今年で5年目を迎えたContent Marketing World 2015。この記念すべき5周年のイベントは、世界50カ国から3500人以上が集まり開催された。今年も初日最初のキーノートプレゼンテーションには、このイベントを主催するコンテンツマーケティングのゴッドファーザーJoe Pulizzi氏が登場。節目の5年目のキーノートにて、何故オハイオ州クリーブランドで開催し続けるのかについて語り始めた。
イベントが開催されたオハイオ州クリーブランドは、1960年代まで鉄鋼・自動車産業で栄えていた街であった。
ある産業が栄えると、その産業の業界情報へのニーズが高まり、その業界に関する情報誌が発行され販売されることが多い。当時のクリーブランドは、鉄鋼・自動車産業が栄えていたにも関わらず、これらの業界の情報誌を出版する企業は多くなかった。そんな背景もあり、クリーブランドが栄えるにつれてBtoBの出版社がどんどん集まってきたという。その会社のひとつに、後にJoe Pulizzi氏が働くことになるPenton社もあった。
2000年にJoe Pulizzi氏はPenton社に入社することになった。この頃はコンテンツマーケティングが指し示すものは、他の名前で既にいろいろと存在していた。そんな中でJoe Pulizzi氏はコンテンツマーケティングという名前を使うようになったという。そしてその後Joe Pulizzi氏は2007年にCONTENT MARKETING INSTITUTE(CMI)をこのクリーブランドに設立するに至る。
その後のコンテンツマーケティングの成長については言わずもがなではあるが、Joe Pulizzi氏はGoogleトレンドにおけるコンテンツマーケティングの検索ボリュームの推移の伸びを示しながら、関心の高まりを示した。
ところで「コンテンツマーケティングは死んだ」とか「コンテンツマーケティングは存在しない」という記事があるように、「コンテンツマーケティングはもう終わりではないか」という議論が一部にある、という認識も示した。
しかしながら、Joe Pulizzi氏はこのコンテンツマーケティングに対する盛り上がりと、それに対する批判が現れている現状に対して、ハイプ・サイクルの考え方を用いながら「『今』というのは盛り上がりから幻滅が生じ始めている時期であり、この時期というのは成功と失敗を知ることが出来るとても良い時期なのだ。ここでもがくことで、これからの本物の成長に繋がるのだ」、と語った。
続いてJoe Pulizzi氏は、毎年のContent Marketing Worldのキーノート恒例の、コンテンツマーケティングに関する調査データを発表。「コンテンツマーケティング実施による効果を感じているのは全体の30%」「戦略などのドキュメント化が徹底されていない」と、基本的にトピックは昨年までのものとさほど変わらないという(詳細版については近日PDFにてダウンロードできる予定)。「戦略のドキュメント化を徹底できるか否か、が今後のコンテンツマーケティングの行く末を示す」とJoe Pulizzi氏は語り、プレゼンテーションは終了した。
続いて登場したのは、もともとコピーライターで、2012年に書籍”Content Strategy for the Web”を出版したBrain Traffic社社長のKristina Halvorson氏。
Kristina Halvorson氏はあるペーパータオルの会社の事例を引き合いに出しながら、現状のコンテンツマーケティングについて次のように語った。「何故コンテンツマーケティングを実施するのかを考えずに、『良さそうだからやろう』と言う人が多い。実施する必要があるのか、を考えることが重要だ」。
そのペーパータオルを販売する会社には、Webサイトのエンゲージメント低下という問題があったという。エージェンシーからは、DisneyやGEやMicrosoftやRed Bullのように「大きくコンテンツマーケティングを展開しましょう!」という提案を受けたが、その場に居合わせたKristina Halvorson氏は「コンテンツにお金をかけるよりもペーパータオルの質が良いのだからサンプルを配りましょう」と提案したという。何故コンテンツマーケティングを実施するべきなのかを考えた結果、「しない」という選択肢を提案したわけだ。
このような経験があってから、Kristina Halvorson氏は戦略について深く考えるようになった。「戦略はビジョンと違ってゴールを設定しなくてはならない。そしてゴールというものも、収益が上がることと、お客様の満足度の向上が一緒に満たされないといけない」、と語る。
最後にKristina Halvorson氏は、ゴールを設定したあとの展開策として、自身が社長を務めるBraintraffic社が提唱するコンテンツストラテジーの図を示しながら、最も重要なコアストラテジーについて説明した。
このコアストラテジーは、3つの要素で構成される。
キーノートプレゼンテーションの3人目として登場したのは、Marriott International社のDavid Beebe氏。
彼が立ち上げたMarriott Content Studioでは、「まさにコンテンツマーケティング!」というべき以下3つの方針に基づいてMarriottグループのコンテンツを制作しているという。
その後、David Beebe氏は創業者の逸話を紹介しながら、Marriott社では古くから実践していたというコンテンツマーケティングについて語った。Marriott社の創業者であるジョンとその妻のアリスは1927年ワシントンDCにてHot Shoppesという9席しかない小さな飲食店を始めた。そしてなんとこの当時から「Hot Shoppes magazine」という雑誌をつくり店内に置いていたという。
これは「人にフォーカスする」という創業者のビジネスの考えを形にしたものであった。つまりこの当時からコンテンツマーケティング的なことを実践していたのだ。
そしてその流れを受けて今Marriott Content Studioは旅行者のカスタマージャーニーを描き、そのカスタマージャーニー上のどのポイントでも接触できることをコンセプトにコンテンツを開発しているという。
最後に段上に立ったのはContent Marketing Worldのキーノートスピーカーの常連、著書”The NOW Revolution”でも有名なJay Baer氏だ。
Jay Baer氏は、最近のコンテンツマーケティング業界について感じていることが2点あるという。一つは、急にコンテンツマーケティングが増えてきたという点。そしてもう一つが、何でもかんでもコンテンツマーケティング、という風潮から、もうこれ以上コンテンツマーケターは要らないのではないか、という点だ。
増えすぎることで何が起きるか。コンテンツマーケティングに取り組んでいる企業が増えることでコンテンツの競争が生じてコモデティ化が起き、似たような施策ばかりになってしまうのではないか。
結局のところ、コンテンツに差を生み出す力とはパッションである。パッションは真似することはできない。それぞれに固有のものなので、差が生まれる。そしてこのパッションをチェックするのが、”Mom Test”であるという。
母(Mom)というのは無条件で子供を愛している。でも本当のことをいうことを恐れない人である。そういう母の気持ちになって、母の視点でコンテンツを見ることでコンテンツにパッションが宿っているか、つまり差別化されたコンテンツであるかどうか判断できるのだ。