CONTENT MARKETING LAB

nanapiとGoogleの「中の人」に学ぶコンテンツマーケティングに応用したい“SEO”

作成者: CML|May 7, 2013 3:01:00 AM

2013年3月27日、都内にてアクセス解析の協議会アクセス解析イニシアチブ主催による特別セミナー「ユーザー行動から取り組むSEO ~実例で見るホワイトハットSEO~」が開催された。

このセミナーでは、3部構成で進行。第1部では「実例で見る Googleウェブマスターツールを活用した ユーザー中心SEOの取り組み」と題し、a href="http://nanapi.jp/" class="new-window" target="_blank">How toサイトnanapiを運営する株式会社nanapi代表取締役の古川健介氏、nanapiのSEOを担当されているSearch Engine Optimizerの辻正浩氏によるHow toサイトnanapiにおける実例の紹介、そして第2部では「ウェブ担当者に知ってほしいホワイトハットSEOの基本と誤解しがちなポイント」と題しGoogle株式会社サーチクオリティチームの金谷武明氏によるSEOにおけるGoogleの基本的な考え方の紹介、そして第3部では「検索キーワードからユーザーを描く SEO活用の課題とポイント」と題し靴下専門店 Tabioのオンラインストアを運営されるタビオ株式会社 執行役員の真砂輝男氏とそのSEOを担当されたアユダンテ株式会社のSEOスペシャリスト江沢真紀氏より実例が紹介された。

我々Content Marketing Lab編集部もコンテンツマーケティングへの活用という観点でこのセミナーに参加した。セミナー全体で非常に参考になったのはHow toサイトnanapiにおけるコンテンツの考え方とSEOの密接な関係であった。そこで今回はこれら内容を中心にご紹介したい。

「効果に近いところでSEO対策を施す」これがnanapiの基本コンセプト

nanapi とは”たくさんの「やり方」が集まる百科事典”サイト。さまざまなHow toコンテンツが紹介されているサイトである。

nanapi TOPページ

さっとサイトを回遊するだけで、読み手として気になってしまうたくさんの情報があることがわかる。まさに「How toの百科事典」というべきサイトだ。SEOを担当する辻氏によるとこのサイトではSEO施策によって、なんと一昨年の10月から昨年の8月までの間に、自然検索による流入数を4倍程度向上する成果を上げたという。

その秘訣はどこにあるのだろうか。そもそもこのサイトはHow toの百科事典だけあって、何かのやり方を探すために膨大な数の異なるキーワードで検索し流入する。つまり、「何かのやり方を探すキーワード」はほぼすべて対策すべきキーワードなのだ。そのため一般的によくある「特定ワードでリンクを上げる」いわゆる「SEO対策」では対応しきれない。

たとえば今年1月の実績値では、45万キーワードからの流入があったという。これは時期的な要因もあり他の月と比較してやや低い数字だというが、それでも1日あたり1.5万ものキーワードからの流入があるということになる。現場にとってこれだけのキーワードに対して「一般的なSEO対策」を施すということは、行うべき施策は無限近く増えることを意味する。

このような状況でどう取り組むべきなのか、到達した結論は「効果に近い所でSEOを行う」というもの。この「効果の近い所」として辻氏が挙げているのは「SNS経由を中心としたリンクが集まる場所」と「検索流入のとれる場所」という2点である。
ここでnanapiのサイト構造ざっくりとみてみよう。

nanapiの基本的なサイト構造

辻氏によると上記のようにトップページがあり、How toのテーマ毎にテーマページがあり、そこに紐付いて個別の記事がある、というのが基本的な構造だという。

それぞれ、どんな流入傾向があるのだろうか。辻氏曰く「トップページは大量のリンクを受けるが、検索からの流入はnanapiのような指名ワードでしかない。テーマページは一部テーマにおいてはミドルワード、ビッグワードによる流入は見込めるものの、それと比較するとリンクはそれほど見込めない。個別の記事はリンクも検索流入も共に膨大にある」という状況だという。

このような流入傾向に対し、リンクが集まるトップページからテーマページへの橋渡しを行う、リンクの集まる記事ページの最適化を行いながらテーマページといったミドルワード・ビッグワードを獲得できる場所へリンクを張ることで力を渡してあげる、というのが基本的な考え方だという。

コンテンツマーケティングをWebで展開すると考えた場合、対象となるユーザーの情報ニーズと商品やサービスのベネフィットが近接する領域でコンテンツを展開、つまり彼らの情報ニーズにフラグを立てる、といった戦略をとることが重要になることがある。その場合におけるサイト設計ならびにSEOの考え方としてこのnanapiの考え方はそのまま応用することができるのではないだろうか。

ユーザーと向き合うことは結果的にGoogleと向き合うことになる

古川氏によるとnanapiでは「Googleの方を向いてサイトを作ってもしょうがない」と考えているという。なぜなら、Googleは検索に関して当然ユーザーの方を向いてやっており、検索ワードでどの検索結果を返すとユーザーが一番喜ぶかということだけを考えている会社であるから。インターネットサービスをやる側としては、「Googleはパートナーであって、一緒にユーザーはどんなコンテンツを求めていて、何があると嬉しいかを考えるべき」という思いを社内で共有しているという。

この点については、Googleの金谷氏も古川氏の話を裏付けるように「単純にユーザーが入力したキーワードと関連性の高い結果を返そうとしているだけ」とGoogleの基本スタンスを語る。Googleを欺くようなブラックハットSEOの手法とそれを阻止しようとするGoogleによるアルゴリズムの変更とのいたちごっこをするよりは、実際にユーザーがどのように、何を求めているか、ユーザーにとって価値のあるものはどういうコンテンツなのかということに留意してほしいという。

