村上健太
コンテンツマーケティングアカデミー、チーフストラテジスト。企業のコンテンツ戦略立案に携わり、最新のAI技術動向をウォッチしている。
髙山はるみ
コンテンツマーケティング、リサーチャー。長年企業ウェブサイトの制作に携わり、検索技術の変化を現場で実感している。
今井静香
コンテンツマーケティング、リサーチャー。生成AIの活用に関心が高く、新しい情報検索の可能性を探求中。
村上:今日はポッドキャストについて話してみましょう。オトナル社と朝日新聞の2025年2月の国内利用実態調査から、面白いデータが出てるんです。
https://www.asahi.com/ads/podcast-research05_1.pdf
今井:どんなデータですか?
村上:ポッドキャストの利用率は17.2%なんですが、15-19歳では34.0%、20代では27.3%。若年層の利用率が圧倒的に高いんです。TikTokに次いで高く、Facebookを超えてるんですよ。
高山:意外ですね。もっと管理職とか経営者とかのビジネスパーソンが中心だと思ってました。
村上:ユーザー全体の5割近くが月に3番組以上聞いていて、聴取プラットフォームではYouTubeが1位、Spotifyが2位。85.6%の人が何かをしながら「ながら聞き」してるんです。そして重要なのが、YouTube、TikTok、Instagramと比較すると、ポッドキャストユーザーは情報感度が全項目で高く、高年収層の比率が最も高いということ。
今井:なぜこの2つの層なんでしょう?
村上:共通点は「効率的に時間を使いたい」というタイムマネジメント意識の高さかもしれません。学生は隙間時間での耳を使った勉強や、勉強中や勉強の合間のちょっとした息抜き。ビジネスパーソンでは通勤やプライベートの時間を効率的に情報収集や自己啓発、ということではないでしょうか。コンテンツで人気なのはニュース、コメディ・お笑い、音楽解説の順。若い人は好きなタレントやお笑い芸人の番組を音声で楽しんでるみたいですね。
引用:[2025.2]PODCAST REPORT IN JAPAN 第5回ポッドキャスト国内利用実態調査
高山:私、最近Amazonのオーディオブック、Audible(オーディブル)を使ってるんです。家事をしながらとかお風呂に入りながら耳で本を楽しんでいます。
村上:きっかけは何だったんですか?
高山:YouTubeを横目で見ながら家事してたんですが、「あ、目が忙しいな」って気づいて(笑)。耳だけで楽しめるものを探したのがきっかけです。
今井:私はYouTubeプレミアムでバックグラウンド再生を使ってます。ポッドキャストはまだ本格的に試してないんですが、確かに「ながら聞き」できるのって革命的ですよね。
村上:僕は高校生の頃からラジオ派でした。宇多田ヒカルの「Automatic」を木村拓哉のラジオで初めて聞いた時の衝撃は今でも覚えてます。ラジオ好きな人はポッドキャストにもすんなり入れる印象がありますね。
高山:懐かしい!でも本当に「ながら聞き」できるのが最大のメリットですよね。動画だと画面見てないといけないけど、音声なら料理しながら、掃除しながら、散歩しながらでも情報が入ってくる。
生成:Whisk
村上:実はハイブランドがポッドキャストに力を入れてるんです。DIORは以前からポッドキャストでブランドストーリーを発信してます。
ディオール アンバサダーが語る「ディオールの時代」
https://podcast.dior-jp.com/Dior Talks
https://podcasts.dior.com/« Dior Untold » Podcasts
https://www.dior.com/ja_jp/beauty/store-page-folder/dlp-podcat-dior-untold.html
今井:どんな内容なんですか?
村上:ものづくりの姿勢やブランドコンセプトを、映像や写真なしで音声だけで伝えてるんです。想像の余地を残すというか、行間や思いを音声で表現することを重視してる感じですね。
高山:ハイブランドが音声って、意外な組み合わせな気もしますが...。
村上:CHANELはさらに本格的で、米国向け英語版のサイトではシーズン5まで音声コンテンツが続いてます。一本30分程度で、デザイナーの解説やこだわりが語られてる。SpotifyやApple Podcastでも聞けるようになってます。
CHANEL CONNECTS(日本語版)
https://www.chanel.com/jp/chanel-connects/season-1/CHANEL CONNECTS(英語版)
https://www.chanel.com/us/chanel-connects/season-1/今井:シンプルさが洗練されてる感じで、ブランドイメージとマッチしてますね。
村上:まさにそう。情報が削ぎ落とされてて、こだわりを感じます。僕はシャネルを買う機会はないんですが、このコンテンツを聞くと「シャネルいいな」って思っちゃうんです。
村上:コンテンツマーケティンググランプリで優秀賞を受賞した映像制作会社 KOO-KIの「ケイシャのしゃべり場」 さんが「文字よりも人柄が伝わりやすい」とおっしゃってたのが印象的でした。
Podcastで人柄が伝わる!音声で築く「ケイシャのしゃべり場」社内外コミュニケーション戦略
高山:ママ友が「推しのラジオを聞くと一番距離が近く感じる。インスタライブよりも距離が縮まって、お耳が幸せ」って言ってました。
村上:「お耳が幸せ」、いい表現ですね! 想像の余地があるからでしょうね。音声しかないから良い音質で届けられることが多いし、息遣いや口癖もより分かりやすい。声フェチの人には最高のメディアかもしれません。
今井:動画よりも音声の方がいいって不思議ですね。
村上:動画と比べると、音声は時間あたりの情報量は少ない代わりに、行間や声に隠された感情まで届けられる気がしますね。McKinseyの記事では、調査レポートの中にポッドキャストが埋め込まれてて、読むこともできるし音声でも聞ける。ながら聴きで効率的に情報を摂取できますし、文章だけでは伝わりにくい送り手の微妙なニュアンスや感情を伝えることができます。日本企業ではあまり見ない手法ですね。
今井:日本の企業でも、もっと積極的にポッドキャスト配信してほしいと思います。他社との差別化になりそうですし。
村上:始めやすいのは確かです。お金もそんなにかからない。ただ“続かない”という声も良く聞きます。広く知ってもらえない、数字が伸びないということでやめてしまう企業が多い。でもそこをあきらめずにKOO-KIさんのように試行錯誤を続けながら170回以上続けることが大切だと思います。グランプリ受賞時のインタビューでは、リクルートに成果があったり、顧客から「社風がわかって興味深い」と仕事上の良好な関係につながっていると伺っています。
ポッドキャストは若い世代と、先見性のあるビジネスパーソンという異なる層に響く特性を持ち、ハイブランドが戦略的に活用している現状からも大きな可能性がうかがえます。
短期的な成果ではなく、長期的な視点でブランドの人格や価値観を伝える手段として捉えることが重要なのかもしれません。忙しい現代社会のタイムマネジメント意識の高さに応えながらも、文字や動画では表現しきれない「行間」や「人柄」を音声で伝えることができるのは音声コンテンツならではの特徴です。上手に活用することで、より質の高いエンゲージメントを生み出せるでしょう。
執筆・編集:Content Marketing Academy