CONTENT MARKETING LAB

いまアメリカで注目される「インテリジェントコンテンツ」とはどんな考え方か?

作成者: CML|Apr 4, 2016 7:17:00 AM

カタログなど紙媒体用につくったコンテンツをWebに展開することになったものの、どうもうまくいかない…という苦い経験を持つマーケターも多いのではないだろうか。ターゲットのニーズに合わせて有益な情報を送り分けることを重視するコンテンツマーケティングにおいて、ターゲットが受け取りやすい形でコンテンツを発信することは非常に重要だ。そのためには、先行して作ったコンテンツをいちど分解し、媒体やデバイスごとに再構築していくのが現状の主流といえるのではないだろうか。しかし、この再構築には時間と手間がかかってしまい、スムーズなコンテンツ展開の妨げになる、という問題も孕んでいるのも事実だ。

そこで、このコンテンツの“つくり方”の発想自体を変えよう、と問題提起するのが今回紹介する「インテリジェントコンテンツ」という考え方だ。「インテリジェントコンテンツ」とは、コンテンツの受け取り方が多様化し今まで以上にいろいろなデバイスや媒体で消費されるようになった現状に対応するためのフレキシブルなコンテンツづくりの考え方である。

アメリカでは非常に注目度が高まっており、2015年9月に開催された世界最大級のコンテンツマーケティングイベントContent Marketing Worldでもセッションの一つとしてこの考え方が取り上げられていた。今回はこのセッション「Creating Digital Content Factory:Getting Started with Intelligent Content(デジタルコンテンツ組み立て工場を立ち上げ、インテリジェントコンテンツをはじめよう)」と題するセッションの内容をレポートする。

講師を務めるのはScott Abel氏。彼はコンテンツ運営を手がけるThe Content Wrangler社の社長であり、2015年9月に出版された入門書“Intelligent Content: A Primer”の共著者でもある。

開催されたセッションの模様より。講師のScott氏には元クラブDJというユニークな経歴も持つ。

苦労が絶えない制作現場を救う!「コンテンツ組み立て工場」とは?

まずScott氏はGleanster社が実施したB2B業界を対象とした調査のデータを引き合いに出しながら、いかにコンテンツマーケティングに取り組む多くの組織が問題を抱えているか示した。データのタイトルは「コンテンツマーケティングの取り組みにおいて、もっと効率化したいこと」。このデータにおいて注目するべきは上位を占めているほとんどが戦略面ではなく、実務面の課題である点だ。

Gleanster社のデータ。もっと効率化したいこととして92%が締め切りに間に合わせるためのタスク調整、90%がコンテンツ制作、81%が制作チームの人員調整、を挙げている。

Scott氏は投資した時間とコストの25%が無駄になっているのではないか、と問題提起を行ったうえで、その解決方法として「Content Factory(コンテンツ組み立て工場)」という考え方を提案した。「Content Factory(コンテンツ組み立て工場)」とは一つのコンテンツをあらかじめ目的をもたせたパーツに分解・分類しておき、媒体やデバイスなどに応じて自動的に組み合わせて瞬時に再構築できる仕組み(=組み立て工場)だという。この仕組みにより各々のコンテンツが様々な用途に応じて自動的に組み替えられ、デバイスごとのコンテンツ再編集が効率化できるというわけだ。こういった最適化の時間を短縮することができれば、新たなコンテンツ制作にその分のリソースを注ぐことができるという。

ただし、”Content Factory”の仕組みをつくるには、今までとまったく異なる考え方が必要だとScott氏は強調する。コンテンツを構成する各“部品”をコンピュータが正しく理解して適切に再構成できるように、あらかじめ全部品の意味を定義づけし直すこと、きっちりと分類しておくことが重要だという。この考え方こそインテリジェントコンテンツである。

インテリジェントコンテンツが持つ5大要素とは?

