消費者に主導権が移っていく時代の”Lovable”なコンテンツ制作の実践とその裏側

  • 消費者に主導権が移っていく時代の”Lovable”なコンテンツ制作の実践とその裏側
  • 2月25日に開催された「INBOUND MKTG 2013」。前回に続き、本記事では最終セッション、Panel discussion “Thinking Lovable Content and Marketing”『人を惹きつけ、愛されるためのマーケティングとは? そのためにマーケターが気をつけるべきクリエイティビティとは?』内容を中心にレポートする。

日本初となるインバウンドマーケティング・コンテンツマーケティングのカンファレンス「INBOUND MKTG 2013」。Panel discussion “Lead Nurturing Strategy and Tactics”『見込客育成のためのクリエイティブ、その手法と課題』に続く最後のセッションは、Panel discussion “Thinking Lovable Content and Marketing”『人を惹きつけ、愛されるためのマーケティングとは? そのためにマーケターが気をつけるべきクリエイティビティとは?』。

左から高広氏、水野氏、増田氏、河野氏

登壇者は水野学氏(good design company)、増田隆幸氏(株式会社インフォバーン)、河野武氏(コミュニケーション・デザイナー)の3人。今回は、顧客から愛されるマーケティング手法やコンテンツづくりについて語られた。そのエッセンスを盗みたい。

マーケティングそのものが顧客にとって“邪魔者”ではなく、“愛される活動”になるためには、一体どうすればいいのだろうか。インバウンドマーケティングの実践者でなくても、人々から支持され愛されるコンテンツづくりをしているプロたちから、潜在顧客や見込顧客へ対する作法を学び、マーケティングの現場に活かしたい。

「あなたが求めているもの、あなたのものですよ」ということを高い精度で伝える。

コンテンツづくりにおいて、「顧客の見たいものを見せることが第一」と話すのは、good design companyの水野学氏だ。2011年、台湾セブンイレブンのPB(プライベートブランド)『7-SELECT』のリブランディングを手がけたことが大きな話題となった。

緑色を主体としたありふれたデザインのパッケージから、PB感を除去して、中に入っている商品の”シズル感”を全面的に打ち出した。商品の“それらしさ”を大きな写真で見せて、美味しさや新鮮さを見る人にそのまま伝えている。パッケージデザインを一新した結果、ステーキ味のポテトチップスの売上が、以前の470%増になったという。

デザインが一新されたパッケージ

一般的にブランディングといえば、ブランド自体を押し出すイメージが強いが、商品を単体で強く打ち出したデザインは珍しい。「顧客はシズル感を見たいのであって、面白いものを見たいわけではない」と水野氏は話す。だからこそ、徹底してシズルを追求する。

たとえば食品のパッケージは、顧客の空腹感を満たすものでなくてはならない。パスタを食べたいときはどのような気分なのか?どのような背景のもとで食べたいと思うのか?顧客の立場になって考えてみることが大切だ、と水野氏。

顧客にウケるもの、引きのあるものがよいだろうという思いから、面白いものをつくりたがる人は少なくない。一方で、消費者は面白いものを求めてはいない。”その商品のことをより深く知ることのできる情報”を求めている。適切な情報を届け、いかに「あなたが求めているものですよ」「あなたのものですよ」ということを高い精度で伝えることができるかが重要になってくるという。

ユーザーには参加性、クライアントには共犯性を与え、巻き込む。

水野氏はコンテンツづくりにおいて、”ユーザーの参加性”も重要だと話す。

同氏は最近、その参加性をエッセンスに取り入れ、企業キャンペーンのコンテンツプロデュースを行った。NECカシオモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「MEDIAS U」の発売時に展開された、「MEDIAS PENTAGON|徳井義実解放作戦」だ。

五角形の部屋「MEDIA BOX」に囚われた徳井さんの脱出劇。部屋から脱出するためには各面に施された暗号付ロックをすべて解く必要があるが、頼れるものは1台のMEDIAS U端末と、そこからつながるフォロワーたちのみ。ユーザー参加型のドッキリ・コンテンツは、結果的に3800万人にリーチしたという。

本コンテンツの狙いについて水野氏は、「ブランドや製品の知名度を上げて、顧客に興味を持ってもらうための施策だった。“みんな一緒にやってみてね”というドッキリ仕掛けにすることにより、消費者は自らが広告に加担しているといったイヤなイメージを持つのではなく、”参加している”という満足感をおぼえる」という。

同じく登壇した株式会社インフォバーンの増田隆幸氏は、このことを”(顧客との)共犯関係”と表現するが、増田氏はクライアントまでもコンテンツ設計の現場に巻き込み、共犯にしてしまうという。

増田隆幸氏(株式会社インフォバーン)

例えば、「あまりヒットしなかったコンテンツも見せる」そうだ。正直に「これはウケなかった」と共有することで、読んでもらえるコンテンツの傾向、そうでないものの傾向をシェアし、一緒によりよいものへと修正していくことができるという。

