人を動かす6つのアプローチ、「影響力の武器」とは?

  • 人を動かす6つのアプローチ、「影響力の武器」とは?
  • 人は何かに影響されると無意識に反応してしまうことがある。企業が望むように人を動かすには、どのようにアプローチしたらよいのか――。シドニーで開催されたセミナーから、人を動かす6つの“影響力の武器”と、それらを活用したコンテンツ展開方法を学ぶ。

私たちも公式メディアパートナーの一員として参加した世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンスのアジアパシフィック版「Content Marketing World Sydney」。今回紹介するのは、Todd Wheatland氏によるセミナーだ。彼はコンテンツマーケティングに取り入れるべき考え方として、6つの「影響力の武器」を紹介した。

オーストラリアのコンテンツマーケティングエージェンシー・King Contentでストラテジストを務めるTodd Wheatland氏

「影響力の武器」とは、アメリカを代表する社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ氏が提唱する心理学に基づいたアプローチ方法である。同氏は著書「影響力の武器」(原題:”Influence: The Psychology of Persuasion” 日本語訳は誠信書房より出版)の中で、人はどのように説得され、なぜ望まれた行動をとってしまうのかについて、心理学的側面から分析・解説。自身の「思わず買ってしまった」「つい寄付してしまった」などの苦い体験も事例としてあげながら、「人を説得し、その人から望む行動を導き出すための“武器”(=アプローチ)」には、6つのパターンが存在すると説いた。

本来、コンテンツマーケティングは、コンテンツを使って中長期的に顧客と関係性を築き、啓蒙や潜在的ニーズの顕在化を通して、関係性を“育てていく”マーケティング手法だ。そのため、最後の一押しとして企業側から購買意欲をあおったり、何かしらのアクションへと誘導したりすることについては、取り上げられることが多くない。しかし、マーケティング活動の一環である以上、最終的には「購買」や「成約」へ着地させことを考えることが重要であり、そのための売り込み技術が必要となる――そこで力を発揮するのが、今回紹介する6種の「影響力の武器」なのだ。

ここからは、各「影響力の武器」のアプローチ方法と、具体例をご紹介しよう。
※以下は、登壇者のWheatland氏がセミナーで語った順に基づいて紹介。チャルディーニ氏の著書「影響力の武器」の中の順とは異なる。

1.返報性(reciprocation)

一つ目のアプローチは、「受けた恩は、返したくなる」という人間の心理に基づいたものである。つまり、他人から何かしら施しを受けたとき、人は恩義を感じ、それを返したいという気持ちを持つ傾向にあるのだ。例えば、スーパーである食品を試食し、美味しいという理由よりも無料で試させてもらったことを理由に購入した、募金活動前にささやかなギフト(たとえば一輪の花など)を先に渡されてしまい、寄付することになった……など、日々のシーンでも思い当たることは多いのではないだろうか。

登壇者のWheatland氏は、コンテンツマーケティングでこのアプローチを活かすには、企業側から出し惜しみせずターゲットが求めるコンテンツを提供し、「恩義」を感じさせることが重要だと語る。また、それが個人宛てにパーソナライズされたものであったり、相手が想定しているタイミングや情報量を上回るものであると、より深く「恩」を感じさせることができる。こちらから進んで何かを提供し、恩を感じさせるということは、それを返す何かをしなくてはいけないという気持ちにさせることであり、導きたい行動(購買や成約など)にターゲットが無意識に向かうような状況を整えてしまうということだ。

Wheatland氏は、コンテンツマーケティングでの活用例として無料のカウンセリングやセミナーへの招待・資料提供などを具体例として紹介。また、サンプル版の配布によって、製品・サービスに一度「無料」で触れてもらい、購入の意欲をより高める手法も、この心理を利用したものだと語った。

2.希少性(scarcity)

「限られたものほど、欲しくなる」という心理を利用するというアプローチも有効だ。“モノ”の希少性を高める方法として、個数限定、シーズン限定、地域限定などの表現方法を思い浮かべる人も多いだろう。ECサイトの時間限定のセールなども、このアプローチの典型といえる。また、希少性を高める方法としては、ターゲットの“権限”を限定するという手法もある。会員登録した人にのみ展開される特典を訴求し、プレミア感を増したり、ターゲットとの関係性を深化させたりということが可能だ。

Wheatland氏が強調していたのは、商品特長ではなく、提供方法によって“特別感”を演出することと、行動しなかったときに失うものを想像させることで希少性をさらに感じさせるということ。つまり、希少性が商品自体にない場合でも、どのように提供するかによってそれを生み出すことができるというのだ。

3.権威(authority)

「肩書きや経験などの“権威”を持つ者に対して、人は信頼を置く」ことから、権威づけを活用したアプローチも人の行動に大きな力を発揮する武器である。その分野において知名度の高い組織や発言力のある人などの意見に従うのは、まさに権威を求める人々の心を刺激した結果と言えるだろう。

