コンテンツマーケティング・アカデミーのスタッフ3名が、マーケティングやコンテンツにまつわるテーマについて、気ままにフリートークします。
「みんなが持っているから欲しい」―その感情の裏にはなにがあるのでしょう?
ラブブやサンリオ万博コラボの大ヒットから見える、マーケティングの本質に迫ります。
参加者プロフィール
村上健太
コンテンツマーケティングアカデミー、チーフストラテジスト。
企業のコンテンツ戦略立案に携わり、最新のAI技術動向をウォッチしている。
髙山はるみ
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
長年企業ウェブサイトの制作に携わり、検索技術の変化を現場で実感している。
今井静香
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
生成AIの活用に関心が高く、新しい情報検索の可能性を探求中。
#1 飛ぶ鳥を落とす勢いのラブブ、でも株価は伸び悩み?
村上:今年のヒット商品として「ラブブ(LABUBU)」が話題でしたね。ぬいぐるみをバッグにぶら下げている人をよく見かけるようになりました。
今井:私は持ってないですけど、若い子を中心に流行っている印象ですね。
村上:香港発のキャラクターで、運営会社のポップマート(泡泡瑪特国際集団) は2025年上半期だけで約2866億円もの売上を記録しています。インフルエンサーの投稿がきっかけで、ラブブは大ヒットしました。SNSを駆使したマーケティングで、2025年を象徴するキャラクター商品となりましたね。ところが最近、ポップマートの株価が横ばいになってきたんです。
高山:え、そんなに売れているのに?
村上:いろいろな理由があると思いますが、クオリティが高い競合が出てきた影響が大きそうです。競合企業の「 ノミ(NOMMI) 」や「メイメイ(MayMei)」という類似コンセプトのキャラクターは既に一定の人気を集めています。強力な競合の登場で、ラブブの成長に陰りが見え始めたんじゃないかと市場が見ているわけです。
今井:似たようなキャラクターが出てくると、そうなっちゃうんですね。

出典 :ポップマート公式Webサイト
村上:日本企業では、サンリオが最高益を記録しました。大阪・関西万博のキャラクター、ミャクミャクも大人気ですし、万博とサンリオのコラボ商品も大人気だったのは記憶に新しいですね。いろいろな意味で2025年はキャラクターグッズの年ともいえるかもしれません。キャラクターグッズ市場は今、様々な変化が起こっているんですね。
#2 人間の欲望は「他人の真似」から生まれる
村上:ここで興味深い理論を紹介します。フランス出身の哲学者ルネ・ジラールが提唱した「欲望の三角形」。人間の欲望は自分の内側から湧くのではなく、他者の欲望を模倣することで生まれるというものです。
今井:確かに、SNSを見て「いいな」と思うことはよくあります。自分の内側から出てくる欲望って、実はあまりないかもしれません。
高山:友達と「あのお店行きたいね」って話していたら、実は二人とも同じインスタの投稿を見ていた、ということはよくありますよね。
村上:その通りです。ルネ・ジラールは、人間の欲望が単なる「主体」と「対象」の直線的な関係ではなく、第三者である「媒介者」を介した模倣によって生まれる、というわけです。
これを三角形にモデル化したものが「欲望の三角形」です。

例えば、インフルエンサーが持っている高級車を見て、自分も憧れてその高級車が欲しくなるということですね。欲望は自己発生するものばかりではなく、他社の欲望を模倣する形で発生するものであると指摘しました。これはモノだけではなく、成功や地位といったものにも当てはまります。
この「欲望の三角形」を見ると、人気インフルエンサーに商品を持たせればみんな模倣するからイージーだと思いがちですが、実はむしろハードなんです。
高山:どういうことですか?
