【実践解析特集vol.3】「カスタマージャーニーマップ」に「CTA」「KPI」を設定する
前回は「カスタマージャーニーマップ」に「コンテンツマップ」を設定しました。今回は購買プロセスにおいて、ユーザーが次のプロセスに進んでくれたかどうかを計測するための設定を行います。「どうやって進んでもらうか」を定義するのがCTA(Call to Action)で、CTAを計測可能な指標にしたものがKPIです。KPIをこうした一連の工程の中で設定することで、後々、「KPIはこれでいいのか?」という議論が巻き起こる可能性は低くなります。
- 寄稿記事 本記事は、ウェブマーケティングの設計・効果測定コンサルティングサービスを提供する、and,a株式会社の取締役CAO中田吉彦氏による寄稿記事です
成果が出せる改善提案は、たいていの場合、“踏み込んだ提案”
第1回目からここまで読んでくださった方は、「ペルソナ設定から始まって、解析設定に至るまで」が長すぎて大変だと感じられたかもしれません。
ウェブ解析でできることは決まっているのだから、さっさと解析を始めたいと思った方もおられるでしょう。コンバージョン数(CV)やコンバージョン率(CVR)が好調であれば、それで問題ないかもしれません。
しかし、それらの指標が思わしくない時は、解析の重要度は高くなります。解析結果を見て、改善しなくてはならないからです。そもそもウェブ解析を行う目的の1つは、ウェブサイトや広告流入を改善して成果を出すことです。
成果が出せる改善提案というのは、たいていの場合、“踏み込んだ提案”です。
“踏み込んだ提案”とは、たとえば、「ターゲットユーザーはCVする直前に、こういうことで迷っているはずだから、こういうコンテンツを追加すべきた」という提案です。
こうした“踏み込んだ提案”を行うには、ウェブマーケティング担当者がユーザー目線で購買プロセスを追体験するというセンスを磨くことが不可欠です。
もしも、ペルソナもカスタマージャーニーマップも設定しないまま解析を始めていたら、“踏み込んだ提案”を出せるかどうかは、担当者の経験とひらめきに頼るしかありません。
第1回目から今回までご紹介してきた工程は、まさに、“踏み込んだ提案”をロジカルに出せるようにするために必要な工程なのです。
CTAとKPIを設定
前回は「カスタマージャーニーマップ」において、「コンテンツマップ」を設定する手順を説明しました。今回はその下に後述するコールトゥアクション(CTA)とKPIを設定します。今回の設定が完了すると、下記のような、マップが完成します。
CTAとは?KPIとは?
前回までが「カスタマージャーニーマップ」と「コンテンツマップ」の設定。今回がCTAとKPIの設定です。「混乱してきた」という方もおられると思います。そこで、それぞれの役割を以下に整理しておきます。
カスタマージャーニーマップ | 認知から購入、購入後にいたるそれぞれのプロセスにおける、ターゲットユーザー(ペルソナ)の「マインド」「行動」等を整理する。 |
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コンテンツマップ | カスタマージャーニーのそれぞれのプロセスにおいて、ターゲットユーザーに「どんな情報を」「どんな方法で」提供するべきかを整理する。 |
CTA(Call to Action) | 購買プロセスのそれぞれのプロセスにいるユーザーに次のプロセスに進んでもらうためのアクションを定義したもの。 |
KPI | CTAを計測可能な指標にしたもの。 |
今回設定するCTAとKPIの定義を、もう少し詳しく確認しておきましょう。
CTA(Call to Action)とは、お客様にとってもらいたい行動を呼びかけることです。たとえば、「メルマガを購読してもらう」「カタログPDFをダウンロードしてもらう」というような行動喚起を意味します。コンテンツマーケティングのカスタマージャーニーマップでいえば、次の段階へ進んでもらうためのアクションと捉えられます。CTAは購買プロセス間に設定され、現在の購買プロセスから次の購買プロセスに見込み客をスムーズに移動させる役割を担います。
(出所『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』(株式会社日本SPセンター (著)、エムディエヌコーポレーション、2015年)P46 筆者が一部改変)
KGI(重要目標達成指標)は「〇〇〇〇〇の月間売上30%アップ」といった最終的なビジネスゴールの達成指標です。一方でKPI(重要評価指標)は「PDFの月間ダウンロード数」など、KGI達成に向かって各プロセスが適切に実施されているかを評価するために設定される指標です。コンテンツマーケティングでは、見込み客がカスタマージャーニーマップ上を意図した通りに移動しているかどうかが重要ですから、基本的にはカスタマージャーニーマップのプロセス間に設定されるCTAを計測可能な指標にしたものがKPIとして設定されます。カスタマージャーニーマップの「認知」の前段階では広告などを出稿しない限りCTAを設定できない場合が多いので、この場合は「認知」の効果をなんらかの形で計測可能な指標にする必要があります。
(出所『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』P48 筆者が一部改変)
「CTA」と「KPI」の関係を図で表すと、下記のようになります。
実際のCTAとKPI設定方法例
コンテンツマーケティングのプロジェクトがスタートしてしばらく経った頃、「そもそもこのプロジェクトのKPIとは?」という議論が蒸し返されることがあります。
プロジェクトスタート時にKPIは決まっていたはずなのですが、正しい手順を踏まずに決めているので、後になって、「これで良かったのか?」となってしまうのです。
ここで言う「正しい手順」とは、「カスタマージャーニーマップ」の設定(第1回目で解説)と「コンテンツマップ」(第2回目で解説)の設定です。
ここからは、前回までに作った「カスタマージャーニーマップ」「コンテンツマップ」に対して、CTAとKPIをどう設定したらよいかを「購買プロセス」にそって見ていきます。「購買プロセス」とは、図3に あるように、「認知」から「購入」に至るプロセスのことです。
前回に続いて、Ptengineというヒートマップツールの「購買プロセス」を例に、CTAとKPIの設定を進めていきます。このPtengineというヒートマップツールは、ウェブサイトに導入すると、ユーザーが「どこまで読んだか」「どこを熟読したか」「どこをクリックしたか」が解析できます(図4)。
「認知」段階のCTAとKPI
前回「コンテンツマップ」を検討した際に、「認知」段階における「情報ニーズ」は
- 情報ニーズ:「ヒートマップツールはPtengine以外に何があるのか?」
と想定し、その「情報ニーズ」に対しては、
- コンテンツ:「目的別 ヒートマップツールの選び方」
をウェブサイトで発信しようと考えました。従って、CTAとKPIは下記のような設定が考えられます。
- (注1)CTR(クリックスルーレート):「導線のリンクがクリックされた回数」 ÷ 「導線が掲載されているウェブページが表示された回数(ページビュー数)」
- (注2)読了率:対象ページを閲覧したユーザーのうち、本文最後まで閲覧したユーザーの割合。これが高ければ、最後までしっかり読んだユーザーの割合が高いことになる。多くのヒートマップツールで計測可能だが、ヒートマップツールが導入できない場合でも、Google Analyticsの「Scroll Depth」というJQueryプラグインを導入することで、計測が可能になる。(『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』のP126-127に「Scroll Depth」の解説が掲載されている。)
導線のクリック数やCTRを計測するには通常Google Analyticsでイベントトラッキング設定を行いますが、敷居が高いという方もおられるでしょう。ユーザーは導線をクリックして次のページに遷移しますので、クリック数と遷移数はほぼ同じ指標です。2つのページ間の遷移数であれば、イベントトラッキング設定が無くてもデータを取ることが可能です。
たとえば、ユーザーがトップページから、特定のページにどれくらい遷移したのかを計測したいとします。Google Analyticsのレポ―ト画面の左サイドメニューで、「行動」→「サイトコンテンツ」→「すべてのページ」を選択すると、URL毎の指標が表示されます。ここで、図4にある「ナビゲーションサマリー」をクリックします。
「ナビゲーションサマリー」をクリックすると、図5にあるように、ユーザーが「次にどこに行ったか」を見ることができます。
これでページ間の遷移の状況が把握できますので、「ページAからページBにユーザーが何回遷移したか」が分かります。また、「導線が設置してあるページのPV数を分母として、遷移数を分子とし、遷移率を計算する」ことが可能です。
この遷移率はCTRとほぼ同じ数字になるはずです。イベントトラッキングの設定が難しくても、これならCTRを指標として活用することができます。
「情報収集」段階のCTAとKPI
前回コンテンツマップを検討した際に想定した「情報収集」段階の情報ニーズは、
- 情報ニーズ: 「ヒートマップツールはどうやって選んだらよいのだろう」
- 情報ニーズ:「ヒートマップツール導入に際しての社内からの質問にも回答しなくてはならない」
というものです。これらの「情報ニーズ」に対しては、
