村上健太
コンテンツマーケティングアカデミー、チーフストラテジスト。企業のコンテンツ戦略立案に携わり、最新のAI技術動向をウォッチしている。
髙山はるみ
コンテンツマーケティング、リサーチャー。長年企業ウェブサイトの制作に携わり、検索技術の変化を現場で実感している。
今井静香
コンテンツマーケティング、リサーチャー。生成AIの活用に関心が高く、新しい情報検索の可能性を探求中。
村上:今回取り上げるのは、総合マーケティングツールで有名なHubSpot(ハブスポット)のCEOヤミニ・ランガンさんの発言です。「SEOはもう通用しない」って断言してるんですよ。これが業界で大きな話題になってます。
TBS CROSS DIG with Bloomberg【グーグル検索の60%がクリックされない】「SEOは通用しない」HubSpotトップが警告/時価総額4兆円企業はChat…
今井:改めて聞くとインパクトありますね。生成AI時代のマーケティング戦略について語った内容でしたよね。
村上:そうですね。さらに、従来のソフトウェアは手助けする道具だったけど、これからは生成AIが直接アウトプットを作ってくれるよ、という話でもありました。検索でいえば、現時点(25年8月時点)のGoogle検索には既に「AIオーバービュー」機能があって、検索結果の概要が表示されていますね。また、今後Googleは新しい「AIモード」を世界展開する予定で、生成AIとの対話形式での検索が当たり前になっていきます。そのような中で、SEO(検索エンジン最適化)に代わって必要だと言われているのが、GEO(生成エンジン最適化)やLLMO(大規模言語モデル最適化)と呼ばれる新しい検索対策手法です。
高山:あれだけ長い間SEOって続いてきたのに、こんなあっという間に変わってしまうのは儚いなって思いますね。結局Googleの方針次第なんだなって。
村上:誤解なきようにいえば、Googleは生成AI検索時代になっても、これまでのSEOで重要だとされていた「良質なコンテンツ」や「優れたページ体験」といったことは引き続き評価しますよと明言しています。Googleとして、ページやコンテンツを評価する基本スタンスは変えていないわけですね。
Google 検索の Google AI エクスペリエンスでコンテンツのパフォーマンスを高めるための主な方法
ですから、日本国内では「生成AI検索対応は、特に急ぐ必要はないですよ」というSEO専門家が多いです。現時点で「SEOは終わった!ゲームのルールが大きく変わった!今すぐ対策せねば!」というのは、海外の特に革新的な人々の意見だということは押さえておきましょう。とはいえ、日々刻々と状況は変わっているので、それなりに説得力のある話でもあるということですね。
実際、HubSpot自体もブログの流入が70%も減ったそうです。でもその代わりポッドキャストやYouTube、メルマガで復活して、生成AIを使ったパーソナライズでコンバージョン率を80〜100%アップさせたとのこと。ブログ(WEBページ)以外にも、顧客との接点を分散させながら切り替える作戦が成功したのでしょうね。
今井:なるほど。仮に生成AI検索対応をやるとしたら、具体的にどうすればいいんでしょう?例えば「Perplexity」で調べ物をしても、引用元のサイトは表示されるけど、実際にそのサイトを見に行くかっていうと見に行かないんですよね。最適化しても効果があるのかなって疑問があります。
村上:まさにそこが問題で、生成AIの登場によって、明らかに私たちの検索行動が変わってしまっているんですよね。WEBページ制作側としては、いくら良いページやコンテンツを用意しても、人間が見に来ないのならば作る意味があるのか…と思うかもしれません。これまでWEBページにとっては「どれだけ訪問者が来たか」は無視できない重要な指標だったわけですからね。
生成:Whisk
村上:生成AI検索の仕組みで重要とされているのが「クエリファンアウト」っていう技術なんです。例えば「長毛猫用ブラシ」って検索したら、そのキーワードで関連ページを表示してた。でも生成AIは全然違うアプローチをするんですよ。
今井:どう違うんですか?
村上:生成AIがユーザーの入力から連想して、「コスパの良い長毛猫用ブラシ」「アンダーコート除去に効果的なブラシ」「長毛猫用ブラシの人気ブランド」みたいに複数の検索クエリ(検索指示語)を自動生成するんです。これが「クエリファンアウト」ですね。そして、それらクエリすべてを同時にWEB検索して、出てきた答えを要約・融合・再評価して、最終的にユーザーが求める回答を提示するんですね。専門家によると、1つの質問から数十から最大100程度のクエリが自動生成されるとのことです。
高山:それは大変な数ですね!そうなると大型サイトの方が有利そう。いろんな検索クエリに対応したコンテンツが多い方が良いですね。
村上:そうですね。コンテンツの数が多い大型サイトや、一つのコンテンツの中にいろいろな切り口や言葉が入っていたり、ある程度広いテーマに対応したボリュームのあるページが有利になりそうです。でも問題は、最大100ものクエリすべてに対応するコンテンツを作るのは現実的じゃないってことなんです。
今井:確かに。作るのも大変ですし、人間が読むのも大変そうですもんね。
村上:そうなんです。生成AIは疲れないから膨大な情報でも処理できるけど、人間は関係ない情報は別に知らなくていいって思いますよね。専門家の中には、生成AI用のコンテンツと人間用のコンテンツを分けて作るべきだという意見もあります。
今井:生成AIに読まれることを前提に書けば、結果的に人間にも伝わりやすくなるのかと思ってましたが、そうじゃないんですね。
高山:これ本当に大変ですよ。生成AI用とユーザー用、両方作るなんて。本当にそれで、みんなが望んでいた便利で使いやすいインターネットになるんでしょうかね。
生成:Whisk
村上:もう一つ重要な変化があります。従来は「ページ単位」で検索結果に表示されてましたが、生成AIは「パッセージ単位」、つまり文章の段落や小さな塊を引用するんです。「ページからパッセージへ」って言われてます。
高山:パッセージって、文章の一部分ってことですか?
村上:そうです。検索エンジンに評価されやすいページを作るっていう従来の考え方から、生成AIに引用されやすいパッセージをどれだけ用意できるかって考え方に変わるんです。ページビューがどれだけ来たかじゃなくて、パッセージをどれだけ引用されたかが大事になってくる。
今井:なるほど。でもそうなると、生成AIに引用されても元のサイトには人が来なくなりそうですね。
村上:まさにその通りで、海外のGEO専門家は「生成AIは企業からブランドを盗んでいく」って表現してるんです。AIが消費者の代理人になって情報を探し、商品を推薦するようになると、企業が直接消費者にアプローチする機会が奪われちゃう。
今井:格差が広がる感じですね。
村上:そうなんです。有名ブランドはさらに有利になって、新興ブランドには厳しい状況になると言われています。先ほどの生成AIのクエリファンアウトをいろいろシミュレーションするとわかるのですが、自動生成される検索クエリの中には具体的なブランド名を含んだものも出てくるんですね。長毛用の猫のブラシであれば具体的に「●●社の長毛用おすすめブラシ」とかが出てくる。そこに選ばれるかどうかで企業の命運が決まってしまいます。極端に言えば、経済の多様性がなくなるみたいな、知名度のない中小ブランドよりも、有名大手ブランドが有利になりすぎる構造ができあがってしまうかもしれません。
高山:怖いですね。中小ブランドでも工夫次第で選ばれるブランドになれるのがインターネットの良いところだと思っていたのですが、結局市場シェアや規模が大きいものが選ばれやすくなる、という流れになりそうですね。
生成:Whisk
高山:買い物も生成AIがしてくれるようになるって聞きましたが、本当ですか?生成AIが出した情報を生成AIが読み取って、生成AIが買うみたいな流れになりそうですよね。
村上:そうですね。近いうちに検索や比較検討だけではなく、購買もAIがやってくれるようになるでしょうね。先日ChatGPTに「エージェントモード」が追加されましたね。これは、以前にもご紹介した「MCP」を内包したような新モードです。
MCPが変える検索の未来 - Google検索は本当にいらなくなるの?
私たちの代わりに、ChatGPTがWEBをブラウズして、データ分析、旅行プランの作成、新商品の調査などを自律的に行ってくれます。
試しにアムステルダムの旅行計画を頼んだら、17分かけて予算など条件にあったおすすめのホテルを詳細に調べてくれて、観光プランもたててくれました。ただ質問に答えるだけじゃなく、執事のようにいろいろネットで調べて、最適な旅行の計画を立ててくれるんですね。ホテル予約まではまだできませんでしたが、時間の問題だなと思いましたね。
今井:17分もかかるんですね。でも自分でやるより楽そう。
村上:面白いのは、生成AIがどのサイトを見て、どんな検索をしてるかをリアルタイムで見せてくれることです。「頑張って調べてます」感がすごく出てて、まるで優秀な秘書が働いてる様子を見てるみたいでした。失敗しても許せそうになっちゃうんですよね。
高山:お手伝いさんが一人増えるような感じですね。最近はどの生成AIもキャラクター性を出してきてる印象があります。すごく働いてくれてるっていう感じが出ますね。
今井:でも予約まで任せるのはちょっと怖いです。日程を間違えられたら大変ですし。予約っていってもいろんなプランがあるじゃないですか。細かいところまでやってくれるのかどうかって感じですね。
村上:確かに信用できないですよね、でもこれがどんどん進んで本当に信頼が置けるようになれば、みんな予約や購入も依頼するでしょうね。やっぱり楽には勝てないですよ。
今井:家電量販店の店員さんよりも生成AIの方が信用できそうです。余計な売り込みもないですし。
村上:ただ、生成AIが私たち消費者の味方なのか、セールスしたい企業側の味方なのかで、ずいぶん違いますよね。もし企業側によりすぎていて、消費者が気づかないように巧妙に洗脳してくるとしたら、怖いですよね。
今井:確かに。静かに売り込まれてても気づかないかもしれません。でも面倒くさいことだったらお願いしたいかもですね。ChatGPTに頼んじゃえばいいのかなとか思ったりします。
村上:そうですよね。だからこそ、この変化をちゃんと理解して対応していく必要があるんだと思います。流れが速すぎて追いつけないですけど、ポイントは押さえていきたいですね。
今回の対談では、生成AI技術の急速な進歩がマーケティング業界に与える影響について議論しました。SEOから生成AI最適化への転換、検索行動の変化、そして生成AIエージェントの登場と、変化のスピードは想像以上です。完璧な対応策を待っていては遅れてしまうため、トライアンドエラーを繰り返しながら新しい時代に適応していく姿勢が求められそうです。コンテンツの質を高めることは変わらず重要ですが、その届け方は根本から変わっていくのかもしれません。
執筆・編集:Content Marketing Academy