権威がいかに人の判断に影響するかの裏づけとしてセミナーで紹介されていたのは、ある不動産物件の成約率を分析したデータだ。郊外の不動産物件のうち、専門家の推奨付き物件は、営業マンの推奨のみで紹介された物件に比べ、見学の予約率が20%増、成約率は15%増を実現したという。

このアプローチをマーケティングに活用する際に、押さえておかねばならない重要なポイントは、ターゲットにとって信頼できる「権威」とは誰なのかを中心に考えることだ、とWheatland氏は主張。ターゲットが誰に憧れ、誰を信頼しているのかを正確に理解することができれば、「ターゲットにとって権威のある人物像」から推奨のコメントをもらう、プロジェクトに参画してもらうなど、力を借りた権威付けも活用することができるだろう。

4.コミットメントと一貫性(consistency and commitment) 

人は誰しも「表明した約束を守ろうとする」気持ちを持っている。なぜなら、社会では一貫性のある人物が評価される傾向があるため、自分が決めたことを口にしたり、書面に残したりすると、それを守ろうとする気持ちが強くなるのだ。例えば、ボランティアについてのアンケートで「今後やりたいと思う」と答えた人ほど、実際にボランティアを依頼された際に参加する傾向にあったという調査データがある。自分の意志でコミットしたものに対して、一貫した姿勢を保とうとする――この習性をうまく活用した武器が「コミットメントと一貫性」というアプローチだ。

マーケティングでこのアプローチを取り入れる際には、最初にコミットさせる内容は小さなアクションである方が結果につながりやすい、とセミナーでは紹介された。前例でいうと、アンケートに答えることは、ボランティア活動に参加することよりもはるかにハードルが低い。しかし、そこでボランティアに対する意欲を示してしまったからには、実際に参加することを求められた際には協力せざるを得ない、とターゲットは感じるようになる。つまり、方向性が一貫していれば、要求する行動の難易度が徐々に上がっても、ターゲットはその姿勢を保つためにコミットし続ける傾向にあるのだ。この特性を活かし、よりレベルの高い内容へと移行させ、購買プロセスの中でのステップアップを図る――そして最終的に導きたいコンバージョンへとつなげていくのだ。

5.好意(liking)

「好きな人に同意したくなる」気持ちも、人の心を大きく動かす。仲の良い友人のおすすめ商品を購入したり、お気に入りの店員からたくさんの商品を買ってしまうなど、好意があったからその行動をとったというよう経験がある人は多いのではないだろうか。つまりは、ターゲットに「好意」を抱かせるようなアプローチも有効な影響力の武器なのである。

チャルディーニ氏によると、人が好意を抱く理由には「自分に似ている」「自分を褒めてくれる」「同じゴールを目指す仲間である」という3つがあるという。Wheatland氏によると、これら3つのポイントは、コンテンツの中でも特にSNS上で展開されるものにおいて非常に重要な要素だという。なぜなら、インターネットの発展により、ターゲットがさまざまなプラットフォームで人や企業とつながりを持ち、能動的に「共感する」「好きになる」場が拡大しているからだ。つまり、“人と人”だけでなく、“人と企業”の間においても「好感」や「共感」を表明できる場が増えている。そのような状況で先ほど述べた3つのポイントを押さえた“好ましい”コンテンツを提供することができれば、ターゲットとポジティブな関係を構築することができるだろう。

6.社会的証明(social proof)

「周囲の動きに同調したくなる気持ち」も、実は人の行動を大きく左右する要素だ。たとえば、街頭で多くの人が空を見上げていたら、その場に遭遇した人のほとんどは同じように空を見上げる、とチャルディーニの書籍の中で紹介されている。これは「みんながやっているからには何か理由や価値があるに違いない」という心理が働き、他者の行為を自分の行為に反映させる傾向があるためである。この心理を突いたアプローチが、最後の「影響力の武器」だ。

マーケティングにおいても頻繁にこのアプローチは活用されている。「売上No.1」を謳う、ユーザーの体験談を紹介する、などがその一例だ。この心理は一般消費者だけではなく、BtoBマーケティングにおいても活用が可能だ。例えば、どのような企業をクライアントに持つのかを公表することで、多くの企業と取引しているということをアピールし、信頼性やサービスの安定感を創出することができる。多くの人から支持されていることを強調することは、社会的に信頼できるという安心感を生みだすのだ。

“人を説得し、人を動かす”根源を追究し6つのアプローチに分類した、チャルディーニ氏の「影響力の武器」。マーケティングにおいてもこのアプローチは大いに有効であり、個人を対象とするBtoCの分野だけでなく、企業や組織を対象とするBtoBの分野においても、幅広く活用できそうだ。短期的な「売り」ではなく、中長期的な「育成」を目的とするコンテンツマーケティングにおいても、「最後の一押し」は不可欠な要素である。それらをいかにさりげなく、コンテンツとの違和感なく、魅力的に表現するかという課題において、この6つのアプローチは非常に有効な手段なのではないだろうか。

執筆:隠岐由起子

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