JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(2)Job-To-Be-Done理論は、どんな分野で力を発揮するのか?
前回は、JTBDの概要を理解するために、顧客のJobに注目する視点の重要さを実感できる2つのエピソードを紹介した。今回はJTBDをより深く理解するために、ニーズとJTBDの違い、そしてJTBDを利用できる代表的な4つの分野について説明しよう。
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(1)Job-To-Be-Doneとは何か?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(3)Job-To-Be-Doneを使うとペルソナはどう変わるのか?
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(4)JTBDをペルソナ設定に活用する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(5)購買を左右する4つの力を理解する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(6)Job Storyを活用する
- JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(7)JTBDにおけるインタビューテクニック
ニーズとJobの違い
JTBDを理解し、うまく活用するために、JTBDの基本構成要素であるJobの定義を見てみよう。
- Jobとは、ある状況から前進するために必要な行動である
- Jobとは単に機能的な要素だけではなく、社会的、情緒的な要素も含めたものである
- Jobに最も影響を与えるのは、人がおかれている状況であり、パーソナリティではない
- Jobは連続的なものであり、個々に分断されたイベントではない。
つまり、Jobとは、何か解決すべき事象が発生した際に、よりより状況を求めて人が起こす連続した行動ということになる。また、解決策のスペックやパフォーマンスだけでなく、その時の状況、外部からの評価、自身の感情により取るべき選択肢は大きく左右される。逆の視点で言い換えると、よりよい状況が期待でき、その時の状況にマッチし、他者からの評価がアップし、自分の満足が得られる解決策ほど選ばれるということになる。
似た概念である「ニーズ」との違いに着目するとJobをより理解しやすくなる。「ニーズ」はマーケティングにおける基本的な概念の一つであるが、ありたい姿と現状とのギャップの差から生じる欠乏感を意味する。「美味しいものが食べたい」、「健康的に暮らしたい」、「老後のために貯蓄したい」といった欠乏感をイメージするとわかりやすいだろう。
ニーズを把握することはマーケティングの基本ではあるが、実はニーズを把握するだけでは、その解決策を見いだすことは困難だ。例えば「美味しいものが食べたい」というニーズを満たそうと、その解決策を想像してみよう。Aさんにとっての「美味しいもの」は、次の訪問先に行くまでの15分で手早く食べられるファーストフードかもしれないし、Bさんにとっては、大切な人と過ごすためのフランス料理のフルコースかもしれない。ニーズだけでは解決策を想像するには漠然としすぎているのだ。
一方Jobは、漠然としすぎるニーズの欠点を補うために、機能的な側面における片づけるべき用事、社会的な側面における片づけるべき用事、情緒的な側面における片付けるべき用事、そして一番重要な「その人がおかれている状況」を考慮に入れて顧客の行動が把握される。全ての要素を必ずしも網羅する必要はないが、「その人がおかれている状況」は必須である。例えば「朝時間がないときに、手早く美味しいものを食べたい」という表現であれば、Jobということになる。
クレイトン・クリステンセン教授は、ニーズに基づいて製品開発を行った失敗例としてセグウェイを挙げている。セグウェイは人が持つ「より効率的に移動したい」というニーズを満たす製品として開発された。セグウェイが実際に登場するまでは様々なメディアで画期的な製品としてもてはやされたが、期待されたほどはヒットしなかった。現在では限られた用途で使用されるだけの存在になってしまっている。もちろんセグウェイは製品としては画期的なイノベーションではあるが、ニーズは満たしても、誰のJobも解決しくれるのかを想像しにくい。「どんな状況におかれた人の、どんな問題を解決してくれるのか?」ということが曖昧であることが、セグウェイの失敗の一つの要因ではないかとクリステンセン教授はいう。
結局の所、ニーズを分析しても、人々が持つ漠然とした欠乏感や欲求の方向性がわかるだけで、それが商品やサービスに結びつかないことが多い。もちろんニーズを把握することは重要だが、さらに深掘りしてJobまで落とし込むことができれば、画期的な商品やサービスを創造できる可能性が高まる。これが漠然としたニーズと具体的なJobの違いであり、ニーズベースの手法に対してJTBD理論が優れているポイントである。
JTBDを応用できる4つのフィールド
元々は画期的な商品やサービスを開発するためのフレームワークとして生まれたJTBD理論だが、ストラテジン社のアンソニー・アルウィック氏によると、現在のところ以下の4つの領域で利用されているという。
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イノベーション
これが最もベーシックなJTBDの利用方法だが、革新的な商品やサービスを開発するために活用できる。全く新しい商品やサービスの開発にはもちろん、より顧客に共鳴するバリュープロポジションの設定、既存の商品の改良などにも利用できる。
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参入市場選択
ポジショニングマップやPMマトリクスの代わりにJTBDを利用して参入市場を選択する方法だ。まずJTBD(顧客が片づけるべき用事)別に市場全体を分類し、参入市場候補をリストアップする。リストアップしたそれぞれの市場について、既存商品の有無や優劣をJTBD視点で評価し、自社にとって魅力的な市場を見つけていく。
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UI/UX
UIやUXの分野でもJTBDを利用することができる。ある程度コンセプトが固まった商品やサービスのユーザー体験を確認するために利用する。顧客が解決すべき最終的な用事、そしてそれを実現するための小さな用事がうまく解決できているかどうかに着目しながら、UIやUXを開発していくことになる。
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購入意思決定の理解
顧客が商品を購入するまでの意思決定プロセスを理解するために利用できる。顧客が購入プロセス上で抱く疑問をJTBDととらえ、それを解決する手段として、効果的なコミュニケーション施策やコンテンツを開発していく。今後説明していくコンテンツマーケティングへの応用もこの領域に該当する。
以上が、JTBDが現在利用されている主な分野であるが、もちろんJTBDが万能なわけではない。現状の商品やサービスに何の不満や問題もない場合、商品やサービスが完全にコストやスペックだけで選ばれるような分野ではJTBD は役立たないとクリステン教授はいう。社会的、情緒的、機能的な要素と顧客がおかれたコンテキストが、商品やサービスの選択に複雑に影響を与える分野で特に力を発揮するということだ。
2回に渡って、JTBDの概念について説明してきた。どちらかというとニーズやペルソナなどの属性情報を重視しないのがJTBDの本来の使い方ではあるが、次回はコンテンツマーケティングの基本であるペルソナ設定にJTBDを利用する方法について説明していく。
執筆:渡辺一男(日本SPセンター)
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