本連載の第一回目では、簡単にCMSの概要と導入によるメリットやデメリットを紹介した。いざ自社のWebサイトにCMSを導入し、日々のコンテンツ管理・運用をスムーズにしたいと考えても、無償・有償含めCMSとジャンル分けされるソフトウェアは実に種類が多い。そこで今回はいくつかの視点からCMSを分類しながら、CMSの選定のコツを紹介していきたい。また、思い通りのサイトが作りやすいCMSを導入する場合などは、外部のホスティングサービスとの契約が必要となるだろう。サーバの領域を貸してくれるホスティングサービスの種別は、導入時だけでなく運用時のコストにも関係してくるため、ここでホスティングサービスについても触れておこう。
Webサイトコンテンツの運用・管理にCMSが広く使われるようになって10年ぐらいが経っただろうか。最近はその便利さからか、多くのWebサイトの新規立ち上げやリニューアルの際にCMSを導入するケースが増えていると考えられる。筆者のもとにも「○○というCMSでWebサイトを作りたい」といった特定のCMSの仕様を前提とした要望が持ち込まれることもあるが、まず考えておきたいのは「本当にその○○というCMSがそのコンテンツを運用するのに向いているか?」だ。
自社のWebサイトの全体をCMSに置き換えてコンテンツを管理することは、サイト全体の管理、迅速なコンテンツ制作や更新などには有効だ。しかし、蓋を開けてみればコンテンツそのものの新規追加や更新が頻繁におこなわれるわけではなく、最新情報やプレスリリースなどの一部のコンテンツブロックだけの更新だけを自社で管理したい、ブログのようなコンテンツをひとつのチャンネルとして持ちたいだけ、ということが多いのも事実だ。
連載一回目でも触れたように「CMSを導入するとコスト削減にもなって便利」というのは事実だが、その前にまず考えたいのは「CMSを使って何がしたいのか」であり、それによって導入すべきCMSのタイプも異なってくるのである。
CMSで管理する対象をWebサイト全体に拡げてしまえば、新規立ち上げであろうがリニューアルであろうが、予算も公開までに要する時間も多くかかってしまう。しかし、既存のWebサイトの一部だけをCMSで更新する場合やブログのようなコンテンツを追加するだけなのであれば、何も大がかりなCMSを導入するまでもない。無理をしていきなり大きく始めるのではなく、小さく始めて反応を見ながら最終的に大きく変更するといったこともできる。
例えば、既に自社コンテンツが運用中である状態だとしよう。その中にあって「簡単に運用できる新たな情報発信のためのチャンネルを作りたい」というのであれば、オンラインで利用可能なマイクロブログサービスやCMSのサービスを利用するのもひとつの方法だ。前回も紹介した「Tumblr」は、機能が豊富なCMSというよりマイクロブログサービスの部類になるが、コンテンツの発信チャンネルとしては欧米のブランドが採用しているように実績もある。
それだけではない。最近では無償から始められるオンラインのホームページ作成サービスも多い。「Wix」や「Jimdo(ジンドゥー)」など元は海外で運営されていたサービスは、次々と日本語対応されて現在国内向けのサービスとして利用できる。後に紹介するインストールタイプのCMSで有名なWordPressにもオンラインサービス「WordPress.com」があり、こちらも日本語化されている。また、今年に入ってからサイバーエージェント社の「Ameba Ownd」というサービスも開始された。このようなタイプのサービスは、コンテンツの追加や更新といったすべての操作をWebブラウザから専用の管理画面を通しておこなうことができる。
これらの無償から利用可能なサービスは、月額の費用を追加することでEコマースなどの機能追加をおこなったり、独自ドメインやサブドメインの割り当てをおこなって表向きは自社内にあるコンテンツのように振る舞うことも可能だ。まずは、小さく始めてその運用方法に慣れるのにも最適な選択肢のひとつと言える。ただし、あくまでも第三者のサーバにデータが存在することになるため、メンテナンスやトラブルなどでサービスが一時停止する可能性もある。運用が軌道に乗った際には、自社内のサーバの中に新たなCMSを導入して移行するといったことも視野に入れておきたい。
オンラインサービスは安価で簡単に使えて大変便利だが、そのサービスに用意された機能しか利用できないという弱点がある。特にCMSの仕組みに慣れてくると「あれもやりたい」「ここをこうしたい」といった要望が出てくるものだ。
それだけではない。事業規模が大きかったりある程度の量のコンテンツを取り扱う時には、自社内のWebサーバにインストールするタイプのCMSを導入した方がコンテンツのハンドリングがしやすいだろう。コンテンツの公開時に担当者による内容チェックなど、承認フローが必要な場合は、そのような機能をもったCMSを導入することも考えたい。
インストール型のCMSはそれ自体がソフトウェアであるため、オープンソースで開発・公開され無償で利用可能なものから、ソフトウェアベンダーが開発・販売している有償のソフトウェアまで多種多様に存在している。オープンソース系の無償のCMSだから品質が劣るといったことはないが、その運用やトラブル対応に関しては自己責任でおこなわなければならない。もし、CMSの運用の面に不安を感じるようであれば、有償のCMSを導入し販売会社から提供されるサポートを受ける方が安心できることもあるはずだ。
現在、世界中でよく利用され日本でも人気の「WordPress」というCMSはオープンソースで開発されており無償で利用可能である。しかし、インストールや設置といった初期構築を自社でおこなうことができなければ、その部分の作業は制作会社などに依頼することになる。あくまでも無償なのはソフトウェアの対価であり、インストールや設置を依頼する場合はそれなりの費用がかかると考えておきたい。
有償で販売されているCMSもまた実に多種多様だ。小規模のサイトから大規模のサイトまで幅広く運用できるもの、多言語対応やコンテンツの公開にいたる編集権限や承認の仕組み機能などを標準装備しコンテンツ管理にフォーカスしたものなど、数万円から始められるものから数百万〜数千万円になるものまである。有償のCMSは、その機能などに応じて初期導入時のコストは異なってくる。
インストール型のCMSの中にはユニークなものもある。一般的にCMSというとWebサイト全体を管理するものと考えられがちだが、冒頭でも触れたように更新対象は実際にはサイトの一部だけということも考えられる。たとえば、「a-blog cms」は既存のWebコンテンツをそのまま流用して一部分だけをCMS化することが可能だ。仕組みは異なるが、「Perch」のようにWebサイトの一部分だけにCMSを追加するマイクロCMSと呼ばれるものもある。
CMSの導入時には、高額な費用を払って導入したものの身の丈にあわない、多機能すぎて使いづらいといった話もよく耳にする。まずはその目的をしっかり考え、それにあわせて最適なCMSを選択した方が良い。「○○というCMSが流行っているから」といった理由ではなく、制作会社に依頼する際は「こういうことをしたいから」という目的を伝えるようにしよう。
インストール型のCMSの導入時にはいくつかの注意点がある。CMSはソフトウェアであるため、それが動作するためのWebサーバが必要だ。既に自社がWebサーバを導入しているからといって、必ずしもその環境で動作する保証はない。CMSを動かすにはそのCMSを動作させるために必要な条件というものがある。場合によっては、CMSを導入するために新規のサーバをホスティングサービスなどで契約する必要が出てくるだろう。CMSを導入する際にホスティングサービスの契約が必要であれば、その選定については慎重におこないたい。
ホスティングサービスには、「共用ホスティング」「専用ホスティング」、最近話題の「VPS」や「クラウドサーバ」など種類がある。安価で知られる共用ホスティングサービスは、言ってしまえば誰が隣に住んでいるかもわからない集合住宅のようなものだ。そのサービスの性質上、「CMSの動作する最低条件を充たせない」「将来のCMSのバージョンアップや機能の追加がしにくい」「自分以外の第三者のサイトがハッキング被害にあって自社サイトまで被害にあう」といったことも考えられる。
その一方で専用ホスティングやVPS、クラウドサーバなどは共用ホスティングとは仕様が異なり、戸建ての住宅を借りるようなものだ。VPSやクラウドサーバは共用ホスティング並みの安価で始められる利点はある。しかし、今度は自身による管理が必要になるため、サーバそのものの管理から自社もしくは制作会社に委託する形で運用しなければならない。バージョンアップや機能追加など自由度が高くなる反面、運用面でのコストがかかる。
前述のようにCMSはソフトウェアであり、時には深刻なセキュリティホールが見つかって早急な対応が必要なこともある。一度インストールしてしまえばずっと安全に使えるという保証はないのだ。CMS側に問題はなくともホスティングされたWebサーバに問題が見つかることもある。初期導入コストを低く済ませたいという気持ちはわかるが、少なくとも運用面でのコストはきちんとかける方向で考えておきたい。CMSのデータ消失や情報漏洩などの被害が起きてからでは遅く、むしろそちらの対応にかかる費用の方がコスト高になることも考えられる。CMSの導入時には、ホスティングサービスの選定から月々の運用コストまできちんと考えておこう。
今回はCMSやホスティングサービスの選定にかかわるポイントを取りあげたが、最終回の次回は現在のWebを取り巻く環境を取りあげながら、この先の未来を見据えたコンテンツの管理の考え方を紹介する。