JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(3)Job-To-Be-Doneを使うとペルソナはどう変わるのか?
書籍「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授。彼が近年提唱しているJob-To-Be-Done(顧客が片づけるべき用事に着目する)セオリーは、ペルソナにも応用できる。
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(1)Job-To-Be-Doneとは何か?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(2)Job-To-Be-Done理論は、どんな分野で力を発揮するのか?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(4)JTBDをペルソナ設定に活用する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(5)購買を左右する4つの力を理解する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(6)Job Storyを活用する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(7)JTBDにおけるインタビューテクニック
JTBDは基本的にはペルソナを否定している
顧客の片づけるべき用事に着目するJTBDだが、実はクリステン教授はペルソナには懐疑的なスタンスを取っている。
もちろんペルソナ設定の方法にもよるが、顧客の属性情報を集めたところで、それが「ある商品を買うこと」の理由を見つけることにはつながりにくいからだ。
ペルソナは物語の登場人物のようなもので、その人物設定だけでは、その後の行動を判断することはできない。一方、そのときの状況や片付けるべき用事は、人の行動を説明することができるという主張だ。
自社の商品開発にJTBDを活用し、そのノウハウをブログで公開しているメッセージングソフトウェア会社のインターコム社もペルソナについて同様の主張をしている。さらにペルソナ設定がそもそも適切でない商品やサービスも存在すると述べている。
ペルソナ設定ができないケースとはどういった場合だろうか?
例えばマイクロソフトのパワーポイントを思い浮かべて欲しい。パワーポイントユーザーとしてどんなペルソナ像が思い浮かんだだろう?例えばあなたが思い浮かべたペルソナは男性だろうか女性だろうか?あるいは独身だろうか既婚者だろうか?もし独身男性とあなたが選んだならば、あまり重要でない情報で不必要に顧客像を絞り込んでしまったことになる。
パワーポイントを選ぶ購入動機に、男性であるか女性であるか、独身か既婚かはほとんど関係がないからだ。ここまで単純な間違いはないかもしれないが、ユーザーにとって必要なコンテンツを導き出すためではなく、ペルソナ設定をすること自体が目的化したような、不要な属性にあふれたペルソナを見かけることがある。
ペルソナ設定を行う前に、そもそもペルソナ設定が必要かどうかということを問う必要がある。ペルソナ設定が適しているのは、自社商品の購買層に明確な分布が存在するときに限られる。つまり顧客属性と購買行動にある程度の相関関係が見られる場合といえる。
ではコンテンツマーケティングをどう始めるのか?
ペルソナを否定するような主張をしてきたが、万能なツールというものは、そもそも存在しない。道具はどう使うかが重要だ。
また、ペルソナはコンテンツマーケティング施策を考える際の出発点として広く使われている重要な手法でもある。ではコンテンツマーケティングを考える際にどうしたらよいだろうか?
それには大きく二つの方法が考えられる。
- ペルソナ設定を使わず、JTBDを企画の起点とする方法
- ペルソナ設定に、JTBDをミックスする方法
1つ目の手法は、ペルソナ設定を使わない方法だ。ペルソナ設定が適していないような商品の場合はもちろん、そうでない商品に対しても使える。
中途半端にペルソナ設定をするくらいならJTBDから始めた方が、失敗が少ないともいえる。顧客の解決すべき仕事に素直に向き合う手法だ。
例えば、先ほど例にあげたパワーポイントのケースであれば、属性にかかわらず片づけるべき用事が決まっていることが多い。プレゼンがしやすいかどうか、あるいは企画書や資料を効率的に作成できるかどうかが顧客の片付けるべき用事になる。
ペルソナ設定をせずとも、JTBDというレンズを通すだけで顧客が必要としている情報ニーズを容易に知ることができる。
2つ目の方法は、ペルソナ設定にJTBDを応用する方法だ。ここで参考になるのが、オンライン学習プラットフォームを提供するUdemy社のClaire Menke氏が主張する、ペルソナ、JTBD、そしてカスタマージャーニーマップという3つのツールをうまく統合して利用する手法だ。
彼女によると、ペルソナは顧客の行動を左右するベースとなる情報を提供するという点で重要だ。但しペルソナ設定から得られた情報だけで、その後の行動が予測できるわけではない。顧客の行動を左右するのは顧客が置かれた状況、つまりJTBDであり、JTBDから得られる情報を組み込むことでペルソナがより活用できるようになるというわけだ。
それは例えば、ミルクシェイクの例でも明らかだ。朝ミルクシェイクを買った男性と、夕方に子供にミルクシェイクを買ってあげた男性は、ペルソナとしては同一であるが、その行動は彼がおかれたコンテキストで大きく変わってしまった。
このことがペルソナだけで考えることの弱点であり、JTBDが補完できる要素である。つまり、ペルソナだけでは購買との因果関係が不明瞭であったが、JTBDというレンズを通して顧客を観察することで、購買との因果関係が明確になったというわけだ。
従来のペルソナが、結局のところ購買との相関関係から抜け出せないとするならば、そこにJTBDという視点を加えることでペルソナと購買との因果関係が明確になり、確度の高いコミュニケーション施策が立てやすくなる。
ペルソナを利用しているが、今ひとつその効果が見えてないという場合の改良ポイントとしても役立つだろう。次回はペルソナ設定にJTBDを組み込む具体策について紹介する予定だ。
執筆:渡辺一男(日本SPセンター)
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