スタッフ本人が顧客のように商品を愛することが出来れば、その愛情は伝わる。

企業にとってモノづくりのプロセスをコンテンツとして見せることも有効だと話すのは、コミュニケーション・デザイナーの河野武氏。同氏がサポートする、株式会社クラシコムの北欧雑貨店「北欧、暮らしの道具店(R)」を例に、その意義を説明してくれた。

河野武氏(コミュニケーション・デザイナー)

同店では2006年からブログを使ったコンテンツマーケティングに取り組んでいるが、その目的は顧客との関係を深めることにあった。ブログ開設初期こそ更新頻度は低かったが、2011年頃からは1日に複数の記事が更新されるようになり、最近では1日に5記事程度がアップされている。

ブログ記事の一例

アップされているのは、同店で販売する北欧雑貨をスタッフ独自の目線で紹介したり、社内の和気あいあいとした様子を紹介する記事など。河野氏は「顧客が読みたいことを書こうと意識すると上手くいかない」と話すも、「彼女たちは顧客のことをよく考えている。加えて、彼女たち自身も店のことが大好きで、自分の読みたいことを書いているが、それが結果的に顧客にとっても読みたいものになっている」という。

「このブログを“観察者”として外側から見ていると、スタッフ本人が顧客のようでもある」という。商品への愛を正直に、素直に、丁寧に記すことが、結果的に顧客にとって「authentic」なコンテンツづくりになっていることがわかる。

コンテンツへのクレーム、賞賛の声に個別で対応する。

コールセンターで働いていた経験もある河野氏は、企業が発信するコンテンツは製品に対する顧客からのフィードバックへの対応について「コミュニケーションは常に双方向であるべき、かつ常にパーソナライズされていくべきで、効率を否定するところから始まる」と話す。

これまで顧客からの不満や悩みはコールセンターに寄せられることがほとんどであった。しかし今では、ウェブやソーシャルメディアの普及により、「製品の使い方が分からない」「使えない」などのクレーム、逆に賞賛の声など、顧客はより自由に企業に関する意見を投稿するようになった。また企業側も、顧客の困っている声を検索して、直接コミュニケーションを図る「アクティブサポート」が可能になった。

河野氏はこのようにテクノロジーを活用することで、アフターケアやカスタマーサービスに注力する「最愛戦略」を提唱する。同氏曰く、「今は”最高(1番性能がよい)”または”最安”のものしか売れない時代。消費者がそれ以外のモノを選ぶのには”その会社が好きだから”といった理由しかない。最愛戦略は3つめの生き残り策となる」という。

具体的には、顧客へ話しかけるときは「馴れ馴れしくないよう、かつ余所余所しくならないようにする。また、この顧客には話しかけてもよいか、そもそも話しかけられることを望んでいるか、話しかけて不快に感じないかなどを、過去のツイートなどを見ながら判断する」「話しかける際、顔文字は使わないが、音符と星(白抜きの星のみ)は使ってもよい、といった決まりごとを設けている」という。このように、ある程度のルールや型をつくっっておくことで、現場の困惑を防ぐそうだ。

勇気を持って「下から+独自目線」で意見を発信する。

顧客側のウェブリテラシーも上がっている現状に対し、増田氏は「企業側は、自社で扱う製品やサービスのプロであるかも知れない。しかし、情報提供をする際にはどのようなスタンスをとるかは大きな課題となる」という。

インフォバーン社のグループ会社・メディアジーン社でブログメディアを運営する編集者たちは、きれいな”読者目線”という表現よりも”下から目線”を意識しているという。既に読者の方が詳しいこともあるからだ。

同社が運営する「ギズモード・ジャパン

ルーミー

これ以外に気をつけていることは、”下から目線”でありながら、”自分はこう思う”という独自の視点を提供した見せ方をすることだという。増田氏はこれを「さらけ出す覚悟」とも表現する。顧客と同じコミュニティの一員として、お互いをさらけ出し、一緒になって考えていく姿勢や顧客に参加意識を持たせるコンテンツを提供することで、この会社・製品が好きだと感じてもらうようになり、顧客は自然と歩み寄ってきてくれるそうだ。

本カンファレンスのClosing Noteに際し、株式会社マーケティングエンジン取締役・共同創業者/株式会社コムニコ代表取締役社長の林雅之氏が登壇した。

林雅之氏(株式会社マーケティングエンジン取締役・共同創業者/株式会社コムニコ代表取締役社長)

世の中には様々な「●●マーケティング」が存在している。●●にはツールやプラットフォームといった“手段”となるものが入ることが多かったが、「インバウンドマーケティング」は手段の話だけではない。それだけに懐が深いという。

「各セッションでは、ブログやメール、ソーシャルメディアなど、いろんな手段の話が登場したが、同氏はコンテンツづくりにおいて”lovableであるかどうか”が1番の条件となっていくだろう。これからは、消費者に主導権が移っていくことを理解した上でマーケティングをしていきたい。inboundyなlovableなマーケティングを進めて、素敵なマーケティング業界をつくっていきましょう」(林氏)と本会を締めくくった。

執筆:池田園子編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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