コンテンツマーケティングは様々な手法を取り入れながら発展してきたが、その一つが「ブランドジャーナリズム」だ。ブランドジャーナリズムとは、企業もジャーナリズム(報道活動)の視点を持って自社プラットフォーム上にコンテンツを展開し、メディアや外部に取り上げてもらうのではなく、「自身でストーリーを語り、企業を知ってもらう」という考えを基に発展してきた手法だ。これまでは、コンテンツマーケティングを説明するときに、多くのマーケターが近しい概念としてブランドジャーナリズムをあげてきたが、コンテンツマーケティングが普及してきた今、改めてそれぞれの役割を明確し、「敢えて分けて考える」という動きがでてきている。
そこで今回取り上げるのは、マーケティングやPRに関する著名ブロガーのSarah Sherik氏がブランドジャーナリズムについて語った記事だ。同氏はPRニュースワイヤー社の副社長を務めた経歴を持ち、多くの企業の広報・宣伝に携わった経験から、コンテンツの活用方法について様々な考えをブログで発信しているが、その中の一つの記事で、コンテンツマーケティングとブランドジャーナリズムの違いについて語っている。
企業やブランドに対する共感を生み出し、認知度を高めたり、顧客との関係性を深化させたりする“パブリックリレーション(PR)。”かつて、広報や宣伝部門はPR会社を活用して自社が発信する情報を各種メディアに取り上げてもらい、パプリシティを得ることを目的にしてきた。しかし、ウェブサイトやSNSなどの登場により、他社メディアの力を借りなくても企業が直接生活者にコンテンツを届けることできるようになった。そこで発展したのが、「企業が自身を”報道する“」という考えに基づいた「ブランドジャーナリズム」だ。
コンテンツマーケティングと比べても、「ターゲット視点で興味深い情報を編集し、発信する」という点では共通しているため、生活者の目には、両者のアウトプットは似たものとして映ることもあるだろう。では、企業側の意図としては何が違うのか――Sherik氏によると、キーとなるのは、「どのようなゴールを果たすべきか」というコンテンツの“役割”にあるという。ここで具体例とあわせて説明しよう。
スターバックスコーヒーのニュースルームにある「ホリデーマグのアート」というコンテンツでは、これを手がけた社内プロダクトデザイナーの制作ストーリーにフォーカス。ホリデーマグのデザインを手がけるまでの歩みを、物語として語った。コーヒーの売上や来店に直接結びつくコンテンツではないが、社員がどういう思いを持って業務に取り組んでいるのか、また、企業が社員とどう向き合っているのかを伝えており、スターバックスのブランドフィロソフィーを知ることができる。
世界的なコンテンツマーケティングのイベント・Content Marketing Worldでも何度も取り上げられているRiver Pool & Spa社のコンテンツマーケティング(※当サイトでも記事として取り上げている。こちら を参照)を手がけたMarcus Sheridan氏は、「コンテンツはセールスツールだ」と語っている。つまり有益な情報提供を行ったり、見込み客を啓蒙することによってターゲットの購買意欲を刺激し、行動に移らせるということだ。「最終的な売り上げ」に貢献することを意識して企画されているかどうかがコンテンツマーケティングであるかどうかを左右する。
上記から両者の違いを紐解くと、ブランドジャーナリズムは購買プロセスの第一段階である“認知”より前にあるターゲットや、“購買”後の既存顧客に対してよい影響力を与えるものだ。対して、コンテンツマーケティングは“認知~購買”のプロセス中にあるターゲットを、購買へと後押ししていくことに力を発揮するものだと言えるだろう。(購買プロセスについては当サイトでも取り上げている。詳しくはカスタマージャーニーマップについてまとめた記事 を参照してほしい。)
また、二つの手法の違いは「どの部署が」「どんなミッションを掲げ」「誰に」「どんなコンテンツを届けているのか」にブレークダウンしてみると、より明確になる。
担当 | ミッション | 対象 | 届ける内容 | コンテンツアプローチ | |
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ブランドジャーナリズム | 広報 | 企業やブランドについて知ってもらう | 生活者 | 企業に関すること(内容の軸は企業が伝えたいこと) | 生活者の関心をとらえるために、面白く魅力的に語る |
コンテンツマーケティング | マーケティング | 商品を売る | 見込み客 | 買ってもらうための情報(内容の軸はターゲットの関心) | 見込み客にとってよりわかりやすく有益な情報を提供する |
ブランドジャーナリズム |
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コンテンツマーケティング |
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コンテンツマーケティングと同様にブランドジャーナリズムにおいても、それぞれのコンテンツが達成すべきゴールを意識し、評価軸を事前に設定した上で制作・配置する必要がある。前述したスターバックスの事例はブランドへの共感と顧客とのエンゲージメントを目的としており、明確な売上に直結することは求められていない。もし来客数増加をゴールとしていれば、コンテンツ制作の決裁は下りなかっただろう。ターゲットからどんな反響を得るために提供するコンテンツなのか――目標と役割を明確にしておくことが、ブランドジャーナリズムを成功させるためのポイントとなる。
また、ブランドジャーナリズムが果たす「認知拡大」や「エンゲージメント強化」だけでは企業のビジネスゴール(=売上獲得)を達成することはできない。最終的に収益アップに結びつけるためにも、いかに既存のコンテンツマーケティングと連動させるのかも考えよう。ブランド好感度を高めるコンテンツと、購買を後押しするコンテンツ、両者の持つ目的がそれぞれ違っていても、対象となるターゲットは同じ人物だ。そのことを意識し、多様なチャネルにまたがっているコンテンツ群を関連付け、相互に発見しやすいように連携させることを考えることが必要だ。
ストーリーの持つ“伝える力”の使いどころは、ターゲット向けのブランディングだけではない。社内や外部メディアに対しても素晴らしい効果を発揮するのが、ブランドジャーナリズムの特筆すべき点だ。例えば、下記のようなケースに活用することができる。
社内コミュニケーションツールとしてなら、経営戦略などを社員が理解し、事業方針に参画しやすくするためのコミュニケーションツールとして活用することができる。ストーリーを用いて語ることによって、データだけでは伝わりにくい理念やイメージを共有することができると同時に、難しい内容も記憶に残りやすくなる。
営業・CS部門のトレーニングツールとしてであれば、どのようなターゲットにどのような価値を感じてもらい顧客になってもらいたいかということや、それらを営業やCS部門の社員に伝える接客時のトレーニングツールとして活用することができる。ストーリーを通して、理想的な購買プロセスの流れをスムーズに共有することができるからだ。
メディア露出の機会創出に活用することも可能だ。プロットを組み立てた興味深いストーリーや巧みなキーワード使いは、外部メディアからのリンクを増やしたり、ウェブメディアに掲載される機会も創出することにつながるだろう。結果としてコンテンツの検索性を高めることも期待できる。
また、緊急時のコミュニケーション設計に使うこともできる。洗練されたストーリーテリング、信頼できる情報発信源であるという立ち位置、ターゲットとの間に構築されたポジティブな関係性は、企業が重大な事態に直面した際にも、大きな力を発揮する。つまり、企業としての考えをしっかり語る機会を設けておけば、万が一のことがあった際の信頼回復のチャンスを創出してくれるのだ。
企業が持つ価値観やフィロソフィーをストーリーとして語るブランドジャーナリズムは、文脈やニュアンスによってブランド自体に“表情”を持たせることができ、好意や親しみやすさを生み出しやすい。人々の感情に訴えかけるこのパワーは、SNSでのシェアにもつながり、さらなる展開を生み出す可能性を秘めている。ターゲットとの関係を築き、深め、同時に検索性をも向上させるこのアプローチは、投資以上の価値をもたらしてくれるものになるはずだ。