では古川氏もいうようにGoogleをパートナーとして捉えるためにはどのようなことを心がければよいのだろうか。金谷氏は、「Googleが評価しているのはコンテンツ」としたうえでそのコンテンツがGoogleにとってクロールしやすいサイト、そしてインデックスしやすい構成のサイトというポイントに加え、もう1点「ユーザーにとって魅力的で価値のあるコンテンツであること」を挙げた。つまりSEO対策で向き合うべきはGoogleに代表される検索エンジンだけではない。ユーザーも無視できない重要な一要因となるのである。

nanapiにとっての「良いコンテンツ」は「ユーザーの期待に応えられるもの」である

では、この「魅力的で価値あるコンテンツ」をnanapiではどう考えているのか。古川氏はこのサイト内で多くの流入があるという「寂しさの対処法」というキーワードを例に次のように説明する。

このキーワードで流入するユーザーはいったい何が寂しいのだろうか。彼氏が電話をくれないから寂しいのかもしれないし、ただ単純に一人暮らしを始めたから寂しいのかもしれない。「考えなくてはならないことが多くて訳がわからなくなる」というのが本音なのだそうだ。ここでnanapiが出した回答は非常にシンプル。「選択肢を提示する」のだ。「寂しさの対処法」で言えば「寂しい人でもいろいろなパターンがありますよね」ということを伝えるページを用意するのだ。nanapiの場合、この役割を担うページをテーマページと呼んでいる。

たとえば、暮らし住まいの中の生活のトラブルに関するページの場合でみてみよう。

生活トラブルの対処法」ページ

ページの左側には、鍵やガラスに関する悩みなどが分類して配置されている。このなかの「鍵」というリンクをクリックすると以下の画面に遷移する。

鍵のトラブル対処法」ページ

「鍵をなくした」ユーザーにはどの鍵をなくしたのか選択肢を与え、「自転車の鍵をなくした」ユーザーには、いろいろな自転車の鍵を紛失した際の対処方法が取捨選択できるよう、いわばHOW TOの選択肢をユーザーの状況に合わせて構造化しテーマページを充実させている。

このようにnanapiではユーザーが知りたい情報を選べる場(テーマページ)作りに非常に注力している。こうして作られるテーマページも記事ページと同様コンテンツとして捉えているのだ。このテーマページはもともと7程度しかなかったのだがSEO対策の段階で5,000にまで増やし、現在では19,000まで細分化しながら統廃合を繰り返し最適化を図っているという。

この徹底したユーザーへの配慮の範囲はサイト内に限らない。たとえば検索結果画面だ。ちょっと面白そうだけどクリックしてみたら期待外れ、といういわゆる「釣りタイトル」は絶対に避けることは当たり前、それよりも検索結果である程度内容がわかり、クリックした後には「そうそう、これが知りたかったんだよ」となること心がけているという。

Googleが提供するウェブマスターツールで分析するとnanapiの場合、検索結果の1位に表示された場合平均42%がクリックするという。「アマゾン 退会」で検索した場合には80%ものユーザーがクリックする。先の平均の基準値と比較しても圧倒的に高いといえる。

しかし一方で基準値よりも低いケースも当然ながらある。たとえば「ホワイトデーお返し 義理」で検索した場合、検索結果でほぼ1位表示されるにもかかわらず、その記事へのクリック率は28%だった。この場合検索したユーザーが欲しいHow toが提供できていない、とnanapiでは理解する。さらに詳しく調べてみると「ホワイトデーの義理のお返しを本命と誤解されないために抑えておくべきポイント」というHow toページが検索結果として表示されることがわかったという。これらの事実からユーザーは「義理チョコへのホワイトデーのお返し」について知りたがっているのに、のではないか、と仮説立てるのだ。

対応策として、この検索キーワードに対しては「こういうプレゼントがオススメ」「こういう返し方が失礼じゃない」といったお返しの全般のHow toがまとまっているテーマページが表示されるようチューニングするのだという。さらにこうしたチューニング内容は別途Excelシートにて管理し、PDCAを回している。

記事タイトルについてもこのシートを用いて改善に役立てている。基準値に満たないページの中から、表示回数が多くてクリック率が高いもの、つまりインパクトの大きいものをピックアップし状況を記録しながら改善しているという。注目するべきはその管理の細やかさ。たとえばページタイトルひとつとってみても、それが表示される場所、たとえばそのページ以外に表示されるパンくず、検索結果画面に表示されるタイトル、SNSのリンクに表示されるタイトル、それぞれでユーザーの心構えは異なる、と考えている。

たとえばnanapi内部に滞在している人はその先がイメージしやすい。それに対して検索結果で初めてタイトルに触れる場合はどうだろうか。たとえばあるテーマページが検索結果に表示される場合「このページにはたくさんの記事へのリンクがありますよ」ということがわかるようタイトル文末に(30)など記事リンクへの件数を表示させるなど細かい調整を行っているという。

Googleにて「恋 チャンス」で検索した場合の検索結果

上記検索結果画面をクリックした先のページ

また、記事タイトルの下に表示される文章(description)も、自動ではなく一つ一つ書いている。スマートフォンだと表示される文字数が少ないため、最初の50文字程度で一度文末になるように調整しているなど細かい配慮も欠かさない。

検索エンジンはこれからもどんどん精度を上げてコンテンツを評価するようになるだろう。そうである以上、コンテンツ開発に携わる人間にとって「ユーザーにとっての良質なコンテンツ」づくりの重要性はこれまで以上に増すと考えられるのではないだろうか。

執筆・編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo