CONTENT MARKETING LAB

【実践解析特集vol.4】BtoBの「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」設定

作成者: CML|Oct 15, 2018 7:48:00 AM
  • 寄稿記事 本記事は、ウェブマーケティングの設計・効果測定コンサルティングサービスを提供する、and,a株式会社の取締役CAO中田吉彦氏による寄稿記事です

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BtoBの「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」

過去3回にわたって「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」の設定手順を解説してきましたが、今回はBtoBビジネスの「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」の設定にフォーカスして解説します。

BtoBビジネスの場合は、前回ご紹介した基本的な考え方をベースにしつつ、下記の図のように設定手順が追加されます。

新たに3つの手順を追加しましたが、ポイントは購買の意思決定にかかわる人が複数人に上るという点です。

BtoBでは、購買プロセスを次のステップに進めていくための意思決定に少なくとも5~6人が関わっている場合が多いと考えられます。

図2 BtoBでは、購買プロセスを次のステップに進めていくための意思決定に少なくとも5~6人が関わっている場合が多い

たとえば新たなウェブ解析ツールを導入する場合や、社内システムを刷新する場合など、複数の部署・階層の人間が関与することになります。このことから、過去3回にわたって解説したような情報の受け手一人に対するシナリオに基づいた情報発信だと不十分なため、図1に示したような手順が必要になります。順を追って解説します。

ファーモグラフィックス(Firmographics)の作成

購買担当者のペルソナを設定する前に、対象のペルソナが所属する企業について情報整理を行います。

具体的には、どういう企業が自社の収益源になってくれているのかを改めて確認するために「収益源上位の顧客企業のファーモグラフィックス(Firmographics)」を作成します。

BtoCビジネスではユーザーの属性情報をデモグラフィックス(demographics)と呼びますが、BtoBビジネスではターゲットとなる企業の属性情報をファーモグラフィックスと呼びます。

ファーモグラフィックスでは、まず自社の収益源上位20%の顧客企業を洗い出します。

図3 ファーモグラフィックスの作成方法(1)
(出所『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』(株式会社日本SPセンター (著)、エムディエヌコーポレーション、2015年)P37)

図4 ファーモグラフィックスの作成方法(2)
(出所『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』P37)
次に、洗い出した上位20%の顧客企業について、「事業規模」「業態・商品」「課題」「キーマン・購買関与者」などで分類していきます。これでファーモグラフィックスが完成しました。

次に購買関係者一覧を作成します。

購買関係者一覧の作成

BtoBビジネスにおいては、購買プロセスを次のステップに進めるに様々な部署や階層の人物が関わることになります。そのため、ペルソナ設定は複数人を対象とすることになります。ペルソナが複数ある場合、それぞれに対して別々のコンテンツを提供する必要があります。かといって、一人ひとりに直接リーチすることは非常に困難です。

そこで提案したいのが、

最初に接点を持った人を「キーパーソン」に設定し、そのキーパーソンが「他のペルソナ(=キーパーソンを取り巻く購買関係者)との円滑なコミュニケーションを進めることができるように支援する

という方向性です。

ここからはBtoBペルソナ設定の具体例を解説します。

  • 事例商材

    ヒートマップ解析ツール(ウェブサイトのどの部分が熟読されたのか等が分かるツール)

  • 見込み客企業の設定例

    ウェブマーケティングに力を入れているヘアケア製品メーカーA社。
    自社のウェブサイトにヒートマップ解析ツールの導入を検討中。
    ⇒ どのようなペルソナ(=キーパーソンを取り巻く関係者)が関わり、どのような情報ニーズを持っているかを具体的に想定する。

ここから、購買関係者一覧の作成に入ります。上記の企業で、ツール導入に関係しているのは下記の5人です。

表1 購買関係者一覧

名前 導入に際しての位置づけ 所属など 情報ニーズ
五反田さん キーパーソン ウェブマーケティング部門 自社のウェブサイトにヒートマップツールの導入を検討中。導入検討の当事者として、製品やサービスをリサーチしている。
田町さん キーパーソンと共にツール導入に関わるメンバー ウェブ解析担当 ヒートマップツールが導入された際、解析チームのスタッフがスムーズに使い方を習得できるかを知りたい。
上野さん IT部門(CRM担当) セキュリティがどうなっているかを知りたい。自社の環境に合わせてカスタマイズできるのかを知りたい。
目白さん CFO 全てのマーケティング関連部門の情報ニーズを踏まえ、ヒートマップ解析ツールの導入、システム調整、社内研修のコスト等も含めた最終的な価格を知りたい。
渋谷さん CEO じっくり検討する時間はないが、経営上必要なものかどうかについて、総合的な判断を下ための情報が必要。

上記の1行目に挙げてある五反田さんは、問い合わせをしてきた人で、“最初に接点を持った人”です。

この人を「キーパーソン」に設定します。そのキーパーソンが「他のペルソナ(=キーパーソンを取り巻く購買関係者)との円滑なコミュニケーションを進めることができるように支援するのが、ここから先の基本的な考え方になります。

なお、上記のような関係者一覧は、これまでの営業活動やマーケティング活動から得られた情報を最大限に活用して作成します。見込み客の企業内部の情報ですから、必要な情報が全部揃うことはなかなかありません。しかし、情報は不十分でも整理すれば“たたき台”にはなります。完璧を求めずに、とにかく手に入る情報を最大限に活用して関係者一覧を作成することをおすすめします。

キーパーソンのペルソナ設定

ここからはキーパーソンのペルソナを設定します。

「キーパーソンがどういう人か」をマーケティングチーム全員がイメージできるようにするために、以下の項目に関してペルソナを設定します。

表2 キーパーソンのペルソナ設定

番号 項目 内容
【1】基本項目編
1 一日の過ごし方 購買の意思決定をするタイミングや、それに要する時間などをイメージするために、一日をどう過ごしているのかを設定。
2 目的と課題 どういった結果を求めていて、何が障害となっているのかを明確にする。
3 人となり その人のプロフィールから、性格や人物像をイメージする。例えば技術部門のスタッフはディテールにこだわる人が多い、転職回数が多い人ならリスクを恐れず決断するタイプ、社歴の長い人なら次の昇級に興味があるかもしれない、など。
4 越えなければいけない壁 キーパーソンが解決すべき最終的なビジネスゴールではなく、もっとキーパーソンにとって身近なハードルを理解する。例えばチームの人間関係はどうなっているのかなど、個人レベルの課題を想定することで、どういう決断をすれば一歩前へ進めるのかを考えるヒントになる。
5 好み どのようなメディアを好み、どのように情報を得ているのかを知る。そうすることで、購買プロセスでのアクションの傾向が見えてくる。
6 よく使う言葉 専門用語やよく使うフレーズなど、キーパーソンが使っている言葉をよく聞き、理解する。そうすることで検索キーワードを何に設定すべきかが見えてくる。
7 エンゲージするまでのプロセス コンテンツに触れた後の行動をイメージする。ターゲットが好むチャネルに適切にコンテンツを配置することで、コンバージョンまでのスムーズな流れをつくることができる。
【2】情報ニーズ編
8 認知 私にとってなぜその商品・サービスが必要なのか?
9 なぜ今の商品・サービスでは満足できないのか?
10 情報収集 もしこの商品・サービスを検討しなければどうなってしまうのか?
11 ライバルはどのように考え対応しているのか?
12 専門家はどんな意見を持っているのか?
13 ベストな方法は何か?
14 比較検討 選択肢はどのようなものがあるのか?
15 専門知識が無いが誰か助けてくれるのだろうか?
16 支払い方法はどういったものがあるのか?
17 購入後、どんな影響があるのか?
18 その他の選択肢にはどのようなものがあるのか?
19 購入 ベストな選択かどうか、どうしたらわかるのか?

BtoBにおけるペルソナ活用術については、この記事が連載されている「CONTENT MARKETING LAB」内に非常に参考になる記事があります。

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購買関係者からキーパーソンへの想定質問整理

「表1 導入関係者一覧」で見た五反田さん(キーパーソン)以外の4人の購買関係者たちは、導入を検討するプロセスにおいて、キーパーソンに色々質問を投げ掛けてきます。

キーパーソンがうまく答えられない質問ばかりだと導入が進まない可能性が高くなりますが、既にキーパーソンとツール提供側の営業担当者がコミュニケーションを取れる関係にあれば、営業担当者がキーパーソンを支援できます。

しかしキーパーソンが導入候補を絞ることができていない段階では、営業担当者はまだ彼らとの関係構築を進めることはできないでしょう。

その場合は、ウェブコンテンツがキーパーソンを支援する役割を担うことになります。このように考えると、「キーパーソンが社内の関係者に何を質問されるのか」をできる限り具体的に細かく想定しておくことは、受注の可能性を左右する重要なプロセスであると位置づけられます。

次の表は、キーパーソンが社内関係者から受けるであろう想定質問を整理したものです。

表2 関係者からキーパーソンへの想定質問整理

質問者 所属など 質問内容
田町さん ウェブ解析担当 Q. ヒートマップツールが導入された際、解析チームのスタッフがスムーズに使い方を習得できるのか。
上野さん IT部門(CRM担当) Q. セキュリティがどうなっているか。
Q. 自社の環境に合わせてカスタマイズできるのか。
Q. サポート体制はどうなのか
目白さん CFO Q. 全てのマーケティング関連部門の情報ニーズを踏まえ、ヒートマップ解析ツールの導入、システム調整、社内研修コスト等も含めた最終的な価格を知りたい。
渋谷さん CEO Q. (じっくり検討する時間はないが)ヒートマップツールが本当に経営上必要なものかどうかについて、総合的な判断を下ための情報が必要。
Q. 導入したはいいが、「結局使いこなせませんでした」という事態にならないかが心配。

キーパーソンのカスタマージャーニーマップ設定

ここで今一度、第1回第2回第3回の解説で登場した、カスタマージャーニーマップとコンテンツマップの全体像を思い出していただきましょう。といっても下記の図の行と列の項目をざっと見直していただくだけで十分です。

図5 「カスタマージャーニーマップ」とその下に設定される「コンテンツマップ」

先述の「キーパーソンのペルソナ設定」と「関係者からキーパーソンへの想定質問整理」を「カスタマージャーニーマップ」にどうまとめるかを解説します。

実際の運用の現場では、図5のセルを全て埋めていただきたいのですが、ここでは、最も重要な「情報ニーズ」の行と「コンテンツ」の行に絞ってセルを実際に埋めていきます。

各購買プロセスの「情報ニーズ」「コンテンツ」を設定

図6 「カスタマージャーニーマップ」の購買プロセス

それでは図6のプロセスに従って、「情報ニーズ」の行と「コンテンツ」の行を埋めていきます。BtoBビジネスの場合は、「キーパーソン本人」と「キーパーソンが関係者から質問されること」でセルを分けることで、カスタマージャーニーマップを分かりやすく整理することができます。

(1) 認知フェーズ

認知フェーズ 情報ニーズ コンテンツ
キーパーソン本人 私にとってなぜその商品・サービスが必要なのか? (例)動画コンテンツ】「UI改善に、なぜヒートマップツールが有効なのか」
なぜ今の商品・サービスでは満足できないのか? (例)【Blog記事】「ヒートマップツールで解析できて、Google Analyticsでは解析できないこと」まとめ
キーパーソンが関係者から質問されること Q. ヒートマップツールが導入された際、解析チームのスタッフがスムーズに使い方を習得できるのか。 (例)【動画コンテンツ】ツールの設定、操作が簡単であることを短時間で理解してもらうには動画がベスト。分かりやすいUIを強調した動画を制作すべき。

(2) 情報収集フェーズ

情報収集フェーズ 情報ニーズ コンテンツ
キーパーソン本人 もしこの商品・サービスを検討しなければどうなってしまうのか? (例)【ウェブコンテンツ】《事例集》ヒートマップを活用してUI改善に成果を上げた事例(事例は業種別に整理されていることが望ましい)
ライバルはどのように考え対応しているのか?
専門家はどんな意見を持っているのか? (例)【動画コンテンツ】UI改善の専門家がヒートマップの活用方法を紹介(セミナーの模様をダイジェストで紹介する動画などが望ましい)
ベストな方法は何か? (例)【ウェブコンテンツ】《事例集》ヒートマップを活用してUI改善に成果を上げた事例(成果を数値で示すことが望ましい)
キーパーソンが関係者から質問されること Q【IT部門】:セキュリティがどうなっているか。 (例)【ウェブコンテンツ】導入を本気で検討している見込み客はセキュリティ関連の情報を必要とするケースが多い。公開可能な情報は全てウェブ上に掲載しておく(競合他社に閲覧されても差支えない範囲で)
Q【IT部門】: 自社の環境に合わせてカスタマイズできるのか。 (例)【ウェブコンテンツ】導入を本気で検討している見込み客は他のツールとの連携が可能かどうか知りたがることが多い。セキュリティ関連情報同様、公開可能な情報は全てウェブ上に掲載しておく。
Q【IT部門】: サポート体制はどうなのか (例)【ウェブコンテンツ】「サポート体制が充実している」と書くだけでは不十分。具体的にどういう体制で、どれくらいのクイックレスポンスが可能なのかまで記載しておく必要がある。加えて導入済企業のユーザーの声を掲載することが望ましい。見込み客は他社のツールでサポートの不満を感じているケースが多々あるので、サポート体制で安心してもらうことが重要。

