読者に信頼される質の高いコンテンツを自社だけで作ることは簡単ではない。コンテンツマーケティングに取り組む多くの企業が感じる課題だ。Content Marketing InstituteによるBtoB企業を対象にしたある調査によると、47%の企業がコンテンツマーケティングに取り組む上での課題として、「信頼されるコンテンツを作ること」を挙げている。
この課題を克服するための手法の一つとして、アメリカのウェブマーケティング企業TopRank Online Marketing社を率いるLee Odden氏は、特定の分野で影響力のあるインフルエンサーを活用することを提案する。インフルエンサーとは具体的にどのような人物を指すのか?インフルエンサーを活用した施策とはどのようなものなのか?9月にアメリカのオハイオ州で開かれたContent Marketing World(CMW)にて、同氏が語った内容を紹介する。
2001年に創業したTopRank社は、コンテンツマーケティングやソーシャルメディアマーケティング、SEOなどを手掛けている。社員数20数人の小さな企業だが、これまでにHewlett-Packard社やDell社、LinkedIn社をはじめとする大手企業のコンサルティングを手掛けてきた。またForbesやThe Wall Street Journal、The New York Timesをはじめとする数多くの大手メディアに取り上げられるなど、コンテンツマーケティング業界では著名な存在だ。
CMWでのスピーチの冒頭でOdden氏は、情報量の増大によってコンテンツ間の競争が激しくなっている現状を指摘した。同氏は、世界のデータ量の90%は過去2年以内に作られたとする調査結果(IBM社)や、Fortune500社のうち、自社ブログに取り組む割合は30%以上に上るとするデータ(米マサチューセッツ・ダートマス大学)を紹介した。
「このような競争に勝ち残るために、コンテンツマーケティングに取り組む企業は信頼されるコンテンツを作る必要がある」と同氏は主張する。Nielsen社による消費者調査でも、「商品購入の際に信頼できるコンテンツを参考にしたい」との回答率は85%に上るという。
信頼されるコンテンツを作る手段として、同氏はインフルエンサー(影響力のある人物)の協力を得ることが効果的だと指摘する。特定の業界で影響力のあるインフルエンサーとタッグを組んでコンテンツを作ることで、自社の影響力を高めることができるという。
Odden氏が定義するインフルエンサーとは、「特定の分野の疑問に明確な答えを出すことができるほか、話題となるトピックを自ら生み出せる人物」。インフルエンサー施策のポイントは、彼らから得た情報の断片を集めてコンテンツを作り、様々なチャネルに流し込むことだ。例えば集めた情報を使ってebookやブログなどのまとまったコンテンツを作成するだけでなく、その一部分をSNSに投稿するなどして活用する。この手法をOdden氏は「Modular Approach」と呼ぶ。その事例や手法の詳細については、次章以降で紹介していく。
TopRank社が手掛けたインフルエンサー施策の事例として、Odden氏はCMWの例を紹介した。
毎年アメリカのオハイオ州クリーブランドとオーストラリアのシドニーで開かれるCMWは、コンテンツマーケティング関連のイベントでは世界最大級の規模を誇る。TopRank社は、過去数年にわたってこのCMWのプロモーションを手掛けてきた。
CMWの主催者は2012年、来場者を増やす目的でイベントの周知をTopRank社に依頼した。そこで同社が取り組んだのがインフルエンサー施策だ。「イベントに登壇するスピーカーたちが持つノウハウをまとめたコンテンツを作った。当日話される内容の予告編として読んでもらうことで、来場を促すことができると考えた」(Odden氏)という。
この施策において、同社は4種類のebookを作成した。それぞれのebookは、「コンテンツストラテジーのつくり方」、「コンテンツマーケティングでROIを改善するには」など特定のトピックに絞った。これらのebookを作るにあたり、同社は計40人以上のスピーカー、すなわちコンテンツマーケティングにおける第一人者たちに対して、ノウハウの執筆を依頼した。そして集まったノウハウを一冊のebookにまとめたのだ。
以下の4冊がその際に制作されたebookになる。
