技術者自身が作る!インテリジェンスのエンジニア向けコンテンツ戦略

  • 技術者自身が作る!インテリジェンスのエンジニア向けコンテンツ戦略
  • インテリジェンスが運営するエンジニア向けの転職サイト「DODA エンジニアIT」の記事コンテンツが好調だ。目玉連載「三年予測」は毎回多くのいいね・ツイートを連続して記録、さらに読者のブログ記事のネタになるなど、ネット上で大きな話題を呼んでいる。

DODA エンジニアITの目玉連載「三年予測」は、毎回数百のいいね・ツイートを記録し、ヤフー 楠正憲氏の回にいたっては1500いいねに到達した。

「エンジニアには広告が効きにくい」

インテリジェンスが運営するエンジニア向けの転職サイト「DODA エンジニアIT」の記事コンテンツが好調だ。目玉連載「三年予測」は、IT・ゲーム業界などで活躍する著名人へのインタビュー記事で、キャリア観などエンジニアへのメッセージを発信している。プロゲーマー 梅原大吾氏が出演した回は初回にも関わらず「410いいね・220ツイート以上」、第三回のUI研究者 増井俊之氏の回は740いいね・220ツイート以上、第五回のヤフー 楠正憲氏の回にいたっては1500いいね・200ツイートと、毎回非常に大きな反響を得ている。

同社がコンテンツマーケティングに取り組む最大の理由は、「エンジニアには広告が効きにくいから」(インテリジェンス 三石原士氏)。エンジニアはIT業界で働いているが故にインターネットに対する感度が高く、コンテンツが広告かそうでないかに敏感に反応しやすい。そして広告だと分かると、それを企業からの一方的なメッセージとして捉え、ときに避け、なかなかそこからサイトに流入してくれないそうだ。「実際、CPA(Cost Per Acquisition=顧客獲得一人あたりの単価)が高く、その傾向はますます強くなっている」という。

そうした特異な事情が背景にあり、エンジニアにとって有益な情報をソーシャルメディアで拡散し、エンジニアと日常的に接するコンテンツマーケティングという手法に行き着いた。競合にあたる転職サイトリクナビが「Tech総研」を、typeがコンテンツサイト「エンジニアtype」を、エンジャパンが「CAREER HACK」を立ち上げ、ソーシャルメディアで存在感を高めていたことに危機感を覚えたこともきっかけになったという。

DODAでは、ターゲットである転職希望者を「潜在層」と「顕在層」の2つに区別している。前者は、転職を検討していない、もしくは単純に業界に関する情報収集をしているひと。後者は、まさに仕事を探しているひとだ。このうち同社は前者=潜在層との接点があまり強くないということに課題を感じていた。転職を意識しないひとにも日常の中でサイトを知ってもらい、いざ転職活動をするときに思い出して、DODA エンジニアITを選び、サイトにアクセスをしてもらいたいと考えたのだ。

コンテンツを「届ける」ことに注力

DODAが考える、転職潜在層がコンテンツに触れてから顕在層に変化し、彼らがサイトを利用するようになるまでの行動ステップは以下の通り。

DODAが考える、ターゲット=エンジニアの行動ステップ

  1. コンテンツで転職潜在層にリーチしサイトに呼び込む
  2. ゆるいコンテンツを通じて会員登録につなげる
  3. 転職顕在層向けのマニュアル・ノウハウを提供する
  4. 求人情報の検索・応募へ

冒頭で紹介した連載「三年予測」は、1)に該当する。

著名人を通じてキャリア観などエンジニアへのメッセージを発信しているのには理由がある。それは、今という時代がエンジニアにとって非常にタフな時代だからだ。「IT業界のエンジニアは特に、リーマンショック前の大量採用で入社し、その後リストラに遭い、市場価値が下がってしまった。業界が変化するスピードはますます上がり、自分たちが持っている技術はすぐに陳腐化してしまう。そんな中で自分の中に軸というものを持つのは難しく、またそれを示してくれるロールモデルも近くにはいない。だから、これまで活躍してこられた方々から彼らに示唆を与えてほしいと思った」(三石氏)という。

連載の記事は毎回非常に大きく拡散されているが、「すべて狙っている。拡がるべくして、拡がっている」(同氏)。そのために行っていることの一つが、取材対象者の「コンテンツを届けるパワー」を緻密に見極めること。具体的な方法については企業秘密として明かしてもらえなかったが、一つ言えるのは「パワーをデータに基づいて分析している」ということだった。そしてもう一つが、サイト外、特にソーシャルメディアやキュレーションサイトなどコンテンツが拡散していくウェブ上の経路を把握し、コンテンツをチューニングすること。「取材対象者の方がいくら良いことを言ったとしても読まれなかったら、それはコンテンツの作り損。読まれないものは、存在しないのと一緒」と言い切る。コンテンツを作るだけでなく、「届ける」ことに注力していることが伺えた。

ちなみに、転職サイトのコンテンツというと、「拡散すると自分が転職希望者だと思われるので、ソーシャルメディアでシェアされにくいのではないか」と不安に感じるひともいるかもしれないが、結果が示す通りそのようなことはなかった。「そのことについては私も懸念していた。おそらく他社もそれを懸念して、転職サイトとは独立したコンテンンツサイトを運営している。しかし、本当にシェアしたいと思えるコンテンツなら関係なく拡散される。これはやってみないと分からなかったこと」(三石氏)だという。むしろ、転職サイトの中でコンテンツを発信してきたことが、登録増加など今後の成果によりつながる可能性もある。

Twitterで拡散するときの文言には「IT・Web業界の転職ならDODAエンジニア IT」の文字が。読者がシェアするのを躊躇うことが懸念されたが、意外にもそのようなことはなかった。

こうして広げた転職潜在層に対し、2)に該当する企業への合格可能性を測る「ITエンジニアクリエイター合格診断」や「年収査定サービス」などの体験型コンテンツを提供し、会員登録を促す。そして、3)に該当する「転職成功事例」やキャリアコンサルタントによる「転職力アップ法」の解説といったコラムコンテンツを提供し、ユーザーのターゲットの行動ステップを深化させているのだ。

技術に明るい「テクニカルライター」を育成するという選択

取材対象者の選定や、コンテンツの届け方だけでなく、コンテンツの中身=メッセージにもこだわっている。ライター陣は技術にも明るいテクニカルライターを採用し、コンテンツサイト全体の運用にはエンジニアのアドバイザーを起用。また、完成した原稿はマーケティング部内のエンジニアにチェックしてもらい、エンジニアがエンジニアが知人にも紹介したいと思えるようになるまで記事の推敲を続ける。さらに、サイトの責任者として文系出身の三石氏自身もエンジニアの視点や彼らの言葉を理解し、コンテンツの中で使えるようになるために、社内外の勉強会や研修プログラムに参加、プログラミングにも挑戦もし、自分で手を動かしてみたりもしたという。

「DODA エンジニアITでは、エンジニアにより近いひとを集めたチームの布陣に非常にこだわっています。たしかに、技術には明るいが、エンジニアのキャリアに詳しくないライターの場合、初めはインタビューで伝えたいメッセージを深掘りしきれないときがありました。しかし、コンテンツ制作の回数を重ね、意図をよく理解しあい、チームとして成長していきました。人材業界が長く、キャリアに詳しいライターはどうしても技術に詳しくなく、インタビューで深堀りできません。一方で、技術に明るいだけでも、キャリアにおけるツボを抑えたインタビューや記事になりません。このトレードオフを解決することに力を入れました」(三石氏)

「三年予測」とは別に、企業で活躍するエンジニアに学ぶ連載「ギークアカデミー」も設けている。これは、三年予測で著名人が語るだけでは浮世離れに感じてしまう読者のために、より身近なエンジニアにキャリア観を語ってもらうためである。

「三年予測」の1記事あたりの掲載月における平均PVは、当初と比較して30〜40倍にまで増加。そのうち、ソーシャルメディアからの流入が全体の85%だという。さらに通年で見れば、SEOの役割も果たす。当初の目的である、ソーシャルメディアでコンテンツを拡散させることにより、サイトの認知度を高めることには、十分貢献しているのではないかと思われる。今後の課題は、ステップ1)で集めたターゲットに、2)以降の行動ステップを促すこと。そのために、「コンテンツの質を、エンジニア目線でもっともっと高めていきたい」(三石氏)という。

「DODA エンジニアIT」への取材を通じて私たちがとくに注目したのは、丁寧に練り込んだコンテンツの開発過程だ。「コンテンツSEO」といったキーワードが注目を集める最近では「まず、大量のコンテンツを投下する」という方針を想像させるようなコンテンツマーケティングサイトをよく見かける。しかし「三年予測」では、事前の検討期間を長く持ち、ありとあらゆる角度からコンテンツが対象となるエンジニアに刺さるかどうかを検討している。大量のコンテンツでなくても、狙いを明確にし研ぎ澄ましてさえいれば一定の成果を得ることができるということを示した事例といえるだろう。

このような戦略を実現するためにも、技術に明るいライター育成への注力や、運用にエンジニアのアドバイザー起用、社内エンジニアのチェックをフローに組み込むなど「コンテンツ開発のためのマネジメント」にも注力している点は見逃せないポイントだ。対象となる読み手に正しく情報を届けるためにも発信者側の知識を重視するこの姿勢は、コンテンツマーケティングで成果を出すにあたり多くの示唆に富んでいるといえるだろう。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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