4月9日・10日に米国サンフランシスコで行われた「ad:tech san francisco」でのセッション「Content Marketing: Tactics and Tools for Success」では、登壇者が実際に携わり、大きな成果を上げた2つの事例が紹介された。
スピーカーの1人、通信技術開発企業Qualcomm社のmarketing and global communications 部門でsenior director を務めるLiya Sharif氏は、「Paidメディア、Ownedメディア、Earnedメディア、いずれもその境目はわかりづらくなってきている。それはつまり、バナー広告という形式が広告になるのではなく、説得力があるコンテンツこそが広告になりうる時代になったということだ」と切り出した。複数のプラットフォームが入り乱れる中、限られた予算内でいかに各メディアを俯瞰で捉え、バランスを考えながら、コンテンツの活性化を実行しなければならないか。彼女がQualcomm社で挑戦したのがその課題だった。
そこで彼女が「Qualcomm Spark」の運営で実践したのが、「Publisher」の視点に立ちかえることだ。つまり企業目線ではなく“ターゲットユーザー目線”でのプロジェクト管理を徹底したのだ。「本当にターゲットユーザーが必要としている情報とは?利用しているデバイスは?」ターゲットユーザーになりきって考えることでおのずと答えが見えたと彼女は語った。
まずは、“コンテンツづくり”。これは、マーケターにとっては大変難しいことだという。なぜなら、マーケターは商品を売ることを目的としてしまっているため、売り込みのメッセージを無意識に発信しがちだからだ。そこで同氏は、ターゲットとするユーザーに何が響くのかを、常に客観的にチェックしながらコンテンツ企画を行った。
次に“見せ方”についてもターゲットユーザー目線での検証を実施。コンテンツの長短から、テキストか、グラフィックか、動画か、などというコンテンツの表現方法、デバイスに至るまで、どのようなものがユーザーから好まれるかリサーチを行い、最適なスタイルを模索した。
最後に“プラットフォーム”の選定。Qualcommのケースでは、あえて本体サイトとは独立した存在である「Qualcomm Spark」を立ち上げた。なぜならジャーナリスト精神に基づき、Qualcommとの関係性をできるだけ排した中立的なコンテンツにする必要があったからである。記事には同社が扱う分野である、モバイルテクノロジーや次世代技術に関する幅広いコラムを掲載。各方面からの寄稿者による興味深いコンテンツが日々UPされている。
デジタル雑誌のような充実した記事には注目が集まり、1ヵ月の訪問者数はコンスタントに10万人を超える。Qualcomm社のケースでは、コンテンツ発信の施策として、3つの方向性で戦略を組み立てたことが功を奏したと彼女は振り返る。
さらに3つの戦略についてそれぞれに最適な効果測定方法を考え、異なるKPI(業績評価指標)設定を設けてデータを分析している。「Push Seeding」においてはどのようなコンテンツの効果がもっとも高いかを測定し、「Pull Discovery」ではトラフィックやPV、サイト滞留時間を徹底的に調査、「Hybrid Distribution」ではエンゲージメントについてのデータを蓄積し続けている。コンテンツマーケティングが新しい手法であるがゆえに、ベンチマークとなるものが少ない中、データを収集して自社のKPIを浮き彫りにすることの必要性に言及し、Qualcomm社の事例紹介は締めくくられた。
「コンテンツマーケティングを語る前に、すでに持っている“マーケティングコンテンツ”に気付くべきだ」と口火を切ったのは、インターネットマーケティングエージェンシーであるPortent社のCEOであるIan Lurie氏だ。既存のサイトに掲載されているビジュアル、製品の記述コンテンツ――それらすべてが貴重なコンテンツになりうるのだと同氏は語る。
マーケターたちがどれほど素晴らしいコンテンツマーケティングキャンペーンを企画したとしても、予算やスケジュールなど様々な理由から、完全に理想的な状態でキャンペーンを実現できるケースはさほど多くない。誰にでも身に覚えがあることだろう。そこでLurie氏が例示したのが、既存のマーケティング施策で活用されているコンテンツを見直し、効果を高めたDavid Bridal社のプロジェクトである。そこからコンテンツマーケティング成功の秘訣とも言える3ステップを紹介しよう。
1つ目のステップは、既存のサイトに追加コンテンツを制作すること。新規ページを設けるのではなく、すでに公開されているブランドや商品のサイト内に、コンテンツを追加するアプローチだ。David Bridal社の事例では、既存のカテゴリーページや商品ページにはめ込む形でコンテンツを展開。クリックすれば拡張表示される仕掛けで、そのページの内容に合わせた記事が読めるようになっている。
Lurie氏が語るには、ユーザーは「“何を見たか”よりも、“どこで見たか”の方が記憶に残りやすい」という傾向が強く、新たにブログサイトの名前やURLを覚えてもらわなくても、ブランド名さえおぼえていれば、気になったコンテンツへ戻ってくることができたり、さらに情報を探すことができたりすることが、ユーザーにとって大きなメリットだという。David Bridal社で扱うのはウェディングドレスを始めとしたウェディング関連商品であるため、ターゲットユーザーは時間をかけ、何度も検討するという特性を持っており、このような手法がマッチしたのだ。また、別サイトや特設ページを設けてコンテンツを提供するよりも、ブランド情報や商品情報を近くに配置しておいた方が、売上にも直結しやすくなる。この視点こそが、編集者ではなくコンテンツマーケターとしての視点なのだとLurie氏は語った。
2つ目のステップは、言葉選び。「『ターゲットユーザーが使う言葉を選ぶこと』は、SEO対策だけに留まらない大きな効果がある」と同氏は断言する。つまり、ターゲットユーザーが慣れ親しんだ言葉を使うことで、売上にもつながりやすくなるのだ。例えば、企業が『bridal gown』を売ろうとする一方で、顧客は『wedding dress』に関する情報を探している――このような不一致が起こらないようにするためにも、Googleインスタント検索を活用し、ターゲットユーザーがどのようなキーワードで検索するのかを徹底的にリサーチすることが重要だという。適切なキーワードを使うことで、ページあたり10~15%も売上を伸ばすことができるというのが同氏の主張だ。だからといってキーワードを繰り返すのはNG。検索用語はあくまで“参考”にしながら、社内のマーケティングスタッフでコピーを制作することの重要性が語られた。
最後のステップは、ターゲットユーザーが求めている情報や抱えている課題は何なのかを入念にリサーチすることだ。Googleインスタント検索は、ターゲットユーザーがどういった言葉を使っているかだけでなく、どのような情報を求めているのかを把握する際にも非常に便利なツールである。またQ&Aサイトやフォーラムで、どのような疑問や懸念が共有されているのか調べることも参考になる。ターゲットユーザーを惹きつけるには、彼らが求めている「答え」をコンテンツとして提供することが、大きな力となるのは言うまでもない。
「まずは既存のコンテンツの価値を見直し、3つのステップを実行すること。簡単なことだが、これがコンテンツマーケティングの第一歩になるはずだ」と同氏は締めくくった。
コンテンツマーケティングの実例から読み解く成功の秘訣。どちらの事例においても「ターゲットユーザーを知ること」が大きな役割を担っていることを再認識できた。では“ターゲットユーザー”が“顧客”になるまでには、どのような変化があるのか――。レポート第3弾では、セッションの中の「Customer Journey」に焦点をあて、押さえておきたいポイントを探りたい。
執筆:隠岐由起子編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo)