JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(6)Job Storyを活用する

  • JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(6)Job Storyを活用する
  • 書籍「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授。彼が近年提唱しているJob-To-Be-Done(顧客が片づけるべき用事に着目する)セオリーは、コンテンツマーケティングにも応用可能だ。今回はJTBDの考え方から発展したツールであるJob Storyについて紹介しよう。

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前回は、JTBDの代表的なツールである「顧客を取り巻く4つの力」をコンテンツマーケティングに利用する方法を紹介した。今回はJTBDの考え方を応用したツールであるJob Storyを紹介する。Job Storyをコンテンツマーケティングに応用すると、適切なコンテンツを発見しやすくなるというメリットがある。

Job Storyとは何か?

Job Storyとは、ビジネスコンサルタントでありJTBDに関する書籍も執筆しているAlan Klement氏が開発したメソッドだ。Alan氏は、アジャイル開発やUXで利用されているUser Storyというメソッドの良さは理解しつつも、同時にUser Storyが内包する曖昧さに問題を感じていた。そこでJTBDの視点を取り入れることでUser Storyが持つ曖昧さを改善し、より使えるツールに発展させることに成功したという。(Alan氏が提唱するUser Storyについてより深く知りたい方は、Alan氏による解説”Replacing The User Story with The Job Story”をご一読いただきたい。)

まずJob Storyを理解するために、その原型となったUser Storyについて見てみよう。User Storyとは、ユーザーが実現したいことを簡潔にまとめた文章であり、以下の3つの要素で構成される。

  1. As a ___(~として)
  2. I want to ___(~がしたい)
  3. so that____(だから~する)

上記の要素でシンプルな文章を作成しておくことで、ソフトウェア開発時に必要な機能を定義したり、必用な機能の優先順位を決めたり、あるいは関係者間でベクトル合わせを行うことなどに利用できる。User Storyは非常に役立つツールではあるのだが、Alan氏は3つの要素の因果関係の希薄さに不満を持っていたという。

そこで目をつけたのが因果関係を重視するJTBDの考え方だ。JTBDが顧客の属性よりも顧客が置かれた状況や片付けるべき用事を重視する点をUser Storyに取り入れた。Alan氏が提唱するJob Storyは以下の3つの要素をまとめた文章になる。

  1. When ___(~な時に)
  2. I want to ___(~がしたい)
  3. so I can ___(だから~する)

User Storyは「誰に」という対象となるユーザーに視点を置いているのに対して、Job Storyは「どんな時に」という状況に視点を合わせている。両者の違いはそれほど大きくないように見えるが、実際に文章化してみるとその違いが鮮明になる。

例えば下記のようなUser Storyがあったとしよう。

  1. ビジネスマンとして
  2. 仲間とランチを食べたい
  3. だから宅配ピザを注文する。

このUser Storyにおいて、3番目の要素は、1番目と2番目の要素との因果関係が弱い。例えば宅配ピザではなく、フランス料理のランチコースであってはいけない理由は特に見いだせない。User Storyは便利なツールではあるのだが、人によって解釈が異なったり、想像できる範囲が広すぎたりするという弱点がある。(もちろん、それを理解して使う分には何の問題もないのは言うまでもない。)

一方、同じような状況をJob Storyで記述すると以下のようになる。

  1. お昼時になってもブレストが続いている。お腹が空いてきたが会議は継続したい
  2. 仲間とランチを食べたい
  3. だからデリバリーしてもらえるし、片手で食べることができる宅配ピザを注文する。

少し極端な例ではあるが、比べてみると、User StoryとJob Storyにおける因果関係の強弱の違いが見えてくる。User Storyでは、1番目と2番目で構成された前提条件と、3番目の行動の因果関係が弱い。一方、Job Storyでは、1番目と2番目で構成した前提条件と、3番目の行動の因果関係が強くなっている。試しにUser Storyの時と同様に、3番目の要素としてフランス料理のランチコースを入れてみると、Job Storyの場合は違和感が生じるだろう。状況という視点を入れることで、因果関係が明確になり、曖昧さの許容度が小さくなったためだ。

Job Storyを適切なコンテンツを発見するために利用する

さて、Job Storyの概要が見えてきたところで、これをコンテンツマーケティングに応用してみよう。

Job Storyは、見込客がカスタマージャーニーマップ上を移動する際に、どのようなコンテンツを必要としているかを把握するのに使える。しかも、ペルソナ設定やカスタマージャーニーマップだけからコンテンツを発想する手法に比べて、より適切なコンテンツを発想しやすくなるというメリットがある。

例えば、趣味の家庭菜園で使うための耕耘機を探しているサラリーマンが、電動式が良いのか、ガソリン式が良いのか悩んでいるシーンを想定してみよう。この状況下におけるJob Storyは下記のようになるだろう。

  1. 家庭用耕耘機に様々な駆動方式があり、どれが自分に適しているのかよくわからないので
  2. それぞれのメリット、デメリットが知りたい
  3. だから、「耕耘機 電動 ガソリン 違い」で検索してみた。

ここまで書き出すと、「畑の広さや使用頻度別で電動式とガソリン式の違いを説明した、耕耘機の選び方」というコンテンツを発想することができる。もしペルソナ設定やカスタマージャーニーマップだけで発想した場合、比較検討段階で必用なコンテンツとして、単に「耕耘機の選び方」という漠然としたコンテンツしか発想できなかったかもしれない。

上記の例は、耕耘機購入のカスタマージャーニーにおける比較検討段階の例であるが、同様の手法で、カスタマージャーニーのそれぞれの段階でJob Storyを展開すれば、各段階において、見込客にとって適切なコンテンツを見つけやすくなる。

Job Storyを使って必要なコンテンツを発想すると、もう一つメリットがある。Job Storyは状況に視点を合わせているため、同じ状況下に置かれた別のペルソナでも同じコンテンツが使えることに気づきやすくなるのである。耕耘機の例でいうと、電動式が良いのかガソリン式が良いのか悩んでいる主婦がいた場合、言い回しなどの表現については調整が必用な場合もあるが、前述のサラリーマン用のコンテンツがそのまま使えることに気づきやすくなるのだ。ペルソナ別ではなくJTBDによるコンテンツ分類が可能になるわけだ。

コンテンツマーケティングにおいては、ペルソナ別に個別に考えたために、結果的によく似たコンテンツを数多く作っていたということが発生しやすい。Job Storyを利用してコンテンツの重複を少なくすることは運営上重要であり、効率化につながる。効率化が実現できれば、コンテンツマーケティングにとって重要な、コンテンツの質に注力することができるようにもなるだろう。

前回、今回とJTBD関連の役立つツールを紹介してきたが、これらのツールを生かすも殺すも、全てはその前段階のインタビューが鍵となる。次回は、JTBDの基本となるインタビュー技術について紹介する予定だ。

執筆:渡辺一男(日本SPセンター)

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