コンテンツへの反響は大きかったという。「Slideshareへのアップからイベント初日までの数日間で、4万ビューも集まった。1万ビューでも難しいといわれるSlideshareでは非常に大きな数値だ」とOdden氏は成果をアピールする。
同氏によると、この手法の利点はノウハウを提供するインフルエンサーの負担が少なくてすむことだ。それぞれのebookのボリュームは約30ページに上るが、複数のインフルエンサーからのノウハウを集めたオムニバス形式であるため、一人が執筆する量は1、2ページにとどまる。忙しいインフルエンサーに執筆を依頼することは簡単ではないが、同手法によってハードルを下げることができるという。
CMWの事例に続いて、Odden氏はLinkedInからの依頼を受けて実施した取り組みを紹介した。従来のLinkedInはリクルーティングサイトとして認知されていた。しかし同社は企業がLinkedIn上でコンテンツを発信することで、ブランド認知やリード獲得を目的としたマーケティングプラットフォームとしても活用できると考えていた。
そこで依頼を受けたTopRank社は、マーケティング手段としてのLinkedInの活用法を解説したebookをLinkedIn社と共同で制作した。結果としてROIを2万%にまで改善できたというこの施策で、TopRank社はインフルエンサーを巻き込んだコンテンツ制作を担当した。LinkedInの活用法に詳しい8業種のマーケターたちにインタビューを実施した上で、ノウハウをまとめたのだ。
さらにebookとしてまとめたノウハウは、ウェビナー(ネット上で行われるウェブカンファレンス)やインフォグラフィック、ブログなど他のチャネルにも展開することで、さらなる拡散を図った。
Odden氏は、「コンテンツと読者がどのように接触するのか、どのチャネルや端末で消費されるのが適切なのか、さらに自社が望む行動を取ってもらうために必要なことをあらかじめ想定しなくてはならない。これはインフルエンサーに限らず、どんなマーケティング施策にも通じることだ」と語る。
次の章からは、Odden氏が語るインフルエンサーを活用したコンテンツ制作の各ステップを紹介していく。
まず施策に必要なインフルエンサーをリストアップする必要がある。その際に前提となる考え方としてOdden氏は、自社がどの分野でどのような認知・イメージを浸透させたいのかを明確にすることが必要だとした。そのようなゴールを設定することで、はじめて適切なインフルエンサーを選定することができるという。
求めるインフルエンサー像が明確になったら、実際に彼らを探すフェーズとなる。Odden氏は、インフルエンサーを探すのに役立つという「Traackr」「Buzzsumo」「Keyhole」という3つのツールを紹介した。
まず一つ目のツールとして、Odden氏はTraackrを取り上げた。Traackrの特長として、キーワードを打ち込むことで、関係のあるインフルエンサーを表示してくれる点を挙げた。インフルエンサーの選定は、SNS上での個人の影響力を数値で示してくれるサービスKloutのデータをもとにしているという。
さらに別の機能ではインフルエンサー同士のつながりを可視化できることから、彼らの間でコンテンツがどのように広まり得るかを予想することもできるとした。
続いてOdden氏はBazzsumoを紹介した。同ツールについては、キーワードを打ち込むことでインフルエンサーだけでなく、影響力のあるコンテンツも抽出できる点を特長とした。特定のトピックやドメインに関してSNSでのシェア数が多いものを表示してくれるのだ。
3つ目のKeyholeでは、キーワードだけでなくハッシュタグを入力することでTwitterやFacebook、Instagram上で関連のインフルエンサーやコンテンツを探すことができるとした。Odden氏は使い方の一例として、イベントやカンファレンスでの活用を挙げた。「直接会場を訪れなくても、イベントのハッシュタグを検索することで関連情報を探すことができる」(Odden氏)。
またインフルエンサーを探す際のポイントとして、Odden氏はインフルエンサーと単に人気がある人物を区別する必要性を強調した。インフルエンサーは、「特定の分野の疑問に明確な答えを出すことができるほか、人気のトピックを作ることができる人」。一方フォロワーやファンの数が多いだけの人は「ブランディビジュアル」(Brandividual)と呼び区別するという。しかしブランディビジュアルが必要ないわけではない。インフルエンサーが話題を作りだし、ブランディビジュアルが広めるという流れを作るために、インフルエンサーを8割、ブランディビジュアルを2割の割合で巻き込むのが理想だとした。
