2016年1月27日、Ginzamarkets主催の『第3回 FOUND Conference in Tokyo』が開催された。Ginzamarketsはコンテンツマーケティング支援サービス「Ginzametrics」を提供している会社であり、同カンファレンスは「コンテンツマーケティングの実践について考える」をコンセプトに、シリコンバレーやニューヨークなどで開催され、東京での開催は今回で3回目となる。コンテンツマーケティングラボでは、過去2回の同カンファレンスの内容もお伝えしている。
今年度の第一部では「画像・動画・VRを使ったコンテンツの可能性」、第二部では「良いコンテンツを発信し続ける仕組みと体制」、第三部では「コンテンツをターゲットユーザーに届けるための集客手法」のテーマでセッションが開催された。それぞれのセッションの内容を3回に分けて、レポートする。
「画像・動画・VRを使ったコンテンツの可能性」と題された第一部では、株式会社資生堂技術企画部技術コミュニケーショングループグループリーダー(当時)の藤岡智愛氏、株式会社ネクストHOME’S事業本部リッテルラボラトリーユニットユニット長の秋山剛氏、株式会社土屋鞄製造所お客様コミュニケーション本部バッグマーケティング室の沼田雄二朗氏、そしてモデレーターとして株式会社メディアジーンDIGIDAY[日本版]編集長の長田真氏が登壇した。
まず、モデレーターのメディアジーン長田氏は「これまではコンテンツマーケティングと言えば、テキストのコンテンツが主だった。しかし2010年以降、SNSの流行やコンテンツ開発技術の進歩などにより、テキスト以外のコンテンツも用いられるように変化した。」と述べ、動画や、VRなどの手法を用いたコンテンツの可能性が広がっていることを指摘。今回登壇する企業3社は、それぞれ異なる手法・試みを行っていると紹介した。
化粧品事業でよく知られた資生堂だが、資生堂の藤岡氏によると「研究開発に力を入れていることはあまり知られてこなかった」のだという。知られざる企業側面を消費者に紹介するため2010年に立ち上げられたのが、「資生堂PICK UP TECHNOLOGY」だ。
藤岡氏は、動画という手法を選択した理由は二つあると話す。一つ目は、従来行ってきたテキストでの広報活動や紙面広告よりも、多くの情報を立体的に伝えられること。二つ目は、TV CMを数多く作成していることから、動画制作のノウハウ・経験が社内に蓄積されていることだという。
不動産・住宅情報サイトHOME’Sを運営しているネクストの経営理念は、「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」。この経営理念に沿って、2011年4月に研究開発部門として立ち上げられたのが、「リッテルラボラトリー」 だ。
ネクスト秋山氏は、VRなどの手法を選んだ理由としてこう話す。
「我々は、家探しのツールとしてはHOME’Sが便利だと考えている。ただ、家探しという行為をエンターテイメントにはできていない。この行為を楽しくするため、『もっとコミュニケーションを取りながら家探しをする』手法を探した。家探しとは本来家族みんなでするものではないか。お父さんお母さんだけが見るのではなく、家族みんなで楽しめるものとして、直感的なUIと没入感のあるVRを採用した。」
創業50年を超える老舗の鞄メーカー土屋鞄製造所。FacebookやInstagramといったソーシャルメディアを積極的に活用し、商品情報を画像コンテンツで日々発信している。
土屋鞄製造所の沼田氏は、画像が主のコンテンツをソーシャルメディアで配信している理由を「われわれの鞄という商材は、機能的だからといってすぐ買われるものではない。まずはブランドの世界観に共感し、興味を持ってもらってから、買うかどうか検討してもらえる。画像は直感的・情緒的な情報伝達に向いているので、適していると考えた。」と話している。ネクストと手法は異なるが、感情に訴えかけることに適した手法に行き着いた点は似ているといえるだろう。
また沼田氏は、既存顧客のペルソナに合わせ、ソーシャルメディアというコミュニケーション手段を選択したとも述べた。
「メイン商材の一つであるランドセルの商品情報ページは、PCからよりもスマートフォンからのアクセスが多い。しかも、ランドセルはお母さんが中心となって情報収集や購入決定することが多い。このことから、お母さんとコミュニケーションするために、女性利用者が多いスマートフォンアプリInstagramを選択した。」ということだ。
最終的には、実店舗やECサイトで購入してもらうことを狙っているようである。
コンテンツマーケティングを実施する上で、効果測定は欠かせない。テキストのコンテンツに比べ、まだまだ各社経験値が少ないと考えられる動画や画像などの新しいコンテンツだが、登壇3社はどのようにKPI設定などを行っているのだろうか。
「特にKPIを設定してはいないが、社内コミュニケーションの円滑化という成果が出ている」と話すのは資生堂の藤岡氏だ。
また藤岡氏は、動画は再生回数がわかるが、「『資生堂というブランドの意外な側面を認識してもらう』 というコンテンツマーケティングの目的は、単純に動画再生回数が多いからといって達成できたかどうかはわからない。だから、再生回数は参考くらいにとらえている」とも言い添えた。
資生堂と同様、研究開発目的でコンテンツマーケティングを行っているネクストの秋山氏も、「たしかに研究開発においてKPIを定めるのは難しく、従ってPDCAを回すことも難しい」と前置きをした上で、次のように話した。
「ネクストという会社は、イノベーションを起こすというビジョン・戦略を掲げている会社。われわれ研究開発部門は、成功体験を積みながら、そういったことが生み出される土壌を作っていく必要がある。成果は、企業戦略への貢献度で測っている。」
効果測定が難しい場合でも定性的な計測を取り入れるというのは、見習うべきだろう。
土屋鞄製造所の沼田氏は、購買への貢献度はソーシャルメディアからECサイトへの流入数などで定量的に判断しやすい一方、「情緒的な価値を画像で伝えた結果、共感してもらえたかどうかは測定しにくい。感情の動きは計れないので。」と述べ、今後の課題はいかにして共感してもらえたかどうかを計測し、効果測定していくことだと話した。