ブランド価値を“正しく”伝えるためのコンテンツマーケティング活用法

  • ブランド価値を“正しく”伝えるためのコンテンツマーケティング活用法
  • コピー機メーカーとしてブランド認知度の高いゼロックス社。しかしコピー機以外のソリューションの認知度は低く、同社の課題になっていた。「ブランド価値の再定義」にいかにコンテンツマーケティングが活用されたのか、ゼロックス社の事例から学ぼう。

「企業(ブランド)自体は広く認知されているが、企業(ブランド)が提供する“価値”が正しく伝わっていない」――これは、多くの企業にとっても身に覚えのある課題なのではないだろうか?今回フォーカスするゼロックス社も、「コピー機メーカー」という印象を強く持たれている一方で、IT系の人材派遣事業、コールセンター事業、流通事業などがあまり知られていないという課題を抱えていた。

同社は「コピー機だけでなく、様々なソリューションを提供していることを市場に伝える」ために、コンテンツマーケティングを採用。その戦略として、提供するソリューションの種別ごとに、ターゲットのセグメントを細かく設定し、それぞれに充実した情報を届けることにしたという。

同社が目指したのは、短期的なリード獲得数の向上だけではない。業界の中で信頼される存在になるため、ターゲットとの関係性を深め、ブランドの価値を拡散させるというゴールを設定したのだ。では、どのようにコンテンツマーケティングを活用し、ゴールを達成したのか――?コンテンツを用いた「ブランド価値の再定義」について、具体的なノウハウと成功のポイントを分析したこの記事のエッセンスを紹介しよう。

ニッチなセグメント別にニーズに寄り添う13チャネルを同時展開

「企業(ブランド)がどういった価値を提供しているのか」を正しく伝えるには、企業の理念やビジョンを語るチャネルを試験的に1つだけ設け、メッセージを発信していくような取り組みが一般的だ。例えば、企業名でのブログを開設したり、企業の経営層が登場するような情報誌を発行するなどの方法が挙げられる。しかしゼロックス社は、「企業価値を理解させたいターゲット層」に注目し、商品ニーズ別に13ものチャネルを展開。ターゲットにあわせてテーマを絞り込んでいるため、より“深い”内容を発信できるコンテンツとなっている。

同社が展開している情報チャネルは、掲載メディアの観点から大きく3種類に分類される。以下にそれらを紹介しよう。

1.自社サイト内のコンテンツ

Xerox Blogs

ゼロックス社は、大企業向けソリューション、小規模ビジネスのヒント、メディア戦略、仕事効率化など、ニーズ別に9種の自社ドメインブログを展開している。たとえばXerox Blogsでは、業務の効率化や経営のノウハウなどのビジネス情報を発信している。

2.独自ドメインで発信するマイクロサイト

Healthbiz Decodedのトップページ

独自ドメインのマイクロサイトでも、特定の分野に絞った情報を発信している。たとえば、Healthbiz Decodedは、医療機関の経営者・医療事務スタッフ向けのデジタルマガジン。複雑に変化し続ける医療業界を理解するための興味深いコンテンツが充実している。業界における信頼と権威獲得に力を発揮している。

「Real Business」のトップページ

また「Real Business」では、顧客管理、医療福祉、人材、流通など幅広いジャンルにおけるコラムが充実。ビジネスパーソンにとって有益なヒントを生み出す記事がアーカイブされている。

3.ビジネスのプロとしての姿勢を伝える外部メディア上のコラム

ビジネスパーソン向けの外部メディアに、自社の意見を主張するコラムを連載。自社の商品やサービスと直接関係のない分野においても、企業としての考え方を表明することで、幅広いソリューションを視野に入れたビジネスのプロとしての地位を築くことを目的としている。

Forbesに掲載されているゼロックス社のコラム「Xerox Voice」。

これまで紹介してきた3つのチャネルで特に注目すべきは、的を絞ったニッチなコンテンツの発信に注力している点だ。それによって誰もが楽しめるコンテンツにはならないものの、その分特定のターゲット層には深く訴える内容になる。そうしてターゲットとの関係性を深めることで、ブランドの価値が伝わりやすい環境を整えようという考えだ。またそうしてエンゲージメントの高まったターゲットは、サイトのリピーターになることが期待できるため、検索エンジンからの流入を増やすためのSEMや外部プラットフォームでの広告展開などにコストをかけなくても、効率的に見込み客を集客することが可能だという。ページビューを稼ぎ流入増を重視する施策とは、対照的なやり方だ。

評価基準はPV数ではなく、「再訪率」。ファン創出により、深い情報を市場に浸透させる。

一般的なコンテンツマーケティングでは、ページビューを稼ぎ流入数を増やすことが重要だと言われてきたが、ゼロックス社は「ページビュー」ではなく、「再訪率」を評価基準としている。そしてこの再訪率を重視する方針は、自社で運営するマイクロサイトだけではなく、外部メディアにも及ぶ。