- コンテンツ:「導入後に後悔しないヒートマップツール選びチェックリスト」
- コンテンツ:「導入FAQ」
の2つのコンテンツをウェブサイトで発信しようと考えました。「導入FAQ」の内容が充実していれば、「導入に際しての社内からの質問にも回答しなくてはならない。」という「情報ニーズ」にも対応できるはずだからです。CTAとKPIは下記のような設定が考えられます。
「比較検討」段階のCTAとKPI
前回コンテンツマップを検討した際に、「比較検討」段階の情報ニーズは、
- 情報ニーズ:「ヒートマップを活用したサイト改善の事例集ってあるのかな?」
というものです。この「情報ニーズ」に対しては、
- コンテンツ:「導入企業インタビュー」
を考えました。「導入企業インタビュー」は全文をウェブサイトで公開するのではなく、第一段落のみウェブで公開し、全文はPDFで提供。そのPDFファイルのダウンロードにはメールアドレス等の入力が必要ということにして、見込み客獲得の手段とすることを考えました。
従って、CTAとKPIは下記のような設定が考えられます。
「購入」段階のCTAとKPI
前回コンテンツマップを検討した際に、「購入」段階の情報ニーズは、
- 情報ニーズ:「設定、操作は分かりやすいのかな?」
- 情報ニーズ:「サポートの対応スピードは速いのかな?」
というものです。これらの「情報ニーズ」に対しては、
- コンテンツ:動画「操作・設定ガイド」
- コンテンツ:「導入ユーザーの声」(サポートが充実していることが分かる内容)
が有効と考えました。CTAとKPIは下記のような設定が考えられます。「導入ユーザーの声」は、まず一覧ページがあって、そこからユーザーの声が1ユーザー1ページで詳細ページになっているという構成を想定しています。
- (注)YouTubeで公開した動画を自社のウェブサイトに埋め込んで公開する場合、下記のように、YouTube側で再生された回数と、自社のウェブサイト内で再生された回数を分けて計測することができる。(YouTubeユーザーが無料で利用できるYouTubeアナリティクスで計測可能。)
KPIを改善に生かすコツ 流入元を大きく分けて数値を計測
KPIが設定出来たら計測を開始し、それぞれの指標を見て改善策を練ることになるわけですが、各指標は流入元別に計測することをおすすめします。流入元別と言っても、全ての流入元別のデータを分けて解析することは現実的ではありません。手始めに、下記の一覧にあるように、流入元を大きく3種類に分けてデータを計測することをおすすめします。
流入元1 | まだサイトを訪問したことが無いユーザーに対して配信する、ブロード配信、オーディエンス配信広告からの流入。いわゆる「潜在層」向け広告。 |
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流入元2 | 一度サイトを訪問したユーザー向けに配信するリターゲティング、リマーケティング配信広告からの流入。いわゆる「顕在層」向け広告。 |
流入元3 | オーガニックサーチ(自然検索)。どちらかというと「顕在層」が多く含まれている場合が多い。 |
「流入元1」には「潜在層」が多く含まれており、このユーザーは購買プロセスの「認知」のところからジャーニーが始まる人たちです。
一方、「流入元2」には「顕在層」が多く含まれており、このユーザーは購買プロセスの「情報収集」からジャーニーが始まる人たちです。
この2つの流入元のユーザーは、それぞれ異なる行動を取ることが予想されるので、数値を分けて解析することをお勧めします。
そもそも「ペルソナ」は変えてもいいのか?時間が経ったらどうする?
今回は最後に、「ペルソナ」を作って、少し時間が経ってから」について書かせていただきます。
「ペルソナ」が変わるようなことがあれば、「カスタマージャーニーマップ」とそれに付随する設定も変わることになります。ここまで苦労して設定してきて、「ペルソナ」を変えるなんて大変だと思われるかもしれません。
しかし、ペルソナというのは、それを作った時点での“ウェブマーケティングチームのユーザー理解度”に左右されるものです。これから先、ユーザー理解が更に深まれば、ペルソナも見直さなくてはなりません。
知見があるのに、それがペルソナに反映されていないというのは、機会損失に繋がるからです。ユーザー理解が深まれば、作り直しが必要です。「ペルソナ」も「カスタマージャーニーマップ」も見直しが必要だという想定で、関連予算やスケジュールを考えておく必要があります。
次回は、BtoBの「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」について解説させていただきます。
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