前回に引き続き、本記事では、イギリス ロンドンで開催されたユーザーエクスペリエンスをテーマにしたイベント「Usability Week London」にて開催されたワークショップの模様をレポートする。
第二回目の今回は、ワークショップ「Content Strategy 1&2」の中で紹介された、企業がコンテンツストラテジーを実践する手順や、コピーライティングの技術をお伝えしたい。
講師であるイギリスの広告代理店Sticky Contentの創業者兼CEO、Catherine Toole氏は、企業がコンテンツストラテジーを実践する前に、あらためて確認しておくべきポイントについて語った。
1.なぜコンテンツストラテジーに取り組むのか?
企業が取り組む目的や、そのゴールが明確になっているか。
2.誰をターゲットとしているのか?
企業がターゲットとする人はどのような人物で、どのようなニーズを持っているか。またその人に、どのような行動や感情の変化を起こしてほしいか。つまり、どのようなマーケティングの成果に結びついてほしいか。
3.Content Strategyを阻む「欲望」と「脅威」は?
欲望とは、「新しい技術を使いたい」「競合企業よりも強力なアプリがほしい」など、魅力はあるが戦略に欠け、本来の取り組みからよそ見をさせられそうになるものを指す。また、脅威とは、予算、期限、マネジメント層からのプレッシャー、部門間でのコミュニケーション不足など、プロジェクトを脅かすものを指す。こうした懸念事項を、展開する前に洗い出し、どのようなリスク軽減ができるかを考えておこう。
4.プライオリティ(優先順位)は?
メインとなるターゲットはだれか。つまり、ターゲットに優先順位は付いているか。メッセージやコンテンツにも優先順位をつけているか。
5.どのプラットフォームで展開するか?
どのような形でコンテンツを人に届けるべきか。そのコンテンツに触れて、ターゲットはどのように反応するか。想定するプラットフォームで展開することで、新しいオーディエンス層にリーチすることはできるか。
6.リリースされたコンテンツは、どのようにシェアされ、広まっていくか?
コンテンツにソーシャルを通して広まっていくバイラル性が備わっているか。また、ユーザー間ではどのようなやりとりが想定されるか。拡散していくコンテンツを企業としてどこまで管理するのか。
7.リリース後のPDCAは?
実践された内容が戦略に沿っているかを誰が確認するのか。また、どのように効果を測定するのか。コンテンツストラテジーは作って終わりではない。長期的な取り組みを評価する舵取り、KPI、ツールを明確にしておきたい。
先述の確認事項をクリアにすることができれば、いよいよ実践。その具体的な手順をご紹介する。
1.ビジネスゴール・目的・ユーザープロファイルを明確にする
ユーザープロファイルとは、ペルソナを設定し、ターゲットセグメントを精緻化することを指す。
過去の記事でも紹介してきたように、コンテンツを企画する上では具体的なターゲット像を描き出すことが望ましいが、商材によってそれが難しいようであれば、以下の手法も効果的だ。
その上で、顧客にとってのRelevancy(自分ゴト)は何かを検討することが重要だ。顧客が企業の商品や取り組みに関心を持つのは、「自分ゴト」として認識するからである。
最後に、そのコンテンツがユーザーの目的、そして企業の目的に適っているかを確認する。
2.ステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを行う
コンテンツストラテジーを担当していなくても、結果として利害関係者となる社内の人に意見を聞いておくこと。彼らがどのような課題とゴールを抱えているのか、また彼らにとって「良いコンテンツ」とは何か、意見をもらおう。特に、コンテンツ制作者、専門家、顧客と直接やりとりをする営業やCS部門などと話すことが重要だ。
その際、各ステークホルダーにとってメリットを伝え、お互いがwin-winになるゴールを共有しておくべきだ。
また、実践に移した後はできる限りステークホルダーをコントロールし、必要以上の介入を避けられるよう、あらかじめ関与する人間を定めておこう。
3.アイデア出しと編集
コンテンツを企画、制作そして編集する際には、以下の「TACTIC」指標を基に各コンテンツを評価していくと良いだろう。
こうして、アイデア出しで生まれた「コンテンツの種」を整理しながらさらに膨らませ、「Editorial calendar」で管理することで全体的な戦略を立てていこう。「Editorial calendar」とは、コンテンツの目的、配信先などを時系列で管理するツールのことだ。
例えば、縦軸を時系列、横軸を購買プロセスのどの時点に対応するかのマッピング、さらに、どのようなペルソナに向けたものか(もしくは全員に共通しているものか)、シーズナルなものか、長期的なものかを、ツール内で色分けすることで明確にする。
4.フォーマットとサンプルを作る
コンテンツのフォーマットを作ることで、顧客にとっての読みやすさ・見やすさを担保し、企業が提供するコンテンツとしての品質を管理できる。フォーマットの具体的な活用方法を見せるために、サンプルを添えておくとなお良いだろう。これについては、第3回のレポートで詳しく紹介しよう。
5.ガイドラインを用意する
コンテンツのトーンや、姿勢などを明文化し、誰が書いても同じブランドボイスを演出できるようにする。
6.効果測定を行う
コンテンツの更新を繰り返した上で、その効果を測定し、レビューを行う。
7.定性的にコンテンツを評価する
定量的だけではなく、定性的にも良いコンテンツなのかを評価する。つまり、コンテンツの数や種類、各コンテンツが稼いでいるPVや滞留時間などの数値だけではなく、コンテンツが語るメッセージがターゲットに伝わり、彼らをちゃんとゴールへ導いているかをユーザー目線で評価するということだ。
6と7を両方用いてコンテンツの棚卸を定期的に行うことで、以下のような結果につながる。
コンテンツストラテジーの中でも、その効果を大きく左右するのがコピー。ワークショップでは、執筆に関する7つの心得が紹介された。
1.Well planned (content strategy)
企業が達成したいこと、顧客が達成したいこと、双方に適ったコピーにする。
2.Easy to navigate
サイトのナビゲーションや、パンフレットの目次などは、顧客にとってコンテンツへの道しるべ。だからこそ、読み手にとって分かりやすい言葉を使っているか確認したい。ユーザーの知識レベルや、ウェブリテラシーなどにも考慮しておくとなお良いだろう。
3.Readable (on its intended platform)
パソコンのディスプレイ、スマートフォンなど、様々な端末で閲覧したときにどの端末でも、読みやすいコピーになっていることが望ましい。よって、コピーを書く上では、内容だけでなく長さや量にも注意しよう。
4.In everyday English (plain language)
専門用語を避ける。社内と世間一般とで認知度が異なる商品名やカテゴリ名は要注意。
5.Findable (optimized)
検索ワードに適したコンテンツを制作し、検索で見つけてもらいやすくする。近年では、検索時のワード数増加に伴い、より具体的なニーズを持って検索する人が増えている。このことから、顧客のニッチなニーズに応えることがより重要視されている。誤字脱字チェックと併せて、Googleが公開するPanda checklistと呼ばれるチェックリストの確認も欠かせない。
6.In your brand tone of voice
ブランドを象徴するトーンであると同時に、読みやすく、顧客が抱いているイメージと一致している必要がある。
7.Credible
説得力があり、ユーザーの信頼を勝ち取れる表現になっているか。
今回はコンテンツストラテジーの具体的な手法やフローを紹介したが、最終回となる次回は、質の高いコンテンツ制作の技術を紹介する。
執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo)