいるかによって質問内容は変化することも踏まえ、下記の一覧にまとめている。ぜひ活用してほしい。
【認知】
- 私にとってなぜその商品・サービスが必要なのか?
- なぜ今の商品・サービスでは満足できないのか?
【興味・検討】
- もしこの商品・サービスを検討しなければどうなってしまうのか?
- ライバルはどのように考え対応しているのか?
- 専門家はどんな意見を持っているのか?
- ベストな方法は何か?
【評価・購入】
- 選択肢はどのようなものがあるのか?
- 専門知識がないけれど誰か助けてくれるのだろうか?
- 支払い方法はどういったものがあるのか?
- 購入後、どんな影響があるのか?
- その他の選択肢にはどのようなものがあるのか?
【顧客満足】
- ベストな選択かどうか、どうしたらわかるのか?
8つの項目を具体的に想定し、12の質問項目でペルソナの精度をさらに高める。そうすることで複数名のペルソナがそれぞれどのような思考で意思決定をするかをイメージしながら、情報ニーズを抽出することができるようになるのだ。その後に考えるべきは浮き彫りにしたペルソナをどう活用するか、だ。
BtoBでは、ペルソナ同士の「コミュニケーション」がキーに。
個々のペルソナ分析をベースに、購買行動に関わる各部署・各階層の人がそれぞれどのような情報ニーズを持っているのかを考えてみよう。セッションでは具体的な例が挙げられ、説明されていた。
たとえばグローバルに展開しているメーカー・A社の事例。A社では生産管理システムの導入を検討中。その際にどのようなペルソナが関わり、どのような情報ニーズを持っているかが具体的に想定されている。部署によって多様な情報ニーズがあり、それぞれのタイミングを見極めながら適切な情報を提供することの重要性が理解できる事例だ。
登場人物は以下の5人。
- Harry:商品開発部門に所属。
情報ニーズ:グローバル展開におけるプロジェクトマネジメントシステムの導入を検討中。導入検討の当事者として、商品やサービスをリサーチしている。
- Jane:人事部門に所属。
情報ニーズ:システムが導入された際、各国のスタッフがスムーズに使い方を習得できるかどうかを知りたい。
- Tom:IT部門に所属し、ネットワーク管理を担当。
情報ニーズ:セキュリティがどうなっているのか、もしくは自社のセキュリティ環境に合わせてカスタマイズできるのかを知りたい。
- Mark:CFOとして予算の決裁権を持っている。
情報ニーズ:すべての部門の情報ニーズも踏まえ、導入、システム調整、社内研修なども含めた最終的な価格を知りたい。
- CEO:最終的な決裁権を持っている。
情報ニーズ:じっくり検討する時間はないが、経営上必要なものかどうかについて、総合的な判断を下すための情報が必要。
この事例からも明らかだが、ペルソナが複数ある場合、それぞれに対して別々のコンテンツを提供する必要がある。かといって一人ひとりにリーチすることは非常に難しい。その際に考えるべきなのが、最初に接点を持ったHarryをキーパーソンに設定し、Harryが他のペルソナとの円滑なコミュニケーションを生む方法を考えることだ。つまり、自社の営業担当者の“代役”としてHarryに立ち振る舞ってもらえるように、他のペルソナからの質問にHarryが答えられるようにバックアップしていくことが必要となる。
他のペルソナからの「質問」こそ、提供すべきコンテンツのベースとなる。それを明らかにするためには、ペルソナ同士がどのような会話をするのかをイメージすることが大切だ。キーパーソンと他のペルソナの間でやりとりされる言葉の端々に発信すべきコンテンツのヒントがあり、それらを順に提供していくことで継続的な関係構築が実現できるのだという。キーパーソンのペルソナと関与者のペルソナを描き、そこに生まれる会話を想定し適切なコンテンツを導き出すことが、ペルソナドリブン型リードナーチャリングの肝である。
キーパーソンと他のペルソナとのコミュニケーションから生まれた情報ニーズから、コンテンツの要素を抽出。それらを順に発信していくことでキーパーソンは社内で立ち回りやすくなる上、キーパーソンとの継続的な関係構築が可能になる。
ペルソナ同士の会話からコンテンツを導く一例として、Ardath氏は以下のような流れを紹介した。
- Harry(見込み客):「僕たちプロダクトデザインチームが、市場に製品を売り出すまでの時間を短縮するにはどうしたらいいだろう?」。
- ベンダー(売り手)によるコンテンツ:グローバル連携型のプラットフォームがいかに開発チームの業務効率化につながるかを説明した資料
- Harry:「なるほど、よさそう。でもIT部門のスタッフがセキュリティに関して知りたがっているのでより詳しいデータが欲しいな」。
- ベンダーによるコンテンツ:グローバル連携型ソリューションのセキュリティについての情報
- Harry:「了解。でも今度は人事部門から、各国スタッフのスキル習得がどのくらし難しいか聞かれていて……」。
- ベンダーによるコンテンツ:いかにスムーズに導入できるかについてわかりやすく解説しているウェビナー
コンテンツとセールスパーソンの「コラボレーション」も考えよう。
BtoBにおいては、購買プロセスが長期にわたることがほとんどだ。コンバージョンまでの時間をより短くするためにはどうしたらよいだろうか。その答えが、セールスパーソンとコンテンツの「コラボレーション」だ。リアルのアプローチを活用することで、より強く購買プロセスを後押しするというわけだ。ところが現状は、現場の営業活動とコンテンツマーケティングがまったく連動していないケースが多いという。肝心なのはセールスパーソンがコンテンツを活用し、セールスパーソンが把握しているペルソナをマーケティング部門が理解することだと、Ardath氏は語っていた。
そもそもペルソナを設定していない。ペルソナを設定してはみたものの、どう使って良いのかわからなかった。あるいは、最初に作ったペルソナを見直したことがなかったという方も多いのではないだろうか?複数が関与するBtoBにおいては、変数が多いだけに、その精度が結果を大きく左右する。キーパーソンだけでなく、関与者のペルソナを設定し、ペルソナ間に生じる会話を想定し、そこから必要なコンテンツを導くという手法は試してみる価値がある。
執筆:隠岐由起子
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