まずは、今回インタビューを行わせていただいたグリセルフーバー社長と、Ginzamarketsについてご紹介したい。グリセルフーバー社長はもともとアメリカのデジタルマーケティング企業でエンジニアをしていた。その後会社から独立し、もともと文化へ興味を抱いていた日本での起業を選んだ。
そんなグリセルフーバー社長が2010年に設立したGinzamarketsが現在提供しているのが、「解析関連」や「SEO・最適化関連」を中心とするコンテンツマーケティング支援ツール「Ginzametrics」だ。コンテンツマーケティング支援ツールと聞いても、ぱっと具体的なサービス内容まで思い浮かぶCONTENT MARKETING LAB読者はそう多くないのではないだろうか。それもそのはず、このGinzametricsも元々はSEOツールとして開発された。しかし、コンテンツマーケティングの盛り上がりとそれによる運用支援サービスへのニーズの高まりを受けて、2012年頃から徐々にコンテンツマーケティングの運用を支援する機能を拡充してきた。つまり、まだまだ登場して新しいツールなのである。
コンテンツマーケティングの運用には、多様な業務が含まれる。コンテンツの制作や配信、外部のライターやデザイナーのアサインや進捗管理、アクセス解析、SEO施策をはじめとするコンテンツの最適化をはじめ、必要な仕事は多岐にわたっている上に多い。実際、日頃業務としてコンテンツマーケティング施策に携わっている当CONTENT MARKETING LAB編集部も、他のマーケティング施策よりも多岐に渡った業務への対応、そして同時にSEOへの知識まで求められている。支援ツールは、コンテンツマーケティングだからこそより求められている「業務効率化へのニーズ」に応えるために誕生し、主にコンテンツマーケティングを実践する上で必要な業務の自動化・効率化を図る目的で使われているのだ。
Ginzametricsでは検索順位やキーワードごとの流入数をはじめ、自動収集された大量のデータをもとに、施策のプランニングや効果測定、改善策を実施することができる。グリセルフーバー社長は、「改善のプロセスがうまく回れば、コンテンツを量産することでトラフィックもどんどん伸びる」と語る。しかし、ただ一口に支援ツールといっても、その機能は製品によって多種多様だ。すべてのツールが、Ginzametricsと同様のサービスを提供しているわけではない。IT系の調査・コンサルティング企業の米Altimeter社によれば、コンテンツマーケティング支援ツールは以下の8つのカテゴリーに分類されるという。どのカテゴリーをカバーしているかは、各社のツールによって様々だ。各カテゴリーの機能を網羅的に備えている統合ツールもあれば、単一の機能に特化しているツールもある。
グリセルフーバー社長によれば、コンテンツマーケティング支援ツールの運用のされ方は日本と、コンテンツマーケティングが最も進んでいると言われるアメリカでは異なっており、そしてその運用のされ方の違いから、コンテンツマーケティングの施策そのものの違いが見えてくるという。そこで、Ginzametricsの日米での実際の導入事例を通じて、日米のコンテンツマーケティング施策の違いや、さらには日本のコンテンツマーケティングの今後に迫ってみたい。
コンテンツマーケティング支援ツールの活用が盛んなアメリカでの最も一般的な使い方の一つとしては、レポーティング作業をはじめとする業務の自動化だそうだ。そして浮いた時間を戦略の策定をはじめ、より付加価値の高い業務に割くのだ。
Ginzametricsの場合も、このように使われることが多いという。「意思決定に使いたいという声は多い。やらなくてはならない事がたくさんあり、活用できるデータも多いという企業に対して、意思決定の支援ツールとして導入してもらう」(グリセルフーバー社長)。クライアントには、大手の通販サイトをはじめ大量のデータを扱う企業が多いという。
グリセルフーバー社長によれば、アメリカでGinzametricsを導入するのは「現状の問題発見のためデータを分析し、その問題解決の必要性に応じてマーケティング施策を選択する」という、ある意味マーケティングの基本中の基本に忠実な企業が多いという。コンテンツマーケティングありきで戦略を立てるのではなく、マーケティング戦略を立てて、必要に応じてコンテンツマーケティングも選択する、そのような活用事例として、同社長はアメリカで教育系サービスを提供する企業による取り組みを挙げた。この会社はオンラインで紙の教科書を学生に貸し出す事業を展開している。教科書の値段が比較的高いアメリカにおいて、教科書代を抑えたいという需要を取り込んでいるのだ。しかし通販大手Amazonがこの事業に参入してきたことで、Goole検索でのSEO上位表示は難しくなった。多角化の必要に迫られ、「大学生のチューター達によるオンライン指導」などの新サービスを打ち出すことになった。その新サービスへの顧客獲得のために取り組んだのがコンテンツマーケティングだ。
Ginzametricsを導入した同社は、様々なデータを活用して計画的にコンテンツを作っていった。たとえばサービスに関連しそうな検索クエリ数を調べ上げ、執筆すべきトピックを決定。それに関するコンテンツを大量に作った。さらに同ツールの機能を利用して、作成したコンテンツの検索エンジンへの最適化も図った。
「同社の場合、社員の多くがSEOに関する知識がないことが課題だった。一からトレーニングするにも時間がかかる。そこでGinzametricsのSEOアドバイス機能を使った。個々のページに対して提供されるアドバイスに従い、知識のない社員でも最適化を進めることができた」と同社長は話す。もともとサイトのトラフィックは少なくなかったものの、施策を始めて1年間でさらに倍以上に増やすことができたという。
マーケティングで何より重要なのは戦略。だからこそ業務の自動化を進めた上で、より付加価値の高い戦略立案やその検討にリソースを割く。これがGinzametricsの導入のされ方から見えるアメリカでのコンテンツマーケティングの運用方法だという。一方で日本ではどうか。Ginzamarketsのヴァイス・プレジデントである清水昌浩氏は、こう語る。「アメリカの企業の場合、自動化の機能を使うことは当たり前。しかし日本企業の場合、人が毎日手作業でやってくれるからツールはいらないよという話を未だに聞く。業務に対する考えの違いが大きいのではないか」。
こういった日米の考え方の違いはどこから来るのだろうか。グリセルフーバー社長は、目標にコミットする姿勢の違いが要因の一つではないかと考えている。アメリカ企業の場合、達成しなくてはいけない明確な目標や効果指標があるため、必要のない手間は極力減らそうとするのだ。
一方日本企業の場合、施策のKPIを明確にすることなく走り出してしまうケースや、最初からコンテンツマーケティングを採択することを前提として走り出してしまうケースがあるという。仮に何かしらのKPIを設定した場合でも、なぜそれが重要なのかという根拠が薄いケースも多いようだ。「漠然とPVを指標としても、それで半年もやれば、PV増えたけどどうするの?となってしまう。そうなったときに、評価指標を決めるために、弊社のツールが選択肢として挙がる場合が多い」と清水氏は言う。日本企業によるKPIの後回しやコンテンツマーケティングを採択することを前提としてプロジェクトが動き出すことは、一見ただ「スピード最優先に施策をこなしている」に見えないこともない。しかしグリセルフーバー社長は「本当に戦略を意識して施策を立案しているならば、KPIの後回しや、手法ありきということはあり得ないはずだ」と話す。
しかしグリセルフーバー社長の目に映る日本のコンテンツマーケティングは明るい。明確な戦略や目標を持って施策に取り組むアメリカ企業に比べ日本企業による課題は多そうだが、グリセルフーバー社長は、日本の優れた点もあると話す。「日本企業の良い点は、やると決めたらしっかりやるところ。毎日の業務をしっかり決めて、着実にこなす。アメリカ企業の問題は、そこまでしっかり業務プロセスを決めて進めることができない点」。そのため日本企業が目先の業務にとらわれず戦略により注力することで、施策の効果を上げる余地は大きいとみる。
日本でよりコンテンツマーケティングを広めるために必要なこととして、同社長はこう語る。「コンテンツマーケティング支援ツールなどを用いてできるだけ作業を自動化するなどして、マーケティング戦略に費やせる時間を増やし、よりマーケティング戦略に沿った戦術を選択したり、必要に応じて戦術を修正していってほしい」「それと広告に費用を使う代わりに、コンテンツを作るという考えがさらに広がることが必要。広告より効果が出るのに時間がかかるかもしれないが、その分継続的なトラフィックを期待できるということを経営者が理解するべき」と話した。