CONTENT MARKETING LAB

リードナーチャリングの効率を上げる、”見えない” 顧客意識変化の活かし方

作成者: CML|Mar 1, 2013 7:59:00 AM

日本初となるインバウンドマーケティング・コンテンツマーケティングのカンファレンス「INBOUND MKTG 2013」。Panel discussion “Inbound Content Strategy & Tactics”『インバウンドなコンテンツづくり。ブログ、ソーシャル、SEOの活用と課題』に続くのは、Panel discussion “Lead Nurturing Strategy and Tactics”『見込客育成のためのクリエイティブ、その手法と課題』。

登壇者は谷井等氏(シナジーマーケティング株式会社代表取締役社長兼CEO)、四家正紀氏(株式会社ニューズ・ツー・ユー)、鈴木望氏(米Responsys社日本地区セールスマネージャー)、上田代里子氏(株式会社ネクスウェイ)の4人。今回は、リードナーチャリングを実現するための戦略について、さまざまなサービスや事例をもとに語られた。顧客のことを正確に知るための方法から、リードナーチャリングの手段のひとつメールマーケティングの方法にいたるまで、そのエッセンスを盗みたい。

各々の立場から活発な意見が飛び交ったパネルディスカッション

リードナーチャリングの基本は、データや顧客との接点から「ペルソナ」を描くこと。

リードナーチャリングとは、見込顧客に継続的なアプローチを行い、徐々に購買意欲を高めて、顧客へと育成していくプロセスのこと。その過程で最初にすべきことについて、「こちらを振り向いてほしい顧客のことを、きちんと知りにいくこと」と話すのは、BtoBのナーチャリングを担当する上田代里子氏(株式会社ネクスウェイ)だ。

顧客のことを知るためには、彼らがどう行動しているのかを、正しく観察する必要がある。ネット上の顧客行動は、サイトの継続閲覧率や継続閲覧量に現れる。これはウェブテクノロジーが発展していなかった時代には、知ることのできなかった重要なデータだ。このほか、テレコールをした際の顧客のリアルな声や訪問時の態度、立てたシナリオが合っていたかどうか、という点も重要な材料となるという。

また、本来は複数化するペルソナに合わせて、シナリオもそれぞれ用意しておくことが望ましいが、すべてのペルソナの、すべてのシーンに適用するようにと、シナリオを分化させていくと費用対効果的には厳しい。データ内の顧客を分析した上で、どれだけ確からしくペルソナを立てられるか、また立てた仮説に沿っているか、仮説が異なっていた場合には立て直すなど、全方位に向けたシナリオをつくるよりは、「ひとつの型」をつくってしまうべきだという(上田氏)。

では、立てたシナリオに沿って、顧客とどうコミュニケーションをとっていけばいいのか。上田氏は、「話題をぶつけて興味を引くという従来型の方法もあるが、これからは提供するコンテンツの”価値”に振り向いてもらうことが重要になる」という。

上田代里子氏(株式会社ネクスウェイ)

チェーン店舗を展開する飲食店のBtoB事例で説明しよう。これまでは、FAXや電話など様々なツールで、本部と店舗間との煩雑なやりとりを行っていたとする。

その面倒なやりとりを、グループウェアを使うことで一本化できて業務がラクになり、店頭で接客できる時間が増えるとアピールしたとしても、受け取り側はこれまでの手法を煩雑だと感じておらず、ましてやITの手段があるとも思っていない。そんな相手に対して、製品を推すだけのコンテンツを提供しても効果がない。むしろ「伝わる指示書の書き方」というようなコンテンツをつくり、業務を効率化した先に生まれてくる”価値”を伝えるべきなのだ。

「メール」は顧客データとの紐づけにより、リードナーチャリングの施策として有効に

リードナーチャリングを進めていく上での代表的な施策のひとつに、顧客と1to1でコミュニケーションできることに定評のある「メール」がある。セッションでは、メールを軸としたメールマーケティングについても丁寧に語られた。

今から10年以上も前の1999年に書かれた、インターネットマーケティングのバイブル『パーミッション・マーケティング』著者のセス・ゴーディン氏は「今までのマーケティングは顧客にとって邪魔者だった」と語った。その後、顧客へ情報を送っても良いか、事前にパーミッション(許可)を得てから、マーケティングをするといった、パーミッション・マーケティングが生まれた。これは今でいう、オプトインメール普及のきっかけともなった。