インフルエンサーを見つけた後は、彼らとの関係を深めることが重要だとした。そのための取り組みとして、Odden氏は次の6か条を挙げた。
働きかける相手はすでにインフルエンサーとしての地位を確立している著名な人物だけではないという。今は知名度がなくとも、今後影響力が高くなりそうなポテンシャルを持つ人物も視野に入れる必要があるとした。「すでにインフルエンサーになっている人物に働きかけるのも良いが、誰かをインフルエンサーに育てることができれば、彼らは自社に強い親しみを感じてくれるだろう」(Odden氏)。
彼らとの関係強化の一例として、Odden氏は自社であるTopRank社の取り組みを挙げた。同社は注目の女性ソーシャルメディアマーケターとして、“25 Women Who Rock Social Media”(ソーシャルメディアで活躍する女性25人)を2010年から毎年選出している。当初Odden氏自身の人脈から選定していたが、現在は他薦も含めて挙がってきたリストをもとに同社が選定しているという。
インフルエンサーとの関係を築いた後は、実際に彼らからコンテンツもしくはその元になる情報を受け取る必要がある。ここでOdden氏は協力を得るためのコツとして、依頼する際に使うメールの文面の例を紹介した。盛り込む要素として以下の項目を挙げている。
「不躾にコンテンツをねだっているという印象を持たれることを避け、相手の関心を確かめる程度のニュアンスを心がけたい」。
しかし質疑応答の時間では、参加者の一人から次のような質問が挙がった。「とはいえインフルエンサーが私の会社のことを気にかけてくれるとは思えない。何か彼らに協力してもらう方法はないか」。これに対してOdden氏はこう答えた。「インフルエンサーに対して謝礼を支払うこともできる。影響力のある人物を一人巻き込むことができれば、他の人物から協力を得ることも楽になる。しかし一番簡単な方法は、彼らが協力してくれることでいかに素晴らしいコンテンツが生まれるか、それがインフルエンサー自身の価値を上げることにもなるという点を訴えることだ」。
コンテンツの元となる情報を集めることができたら、次はそれらを使ったコンテンツを制作する段階に入る。ここで先にコンテンツ制作手法として紹介した「Modular Approach」を使うことになる。たとえば複数のインフルエンサーたちから得たコメントを集めてebookを作成する。次にここに含まれる情報をブログやインフォグラフィックなど別のチャネルで再活用する。さらにこれらのコンテンツの一部をSNSに投稿して拡散を狙うこともできる。「ebookは需要喚起に適しているため、最初に制作するコンテンツとして良い」。
コンテンツをリリースした後は効果測定のステップとなる。インフルエンサーを活用した施策の効果を測る際は、コンテンツの効果とインフルエンサーによる反応の2つを見るべきだという。これらによって今後も施策を続けるのか、何らかの調整が必要になるのか、中止するべきなのかを判断するとした。
コンテンツの効果を測る指標として、Odden氏はアクセス数とエンゲージメント、コンバージョンを挙げた。
同じくコンテンツに対してインフルエンサーがとった行動も把握する必要があるとした。「インフルエンサーがコンテンツをシェアしてくれたか、彼らがコンテンツに付加価値を付けたか、コンテンツに関するブログを投稿したかという反応をインフルエンサーごとに見ていく」(Odden氏)。
また講演で語られていないが、コンテンツマーケティングラボ編集部として補足すると、CMWの主催団体である米Content Marketing Institute(CMI)が発行し、われわれ日本SPセンターが邦訳を手掛けたebook「playbook 2013」(https://lp.contentmarketinglab.jp/blog/content-marketing/playbook2013)の事例も、インフルエンサー施策に当てはまるだろう。同コンテンツは、事業会社やコンサルタントたちが紹介するコンテンツマーケティングの事例や重要なポイントをまとめたものだ。制作手法に関するわれわれの取材に対して、CMIの担当者は次のように語る。「手持ちのリストの中から、最適な事例を提供できそうなインフルエンサーをピックアップしコンタクトを取った。スプレッドシートに情報を入力してもらい、手法ごとに分類した」。