ニッチな顧客ニーズに応える、すぐれたコンテンツ設計の秘訣とは?
検索行動が一般化する中、医療機関も「待つ」だけでなく「選ばれる」ことを考える時代に…米国のFoster Web Marketing社サイトと同社が手掛けた事例をヒントに、医療業界における「ユーザー目線」のコンテンツ設計法を学ぶ。
病院は一般的な企業と異なり、マーケティング活動によってビジネスチャンスを拡大するという考え方はあまりない。治療やリハビリなど、ニーズを抱えたターゲット(=患者)がやってくるのを待つというのが従来のスタイルだった。しかし現在では、患者が医療機関について事前に情報を収集することはもちろん、自身が抱えている病状に関して自ら対処法を探すことができるようになった。そしてウェブサイトを持つ医療法人も増加している。
このような状況のなか「医療法人も“選ばれる”ためのウェブコンテンツが必要だ」と指摘するのが米Webマーケティング企業のFoster Web Marketing社である。
今回はこのFoster Web Marketing社の医療関係者や医師をターゲットとしたマイクロサイトと、そこで紹介されている具体的な制作事例について紹介しよう。
読み手をマーケティング初心者と想定し、Webマーケティングの必要性と手法を丁寧に語る
医療機関のWebマーケティング対策はまだ本格的に浸透していないため、経験豊富な専任者が担当しているとは考えにくい。想定されるのは医療スタッフが兼任しているケースだ。そのため、同社が医療関係者向けに提供しているマイクロサイトでは、マーケティングの基礎知識や用語説明などが充実。医療スタッフのようなマーケティング初心者にとってもわかりやすいコンテンツとなっている。潜在的顧客(=将来の患者)とつながることの必要性、よりよい患者を得るために考えるべきことなど、Webマーケティングの考え方を懇切丁寧に解説した啓蒙コンテンツだと言えるだろう。
中でも注目すべきコンテンツをいくつか紹介しよう。
まず紹介したいのが同社の企業理念とマーケティングの“いろは”を解説する「Our Marketing Philosophy」だ。
「Foster Web’s Marketing Philosophy revolves around three main concepts: Attract, Convert, Retain」
(http://www.fosterwebmarketing.com/practice_areas/attract--convert-and-retain-philosophy---online-marketing-plan.cfm)
“私たちがマーケティングで最も大切にしているのは、ターゲットの関心を惹くこと、コンバージョンを図ること、関係性を持続させることだ”
このコンテンツは、同社がマーケティングの原則として大切にしている姿勢を語ると同時に、マーケティング初心者に対して、その必要性や目指すべきゴールなどの「基本的な考え方」を教える内容となっている。
同ページでは、マーケティングを行うにあたって、まず“誰の”関心を惹きつけるべきなのか、つまり医師にとっての「perfect patient」を定義づけすることの重要性を丁寧に説明。ターゲットのペルソナを導き出すための11の質問事項を掲載し、担当者をやさしく“導く”構成になっている。
さらにサイト訪問者をコンバージョンさせるための施策として、まずは訪問者数を増やして自身の医療機関についてしっかり知ってもらうことの重要性を説いている。またその後の関係づくりにより再来院を促進することの重要性についても言及している。
また別のページでは、「SEO」や「Social Media」などのWebマーケティングを語る際に外せないキーワードについても説明している。それぞれの用語の意味やFoster Web Marketing社が実施できる施策などがわかりやすくまとめられているのだ。
なかでも注目すべきなのが「Content Writing」のページだ。有益な情報をコンテンツ化することで、来院を促すことができることなどを説明している。また同社のサービス内容として、ウェブコンテンツ・ブログ投稿・FAQ・プレスリリース・e-Book・動画・メルマガなどがあることも提示している。
さらにより深くWebマーケティングを理解してもらうために、サイト内にはe-Bookが用意されている。「Finally Get the Patients You Want with Social Media(ソーシャルメディアでいい患者と出会う方法)」という医師向けのe-Bookを紹介するページでは、Facebook、Twitter、LinkedIn、YouTube、Google+などのソーシャルメディアを活用することによるメリットの解説から、医療機関によるソーシャルメディアの活用方法まで、充実した内容が掲載されているとアナウンス。個人情報を入力するだけで無料ダウンロードすることができる。
利用者の声を動画とメッセージで紹介する「Success Stories」では、実際のFoster Web Marketing社の顧客から届いた喜びの声を、文章と動画で紹介している。実際の医療機関名や医師の顔などを掲載し、インタビューに答える映像をコンテンツとすることで、同社がいかに医療機関という専門性の高い業種に対応できるノウハウを蓄えているかを知ることができる。
また、診療時間外の時間をやりくりしてウェブ管理業務やマーケティング業務を担う多忙な担当者でも、関心を持った時にすぐにコンタクトをとれるように、問い合わせフォームの配置や情報設計にも工夫が施されている。どのページを開いても、ページ上部に問い合わせフォームが表示されている。入力項目も必要最低限になっているのだ。担当者に余計な手間と時間をかけさせない配慮がウェブデザインに活かされており、シンプルでありながら優れたリード獲得への動線が確保されている。
医師に特化したマイクロサイトを通して、Foster Web Marketing社は医療業界という特殊なビジネスモデルについてしっかり把握していることや、質の高いWebマーケティングを実践できる知識・経験・スタッフを備えていることを簡潔に訴求している。さらに、マーケティングに関する基礎的なノウハウを提供することで、ターゲットの意識を喚起し、見込み客の育成にもつなげている。どのページも「マーケティングの経験が少ない担当者」をメインターゲットと想定してコンテンツが構成されているため、非常にわかりやすく丁寧なものになっている。
次からは、このマイクロサイトでも紹介されている、同社が手掛けたコンテンツマーケティングの具体例を見てみよう。
潜在顧客の悩みに応えるコンテンツ設計、フットケアに特化した医療機関の事例
テキサス北部の足や足首に関する医療協会「Foot and Ankle Association of North Texas」(以下「FAANT」)は、様々な足のトラブルに対するケアを行う医療機関だ。「足のトラブルやケア」とひと口に言っても、症状や悩みは人それぞれ。個々の患者が抱える“ニッチな悩み”に応える多様なコンテンツが用意されている。注目すべきは、コンテンツの配置と動線だ。ユーザーがどのような目的を持ってサイトを訪れるのかをしっかりと想定し、それぞれが求めているコンテンツにたどり着きやすい配置と動線が実現されているのだ。
まず目に付くトップページの右上部分に3つの入り口が設けられている。
注目したいのは、“YOU ARE HERE BECAUSE:”と表示された右側のエリアだ。
- 足をけがした方
- アスリートの方
- 足に悩みがある方
- Topic(コンテンツとして取り上げるべき項目やユーザーニーズ)
- Call to Action(ユーザーにどんなアクションを起こしてもらうか)
通常であれば診療科目が記載されるべきエリアである。しかし、「トラブルを抱えてはいるものの、何科を受診したらいいのかわからない」という多くのユーザーが持つ課題を的確にとらえたナビゲーションとすることで、ユーザーニーズによりそっている。
各ページに入ると、さらに詳しい症状別インデックスが提示される。例えば、(3)「足に悩みがある方」をクリックした先のページを見てみると、糖尿病などの内科的症状、腫瘍などの外科的な悩み、動きや見た目の変調など、多岐にわたるコンテンツへの入り口が設けられているのだ。何かしらの不安や課題を抱えるユーザーにとって、わかりやすいナビゲーション設計のもと、幅広いコンテンツ群への入り口を見せることは、安心感や期待感につながるはずだ。
ユーザーニーズに寄り添ったもう一つの仕組みが、「Patient Form」だ。
身体的な悩みを抱えた患者にとって、病院で長時間待たされたり、書類への記入や症状説明を求められたりといった手間は、煩わしさを感じるものだろう。そういった煩わしさから解放してくれるのが、病院を訪れる前にあらかじめ情報を送信できる仕組み「Patient Form」である。事前に症状や悩み事を共有しておくことで、症状を一から説明する手間が省け、医療機関にとっては受診当日に質のよいケアを提供できるメリットが生まれる。ダウンロードタイプの問診票を事前に記入して持参することも可能だ。
Specialitiesのページでは、FAANTがどのようなトラブルに対応できるのかを詳しく説明している。「スポーツ医学」「糖尿病患者のフットケア」「子どもの足のトラブル」「手術」「外傷」「皮膚と爪のトラブル」「神経性の痛み」などの幅広いカテゴリーが用意され、具体的な症状別のコンテンツを探せるようになっている。
多くのコンテンツに共通しているのは、動画が多用されていることだ。医師が登場し、なぜその症状が起こるのか、日常生活で気を付けるべきポイントは何なのかをわかりやすく説明。それでも改善しない場合はぜひ相談してほしいと来院を促す構成となっている。医師が画面越しにユーザーに語りかけることで、親近感を抱かせたり、信頼感を持ってもらったりすることが可能となる。
医療スタッフ以外に、事務スタッフが発信する情報も充実。「Business Team/Business Office」のページでは保険適用や医療費控除などの支払いについての情報も提供している。
特殊なビジネスモデルやニーズを持ったユーザーに対するコンテンツ戦略で重要なのは、「ターゲットの知識レベルや行動パターンに見合ったコンテンツを用意すること」と「適切な“ネクストアクション”への動線を考えておくこと」――この2点だ。前段で紹介したFoster Web Marketing社のマイクロサイトにおいても、マーケティングを専門職としてない医師に向けた懇切丁寧な解説と、医療機関に特化した専門性の高い情報提供により、充実したコンテンツ構成を実現。さらに興味喚起、啓蒙、問い合わせへとつなげるスムーズな動線も注目に値する。また、医療機関でなくても、これらの事例から学ぶ事は多い。ターゲットの知識レベルやニーズ、そしてサイト訪問時の行動パターンをしっかりと想定し、次の行動へとスムーズに進めるようなコンテンツ設計を行いたいものだ。
執筆:隠岐由起子
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医療機関向けだったFoster Web Marketingのマイクロサイトは、現在リニューアルされて法律事務所向けに変更されている