1月以降、アメリカのコンテンツマーケティング界隈で、話題となっている“Content Shock”論争を紹介する今回のシリーズ。3本の記事を通じて、“Content Shock”論の紹介と、それに対する反響、問題を乗り越えるための戦略をお伝えする。1回目の今回は、賛否両論を巻き起こしている”Content Shock”論の内容を紹介する。
2014年の年明け早々、「コンテンツマーケティングは、そのうち効果が薄れるのではないか?」という爆弾発言がコンテンツマーケティング界を騒がせた。これまで何度も「コンテンツマーケティングの死」が語られてきたが、その多くが外野からのものであったため、それほど話題にはならなかった。だが今回は著名なコンテンツマーケターからの発言であったために、その影響力は大きかった。
投稿主はMark Schaefer氏。彼が発信するブログは英語圏のマーケティングブログのランキング「Power 150」に選出されているほか、2012年には経済誌Forbesによる「影響力のあるソーシャルマーケター50人」にも選ばれた経歴を持つ。加えて”Content Marketing World Sydney”にスピーカーとして名を連ねるなど、コンテンツマーケティング業界でも高い知名度を誇る人物だ。
彼がブログの中で、定義した”Content Shock”とはこうだ。
The emerging marketing epoch defined when exponentially increasing volumes of content intersect our limited human capacity to consume it.
「”Content Shock”とは、急激に増加するコンテンツ量が、人々の消費できる量を超える現象が発生するような、マーケティングが困難に直面し、それを克服しないといけない時代」
Schaefer氏は定義をさらにブレークダウンしてこう続ける。
Of course the volume of free content is exploding at a ridiculous rate. Depending on what study you read, the amount of available web-based content(the supply) is doubling every 9 to 24 months. Unimaginable, really
「無料のコンテンツは、驚異的なペースで増えている。いくつかの調査結果によると、インターネット上のコンテンツは、9~24カ月ごとに倍増しているという。もはや想像できる範囲を超えている」
However, our ability to consume that content (the demand) is finite. There are only so many hours in a day and even if we consume content while we eat, work and drive, there is a theoretical and inviolable limit to consumption, which we are now approaching.
「しかしコンテンツを消費できる我々の能力は限られている。たとえ食事や働いている最中、そして運転中にもコンテンツを消費できるとしても、消費に割ける時間には限りがある。
This intersection of finite content consumption and rising content availability will create a tremor I call The Content Shock.
「増え続けるコンテンツが人々の消費能力を超えた時に、"Content Shock"と呼ばれる問題が発生する」
Schaefer氏の唱える”Content Shock”説のバックボーンとなるのが、経済学でおなじみの需要ショック、供給ショックの概念だ。増え続けるコンテンツが、人々の消費できる量を超えた時に“Content Shock”が発生するのだ。
それではコンテンツの量が消費できる量を超えるとコンテンツマーケティングにどのような影響を及ぼし、Content Shockが起こるとSchaefer氏は考えているのだろうか?Schaefer氏は以下3つの論点を挙げている。
「(1)資金力のある大手企業が有利になる」に関しては、Schaefer氏は以下のように語っている。
「コンテンツ制作にお金をかけることが難しい企業が、消費者のマインドシェアから締め出されるだろう」。
一例として挙げたのはYouTube。5年ほど前までは、素人が作成した簡素な作りの動画でもPVを稼ぐことができていた。しかし今では人気動画の多くは、大手ブランドが制作した質の高い映像や音楽のプロモーションビデオが占めていると分析している。
続いて「新規企業による参入が難しくなる」とはどういう事だろうか。端的にいえば、多くの業界において、新しくコンテンツマーケティングを始める企業に対する参入障壁が上がることを指す。
「例えば2009年の時点では、コンテンツマーケティングを実践している企業が少なかったため、ブログで一定の読者を獲得することは今ほど難しいことではなかった。しかし競争が激しくなった現在では、資金力のない中小企業にとって特に不利な環境になっている」
なぜならば、質の高いコンテンツを大量に作るためのコストが上がっているだけでなく、検索結果画面で上位表示するための競争が激しくなるなど、コンテンツへの集客も困難になっているためだ。
続いて「費用対効果が悪化する」についてみてみよう。これはこれまで言及してきたように消費者に受け入れられるコンテンツを作成するためのコストが増加していることから、いつかはコンテンツマーケティングを実践するためのコストが、利益を上回る事態が発生するのではと懸念を示している。
「私の時間の価値が1時間当たり100ドルだったとする。2009年ではコンテンツ作成にかかる時間は1週間につき約5時間だったとすると、お金に換算して500ドルだったことになる。しかし時間をかけてより質の高いコンテンツを作る必要がある今では、それが1500ドルに跳ね上がっている。もしかしたら来年には3000ドルに増えるかもしれない。読者を維持するためのコストが増えている。私や多くの業界にとって、コストが成果に見合わなくなる日がいつか来るだろう」。
コンテンツマーケティングのコストが増すということは、施策の採算性をよりシビアに考える必要性が増すということだろう。設定した目的を達成するためのコストや、それによってもたらされる利益を事前に検討するなど、より戦略的な思考が求められることになりそうだ。
今回紹介したSchaefer氏の“Content Shock”論は、コンテンツマーケティング業界で衝撃をもって受け止められた。同氏の記事にはコメントが殺到しただけでなく、著名なコンテンツマーケターらをも巻き込んで、賛否両論の声が沸き上がる事態に発展したのだ。次回はコンテンツマーケティングの第一人者であるJoe Pulizzi氏をはじめ、各所から寄せられた賛否の声を紹介する予定だ。また3回目では、“Content Shock”への対応策として、Schaefer氏が示した戦略を紹介する。