コンテンツマーケティングの先進国である米国では、コンテンツマーケティングの現状を把握するための大規模な調査が10年以上も前から毎年実施されており、その調査結果は業界内で広く活用されています。日本国内でも同様の調査ができないか、ということで、昨年開催の「CONTENT MARKETING DAY 2021」の特別企画として実施した結果、50問以上の設問に関わらず、B2Bでは131名、B2Cでは154名のマーケティング担当者の方からご回答をいただきました。
次章より、得られた示唆をいくつかご紹介させていただきます。
なお、今回の調査の実施にあたって、株式会社はてな様、オウンドメディア勉強会様、株式会社JADE様に多大なるご協力をいただきました。この場を借りて、感謝申し上げます。
本調査の結果、コンテンツマーケティングに関するどのような取り組みがビジネス成果につながるのか、が明らかになりました。具体的には以下の3つです。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
顧客ペルソナやカスタマージャーニーマップの策定といった、コンテンツマーケティングの戦略策定とその書面化は、コンテンツマーケティングでも特に重要なプロセスとされています。
コンテンツマーケティングの書面としての戦略設計図について「作成して活用している」と回答したグループの多くが、「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」と答えました。
B2B企業の場合:
「コンテンツマーケティングの書面としての戦略設計図を作成して活用していますか?」に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答したグループの、68.9%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
B2C企業の場合:
「コンテンツマーケティングの書面としての戦略設計図を持っているか?」に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答したグループの、77.5%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
コンテンツがどのくらいビジネスに貢献しているのかを示すKPIが、コンテンツの成果指標です。その中身は、ビジネス目標やコンテンツの役割により様々ですが、主に流入率・誘導率・読了率・登録率などが用いられます。
コンテンツの成果を計測するための指標を「設定している」と回答したグループの過半数が、「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」と答えました。
B2B企業の場合:
「コンテンツの成果を計測するための指標を設定してますか?」に「非常にあてはまる/ある程度あてはまる」と回答したグループの68.6%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
B2C企業の場合:
「コンテンツの成果を計測するための指標を設定してますか?」に「はい」と回答したグループの、63.2%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
コンテンツマーケティングでは、コンテンツは作りっぱなしではなく、顧客の声やデータ分析をもとにした、日々の改善が重要だとされています。そのために、明確な運用指針とマニュアルは必須の取り組みです。
今回の調査では、この重要性が裏付けられる結果となりました。運用指針・マニュアルを「作成している」と回答したグループの半数以上が、「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」と答えました。
B2B企業の場合:
「メディア運営や施策実施の品質を平準化するために、組織内で、運営指針やマニュアルなどを作成していますか?」に「作成している」と回答したグループの、57.2%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
B2C企業の場合:
「メディア運営や施策実施の品質を平準化するために、組織内で、運営指針やマニュアルなどを作成していますか?」に「作成している」と回答したグループの、63.6%が「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」という質問に「非常にあてはまる」または「ある程度あてはまる」と回答しました。
本調査では、コンテンツマーケティングを計画・実行する現場の状況についても詳しく質問しています。そこから見えてきたのは、限られたリソースで成果を追求する現場の姿でした。
「チームに、専任のメンバーは何名いますか?」との質問に対して、B2Bでは27.0%、B2Cでは38.9%が「0名」と回答しました。約3分の1の企業が、専任の担当者がおらず、兼任で担当していることがわかりました。
コンテンツマーケティングはすぐに成果がでるものではなく、およそ18ヵ月※は必要と言われています。本調査では、そこからさらに一歩踏み込んで、コンテンツマーケティングのメッセージを発信するプラットフォームの運営期間と、ビジネス成果の関係性を調べました。
※ Content Marketing Instituteの創始者、Joe Pulizzi氏は、顧客との良好な関係性を築き、ビジネス成果につなげるために、最低でも18ヵ月以上実施することを推奨しています。
その結果、B2Cでは2年目、B2Bでは3年目で、成果が実感しにくくなっている状況が浮かび上がりました。この期間では「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果をあげている」との質問の回答として「非常にあてはまる」の数が減り、「どちらかというとあてはままらない」の数が増えます。
その期間を乗り越えると、B2C、B2Bともに「非常にあてはまる」「ある程度あてはまる」の数が増えていき、成果が実感できるようになっていきます。この2年目、3年目の成長の踊り場、停滞ムードを超えていく工夫が必要といえそうです。
日本のコンテンツマーケティングの現状は、本場である米国と何が違うのでしょうか?本調査を、世界最大のコンテンツマーケティングの組織である「CONTENT MARKETING INSTITUTE(CMI)」が実施した「Content Marketing: Benchmarks, Budgets, and Trends: Insights for 2021 (B2B / B2C)」と比較してみました。もちろん両者の調査では、回答者の数や個人/組織の属性が異なるため、単純な比較はできませんが、双方ともにコンテンツマーケティングに関心の高いマーケティング担当者が集まるコミュニティです。そこで見えてくるものは、ある程度の有意な示唆として捉えることができると考えられます。
※CMI実施の調査はB2BとB2Cで設問の構成が異なり、CM-Academyの調査もそれに合わせているため、B2BとB2Cの調査結果の単純比較は難しくなっています
コンテンツマーケティングでは、企業が自社のビジネスにとっての見込み客をペルソナとして選定し、どんなメッセージをどのタイミングで伝えるかという戦略を精緻に設計することが大切です。具体的には、見込み客を「ペルソナ」として個人単位までに解像度を高め、カスタマージャーニーのなかで、購買態度の各段階ごとのコミュニケーション戦略を策定します。
日米両方の調査で「コンテンツマーケティングでビジネス上の成果を上げることに成功した」と回答した方の約60%が、「書面としての戦略設計図を作成して活用している」と回答していることから、コンテンツマーケティングにおける設計の重要性は同じ程度に理解していることがわかります。一方で、「エディトリアルカレンダーを活用している」かについては、日米で大きな違いがあります。米国では、「成果を上げた」と回答した77%がエディトリアルカレンダーを活用しているのに対し、日本ではわずか25%に留まります。エディトリアルカレンダーは戦略設計に基づいて作成されるコンテンツ作成のスケジュール表であることから、米国では策定された戦略設計が具体的にコンテンツ作成に計画的に落とし込まれているのに対し、日本では戦略設計が具体的なアウトプットに至っていない、言い換えると、ペルソナやカスタマージャーニーなどの設計図が「宝の持ち腐れ」になっている状態が浮かび上がってきます。
日米の違いを考えるうえで、もう一つのポイントが成果指標です。「コンテンツの成果を測るための指標をもっている」と回答した方は、日本でも71%いることから、国内でもマーケティングの成果を定量的に測るという姿勢が相当程度に浸透していると言えます。ただし、米国の94%と比べるとまだ徹底されているとは言えない状況です。さらに、「成果を上げることに成功しなかった」側から比べると、米国では「成果を上げなかった」回答者の60%が成果指標を持っていた「積極的な失敗」、日本では逆に72%が成果指標を持っていなかった「消極的な失敗」とも読み取れます。
B2Cのコンテンツマーケティングを日米間で比較すると、「書面化」されている戦略設計図を持っているかどうかで大きな違いが見てとれます。ここでのポイントは「書面化」で、ペルソナやカスタマージャーニーなどを指します。書面化されていない戦略については米国の31.0%に対して、日本は21.4%とほぼ同等であるのに対し、書面化されている戦略については、米国の42.0%に対して、日本は3.2%と雲泥の差があります。31.7%が「戦略を直近12ヶ月以内に持ちたい」と回答していることからも、日本国内のB2Cのコンテンツマーケティングにおいては、国内のB2B(25.2%が書面化されている設計図を持っていると回答)と比較しても、戦略の書面化により大きな課題があることが読み取れます。
一般的に、B2B企業よりもB2C企業のほうが販促・マーケティングの予算は大きいのにも関わらず、上流の戦略領域に注力していない現状は、マーケティングに対する考え方やチーム体制に起因しているのかもしれません。
これからの日本のコンテンツマーケティングはどうなっていくのでしょうか?今回の調査からおぼろげに見えてきたのは、コンテンツマーケティング領域のさらなる広がりです。
YouTubeをはじめとした、オンライン動画視聴体験は、コロナ禍で大きく利用者を伸ばしています。今回の調査では、広告を除くSNSチャネルの活用において、B2Bの38.2%、B2Cの46.6%が「YouTubeを活用している」と回答しています。Twitter、Facebookに続く多さです。
また、直近12ヵ月で活用したコンテンツ形式(フォーマット)で「動画(事前収録)」と回答したのは、B2Bの33.6%、B2Cの49.6%。「動画(生配信)」との回答も、B2B、B2Cともに17.6%となっています。
リアルでの対面接触が減る中で、YouTube視聴は人々の生活の一部として完全に定着しました。企業のコンテンツマーケティングにとって、オンライン動画はますます活躍の場が広がり、重要性が増していくと考えられます。映像制作の専門家との連携や、YouTube活用のノウハウの重要性が高まっていくことでしょう。
企業のDX推進が叫ばれる中で、特に「CX(Customer Experience カスタマー・エクスペリエンス))」の重要性が高まっています。CXとは、企業が商品やサービスを提供する中で「顧客体験価値」を高め、永続的で良好な関係性を顧客と結ぼうとする試みです。テクノロジーの進化により、膨大な顧客データ収集や機械学習による分析を活用したCX実践手法が確立されたことで、いまや多くの企業のDX戦略やマーケティング戦略に通底する概念として採用されています。
CXにおいて、企業が発信するコンテンツは、膨大な顧客データを収集し、顧客のオンラインでの体験価値を向上させる装置として、重要な機能を担っています。それを司るコンテンツマーケティングは、いまやCXの心臓部に取り込まれて、CXと一体化しつつある状況です。コンテンツマーケティングの担当者にしてみれば、これまでのコンテンツ企画・制作の現場から一歩足を踏み出すだけで、企業のCX・DXをも担える状況になっているのです。
本調査では「理想とするメディア運営のために、現在のチームはどのスキルを向上させる必要がありますか?」との質問に対して、B2Bの74.6%、B2Cの64.9%が「マーケティングスキル」と回答しました。コンテンツ制作スキルや、編集スキル、ディレクションスキルを抑えて、最も高い値となっています。
「マーケティングスキルを身につけたい、身につけなければいけない」という想いは、個人的なスキルアップニーズだけでなく、企業のDX・CX推進からくる組織的なニーズが大きいと思われます。一方で、現場のコンテンツマーケティング担当者は少数精鋭で多忙です。コンテンツマーケティング先進国である米国に比べ、支援企業やナレッジ・シェアリングも不足しています。個人の努力だけに依存するのではなく、コンテンツマーケティング担当者を支え、チャレンジの機会を創り出す仕組みや職場学習の支援が、企業や業界に求められているのではないでしょうか。