オプトインメールが売れるようになったのは90年代後半。ヘッダ広告中心だったメール広告が下降し始める頃のことだ。同時期には、自社でタイアップキャンペーンを行ない、何万ものメールリストが集まっても、活用していない企業が多かった。当時、「企業が自社の情報発信をするのではなく、顧客と付き合うためにメールリストを使うべき」と提唱したのが、四家正紀氏(株式会社ニューズ・ツー・ユー)だった。

四家正紀氏(株式会社ニューズ・ツー・ユー)

2002年頃は「迷惑メール問題」が話題になり、スパムメールと企業のメールのあり方が問われ、メールマーケティング自体が存在感をなくしていった時期。しかし、メールはいまだに最強のツールとして使われている。2004年頃になると、同氏は「メールだけではなくブログを活用して、ゆるく大きなファン層をつくろう。そこに含まれるオプトインしてくれる顧客へ、改めてメールで語りかければ良い」と訴えた。

メールの大きな特性は、個人から個人への“手紙”であること。企業から発信されるというより、企業内の担当者(個人)から発信されている。メールはウェブサイトという“企業の顔”では出しづらかった、個人の個性を出しやすい。

今、アメリカではメールマーケティング業界が、日本と比べて伸びている。IBMの買収したUnica社をはじめ、Experian社やExactTarget社など、メールマーケティングを専業にしてきた会社のうち、トップ3〜4あたりまで売上が伸びているという。業界全体ではリーマン・ショック以降、売上が増加している。

これには2つの流れがあると話すのは、鈴木望氏(米Responsys社日本地区セールスマネージャー)だ。まず、アウトバウンドマーケティングに使える予算が減っていること。広告予算が削減されるなか、オプトインをとった既存顧客や見込顧客へのアプローチ方法として見直されて、積極的に使われるようになった。もう1つは、顧客データを集めるしくみが発展してきたこと。顧客のことをより個別具体的に知ることのできるデータとメールを組み合わせることが、現代の主流になっているのだ。

「顧客意識変化」の見える化が、マーケティングの効果を上げる。

では具体的に、顧客のことがより具体的に見えてくるデータには、どのようなものがあるのだろうか。メールアドレス中心のデモグラフィックデータ、レスポンスデータ、アクセスログ、購買データなど、すべてを参照することで、顧客の姿が立体的に見えると話すのは、谷井等氏(シナジーマーケティング株式会社代表取締役社長兼CEO)だ。

谷井等氏(シナジーマーケティング株式会社代表取締役社長兼CEO)

居酒屋のPOSデータを例に説明しよう。POSデータとは「いつ」「どの店で」「どの商品が」「いくらで」「何個」売れたか、といった販売時に分かるデータのこと。ここには「誰が」というデータは入っていない。たとえばPOSデータからは、卵焼きが1日に30個売れていることが分かったとしても、新規顧客と既存顧客の割合は分からない。

ここにIDを組み合わせてみると、購買者の顔が見えてくる。購買者のうち既存顧客が30人中1人の場合、多くの新規顧客が商品を手に取るものの、リピーターはほぼおらず、実際には人気がないのではないかといった情報が読み取れる。その商品は売れているように見えて、まったく売れていないというのが事実だ。このように、様々な情報はIDベースでつながり、有益な情報に変わる。

まず「顧客は誰なのか」という基本に立ち返って考えるべきだ。蓄積された情報を参考にしながら、そこに存在する顧客のことを見ていると、自分たちに興味を持つ顧客の属性が見えてくる。3.11前後で消費行動は大きく変容したにも関わらず、企業が顧客のデモグラフィック情報だけを見ていても、これまでと何も変わらないだろう。

顧客の意識が変わってきていることにあわせて、「意識レベル」でデータを捉えていくのが正しい方法となる。傾向や価値観、行動パターンのほか、興味関心や背景、状況、ソーシャルメディア上の投稿も、顧客を正確に理解しペルソナ設定をするうえで、重要な判断材料となる(谷井氏)。

さらに、マーケターにとっては、顧客がウェブ上でクリックしていない要素をウォッチすることも大事だという。クリックされたところ、されていないところをすべて含めた顧客の行動、すなわち“デジタルボディランゲージ”を丁寧に分析することが、改善へとつながっていく。

かつて、アメリカの経営学者・マーケティング学者のフィリップ・コトラーは「現代のマーケティングは、どれだけ顧客の深層心理に迫れるかの勝負」と話した。これからのマーケティングは、より顧客の変化を細かく察知して、対応していかなくてはならないものとなってきているのだ。

顧客のフェーズにあわせた「コミュニケーションシナリオ」で“見てもらえるコンテンツ”を作り、届ける。

とはいえ、どうすればコンテンツは見てもらえるのか。メールマーケティングの場合でいうと、そもそもメールが開封されなければ意味がない。「メールを開かれるかどうか、スクロールされるかどうかは、顧客の期待値とリンクしている。顧客側から見たときに、タイトルや差出人名を目にした段階で期待値を感じないから、という理由で開封されないメールは数多くある」と谷井氏はいう。

顧客自らが企業へ意図的にパーミッションを渡していることもあり、1~2通目のメールは比較的開封されやすい。自身のニーズにマッチしていると感じれば即座に開封の判断をし、内容が悪くないと思われれば再度開封される。

特定の人へ対して価値ある情報を短く伝えているかがキー。オプトインの情報を見ながら、顧客がどんな情報へ継続的に反応しているかも、あわせてチェックするべきだ。

しかし、何十回メールを送っても、やはり無反応なままの顧客はいる。小学生に例えていうならば、学習する子どもとしない子どもがいるということ。その場合は、教材を各々に合わせて変えていくのが対策となる。学校へ通う気を起こさせるために、呼びかけ方を変えるべきか、家庭訪問を行うべきか、あるいは学校ではない別のところへ行かせるべきか、3つくらいのアプローチ法がある(上田氏)。

マーケティングも同様で、何を変えればこちらへ来てくれるのか、地道なリサーチが必要となる。まずは「ワンクリックでもしよう」と思わせることが大事だ。とはいえ、コンテンツつくりに傾倒しすぎてもいけない。そもそも“顧客へのアプローチ方法”が合っていないのではないか、と原点へ立ち返ってみるのも良い。顧客が受け取りたい情報のメディアを使って、コンテンツを提供するのがベストなのだ。

「顧客に見せるコンテンツに関して、新しいものをつくる必要はなく、既存にあるものを上手く活用しよう」と話すのは鈴木氏だ。もともとリッチなコンテンツを持った企業は少なくない。顧客が知りたいタイミングに、適切なコンテンツを提供すれば、そのコンテンツは顧客にとって非常に役立つものとなる。

パーミッションをとった翌日、アフターサポートが必要なタイミング……これらすべてのフェーズにおいて顧客の求めるコンテンツは異なる。顧客のフェーズに応じた「コミュニケーションシナリオ」を考えることが重要となる。それぞれのシーンにおいて、顧客の欲しかったコンテンツを見せること。メール内で完結する100%のコンテンツをつくるのは大変だ。顧客をディレクションし、創客する機能の強いメールを有効活用したい。

顧客が通る“すべての道”へ情報を配置し、アクティブウェイティング=積極的に待ち伏せよう。

メールマーケティングをはじめとするリードナーチャリングと親和性のあるメディアには、どのようなものがあるだろうか。「ディスプレイ広告」を挙げるのは鈴木氏だ。同社はメールを基点として、ディスプレイ広告などと連携させたソリューションを持ち、成果を出している。

鈴木望氏(米Responsys社日本地区セールスマネージャー)

そもそもメールを頻繁に送ると、顧客から嫌われることは明らかで、多くても数日に1通ペースでしか送れないのが通常だ。それでも飽きられることはあり、顧客がメールを見てくれなくなったときは、1度引いてみる手もある。配信頻度を減らして、再び戻ってきてくれる感覚があれば、また送ってみれば良い。顧客の動きに応じたきめ細かい対応を、企業側はもっと意識していくべきなのだ(鈴木氏)。

人は日々、膨大な情報と接しながら生活している。そんな状況下において、顧客が情報を見逃す可能性は少なくない。どこをどのように通ってサイトへやってくるかは顧客に任せるべきだからこそ、顧客が通る可能性のあるすべての道に情報を置いておくべきだ(四家氏)。ソーシャルメディアの活用も、可能性を広げる手段のひとつとなる。積極的に待ち伏せする“アクティブウェイティング”の姿勢を意識しておきたい。

谷井氏は情報を静的に整理できるウェブサイトとメールの相性の良さを挙げる。メールをアラートだと考えた場合に、ウェブサイトはひとつのアーカイブとなる(谷井氏)。一方、上田氏は、人がつくるシナリオにかかっているからこそ、隙間を上手く埋めていけるのはテレマーケティングだと語る。

データから顧客の姿を立体的に導き出し理解することで、より確からしいペルソナを設定していくことが、リードナーチャリングをスムーズに進めていくカギとなっている。

次回は、Panel discussion “Thinking Lovable Content and Marketing”『人を惹きつけ、愛されるためのマーケティングとは? そのためにマーケターが身につけるべきクリエイティビティとは?』のレポートへと続く。

執筆:池田園子編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo