【インタビュー】Robert Rose氏に聞く(3)「インバウンドマーケティング、コンテンツマーケターはどう捉える?」
コンテンツマーケティング業界のエバンジェリストRobert Rose氏へのインタビュー第3弾。今回は「ロイヤルティの高い顧客を育てる」と定義されるコンテンツマーケティングは“インバウンドマーケティング”をどう考えるのか…について聞きました。
インバウンドマーケティングとコンテンツマーケティングの違いとは
最近、日本ではマーケティング戦略の1つとして“インバウンドマーケティング”が非常に注目されています。コンテンツマーケティングと混同されることも多いのですが、両者の違いについて教えてください。
これについては様々な考え方が存在していますので、あくまで私の定義、考え方ということでご説明しますね。“インバウンドマーケティング”は単純に、販売プロセスに顧客を引き込む方法だと私は考えています。コンテンツを使ってオーガニック検索の成果を上げたり、メールなどを使って見込み客を育てたりすることで販売プロセスの進展を図るわけですが、インバウンドマーケティングは、ここで終わりなんです。
私の考えるコンテンツマーケティングは、もっと幅広いものです。これまでもお話してきたように、コンテンツマーケティングの肝は、ロイヤルティの高い顧客を育てることです。つまり、より継続して愛用し、より多くのものを購入し、ブランドに忠実であり、さらに自らのソーシャルネットワークで情報を共有してくれる顧客に育てることが目的なのです。顧客を引き込むことが大切なのはもちろんですが、コンテンツマーケティングは引き込んだその後を非常に重要視しています。よりロイヤルティが高く継続的であり、より高額の商品を購入し、コンテンツを他者と共有する顧客に育てることも、コンテンツマーケティングの一部なのです。
私はコンテンツマーケティングを、コンテンツを使ってより価値の高い顧客を育てるための幅広い実践法と捉えています。一方、インバウンドマーケティングは、基本的には販売プロセスを促進するための手法であり、その意味においてはコンテンツマーケティングの一部分だと私は考えています。
インバウンドマーケティングに適したジャンルは存在するのか?
では、コンテンツマーケティングよりもインバウンドマーケティングを取り入れたほうがうまくいく業界もあるのでしょうか?
もちろんあります。ただ、コンテンツマーケティングとインバウンドマーケティング、どちらか片方だけ、と限定するのは難しいかもしれません。先ほども述べたようにインバウンドマーケティングはコンテンツマーケティングの一部なので、インバウンドマーケティングを行なうことはすなわち、コンテンツマーケティングの一部分を行なっている、ということなのですから。
ですが、質問に対するお答えとしては、他と比べてインバウンドマーケティングが適している製品やサービスは間違いなく存在する、といえるでしょう。AppleやNIKEなどの個人消費者を対象とした企業は、インバウンドマーケティングにはあまり適していません。しかし、Googleやソーシャルネットワークなど「検索」に大きく依存している製品やサービス、またBtoBには、インバウンドマーケティングが非常に適しています。BtoBは、販売サイクルが長く、顧客とやり取りする機会も多く、リード育成がより重要となってくるためです。とはいえ、実際にはこれも、コンテンツマーケティングの大きなプロセスの一部ですが。
つまり、BtoBの場合は、インバウンドマーケティングのほうがコンテンツマーケティングよりも効果的かつ重要な戦略、ということでしょうか?
それは何を改善しようとしているかによると思います。自分たちの顧客は、ロイヤルティも満足度も高いのに、必要な数の取引をまとめられず、なかなか見込み客を獲得できないと嘆くクライアントと話すことがよくあります。コンテンツマーケティングとインバウンドマーケティングがうまくかみあってないんですね。こういった場合は、インバウンドマーケティングに重点的に取り組むべきです。
逆に、見込み客も多く、売上も素晴らしいのに、忠実で質の高い顧客を獲得できないというクライアントもいます。購買ファネル理論でいう“購買ファネルの下半分”の部分を、育成できていないんですね。こういうケースの場合、たとえば、顧客向け雑誌を作るのは効果的です。時間をかけて顧客を自分たちのファンに育てる雑誌、つまりコンテンツを作るのです。コストはかかりますが、それだけの価値はあります。育てた顧客は、自分たちのサービスをより長く継続し、他の商品を購入し、さらには経験を共有してくれるからです。しかし、これは売上には関係がありません。ですから、売上を上げるという点だけを見れば、インバウンドマーケティングのほうがはるかに効果的に見えるでしょうね。
“ファネルの下半分”を育てるコンテンツマーケティングの成功例
それは日本の企業も考慮すべきことかもしれません。日本のマーケティングは、認知と売上に重点を置いていることが多く、“購買ファネルの下半分“では何も起こってないことが多いのです。
購買ファネルの下半分に注力してもらうための、好例を挙げましょう。私の担当するあるソフトウェア会社は、購買ファネルの一番上、つまり認知に焦点を当てました。そのため、検索エンジン最適化を利用して多くの人を引き込んで取引をまとめたい、ということで購買ファネルの下の部分には重点を置きませんでした。コンテンツマーケティングは、検索を使って認知度を上げる手法に比べて倍のコスト、倍の時間がかかるからです。
しかし、部分的にコンテンツマーケティングを実践し、この会社が顧客のライフサイクル全体を評価し始めた時に驚くべきことが判明しました。コンテンツマーケティングで育成した顧客は、その他の顧客に比べて倍の金額を使い、倍の期間を顧客として過ごし、5倍の確率で情報を共有する、ということがわかったのです。つまり、時間とともに、彼らは会社にとって一層価値のある顧客になったのです。一方、検索で得た顧客は、すぐに去って行きました。
このことからわかるように、“購買ファネルの下半分”の部分に時間とコストをかけることで、時間と共により価値のある顧客基盤を築いていくことができるのです。
⇒ロバートの考えるインバウンドマーケティングとコンテンツマーケティング、いかがでしたでしょうか?次回は、Googleの提唱する“ZMOT”とコンテンツマーケティングの関連、そしてコンテンツマーケティングにおける紙媒体とデジタルメディアのバランスについてお聞きします。
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以下はアメリカでコンテンツマーケティングが盛り上がり始めた2012年に行ったインタビューの記事です。コンテンツマーケティング初期の記事なのでこれからコンテンツマーケティングについて勉強したい方に分かりやすい内容になっています。
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