(3) 比較検討フェーズ

比較検討フェーズ 情報ニーズ コンテンツ
キーパーソン本人 選択肢はどのようなものがあるのか? (例)【ウェブコンテンツ】《目的別》ヒートマップツールの選び方ガイド。ユーザーは競合他社の複数のツールを見比べなくてはならないが、各社それぞれ訴求方法が異なるため、横並びの比較がむずかしく、比較のしにくさでストレスを感じている見込み客が多い。どういう基準で選べばよいのかという指針を示すことで他社より親切だという印象を与えることができる。
その他の選択肢にはどのようなものがあるのか?
専門知識がないけれど誰か助けてくれるのだろうか? (例)【リアルイベント】+【ウェビナー】導入検討者向けのセミナー開催
支払い方法はどういったものがあるのか? (例)【ウェブコンテンツ】「お支払方法」を分かりやすく解説
購入後、どんな影響があるのか? (例)【ウェブコンテンツ】ヒートマップツール活用コンテンツ(導入後の設定、活用方法を詳しく紹介したコンテンツ)。設定に関するヘルプはあっても、活用方法が十分に紹介されていないケースが多い。
キーパーソンが関係者から質問されること Q【CTO】:全てのマーケティング関連部門の情報ニーズを踏まえ、ヒートマップ解析ツールの導入、システム調整、社内研修なども含めた最終的な価格を知りたい。 (例)【ウェブコンテンツ】費用の総額を計算できるシミュレーションツールを用意し、営業担当者に問い合わせなくても、概算費用を出すことができるようにする。見込み客はまず概算イメージを知りたいので、細かい計算は、営業担当者とコミュニケーションが開始されてからでよい。ツールの研修費用等まで含めた計算ができることが望ましい。

(4) 購入フェーズ

購入フェーズ 情報ニーズ コンテンツ
キーパーソン本人 ベストな選択かどうか、どうしたらわかるのか? (例)【ウェブコンテンツ】設定方法などのサポートコンテンツだけでなく「成果を上げるための活用」にフォーカスしたサポート、支援コンテンツを充実させる。
(例)【リアル】オプションでコンサルティングサービスが提供できればなおよい。
キーパーソンが関係者から質問されること Q【CEO】:(じっくり検討する時間はないが)ヒートマップツールが本当に経営上必要なものかどうかについて、総合的な判断を下ための情報が必要。 (例)【PDF, PowerPoint ダウンロードコンテンツ】社内稟議を通そうとするキーパーソンの資料作成の負荷を少しでも軽くするための、「稟議書にそのまま使える資料コンテンツ」のダウンロード提供。
Q【CEO】:導入したはいいが、「結局使いこなせませんでした」という事態にならないかが心配。 (例)【リアルサービス】導入当初にうまくツールを活用できないユーザーのために、コンサルタントによる伴走サービスを用意する。
(例)【ウェブコンテンツ】「成果を上げるための活用」にフォーカスしたサポートコンテンツを充実させる。

キーパーソンに加えて関係者4人、合計5人分のカスタマージャーニーマップを設定すべきという考え方もあります。しかし、設定に掛かる工数や運用時の使い勝手から考えると、まずは今回ご紹介した方法で運用してみることをおすすめします。

その上で、「第2のキーパーソンのカスタマージャーニーも無視できない」ということになれば、キーパーソンとは別にカスタマージャーニーマップを設定してみるとよいでしょう。

次回 は最終回。ここまでで行ったジャーニーマップ・解析設定に基づいて計測を始めた後、その解析結果をサイト改善にどう生かしていったらいいのかを解説します。