CONTENT MARKETING LAB

第一線のウェブ担当者たちは、検索流入をどう考えているのか?

作成者: CML|Nov 19, 2015 6:26:00 AM

コンテンツを使った検索流入の獲得は、サイトへの集客を促す手段として当たり前のように使われている。日本企業を対象にしたGinzamarkets株式会社の調査によると、コンテンツマーケティングの目的として、最も多く挙げられた項目は「自然検索の流入増」だった。

しかしそこに頼り過ぎることによる弊害はないだろうか?この点が語られたのが、2015年9月18日に開催されたインハウスサーチマーケター向けのネットワーキングイベント「In-house SEO Meetup」(Facebookページ)。事業会社でウェブ担当者として活動する有志たちが、情報やノウハウの共有を目的として運営しているイベントだ。この日はヤフー株式会社や楽天株式会社、株式会社ブクログ、Retty株式会社といった大手企業の担当者たちが日ごろの取り組みについて語った。

中でも今回は株式会社はてなと株式会社ガリバーインターナショナルによる取り組みを紹介する。

検索流入数が多いコンテンツ、質も高いとは限らない

はてなが運営する「週刊はてなブログ」の役割は、はてなブログの中から読者にとって読み応えのある質の高い投稿をピックアップしてまとめること。

同サイトで編集を務める毛利勝久氏は、過去に書籍の出版社でIT系の実用書の編集に携わった経歴をもつ。コンテンツの質が読者に認められることが売上部数という結果に結びつくこの分野において、編集者として14年間も読者と向き合ってきた。

だからこそ、アクセス数が多ければ良いという考えに傾きがちなウェブコンテンツは、読者との向き合い方が足りないと感じている。

「紙の書籍の場合、読者の満足度を計る指標として部数があるととらえることができる。しかしウェブのメディアでは、検索順位やページビューといった指標はあるものの、テクニカルな手法である程度上げることもできる。だからこういった指標が高いからといって、読者の満足度も高くなるとは限らない」(毛利氏)。

毛利勝久氏。現はてな会長の近藤淳也氏による『「へんな会社」のつくり方』などの編集に携わってきた

週刊はてなブログは、「これが話題!」「週間ランキング」など、様々な切り口で質の高い投稿を紹介するはてなブログの公式ブログ。読者満足度の高いコンテンツを増やすことで、はてなのブランディングにもつながりそうだ。

コンテンツの質を計る指標として、検索流入数の多さは頼りにならない。そう考えるようになったきっかけは、「週刊はてなブログ」を運営している時だったという。

同メディアなどでは以前、はてなブログで人気の記事をピックアップする指標の一つとして、各投稿への検索流入数も考慮していた。サイトへの集客を計る上で、最も一般的な指標の一つだ。

「しかしそれではノイズがたくさん混じってしまい、お薦めできない投稿も数多く出てきた」(毛利氏)。

毛利氏によると、この場合の「ノイズ」とはアクセスが集まりさえすれば良いという考えのもと、質の低い記事を量産するようなゴシップ系ブログだ。

この手のブログは、残忍な事件や芸能人のゴシップといったアクセスが集まりやすいトピックを好む。記事を作る際は、検索の急上昇キーワードをリアルタイムで確認した上で、刺激の強い見出しでアクセスを促す。だから検索流入数は多くなるものの、内容自体はネット掲示板の噂話の寄せ集めや、センセーショナルな見出しにそぐわない薄いものであることが多い。

これでは読者を満足させるレベルの投稿を届けることはできない。そう危惧した毛利氏は、投稿をピックアップする基準から検索流入数を除いた。定量的な指標ではなく、はてなブックマークのコメントやソーシャルシェアをはじめとする定性的な指標や、コンテンツの目利きである編集者による評価をより重視することにしたのだ。

「検索数の多さは、必ずしも面白さを担保してくれないということを学んだ」と毛利氏は振り返る。

また一連の事例から教訓を得た毛利氏による提案は、ウェブメディアの運営体制にも及んだ。

メディアのアクセス数や広告収益の最大化に務めるディレクターと、コンテンツの質に責任を持つ編集長。この2つを二本柱として据える必要があるのではないかという。

広告収益の最大化が重視されがちな現状のウェブメディアでは、数値指標ばかりを追う前者の「ディレクター」的な視点に偏る傾向がある。しかしそれではコンテンツの質が置き去りにされてしまうため、「編集長」を並列で置くことでバランスが取れるのではないかというのだ。

「読者価値を上げる試みは効果が出るのに時間がかかるが、やれば多くの読者に好かれるメディアになってファンが増える。メディアのブランド価値の向上につながる」と毛利氏は訴える。

検索流入だけではニーズ顕在客しか取れない、潜在客獲得に向けた試みとは

検索はしない、しかしバナー広告は積極的にクリックするユーザーを発見

次の登壇者で、フリーのデジタルマーケティング・ストラテジストとして活動する床尾一法氏は、検索流入者と非検索流入者の行動を解析することで、ユーザー像をあぶり出した。

床尾氏は、中古車の買取・販売を手掛ける株式会社ガリバーインターナショナルをはじめ、複数の企業でウェブコンテンツ戦略を推進している。

床尾一法氏。自動車情報メディアの立ち上げをはじめ、複数の企業でコンテンツ戦略の設計やウェブ解析、SEO業務に携わってきた

床尾氏は現在の常駐先であるガリバー社が運営するウェブサイトのアクセス解析を進める中で、「検索しないユーザー」をコンバージョンさせる必要性に気がついたという。

事の始まりはこうだ。事前のユーザーシナリオの解析によって、成果に至ったユーザーの大半が初回訪問からごく短期間でコンバージョンしたことが判明していたという。これを課題ととらえた上で、解決に向けたプランニングが始まっていた。

「短期間に集中した成果シナリオは、ユーザーによるサービス純粋想起や集客力の強さという点で、ポジティブな見方ができます。ただ同時にネガティブな印象も持ちました」と床尾氏は振り返る。ほぼすべてのコンバージョンユーザーによる検討が短い期間で済んでいるということは、すでにニーズが発生しているユーザーしか獲得できていない可能性が高いからだ。

そこで、コンバージョン獲得につながる訪問の伸び代を増やすことにした。そのために検討熟度の比較的浅い人や、欲しいというニーズは持っているものの、まだ購買に向けた調査を始めていない人たちも取り込むための施策を複数立案。実行に移した。

その結果、現在はコンバージョンに至るまでの検討期間が従来よりも長く、訪問回数も多いユーザーが増え始めているという。

こうした施策の成果を分析していく中で、実に興味深い点が見つかった。ターゲティング広告をきっかけにコンバージョンしたユーザーの行動を解析した結果、「検索しない見込客」の存在が浮かび上がってきたというのだ。

具体的な調査方法はこうだ。

床尾氏は、コンバージョンしたユーザーの行動を把握するためのデータ解析に向けて、個別の訪問履歴と行動ログを集計している。集計方法はcookie単位でのユーザーIDの追跡だ。

ガリバー社の場合は、こうした訪問履歴の中に、検索行動をきっかけとした訪問が含まれることが多いという。同社では検索に連動したリスティング広告を広い範囲のキーワードに対して大規模に配信しているので、必然的に検索での流入機会が多くなるためだ。

リスティング広告からのランディング先の一例。すぐさま査定に申し込めるようになっており、購入間近のユーザーに向けた内容となっている。

ところがユーザーの行動履歴に応じて広告を表示させるオーディエンスターゲティング広告に触れたユーザーによる訪問履歴に限ると、これとは異なる傾向がみられた。自動車に関連した検索による訪問履歴はないものの、ディスプレイ広告を通じて繰り返しサイトに訪れている層が一定数いることが明らかになったという。

検索はしないが、メディアに掲載された中古車販売のバナー広告は積極的にクリックする。これは彼らが自動車購入へのニーズを抱えているものの、自発的に検索するほどには検討熟度が高まっていない、あるいは検索で自動車の情報を収集するという発想を持っていないためではないかと床尾氏は考えた。

実際にオーディエンスターゲティングのディスプレイ広告に触れて成果に至ったユーザー群の行動を分析すると、検討期間が比較的長かった。彼らの初回訪問からコンバージョンまでにかかる日数、すなわち検討期間は5日~1カ月。この数値は、これらの広告に触れていないコンバージョンユーザーと比べて大幅に長い期間だという。

また準新規ともいえるユーザーの再訪問も多く獲得していた。準新規ユーザーとは、広告の効果測定上は初回訪問とみなされているものの、アクセス解析ツール上では半年以上前に訪問しているユーザーを指す。

「ユーザーが関心を持っている情報や調査行動に沿ってターゲティングするディスプレイ広告の配信によって、検討ステップの前半にいるユーザーと接触できることが分かった。普段はクルマに関する情報には積極的ではないが、潜在的にニーズを持っているユーザーに接触できた点が大きなポイントだと思う」(床尾氏)。

検索しないユーザーの実態、転職情報と高い関連

それではでガリバー社のサイトを訪れる見込みユーザーたちは、中古車情報以外にどのような嗜好を持つ人々なのだろうか?

それを調べるために床尾氏は、ガリバー社の中古車在庫ページに到達したユーザーが、普段閲覧しているサイトのコンテンツを調べることにした。コンテンツに含まれている「自動車に関連しない文脈」を統計的に集計したのだ。調査は、ネイティブ広告プラットフォーム「logly lift」を展開するログリー株式会社と共に実施した。

ガリバー社は、自社サイトに訪れるオーディエンスの分析をログリー社に依頼。ガリバー社の中古車在庫検索を利用したユーザーが、実際にはどのような興味・関心があるかを「オーディエンス」×「文脈」という切り口から詳細に調べた。

結果は、床尾氏自身も意外と感じる内容だった。

上記のユーザーたちがよく閲覧する内容として、ガリバー社がこれまで想定していなかったコンテンツの文脈がいくつか浮かび上がってきたのだ。その中でも開示できる文脈の例として、床尾氏は「転職」を挙げた。中古車販売と転職関連のサイトを同時期に閲覧しているユーザーたちは、何を求めていたのか?確証はないが、自動車購入の際にローンを組む点がポイントではないかという。

「あくまで予想だが、転職するとローンが組みにくくなることもあるため、転職前に組んでしまおうとなるケースは多いと思われる。だからローンによる購入者が多い自動車と転職が紐づいているのではないか。特に大企業からベンチャーなど小規模な企業に移る際は、ローン審査の与信枠も小さくなることがあるため、その傾向が顕著になるかもしれない」(床尾氏)。

それでは転職関連のキーワードやサイトに絞ってターゲティングすることで、見込み客を効果的に獲得できるのか?床尾氏によると、話はそこまで単純ではないという。

転職関連のサイトを閲覧したユーザーの中でも、コンバージョンに至ったユーザーと、そうでないユーザーとでは、閲覧記事の傾向に明確な違いがあることが分かったのだ。

コンバージョンしたユーザーが閲覧した転職関連記事の文脈をみてみると、社会情勢や雇用に関連した情報やニュース、労務や就業規則に関する文脈など、転職を前向きにとらえキャリアと向き合い、安定した所得を得るユーザーを連想させる内容だった。

一方でコンバージョンしなかったユーザーの文脈は、「バイト」「試用期間」「ハローワーク」「不採用」をはじめ、所得が安定しないユーザーを思わせる文脈が並んだ。

共に、自動車に関する興味や関心がある点は一致しているが、実際に購買に関する行動には大きな差があると感じたという。

「これらのデータを元にクルマと転職に関する記事を作るにしても、テーマの対象によってはコンバージョンにつながらないであろうことが分かる。今回の『転職』以外の文脈も含め、コンテンツで新規ユーザーを獲得するには、見込みユーザーのウェブ回遊文脈の真意を把握することが大切だと改めて実感した」(床尾氏)。

ガリバーの中古車検索利用ユーザーによる訪問サイトを示した解析図

検索しないユーザーと対話できるコンテンツ展開の重要性

このように非検索流入者の実態を把握するために詳細な分析を駆使した床尾氏だが、彼らと接触するコンテンツ施策についてはどう考えているのだろうか?

有効なコンテンツ集客拡大策の一つとして床尾氏は、広告の活用と分析、コンテンツ施策への分析結果のフィードバックを挙げた。

「最初にユーザーと接触する手段として、検索の競争が激しい。だからこそ(分析結果を)ネイティブ広告や、ディスプレイ広告のランディングページなどに積極的に活用してほしい」と述べている。

またネイティブ広告からの流入者は、検索流入者と比べて成果に直結することは少ないものの、繰り返し訪問してくれる傾向があるという。そのため訪問してくれたユーザーをもてなす質の高いコンテンツも併せて揃える必要があるとした。訪問してくれたユーザーに向けて、再訪問の価値があるコンテンツを充実させることが、施策として非常に重要だと床尾氏は指摘する。

「現在のコンテンツマーケティングは、バズマーケティングのような起点特化コンテンツを主語として語られることがある。確かに瞬間最大風速もコンテンツには必要。しかし集客から収益の最大化までのシナリオを描き、コンテンツがそのシナリオの中で果たす役割を明確にしないといけない。それが出来ないために予算を取れないプロジェクトも多い」(床尾氏)。

そして集客から収益最大化につなげるために絶対に必要な取り組みの一つが、ウェブ解析だという。解析によって、コンテンツ経由で訪れた人による行動を解明する。彼らの行動を解明することによって、サイトを訪問したユーザーがどのように目的を達成し得るかというユーザーシナリオをあぶり出すのだ。

ユーザーシナリオの重要性について床尾氏は「きつい言い方になるが、ユーザーシナリオを可視化できないのであれば、コンテンツマーケティングをやめたほうがいい」と言い切る。

訪問者によるコンバージョンまでの行動を描いたユーザーシナリオを作るということは、別の言い方をすれば、コンバージョンしてもらうために自社の良い点をどう伝えるかを明確にすることでもある。それが分からない状態でコンテンツ施策を進めても成果は望めないという考えだ。