Scott氏は、インテリジェントコンテンツには次に挙げる5つの性質を備えている必要があると定義している。

1.Modular Content:コンテンツが部品化されていること

コンテンツを構成する各要素が、再構成の際に「部品」として使えるよう、汎用性つまり使い回しやすいよう整理されていることが重要だという。たとえばあるコンテンツをベースに別のコンテンツを開発しなくてはならない場合、基本的な作業がこの「部品」を組み合わることになるので、それぞれの作業における効率が向上するといえるだろう。

ホワイトペーパーを開発する場合でも図のようにコンテンツを構成するパーツを「部品」としてきっちり分類しておくことが、制作時間とコストを大幅に削減する第一歩になる。(以下図はコンテンツマーケティングラボによる補足)

2.Structured Content:コンテンツが構造化されていること

部品化された一つひとつのコンテンツ要素が、コンピュータが情報を理解し正しく再構成できるように、たとえば「商品名」「商品画像」「短い商品概要」「企業ロゴ」など情報同士の関係が構造化されていることが重要だ。各部品について、何について述べられたものなのか、どういう結果を期待したものなのか、その部品に関連性のあるものが他にあるかどうか。そういった情報を整理して構造化しておくことが正しい再構成の鍵となる。

この講師のいう「構造化」のメリットについてコンテンツマーケティングラボが補足しよう。具体的に商品を紹介するホワイトペーパーをベースにしながらケーススタディWebコンテンツを開発する場合で考えてみる。ホワイトペーパーの場合、コンテンツの冒頭に商品名やその写真、概要情報などがあって然るべきだが、ケーススタディの場合は商品情報よりも商品によって得られたベネフィットを読み手は知りたがっていると考えるのが自然だ。そのためホワイトペーパーとケーススタディのコンテンツ構成は異なる。このようにたとえ構成が異なるコンテンツへ再構築する場合でも、コンテンツを構成する一つひとつの部品についてどういったカテゴリに分類されるものなのかを整理しておくことで正しく、そして効率的に再構成することができるようになるのだ。

ホワイトペーパーとケーススタディではコンテンツの構成が異なる

3.Reusable Content:既存コンテンツが利用しやすいつくりであること

デバイスに合わせた新たなコンテンツづくりのために、既存コンテンツが再利用しやすい構造になっていることも重要だ。コンテンツ再利用の手法としては「手作業でのコピー&ペースト」が一般的だが、ペーストする場所を間違えるなどの初歩的なミスの可能性がある上、情報のアップデートが煩雑になったり、情報ソースを忘れてしまったりということもあり、良い方法だとは言えない、とScott氏は指摘する。

そこでおすすめしている方法が「Automated Reuse (自動引用)」だ。引用元となるコンテンツを一箇所に格納しておき、引用先のコンテンツからも参照できる設計にしておくのだ。そうすることで引用元が一元化され最新情報へのアップデートの手間もかからない。

自動引用の基本的な考え方。Webやソフトウェア開発業界などでいう「Transclusion(トランスクルージョン)」と同じ考え方だという。

4.Format Free Content:フォーマットの順応性が高いこと

Webページをワードファイルにそのままコピー&ペーストしようとしたのに、フォントの色が変わってしまったり、フォーマットが崩れてしまったり……という経験はないだろうか。その原因は、画面上表示されないデータがあり、それがそのままコピーされてしまうためだ。表示をコントロールする情報は私たちには見えないが、コンピュータには見えている。コンピュータの力を借りて自動的にコンテンツの部品を組み立てるためには、こういった「人間の目に見えない部分」にも配慮しておく必要があるのだ。

どんなフォーマットになっても正しい表示スタイルでアウトプットされるシンプルなものにしておくため、各々の部品に不要なタグが付いていないかをチェックしておくことも大切な要素となる。

5.Semantically Rich:“意味優先”のタグがつけられていること

“4.Format Free Content”では、デバイスごとのアウトプットへの汎用性を持たせておくために「不要な情報を取り除くこと」に触れたが、一方でむしろ加えておきたい情報もあるという。それは、部品ごとにそれぞれが持つ“意味”を正しく理解した上での定義付けだ。ありきたりなタグを使い回したり、表面的な言葉でタグを設定したりするのではなく、コンテンツの文脈を理解した上で真の意味・意図を定義付けすることが重要だという。そうすれば、コンピュータがデバイスに合わせて既存コンテンツを適切に抽出しやすくなる上、マーケターがどのようなコンテンツに再編集するか考える際のヒントにもなりうる。

例えば医薬品業界の場合、働きかけるべきターゲットは「消費者」とは呼ばれない。医師とするのが一般的だ。このように商材や業界によって部品名は多様に変化する。だからこそ、一般的な「言葉」ではなく、その業界背景から「意味」で考え、しっかりと分類しておくことが重要だ、と語った。

1つのソースを5つの媒体に展開!~Scott氏の著書におけるインテリジェントコンテンツ事例より

セッションではインテリジェントコンテンツの実例としてScott氏の著書「The Language of Content Strategy(コンテンツ戦略における言語とは)」のケースを紹介していた。同氏はこの著書において書籍・eBook・Web・フラッシュカード(情報カード) ・オーディオブック(音声媒体)の5媒体での展開を成功させたのだ。ではどのようにインテリジェントコンテンツの手法を実践したのだろうか。氏のスライドをベースにそのプロセスを紹介しよう。

1.コンテンツを要素に分けて整理する

まずは原型となるコンテンツづくりだ。「テーマ」や「概要」、「著者紹介」といった“部品”に分けるため、構造を整理して情報を割り振っていく。

発信するコンテンツを「時期」「定義」「一番主張したいこと」「ボディーコピー部分」「外部リンク」「著者」「著者紹介」…など細かな項目に分け、情報を整理していく。この作業により、“規格化された部品”づくりが可能になる。

2.媒体ごとに必要な要素を洗い出す

どの媒体でどの部品を使えばいいのか、コンテンツの再利用マップをつくり整理する。Webでは全情報を網羅するが、書籍では外部リンクは不要、フラッシュカードは概要のみ……など、媒体の特性を考慮しながら取捨選択をするのだ。

必要な媒体をピックアップし、それぞれの媒体に必要な部品を抽出していく。情報掲載量の少ないフラッシュカードは要点だけにする、「書籍」よりも「eBook」の情報を充実させコンバージョンを狙うなど、媒体の特性を考えて一覧化していくことが重要だ。

3.媒体ごとの要素の配置を決める

媒体ごとにコンテンツの流れを決める。あとは部品を設定した流れに従って配置していくことで、各媒体への再構築が完了する。

読みやすさを考慮しながら、媒体ごとに部品の配置関係を設定していく。適切な配置を決めるのには時間と手間がかかるかもしれないが、一度決めてしまえばそれ以降の展開は非常にスピーディだ。

こうして作られたコンテンツの展開例

書籍の場合

コンテンツをわかりやすく配置し、テキストを中心とした部品で構成している。

eBookの場合

書籍の内容をそのまま移植するのではなくタブレットやスマホといったデバイスでの読みやすさを考慮し、上から下へとスムーズに読み進めていけるようなシンプルな構成に。

Webへの展開の場合

ほぼすべての部品を網羅した充実したコンテンツ展開。動画や自動引用など、インタラクティブな仕掛けを組み込めるのもWebサイトの特徴だ。

オーディオブックの展開(スクリプト)の場合

音声データのみで構成されたコンテンツ。単に他デバイスのコンテンツを音声データに変換して並べるのではなく、「今から何について説明するか」を明確にすることで聞き手側がストレスを感じにくい設計になっている。

フラッシュカードの場合

端的に情報の核となる部分を伝えなくてはならないフラッシュカードは、コンテンツ部品を厳選し、シンプルな構成になっている。

こうしたインテリジェントコンテンツによるマルチデバイス展開も、決してワンソース・マルチデバイス自体がゴールだったわけではない、とScott氏は強調する。「情報ニーズのある人に、適切な形で情報を発信し分ける」というコンテンツマーケティングの本来の目的を追求する中で実現したものだ、と語る。実際に上記で紹介した事例は、もともとはあるカンファレンスで紹介されたものだったが、参加できなかった人にも情報を届ける方法としてWebやeBook化し、さらに視覚障害のある人のためにオーディオブック(音声媒体)へと展開したのだと言う。

最後にセッション会場ではScott氏と名刺交換をした人に“Intelligent Content: Primer”という同氏の著書がプレゼントされた。コンテンツマーケティングラボ編集部も後になって気付いたのだが、セッション会場で配布されたこの書籍と実際に書店で販売されている書籍とでは内容や構成が若干異なっていた。印刷物にもデジタル同様インテリジェントコンテンツの考え方が息づいていることをうかがわせる好例といえるだろう。

名刺交換することでプレゼントされたされた書籍(左)と現在販売されている書籍(右)。プレゼントされた書籍の表紙には「特別版」のマークがあり、後日発売された通常版とは内容も少し違ったものになっている。