村上:人間の欲望は多種多様で、いつどんな欲望に飛びつくかわからない。特にSNSは他人の欲望を増幅して拡散する装置みたいなもの。わかりやすい欲望だけじゃなく、ニッチで風変わりな欲望さえもどんどん拡散されていくんです。
今井:拡散される中で、欲望の形も少しずつ変わっていきそうですね。
村上:そうなんです。私たちの「うらやましい」「ああなりたい」という欲望が尽きることはない。無限のように繰り返されていく中で、どの欲望を多くの人々が模倣するのかを予想するのは非常に難しいんです。
ラブブもミャクミャクもサンリオコラボも、その人気の裏には、「欲望の三角形」の構図が見える気がします。
今井:SNSがその模倣と拡散をさらに加速させているわけですね。
#3 キャラクタービジネスが直面する5つの壁
村上:一方で、キャラクタービジネスが難しい理由もいくつかあります。まず、消費者の嗜好が急速に変化して人気の寿命が短い。
高山:確かに、去年人気だったものが今年は見かけなくなる、ということはよくありますね。
村上:次に、模倣品や類似商品が素早く市場に登場して、独自性の維持が困難。先ほどのラブブに対する ノミの例ように、すぐ似たコンセプトの商品が出てくる可能性があります。
今井:あと、限定性や希少性も重要ですね。ある程度希少性を演出しないと注目されないけど、逆に供給不足でファンが不満を持ったり、転売が問題化しますよね。
村上:そうなんです。さらに、新キャラクター開発と既存キャラクターの長期的価値維持のバランスが難しい。サンリオのキャラクター人気ランキングを見ると、1位がポムポムプリンで、キティちゃんは5位。上位はみんなが知っている人気キャラクターですが、一方でほとんど知られていないマイナーなキャラクターもサンリオには沢山います。
今井:全体を愛するようなコンテンツがあってもいい気がしますね。
村上:消費者は他者の欲望を模倣する傾向が強いとすると、流行の予測は極めて困難になりますね。
今井:こうして見ると、ヒットしたときの収益性は高いけど持続的な成功を収めるのが難しいビジネスモデルといえるかもしれませんね。
村上:そうですね。タレント事務所と同じで、トップだけじゃなく地道に頑張っているキャラクターも含めて全体でブランドを支えていく必要がありますね。キャラクターを資産と捉えて、しっかり権利を守りながら、確固としたブランド戦略が求められると思います。
- 消費者の嗜好が急速に変化し、人気の寿命が短い傾向にある
- 模倣品や類似商品が素早く市場に登場し、独自性の維持が困難
- 限定性や希少性を演出するマーケティングが必須だが、供給不足によるファンの不満や転売問題が発生しやすい
- 新キャラクターの開発と既存キャラクターの長期的価値維持のバランスが難しい
- 消費者は他者の欲望を模倣する傾向があり、流行の予測が極めて困難
#4 コンテンツマーケティングは「急がば回れ」
村上:ここでコンテンツマーケティングの話に戻しましょう。コンテンツマーケティングは、受け手の情報ニーズに応え、中長期的な信頼を築くことが本質です。
高山:CONTENT MARKETING DAY 2025のセッションでも、皆さん「短期的なニーズではなく、中長期的な信頼と正確な情報を届けること」の重要性を語っていましたね。
村上:そうですね。人気キャラクターグッズの例でいえば「みんなが買っているから買いましょう!」「急いで!いまが買い時です」とだけ伝えるのは、コンテンツマーケティング的なアプローチとはいえません。むしろ自分に合ったグッズはどれか、他にどんなキャラクターがあるかを、自身の好みに応じて楽しく落ち着いて考えてもらうスタンスの方が信頼を得られます。
今井:一時的な熱狂を作り出すのではなく、着実に信頼を高めていくということですね。
村上:そうです。人々の感情を捉えながらも、一方向の欲望に流されず、抑制的で理性的なマーケティングを目指す。短期間で消費を煽るような短期的な熱狂作りは、コンテンツマーケティングには向いていないと思います。
高山:子育ての情報なんかも、極端すぎると共感できないけれど、ちょっと頑張れば手が届きそうな情報を出してくれる人がちょうどいいと思います。
村上:まさにそれですね。程よい欲望を満たしてくれる存在が信頼されるのではないでしょうか。オーガニック100%のこだわりの手作り料理を毎日作るのは無理だけど、ちょっとした工夫で家族が喜ぶ食卓を作れる、みたいな。
今井:欲望を完全に否定するのではなく、上手に折り合いをつける。そのバランスを探っていくのがコンテンツマーケティングですね。
村上:「欲望の三角形」にあるように、人間である以上、頻繁に様々な欲望が生まれ、そのかなりの部分が他者の影響を受けるものです。SNSはそうした欲望の増幅装置ともいえます。でもその中で短期的な熱狂をいたずらに煽るのではなく、長期的な信頼を築き本当に価値あるものを届ける。中長期的な信頼を着実に高めていく「急がば回れ」のマーケティング、それがコンテンツマーケティングの役割だと思います。
まとめ
キャラクターグッズの爆発的な人気と激しい市場争いから見えてきたのは、人間の欲望が他者を模倣することで生まれるという構造でした。SNS時代、この模倣と拡散はさらに加速しています。キャラクタービジネスは短期的な熱狂を作り出せる一方で、流行の予測が難しく持続的な成功が困難です。対してコンテンツマーケティングは、一時的なバズだけではなく中長期的な信頼関係の構築を目指します。欲望と上手に折り合いをつけながら、本当に必要な価値を届けていく。急がば回れの精神で、誠実に信頼を積み重ねていくことが、これからのマーケティングに求められているのかもしれません。
執筆・編集:Content Marketing Academy