【インタビュー】Robert Rose氏に聞く(2)「クライアントにコンテンツマーケティングの効果を説くには」
2012年9月、アメリカで開催された“content marketing world”において、『Managing Content Marketing』の著者でもあるロバート・ローズ氏にインタビューを行いました。2回目の今回は、日本では未だ認知度の低い“コンテンツマーケティング”の効果をクライアントに説得するためにはどうすればいいか、ロバートの実体験も交えながら聞きました。
まずは課題解消としてのコンテンツマーケティング導入を
日本ではまだまだ認知度の低い“コンテンツマーケティング”ですが、クライアントにコンテンツマーケティングを取り入れてもらうために、あなたならどう説得しますか?
いくつかの方法が考えられます。一番簡単なのは、従来のキャンペーンの代わりにちょっとしたコンテンツを試しに作って見ませんか?と提案することです。ただ、コンテンツを作るには少し時間がかかるので、根気強いクライアントでないと難しいかもしれません。
次に考えられる方法は、コンテンツマーケティングを導入することによってマーケティング効果が向上するのをクライアントに信用させる、というものです。コンテンツの効果に関しては議論する必要はありません。いずれ証明できることですから。それよりもまずすべきことは、クライアントが抱える課題の洗い出しです。認知度はあるけれど営業で苦労している、認知度も売上もあるが、顧客ロイヤリティが低い…などの課題です。とにかく、従来のマーケティングでうまくいってない部分を1つ見つけ出し、それを解決する手段としてコンテンツマーケティングの導入を提案するのです。
このようなアプローチを使えば、ブログの立ち上げといった小さなことから、雑誌の創刊、さらに規模の大きいコンテンツであっても、たいていの場合はクライアントから許可がおりるでしょう。コンテンツマーケティング導入時は結果の出やすい小さなことから試してみて、徐々に規模を大きくしていくのがいいでしょうね。SEO対策は、手始めとしてちょうどいい施策だとと思います。
ロバートの実体験に基づいたコンテンツマーケティングの効用
具体的な提案方法、大変参考になります。では、あなたご自身の経験として、コンテンツマーケティングの効果を感じた出来事を教えてください。
2007年頃、私は小さなソフトウェア会社に勤務していました。とても小さな会社でしたが、非常に高価なソフトウェアを大企業相手に販売していました。しかも、マイクロソフトやIBM、オラクルなどの大手と競いながら。そのため、自分たちがあたかも大企業であるかのように振る舞う必要があったのです。そこで私は、我々は業界のオピニオンリーダである、という印象を植え付けるため、とにかく多くのコンテンツを公開する必要がある、と考えたのです。私はCEOを説得して、従来のマーケティング専門家ではなく2人のライターを雇いました。当時の私ははこの手法がコンテンツマーケティングと呼ばれるものだとは知りませんでした。ただ実践していただけでした。
実際、やり始めるとこの方法は大きな効果をあげ、様々な取引をまとめることができ、会社もかなりの成功を納めました。Joe Pulizziと出会ったのはこの頃です。2人ともすでに、様々な場所でおのおのの取り組みの効果について講演していたのですが、私たちはつまりは同じことについて語っている、ということに気づいたのです。そしてコンテンツマーケティングが真のトレンドであり、今後大きな広がりを見せるだろうことを予感しました。フルタイムで今の仕事をするために会社を辞めたのも、ちょうどこの頃ですね。
つまり、理論からではなく実践からコンテンツマーケティングを始めた、ということなんですね。
ええ。私にも、なかなか理解を示してくれないCEOを相手に、気まずい空気が流れた経験があります。それでも粘り強くコンテンツマーケティングの効果を説得しました。なぜなら、その高い効果を実際に目の当たりにしていましたからね。
ROIは結果であって、前提ではない。デジタルマーケティングはアートとサイエンスのバランス
実体験に基づいたお話だからこそ、説得力があるのですね。では、提案時点で結果を求めてくるような、ROIにシビアなクライアントにはどのような対応をしますか?
私はよく言うのですが、ROIは結果の1つであり、前提条件ではありません。つまり、ROIは目標なのです。達成しようと試みるものであり、前提であってはならないのです。ですから、何かを試みる前にROIを証明する必要はないはずです。マーケティングとは創造的なものです。なのに、特にデジタルマーケティングにおいては、突き詰めすぎて単なる“サイエンス”にしてしまうケースが多いのです。マーケティングはサイエンスではありません。アートとサイエンスが融合したものなのです。実際、創造的なことをする前に結果を証明しようとすると、必ず失敗します。それでもどうしてもクライアントがROIを試算したい、というのであれば私ならこう提案します。「設定した目標に対して、従来型のマーケティングと、コンテンツマーケティング、両方を試してみましょう」と。私の経験では、すべて同じ条件であれば、コンテンツマーケティングのほうが必ず成果を上げています。
効果測定の際に重要なのは、何よりも目標設定
つまりコンテンツマーケティングの成果は、後々数字になって表れる、ということでしょうか?
ここで重要なのは、方法を比較する際の目標設定なのです。よくあるのが、単純にウェブサイトから流入する見込み客の数を比較するという目標です。でもこれは賢い方法とはいえません。なぜなら、見込み客の数だけを比較していてもその質まではわからないからです。仮に、より多くの見込み客を獲得した方法があったとします。でもその見込み客が、1ヶ月後にサービスの使用をやめてしまう可能性もありうるわけです。他方、見込み客の獲得数は劣ったとしても、質の高い見込み客を獲得している場合もあります。ですから、単純に数値だけで比較するのは、大変危険なのです。
それよりも、より多くのお金を使ってくれる顧客を育てるだとか、マーケティングコストを10%削減するなど、具体的な目標を掲げる必要があります。その上で、目標を実現するために必要な評価指標や手段を逆算するのです。つまり、どのようにその目標を達成するのか?目標を達成するために、知っておくべき評価指標は何か?を決めるのです。
コンテンツマーケティングのような新しい試みを取り入れるにあたっては、競争の条件を平等に設定しておく必要があります。「無料」という言葉を使えば、人は簡単に飛びつきます。一方、コンテンツマーケティングで質の高い顧客を引き込むには、コストも時間もかかります。単に獲得客の数を比べるのであれば、「無料」という言葉にひかれてきた顧客のほうが、コンテンツに引き込まれて来た顧客の数より多いでしょう。だからといって何かを「無料」で提供するキャンペーンのほうが優れているとはいえません。単純に無料でプレゼントしたというだけのことです。他方、コンテンツマーケティングでは、価値ある顧客を育てることができます。このような矛盾を防ぐためにも、競争条件が平等、かつ適切な目標が設定されていることが、正しい効果測定をする上で大変重要になってくるのです。
つまり、目標が適切に設定されていれば、おのずと成功への方程式は導き出される、ということでしょうか?
そのとおりです。正しい道筋を探す前に、目指すべき目標について、正しい質問をする必要がある、ということです。
⇒次回は注目の「コンテンツマーケティングとインバウンドマーケティング」について聞きました。様々な意見のあるコンテンツマーケティングとインバウンドマーケティングについて、果たしてロバートはどう考えているのでしょうか。
- コンテンツマーケティングとは何か?
- 基本コンセプト”Like a Publisher”
- コンテンツマーケティングの歴史
- コンテンツマーケティングの情報構造(前編)
- コンテンツマーケティングの情報構造(後編)
- 「普及曲線」からコンテンツマーケティングを考える
- 今さら聞けない!コンテンツマーケティングの基本の「キ」
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- コンテンツマーケティングの4つの型
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(1) 情報の届け方の大変革
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(2) トリプルメディア時代の伝え方
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(3) ZMOTへの対応策
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(4) 3C分析からビジネスゴールの設定まで
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(5) ペルソナの作り方
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- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(8) CTAとKPIの関係性
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(9) コンテンツオーディット
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(10) ファクト収集
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(11) ストーリーの力を利用する
- 新入社員のためのコンテンツマーケティング入門(12) コンテンツプロモーション
以下はアメリカでコンテンツマーケティングが盛り上がり始めた2012年に行ったインタビューの記事です。コンテンツマーケティング初期の記事なのでこれからコンテンツマーケティングについて勉強したい方に分かりやすい内容になっています。
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