外部メディア「Forbes」におけるゼロックス社の寄稿コラムのページビュー数は、平均640PV程度。Forbesの編集者によると、この数字は「内容改善の必要がある」レベルであり、良い結果とは断言できない数値だそうだ。むしろ、記事型広告やタイアップなどをはじめとするネイティブ広告というスタイルにした方が、ページビューは大幅に伸ばせるはずだ。

なぜゼロックス社はページビューを上げることではなく、「再訪率」向上に注力するのか。同社のマーケティングチームが重要視しているのは、自社に対してポジティブな興味を持ち、濃密な接点を持つロイヤルユーザーの存在なのだ。ロイヤルユーザーは、自身のニーズを満たす最新のニュース・レポート・記事を読むために、サイトを何度も訪問してくれることになる。その結果特定の分野において、ターゲットとの関係が深まり、ゼロックス社自身がターゲットにとって「信頼できる情報源」となる。こうしてターゲットに与えていく影響が徐々に強まっていくことを狙っているのだ。

マイクロサイトで展開した“狭く深い”コンテンツが、メディアへ広がることも視野に

先に紹介したゼロックス社が手がけるマイクロサイト・Healthbiz Decodedについて、より詳しくみてみよう。このサイトは、医療機関の経営者や事務スタッフという絞り込んだ層をターゲットとし、ビジネスや業務効率化という視点からよりよい病院をつくっていくためのヒントを提供している。

実際に投稿されているのは、例えば「歯科医のEHR(電子健康情報)採用率はなぜ低いのか?」「“オバマケア”を考える~低所得者向け公的医療保険制度の基金崩壊」など、医療機関の業務マネジメントに関わる人間には強く響くコンテンツだ。逆にこれらのコンテンツは、同じ医療機関で働く人間であっても、医師や看護師という職種にとってはあまり心惹かれるコンテンツではないだろう。単純に医療関係者というセグメンテーションに幅広くリーチするのではなく、狙った“狭い”セグメントに対して“深い”コンテンツを届けることで、関係をより深めることを実現している好例だと言える。

記事「歯科医のEHR(電子健康情報)採用率はなぜ低いのか?」では、予算や歯科医向けの機器の不足によって、歯科医によるEHRの導入が進んでいない現状を伝えている

さらに、このサイトが達成した成果として特に注目したいのは、チャネルで発信した内容が、各種メディアで取り上げられたという点だ。このサイトの担当者は、自分たちが提供したコンテンツが外部メディアで取り上げられることを、成功かどうかを計る間接的な評価軸の一つとしている。なぜなら、メディアに取り上げられることで、いまだリーチできていない多くのターゲットが自社について認知する機会を増やせることはもちろん、発信したメッセージが市場でどう受け止められているのかを客観的に理解することも可能だからだ。さらに、そのカテゴリにおいて同社がプロフェッショナルであることを広くアピールする好機ともなる。

このことから、コンテンツマーケティングの成果を様々な評価軸で計測していることがわかる。彼らが日々重要視しているのは以下の項目だという。

  • サイトのアクセス解析
  • 発言力を持つ人やメディアに取り上げられる頻度
  • ビジネスのオピニオンリーダーとして意見を求められる頻度
  • 医療ビジネスのパートナーとしての需要の発生頻度
  • 医療ビジネスに対する企業姿勢への反響や認知度
  • 医療ビジネス分野で自社がいかに話題になっているのか

コンテンツが効果的にリーチするか、中長期的な時間軸で考える。これがゼロックス社の大方針

同社の戦略の特徴の一つに、外部メディアと自社メディア、SNSの両方に購読者を持ち、効率的にリーチするということが挙げられる。特にSNSでコンテンツを拡散させる際は、業界の中でも影響力のある人物をメインターゲットとして意識し、コンテンツ配置を考えているそうだ。その背景には、特殊な業種・業界においては、同じ業界内での “横のつながり”の強い場合が多いため、人と人とのつながりの中でコンテンツが拡散されていくことを狙えるという事情がある。

ゼロックス社のコンテンツマーケティングの方針は、目先のことだけを考えず、中長期的にコンテンツを捉えること。それは、「ターゲットが関心を持っているコンテンツとは?」という“中身”を精査するだけでなく、「何度も訪れてもらうためのコンテンツプランとは?」、「広く話題に上り、拡散されそうなコンテンツは?」という“影響力”をも同時に考えていくということなのだ。

今回ご紹介した事例では、コンテンツマーケティングにおけるベーシックなアプローチ「適切な人に、適切な情報を、適切な媒体で送り届ける」という手法が忠実に実践されていることがわかる。今回のゼロックス社のように、マイクロサイトなどを使って、細分化されたターゲット層ごとに情報を送り分ける発想を取り入れてみてはいかがだろうか。

執筆:隠岐由起子

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