4月9日・10日に米国サンフランシスコで開かれた「ad:tech san francisco」は、「デジタル時代におけるマーケティングのベストプラクティス」を得られるマーケティングリーダーのための国際会議だ。CONTENT MARKETING LABの編集部も参加し、業界の最前線で活躍する4名のスピーカーによるセッション「Content Marketing: Tactics and Tools for Success」に参加。大手企業の半数以上が実行し始めていると言われるコンテンツマーケティングだが、レポート第1弾ではその効果を最大化するコンテンツ制作チームの構築方法をご紹介する。
セッションの模様
登壇者
- Portent 社 CEO Ian Lurie氏
- Qualcomm社 シニアディレクター Liya Sharif氏
- OneSpot社 代表・創業者 Matt Cohen氏
- Altimeter Group アナリスト Rebecca Lieb氏
生き残れる「コンテンツづくり」のキーは、「チームづくり」にあった。
複数チャネルで発信されるコンテンツ制作に携わっている参加者が大半を占める中、登壇したリサーチとコンサルティングを手がけるAltimeter Group アナリスト Rebecca Lieb氏は、コンテンツマーケティングに携わる「チーム体制」に関する問いから切り出した。
「各コンテンツが“誰によって”制作され、“どのようなマネジメントで”管理され、“どのような効果測定”が実行されているか、きちんと把握している人はいるだろうか?」
YESと答えるマーケターがごく少数にとどまる中、同氏は、コンテンツマーケティングを適切に統制するための「チーム体制」の重要性に言及。さらに、継続的にコンテンツを提供し続けなくてはならないこと、各部署のクローズドな場で生まれたコンテンツがガバナンスなしに拡散してしまっていること、チャネルや技術がますます多様化していることなどをコンテンツマーケティングの現状の課題として挙げた。
その上でRebecca Lieb氏は、これらをクリアするために今こそ必要とされているのが「Orchestration(=演奏能力)」だと主張。つまり、コンテンツのクオリティを維持向上し続けるためには、異なる技能を持ったスタッフたちが奏でる「音」を「ハーモニー」に変えていく“チームづくり”がキーポイントなのだ。
コンテンツ統制を成功させる6つのフォーメーションとは?
登壇者のLieb氏がアナリストを務めるAltimeter Groupの分析によると、コンテンツマーケティングの統制スタイルは、6種類に分類されるという。
- Content Center of Excellence
多岐にわたる部署に所属する“専門家の集団”がリーダーとなり、成功事例の共有・リサーチ結果の提示・サポートの提供などを行い、コンテンツマーケティングを導くスタイル。
- Editorial Board or Content Council
コンテンツ制作者やマーケティング担当者で構成された編集組織。週1回~毎日という高頻度でミーティングの場を持ち、スケジュールを立てたり、ワークフローを見直したり、業務のアサインを行ったりする。
- Content Lead
1つの部門内でコンテンツを率先する指揮官が設定された状態。編集力や戦略性に長けているのが特長だ。
- Executive steering committee
複数の部門から構成されたチームで、戦略に重点を置いたもの。コンテンツのクオリティチェックだけでなく、それらがマーケティングのゴールを達成しうるものかどうかも判断する。
- Cross Functional Content Chief
一人の人物が複数の部署に関与する権限を持ち、コンテンツマーケティング全体の舵とりを行う。必要に応じてIT部門・CS部門への協力要請などが可能となる。
- Content Department/Division
コンテンツ制作を実際に行う部署、もしくは外部に委託したコンテンツの進行管理・クオリティガバナンスを図る部署。グローバル企業においては、制作自体を代理店に任せていても、このような部署がしっかりディレクションしているケースが多い。
まずは、自社が持つ人材、設定したゴールに合わせて最適なスタイルを確立すること。一つのみならず、複数のスタイルを用いることが適切な場合もある。実際にIntelやDellなどは、複数のスタイルを組み合わせたチーム体制を築いている。
コンテンツ制作チームを設ける際に抑えておくべき3つのポイントとは?
- Lead with Process:進行プロセスを明確にした上で、指揮をとること。
セッションで重要視されていたのが、全部門・部署に横串を通してコンテンツ制作を考えられる組織づくり。その要となるのが、複数部署を俯瞰で見ることができる“リーダー”の存在だ。
コンテンツ制作に取り組む様々な部署を把握しているリーダーがいれば、部署の枠組みを超えたコラボレーションやアイデアの共有が可能となる。さらに効率的なコンテンツの承認制度やスケジュール管理方法を考えること、ガバナンスに基づくスタイルガイドを設定すること、Paid/Earned/Ownedメディアのコンテンツを総合的に考えることも、リーダーの重要な役割である。
制作に直結するミッションだけでなく、組織体制の整備もリーダーの責務である。セッションでは、「報告系統の再整備」「人材育成」「外部クリエイティブスタッフのリソース活用」に注目。
一つ目の「報告系統」に関しては、直属の上司ではなく別部署へのレポートラインを徹底することがポイントだ。それにより、常に各部署でどのようなプロセスにあるのかをスタッフ同士が共有することができ、作業の効率化を図るだけでなく、よりタイムリーなコンテンツ企画が可能となる。
二つ目の「トレーニング」に関しては、制作現場・マネジメント・役員が必要とする知識はそれぞれに異なるため、各々に研修・評価制度を設けるべきだとセッションでは強調されていた。
最後の「外部クリエイティブスタッフのリソース活用」については、今後のコンテンツマーケティングにおいてビジュアルやグラフィックが持つ影響力がより大きくなるだろうという観点から、ライター以外のクリエイティブスタッフを確保しておくことの有効性が語られていた。
- Mate with Technology:技術部門と協力しあうこと。
コンテンツ制作に携わるマーケターは、その関心がコンテンツに向いてしまいがちだが、「テクノロジー」面にも関心を持つことが非常に重要だ。なぜなら、チャネルが増加し技術が多様化する今日において、テクノロジーを適切に使うことはコンテンツマーケティングの効果をより高めるために不可欠な要素だからである。テクノロジー部門をプロジェクトに巻き込み、ステークホルダーとして互いに切磋琢磨すること。それが、コンテンツのクオリティ向上に欠かせないステップだと言える。
- Follow with Measurement:効果測定をしっかり行うこと。
コンテンツマーケティングは、必ずしもすぐさま利益に直結するものではない。とはいえデジタルマーケティングである以上、プロジェクトの効果測定を行わないというのはナンセンスだ。効果測定を正しく行うためには、まずコンテンツマーケティングのゴールを明確に設定することが重要だ。ページへの訪問者数を増やすこと、SNSのファンを増やすこと、CVRを向上させること、一人あたりの購買金額を高めること……自社のコンテンツマーケティングのゴールを明確に定義づけし、測定数値やKPIを組み立てよう。
さらに重要なのは、コンテンツマーケティングに関わる全ステークホルダーと計測値を共有し、それが互いのゴールに見合うものかどうかを評価し合うことだ。それらを繰り返し実行することによりプロセスが最適化され、より強いコンテンツづくりが可能となるという見解に我々も共感した。
コンテンツマーケティングを効果的に行うための体制が整ったら、いよいよ実行だ。――とはいえ、どのようなプラットフォームを選んで着手すればよいのか、既存メディアとどのような関係性を持たせるべきなのか、などコンテンツ制作に関する課題はまだまだ山積だ。
本セッションでは、コンテンツの作り方についてスピーカーが実際に制作に携わった事例が紹介された。新たなプラットフォームを立ち上げたQualcomm社と、既存の自社メディアにコンテンツを融合させたDavid Bridal社の2事例から、成功の秘訣をレポート第2弾で解説する。
編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo)