基本コンセプト“Like a Publisher”

  • 基本コンセプト“Like a Publisher”
  • コンテンツマーケティングを支える大きな柱の一つに「Like a Publisher」という考え方がある。パブリッシャー視点でマーケティングコミュニケーションを捉え直してみると、今に適したコミュニケーションの姿が見えてくる。

パブリッシャーのように考える

「Think Like a Publisher(パブリッシャーのように考える)」、「Act Like a Publisher(パブリッシャーのように行動する)」というキーフレーズは、コンテンツマーケティング関連の書籍やセミナーで必ず触れられる概念だ。

この概念を理解するために「パブリッシャー」という言葉の意味についてまず確認する必要がある。コンテンツマーケティング関連の翻訳書では「編集者」と訳されている場合もあるが、それでは「Like a Publisher」が意味することを正しく理解できなくなってしまう。もし「編集者」であるならば、英語では「Like an Editor」となっていたはずであるし、そもそも「編集者のように考える」ことは制作の世界では当たり前のことであり、今さら取り上げられるべき概念ではない。

「パブリッシャー」とは情報を広く発信する主体者のことであり、具体的には、本や雑誌の出版社、新聞、ウェブメディア等を示す。この意味から考えると「Like a Publisher」とは、今までのように企業が見込客に対してメディアを介して間接的にコミュニケーションするのではなく、自らが主体となって直接情報を伝えようという主張になる。言い換えると、媒体が用意するコンテンツの間に広告を掲載するのではなく、企業自身がコンテンツと広告を配信しようという考え方だ。

出版社が雑誌を企画する際には、読者層を設定し、その層に適したコンテンツを記事として用意する。ここでは「どんな記事ならば読みたいか」という読者の関心事が優先される。これと同じように、企業も売り込みメッセージを一旦脇にやり、見込客が必要とする情報をコンテンツとして用意してはどうだろうというのが「Like a Publisher」が意味するところだ。

従来の広告スタイルでは、自社の見込客と近い属性の読者を抱えるパブリッシャーを介して、企業がメッセージを伝達していた。「Like a Publisher」スタイルでは、自社でコンテンツも用意して届ける形となる。パブリッシャーが抱える読者数よりも少なくはなるが、自社が狙いたい見込客だけを想定したコンテンツを発信できるため確度は高くなる。

このことは具体例を知ると理解しやすい。エナジードリンクで有名なレッドブルは「Like a Publisher」の具体例としてよく取り上げられる。エナジードリンクの効能を印象づけるためにスポーツイベントのスポンサーを務めるだけでなく、その様子をスポーツニュースのように写真や動画で報道するTHE RED BULLETINというウェブサイトを運営している。同じコンセプトの雑誌も発行している。

レッドブルが運営するスポーツニュースサイトTHE RED BULLETIN

割り込んで売り込むのではなく、生活者の関心事から自然に購入に導くという考え方

エナジードリンクを売るのであれば、従来であればスポーツ番組やスポーツニュースのスポンサーとなり、その間の短いテレビCFでメッセージを伝達するというのが定石であったはずだ。しかし、レッドブルは番組やニュース自体を自身で提供している。このダイレクトな関わり合い方の方が、読者にメッセージが伝わりやすくなる。なぜなら読者の関心事に沿った形でメッセージを伝達できるし、聞く用意ができている可能性が高いからである。

インターネットをはじめとする、いわゆるデジタルな伝達手法が普及する以前は、主にエンタメ情報でオーディエンスを引きつけ、エンタメ情報の合間に広告を挟むという割り込み型のマス広告が主流であった。一つのメディアに集中して視聴することが多かった時代には、マス広告は絶大なパワーを発揮した。ユーザー側にマス広告を許容する時間的、心理的余裕があったからだ。あふれる情報の中でデバイスを使い分け断片的に情報に接触するユーザーが増えている今日では、割り込み型の手法ではユーザーにリーチしにくくなっている。時間に追われながら何かに集中している人に話しかけても、なかなか気付いてくれないのと同じ理屈だ。こうした状況を打破するために、生活者の関心事から自然に購入に導くという考え方「Like a Publisher」という考え方が生まれた。

コンテンツと商品が融合、Like a Publisherの進化形

さて、「Like a Publisher」の事例をもう一つ紹介しよう。マンガやアニメ、ゲームマニアが喜ぶようなグッズを独自の視点でアレンジして、毎月ボックスで届けるサービスを手掛けるLoot Crate社の事例だ。

同社のCEOであるChris Davis氏は、「商品が届くのは毎月一回だが、ブログやSNSを通して情報を提供すれば毎日ユーザーと接触できるし価値を伝えることができる」と考え、マニア受けするコンテンツを毎日発信しているようだ。その結果3年間で6.6万%の成長を実現。2016年にアメリカで最も急成長した会社として雑誌Inc.の表紙を飾った。興味を引くためのコンテンツ、広告、そして商品が融合して相乗効果を発揮している「Like a Publisher」の理想型といえる。

Loot Crate社 はマニア向けの商品を4~6種セットして(内約8割は同社オリジナル商品)毎月届けるサービスを提供している。2016年11月のグッズテーマは「マジカル」だ。

同社のターゲットであるマンガやアニメ、ゲームマニア向けの情報を毎日発信するブログサイトThe Daily Crate

あくまでLike a Publisherであって、本当にPublisherになってしまってはいけない

さて、一つ注意事項がある。パブリッシャーのように考え行動することは重要なのだが、パブリッシャーになってしまってはいけないということだ。コンテンツとしては素晴らしかったのに、いつの間にか消えてしまったウェブサイトや雑誌がアメリカにはいくつもある。例えば、P&GのRouge。これは雑誌広告をやめて、自社の雑誌やウェブマガジンで美容や化粧品に関する情報を提供するという画期的な試みであった。Rougeでは、今後のファッショントレンドや化粧方法など、美にまつわる情報を幅広く取り上げていた。

P&GのウェブマガジンRouge。既にサイトは閉鎖されている。

同じくP&Gの事例では、「家事もするお父さんのための情報提供サイト」というテーマでMan of the Houseというウェブマガジンがあった。また家電量販のBest Buy はBest Buy Onという家電情報サイトを運営していた。商品の選び方や今後の家電の進化など、面白いコンテンツが満載で読み物として充実していた。

これらのサイトがなぜ無くなったのかについて、どこにも説明がないので断言はできないが、あまりに一般的なテーマを選び過ぎたために雑誌やウェブメディアと差別化できなくなったこと、そして購買に結びつかなかったことが原因ではないかと推測する。あくまで情報提供の仕組みとして「Like a Publisher」であるべきであり、本当にパブリッシャーになってしまうと、雑誌やウェブメディアと同じ領域で競うことになり苦戦することになる。商品を売るための手段としてのコンテンツマーケティングであるという点を間違えてはいけない。

失敗しないために重要なポイントは、自社のターゲット層に的を絞り、ニッチなテーマで勝負することだ。雑誌等は採算を取るためにある一定数の読者数が必要になる。そのため本当はもっとニッチな内容にしたくてもできない場合もあるだろう。しかし、企業が商品を売るための手段としてコンテンツを配信する目的であれば、そこまでの読者数は必要ない。このポイントがLike a Publisher(パブリッシャーのように)とBe a Publisher(パブリッシャーになる)との境界線となる。もちろん、目標とする売上、商品やサービスによって必要な読者数は異なるが、見込客に合わせてニッチなコンテンツを提供することで、ここでしか読めないコンテンツを揃えることが勝ち残る秘訣だ。

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以下はアメリカでコンテンツマーケティングが盛り上がり始めた2012年に行ったインタビューの記事です。コンテンツマーケティング初期の記事なのでこれからコンテンツマーケティングについて勉強したい方に分かりやすい内容になっています。

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