戦略的なコンテンツマーケティングとは?3つの事例から秘訣を学ぶ。
「ターゲットニーズ」に合うコンテンツづくりを意識するあまり、売上拡大などの「自社の目標達成」をないがしろにしてしまってはいないだろうか?成果も意識した“戦略的なコンテンツマーケティング”を考えるヒントを、3つの海外事例に学ぶ。
戦略的なコンテンツマーケティングとは、コンテンツでニーズに応えながらトータルでビジネスゴール到達に貢献すること
ターゲットニーズに寄り添い有益な情報を提供すること、これはコンテンツマーケティングにおける重要なポイントの一つだ。しかし、企業のマーケティング活動の一環である以上、当然「顧客を獲得して売上を増やす」というビジネスゴールへ貢献する必要がある。つまりコンテンツは最終的に商品を買ってもらうために提供するものであり、単に顧客にとってメリットのある情報を与えるだけで終わってしまってはいけないのだ。
コンテンツマーケティングを担当するマーケターとして考えておかなければいけないのが、“個々”のコンテンツでターゲットニーズを満たしながら、コンテンツマーケティング“全体”としては企業の最終的な目標を達成するように機能させること。マーケティング施策とビジネスゴールを一致させる、いわば「戦略的なコンテンツマーケティング」を実践することが重要だといえる。
今回は、参考となる海外の事例3つをピックアップした。ビジネスゴールを意識したコンテンツ戦略の立て方と、コンテンツの企画・配置術をご紹介しよう。
- ポイントは「ファン化」と「ハウツー」…ユーザーとの接点を最大化するために、BtoCとBtoBで異なるコンテンツ戦略を効果的に展開するIntelligentsia Coffee
- ノウハウを学びながら、自然と自社サービス体験ができる…動画配信プラットフォームWistia
- 企業理念はユーザーニーズを起点とするコンテンツに内包させ、間口を拡大…Whole Foods Market
ポイントは「ファン化」と「ハウツー」…ユーザーとの接点を最大化するために、BtoCとBtoBで異なるコンテンツ戦略を効果的に展開するIntelligentsia Coffee
最初に紹介するIntelligentsia Coffeeは、こだわりのコーヒー豆や紅茶の販売・提供を行っている。一般消費者への小売や直営カフェの運営だけでなく、飲食店などへの卸売も行っている彼らのマーケティング戦略の特徴は、BtoC・BtoB両方のコンテンツを用意していることだ。
BtoC向けのコンテンツとして、美味しいコーヒーの楽しみ方や、コーヒーに関する知識が得られるコラム、商品・品質へのこだわりが理解できるストーリーなどがブログ記事として展開されている。
また、もう一つ注目したいのがiPhone用のアプリ。このアプリには、ウェブサイトと同様の読み物コンテンツやEC機能に加え、コーヒー豆のグラム数に応じて最適な水量を算出する計算機や、蒸らし時間のカウントタイマーなど、便利な機能も用意されている。これらはユーザーにとって利便性が高いだけでなく、コーヒーを飲む度に活用できる機能でもあるため、アプリの起動率を高め、その結果、Intelligentsia Coffeeとの接点を増やす機会を作り出している。
一方、BtoB向けの取り組みとしてフォーカスしたいのは、コーヒーの淹れ方ガイド。サイフォンやフレンチプレスなど、使う道具によって異なる“美味しいコーヒーの淹れ方”を、イラストを交え詳しく説明したPDFファイルとしてダウンロードできるようになっている。ウェブ上のテキストコンテンツではなくPDFという形式で提供されているのは、顧客である飲食店の店頭オペレーションでの使いやすさへの配慮と考えられる。つまり、印刷したりタブレット上で閲覧することを意識した形式となっているのではないだろうか。
この淹れ方ガイドで注目すべき点は、顧客である飲食店の売上拡大(=クライアントニーズ)と、自社の受注拡大(=ビジネスゴール)の両輪を満たす設計になっていることだ。Intelligentsia Coffeeが提供する豆とノウハウを活かして、顧客が美味しいコーヒーを提供できるようになれば、その先にいる一般消費者の満足感をも生み出し、結果として顧客への好評価や売上アップにつながる。そうなれば飲食店でのコーヒー豆に対するニーズが安定して発生するようになり、継続受注や受注拡大という自社の成功にもつながるのだ。この考え方はウェブ上でのコンテンツを超え、対面でのトレーニングとしても展開されている。例えば、直営カフェでスタッフ向けに提供しているトレーニングに卸先の飲食店スタッフも参加できるようにしていたり、必要に応じて顧客の店舗に出張トレーニングを提供したりと、BtoB向けのサポートにも力を入れている。顧客のビジネスの成功を手伝うことが自社のビジネスの成功にもつながる、素晴らしい仕組みだといえるだろう。
ノウハウを学びながら、自然と自社サービス体験ができる…動画配信プラットフォームWistia
次に紹介するのは動画配信プラットフォームのWistia。業界の中では無料動画配信プラットフォームであるYouTubeなどがよく使われているが、Wistiaはビジネスユースに特化しており、企業がマーケティング活動の一環として動画を配信する際に活用できる仕組みを提供している。
Wistiaのサービスの特徴は、4つの料金コースを設けていることだ。基本機能だけの無料コースのFree、Freeよりもたくさんの動画をアップできるProfessional、データ解析やマーケティング機能も利用可能なBusinessとHigh Volumeが用意されている。当然、Wistiaが企業として達成すべきは有料サービス利用者の獲得と継続利用による売上拡大だ。そのための戦略的なコンテンツとして展開しているのは、“ユーザー企業の動画利用を促進させる”という点にフォーカスしたコンテンツである。
サイト内にあるLibraryでは、数多くのハウツー動画が用意されており、動画の効果をより高め、ユーザー企業のマーケティングに貢献するノウハウが充実。大きなカテゴリとしては、「Video Gear(機材の使い方)」「Production(動画の作り方)」「Concepting(企画の考え方)」「Strategy(動画マーケティングの実践法)」という4種が用意されており、それぞれに具体的なノウハウを学べるコンテンツが格納されている。
例えば、「Video Gear(機材の使い方)」カテゴリであれば、「DIY Office Video Studio(オフィスに手作りスタジオを用意するDIY術)」というコンテンツや「Choosing a Microphone(マイクの選び方)」など、「Concepting(企画の考え方)」カテゴリであれば「Wistia’s Scripting Tips(スクリプト作成のコツ)」、「Strategy(動画マーケティングの実践法)」カテゴリでは「Guide to Video Metrics(動画の効果測定方法)」など、各カテゴリにおいて多様なハウツーが学べるようになっている。
そして注目すべきは、そのコンテンツ形態。これらのハウツー動画は自社のプラットフォーム上で配信されているため、ターゲットはノウハウを学びながら自然と同社が持つ動画プラットフォームのクオリティやユーザビリティを学べるようになっているのだ。
この他にも、動画素材のヒントや動画編集のひと工夫などが投稿されているブログ、企業の広報担当者とWistia社員が意見交換をしたり、困りごと解決を行ったりできるコミュニティページなども充実しており、ターゲットが「学びの場」として活用できるサイト設計になっている。まさにターゲットを「啓蒙」し収益につなげる機会を作り出すことを軸としたコンテンツ戦略なのだ。
Wistiaのコンテンツは、企業の動画制作・配信担当者にターゲットを絞ってコンテンツが設計されている。採算度外視で動画のクオリティを追求するようなアート寄りの制作者ではなく、限られた予算とリソースの中で成果を上げることを求められるマーケティング担当者を対象に絞り込んでいるのだ。動画自体の制作コストを下げるノウハウを提供すると、同時に「やってみたい」「挑戦してみたい」というモチベーションを高めることを、コンテンツを通して実現していると言えるだろう。
今すぐハンズオンで取り組めるようなハウツー動画を提供することで、ユーザー企業はコストをかけずに自社で動画制作を行えるようになる。そうなれば制作する本数は自然と増えることが推測される。しかし無料コースでは配信できる動画本数に限りがあるため、ここで有料コースにアップセルする可能性が生まれる。このように、コンテンツを使ってターゲットを啓蒙することで、いかに売上というビジネスゴールに導いていくかを考えることこそ、“戦略的”なマーケティングアプローチだと言えるだろう。
企業理念はユーザーニーズを起点とするコンテンツに内包させ、間口を拡大…Whole Foods Market
Whole Foods Marketは食の安全性や産地の環境保全などへの取り組みに力を入れている企業であり、オーガニックフード、ベジタリアンフードなどの幅広い品揃えを誇る“こだわり派”の店舗を展開している。
Whole Foods社が運営するサイトでは、スーパーで買い物をする消費者にうれしい様々なお役立ち情報が充実している。代表的なものが、「レシピ集」。ダイエットを心がけている人向け・子ども向けなどのターゲット別レシピ、一週間の献立プラン、節約メニュー……切り口豊かにブログ形式で展開されている。
また、食材の栄養素・選び方・調理のコツなどが学べる記事、調理のテクニックや手順が学べる動画など、消費者にとって、今すぐ試してみたくなるコンテンツも充実している。
さらに、バレンタインなどのシーズンイベントを絡めた商品やレシピの提案なども頻繁にアップデートされており、日々の情報収集を楽しく行えるコンテンツ設計になっている。
Whole Foods社のコンテンツ戦略で注目すべきはターゲット設定だ。以前は主にエコやオーガニックに関心を持つ人をターゲットとして、自社の目指すカルチャーを伝え、共感してもらうようなコンテンツを打ち出していた。
しかし、共感度の高いニッチなターゲット層に絞ったコンテンツ展開だと、Whole Foods者のそれ以外の多くの消費者には、“ちょっとお高い”イメージだけが先行して伝わってしまっているという可能性もある。そこで、より幅広い層に身近に感じてもらうことも重視し、日用的・実用的なコンテンツ展開に戦略の方向転換をしたことが伺える。
とはいえ、ブランドバリューとしてエコや自然派というところを排してしまうと、競合との差別化がしづらくなってしまうことも否めない。そこで彼らはエコやオーガニックに関する情報を全て排除してしまうのでなく、実用的なコンテンツの中に食の安全性やエコへの取り組みに対する姿勢をバランスよく織り交ぜている。ターゲットの生活に寄り添いながら、彼らが提案するライフスタイルやフードカルチャーの情報も少しずつ提供していくことで、ブランドが大切にしている価値観を浸透させていくという姿勢にも注目したい。ターゲットニーズと企業理念をうまく融合させたコンテンツ展開の好事例だと言えるだろう。
「ターゲットにどういうコンテンツが喜ばれるか」というアプローチだけでコンテンツマーケティングを考えようとすると、必ずしも成功するとは言いがたい。なぜならば、何のためのコンテンツなのかがぼやけてしまい、企画・制作段階で迷走してしまったり、後々の評価軸が曖昧になったりしてしまうことにもつながるからだ。
成果を生むコンテンツマーケティングのための第一歩は、ビジネス全体のゴールをしっかり理解することだ。その上で、ゴール達成を支援するためのマーケティング活動の中で、コンテンツにどのような働きをさせるのか――それが明確になりさえすれば、ターゲットと適切なアプローチ方法はおのずと導き出されるはずだ。今回紹介した3事例を参考に、“戦略的なコンテンツマーケティング”の実践にチャレンジしてほしい。
執筆:隠岐由起子
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Intelligentsia Coffeeの事例で注目したいのは、包括的にブランドの価値を発信し各々の顧客を育成していくというビジネスゴールに沿ったマーケティングアプローチだ。BtoC向けのコンテンツとしては、一般消費者の心を掴みファン化させていくためのブログやアプリケーション。BtoB(飲食店など卸先)向けのコンテンツとしては、顧客を育成し、さらなる受注につなげていくためのハウツーの提供。どちらのターゲットニーズも大切にし、適切なコンテンツ戦略、効果的なコンテンツ企画・配置を実践している。
特にBtoBでは、コンテンツの役割を「取引先の売上拡大」に設定し、“啓蒙”に力を入れた内容となっている点に学びたい。取引先の売上が自社の売上に直結するというビジネスの大きな流れが、しっかりと戦略に反映されている好事例だ。卸業の売上アップのためには、客先である飲食店でよりたくさんの人にコーヒーを注文してもらうことが必要であり、そのためには良質のコーヒー豆だけでなく、良質の淹れ方を提供することが不可欠だというポイントがしっかりと押さえられている。