インターネットが登場したことで、誰もが情報を発信できる時代になったとよくいわれる。けれども発信した情報を多くの読者に届けられる人は少ない。個人や会社でブログを始めたものの、全く反応がないままやめてしまった経験を持つ人も少なくないだろう。
ネットでの情報発信にありがちなこうした失敗の原因は何なのか?もちろんコンテンツが面白ければ、より多くの人に読まれやすくはなる。しかしコンテンツが面白ければ必ず広がるというわけでもない。
今回紹介する書籍「The Content Code」では、作ったコンテンツを広めるための戦略やノウハウが語られている。
著者のマーク・シェーファー氏は、ソーシャルメディアやコンテンツマーケティングの専門家としてアメリカで著名な人物だ。
「コンテンツは王様」というスローガンが声高に叫ばれてきたコンテンツマーケティング業界に対して、シェーファー氏は一石を投じるつもりで本書を執筆したという。
コンテンツは、それ自体に価値があるように思いがちだが、多くの人に語られ、話題になることで、はじめて価値が生まれるという考えだ。
とはいえコンテンツを広める努力が必要だという主張は、当たり前の話だ。すでに関心の高いトピックだから、SNSでのシェアやSEOに関するノウハウ情報は無数にある。シェーファー氏自身も、この主張自体は特別でないと認めている。
シェーファー氏が強調するこの書籍の特長は、あちこちに散らばっている断片的なノウハウを一つに束ねて整理した点だ。コンテンツを広めるにあたって必要な要素を6か条にまとめたのだ。
この6か条にはSNSでの拡散とSEOのノウハウの両方が含まれている。1~4がSNS関連、5~6がSEO関連だ。ただソーシャルメディアマーケティングの専門家であるシェーファー氏が、最も重視する手段はSNS。本書の大部分を割いてその重要性を強調している。
SNS関連の4か条の考え方はこうだ。
1つ目の「Shareability」では、よりシェアされやすいコンテンツを作るための考え方を説明。
次の「Audience and Influencer」では、さらにシェアを加速させるために、ファンのような協力者を増やすほか、インフルエンサーの力を借りる重要性を説いている。
3つ目の「Brand Development」は、コンテンツの投稿者自身の価値をさらに高めることによって、シェアを促す考えだ。この段階になると、人々がシェアする理由は「コンテンツが面白いから」だけでなく、「誰々のコンテンツだから」という場合も出てくる。
SNS関連として最後の「Social proof and social signals」では、上記までの活動によって得られたソーシャル上での信用や権威を活用する方法について触れている。
シェアの原動力は人間の感情だ。SEOのように機械的な仕組みではない。だからシェアされやすいコンテンツを作るには、コンテンツに触れた人間の心理をある程度理解する必要がある。
こう考えるシェーファー氏は、どのような経緯で6か条をまとめるに至ったのか?またシェアされやすいコンテンツについてどう説明しているのだろうか?もう少し詳しくみていこう。
今でこそ経済紙Forbesによって「影響力のあるソーシャルマーケター50人」の一人にも選ばれるほど著名なシェーファー氏だが、ブロガーとして駆け出しだった数年前は壁に突き当たっていたという。
「ブログを始めた頃は、思い通りにいかないことばかりだった。自分の記事は面白いと自負していたが、読者からの反応は全くといっていいほどなかった。私のブログはネットの片隅にある寂しい存在だった」(シェーファー氏)。
オリジナルで質が高いと確信する自分の記事が読まれない。その理由が分からず頭を抱えていたシェーファー氏は、2010年に著名なソーシャルマーケターであるクリス・ブローガン氏が書いたブログ記事を読んで衝撃を受けることになる。
渾身の力を込めて書いたシェーファー氏の記事には反応がなかった一方で、ブローガン氏は、以下のようなわずか数行の文章でバイラルを起こしたのだ。
If you are going to speak to people, speak to(or even better with) them. Don’t look at your slides, read your slides, and tell me what’s on your slides. I know how to read. Stop it. Okay?
プレゼンをするときは、観衆のほうを向いて話すべきだ。スライドに目をやったり読み上げたり、内容を説明する必要はない。スライドを読むだけなら自分でできる。
なぜこのような短い文章で拡散に成功したのか?まだ自分が気づいていない、何か拡散を促す秘訣があるのではないか?このような疑問と向き合ったシェーファー氏は、最終的に次のような結論にたどり着いた。
質の高いコンテンツを作ることは、あくまで出発点に過ぎない。作ったコンテンツがSNSでのシェアやSEOなどを通じて広まった結果、自身に協力してくれるファンが増える、さらには自分の名前にブランド力がつくことなどによって、はじめて成果につなげることができる。
そのためのノウハウとして、シェーファー氏は先に紹介した6か条を「Content Code」(コンテンツの約束事)としてまとめた。
シェーファー氏によると、先に紹介したブローガン氏の記事が拡散された要因は、3つ目にある「ヒーロー的なブランド」だ。
ソーシャルメディアに関する書籍やコンサルティングなどによって、当時すでに広く名が知られていたブローガン氏は、自身のパーソナルブランドを確立していた。そのため「ブローガン氏のコンテンツだから」というだけで価値を感じてくれる読者が多くいたのだ。
ブローガン氏ほどのブランド力があれば、もはや「自動でシェアされる」に近い状態になる。しかしそこまでの知名度やブランドがない状態で、コンテンツを拡散してもらうためには、それ相応のメリットを提供しなくてはならない。
そのための第一歩となるノウハウが、シェーファー氏が1つ目に挙げた「Shareability」だ。
シェアされやすいコンテンツとは、必ずしも質が高い必要はないが、人々が思わずシェアしたくなるような要素を備えている必要があるという。それがシェーファー氏のいう「Shareability」を備えたコンテンツだ。
それでは人々がSNSでコンテンツをシェアする際、そこにはどのような動機があるのだろうか?シェーファー氏が引用したニューヨークタイムズ実施の調査によると、5つの要素があるという。
情報に価値があり、面白いからというのがコンテンツをシェアする一番の理由。94%の回答者が、受け手にとって情報が有益かどうかを考えてから情報をシェアすると答えている。
68%の回答者が、自分が他人に思われたい自分を形成できるかどうかを考えてシェアしていると答えている。他人から見られたい自分に有利な情報のみシェアするということになる。
78%の回答者が、知人との関係性を維持するために情報をシェアすると答えている。
69%の回答者が、情報をシェアすることにより、自分が世界に属していることを実感できると答えている。シェアした情報にコメントをもらったり、さらにシェアしてもらったりすると自分が貴重な存在であると認められたような気がすると答えている。
84%の回答者が、自分の主義主張を示すために情報をシェアすると答えている。
コンテンツのシェアという行為の裏側には、情報の共有という直接的な動機だけでなく、「他人からクールで賢くみられたい」「自分がこういう考えの人間だとアピールしたい」といった個人のエゴが潜んでいることが改めて分かる調査結果だ。
さらに同資料では、コンテンツをシェアする人物像を6つのタイプに分類している。こちらもシェアを促す施策づくりの参考になるだろう。
「栄養や健康に関する記事を友達に送ります。感謝のメールが返ってくると嬉しくなります」。
「ビジネスに関する情報をシェアします。顧客に提供する価値を改善するためのアイデアについて意見を交わし合うこともあります」。
「最新の情報をシェアするのは生活の一部です。先進的でクリエイティブに見られたいと思います」。
「議論を呼ぶような情報をシェアします。挑発的に見られたいと思うし、もし反応が無かったら残念に思います」。
「ホテルのバーの優待券をもらったので、それを沢山の友達に転送して女子会を開催しました。こんな風に人々を結びつけるのが得意です」。
「その情報によって喜ぶ特定の誰かが思い浮かんだ時にだけ情報をシェアします」。
シェーファー氏の言葉を借りれば、人がシェアするかどうかを判断する基準はコンテンツの良し悪しだけではない。コンテンツとそれをシェアする個人、さらにそれらを取り巻く周囲の人々をも含めた関係性が大きく影響するということだ。
シェーファー氏が紹介した別の調査によると、SNSで人々が話す内容の半分は「自分」に関するものだという。
だとすれば読者の話題に入り込むためには、彼らの自己表現を何らかの形で手助けできるコンテンツが重要になりそうだ。