CONTENT MARKETING LAB

価値の高いコンテンツをつくるためのガイドラインやトーン決め

作成者: CML|Aug 6, 2013 6:19:00 AM

前回に引き続き、本記事では6月中旬、イギリス ロンドンで開催されたユーザーエクスペリエンスをテーマにしたイベント「Usability Week London」にて開催されたワークショップの模様をレポートする。

最終回となる今回は、ワークショップ「Content Strategy 1&2」の中で紹介された、コンテンツ制作で活用できるガイドライン作りやトーンの選定の仕方について触れていきたい。

ストラテジスト・制作者・顧客に優しい、「コンテンツフォーマット」のコツ

コンテンツフォーマットとは、コンテンツの制作に社内外問わず関わる人に提供するガイドラインのことだ。コンテンツに含まれる情報、その形式、長さ、書式の指定などが含まれる。

コンテンツフォーマットの策定は、コンテンツストラテジスト、制作者、顧客の3者にとってメリットがある。

まず、コンテンツストラテジストにとっては、複数の制作者に依頼した際にも、全体のトーンや内容を統制できるというメリットがある。さらに、コンテンツの整理や管理、再利用が容易になるため、作業の効率化にもつながる。

次に、制作者にとってのメリットとして、コンテンツを作りやすくなるということが挙げられる。フリーフォーマットで文章作成を依頼されると、何を書けば良いかが分からないと不満を漏らす制作者は多いとToole氏は指摘する。その結果、仕上がった文章はただ冗長なものになり、ストラテジスト側もコンテンツの編集に労力を使う羽目になる。だが、制作者にとって「道しるべ」となるフォーマットを活用すれば、予め求められているコンテンツの量、構成、内容などが明確になるので、より質の高いコンテンツ制作につながる。

そして、コンテンツに触れる顧客にとっては、コンテンツがより分かりやすくなり、そして求めている情報を見つけやすくなる。例えば、商品情報であれば、統一した構成や見出しの型を作っておくことで、ユーザーは流し読みをするだけで、求めている情報の場所を感覚的に探し出せる。フォーマットを作っておけば、初めてコンテンツに触れるユーザーだけでなく、リピーターにも優しいコンテンツ作りにつながるのだ。

ワークショップ会場内の様子

フォーマットの項目設定を効率的に行うtips

機能するコンテンツフォーマットを策定するためには、項目をよりブレークダウンし、細かく定義する必要がある。例えば、人物をトピックとして取り上げるコンテンツの場合、「職歴」というラベルだけでは不十分だ。企業名、職種、手がけたプロジェクトや商品、スキルなど、より具体的なアウトプットにつながる項目を設けるべきである。

項目をフォーマットにまとめていく上では、「自己紹介」「詳細」「説明文」など、制作者の解釈によって意味や構造が異なる可能性がある定義は避け、誰が見ても同じように理解できる言葉で項目を設けるように配慮しよう。そして、必須・任意項目を明確にし、年齢など、定期的な更新が必要な項目は必要性を熟考しておくことで、あらかじめ情報を整理しておこう。

初めてコンテンツフォーマットを策定する際には、コンテンツの種類によって共通化されている要素の洗い出しから始めると効率的だろう。例えば、レシピコンテンツであれば、材料、手順、必要な器具、調理時間など、どのレシピでも必ず含まれている要素がある。これらの要素をフォーマットに取りいれることはユーザービリティの向上やSEO対策にもつながる。

作ったフォーマットの社内に浸透させるには?

コンテンツフォーマットを策定した後は運用だ。まず、フォーマットの活用を社内の制作体制に浸透させるためには、使う人にとってのメリットを知ってもらうことが重要だ。「このフォーマットを使えば、必要事項をいれるだけで、簡単にコンテンツが作れる」「時間短縮につながる」など、彼らの手間が省けることを強調しよう。また、仕上がったコンテンツのサンプルを展開することで、フォーマットを活用したアウトプットをイメージしやすくし、質の高いコンテンツに仕上がることを示す。

また、フォーマットに設ける項目は一方的に設定するのではなく、なぜ必要なのかを説明し、どのようにコンテンツ制作に活かされるのかも共有しておこう。運用開始後はチェックリストを作成し、依頼内容に沿って制作しているか制作者側が確認できる仕組みを作っておくこともおすすめする。

事例から学ぶ、顧客に愛されるためのブランドトーンを策定するコツとは

コンテンツのトーンは、その質を左右する大切な要素だ。トーンとは、言葉使いや言葉の選び方だけの話ではない。メッセージを伝える中で何を優先するか、というメッセージヒエラルキーも重要な要素である。

トーンとは、以下の要素で成り立っている。

  • what you choose to say(何を伝えるか)
  • how you say it(どのように発信するか)
  • how you present those messages(どのように表現するか)
  • the actual word you use to do this(実際に使う言葉)

このトーンこそ、制作者の好みによって違いが出てしまいやすいため、ガイドラインを設けることでメリットが生まれる。

まず、ブランドや企業としての個性を生み出すことができる。例えば、英国のアパレルブランドのBodenは「英国風」のちょっとウィットのきいたトーンを使って、ロイヤルファンを育成している。

その一例としてベビーグッズのギフトページを見てみよう。このページでは、英国のジョージ王子の誕生を祝う内容になっており、さらに”See gifts for a future king (or queen)”というおしゃれなコピーを添えているのだ。

さらに、同サイトではズボンのことをアメリカ風英語であるPantsとは呼ばず、英国風英語であるTrouserと呼んでいる。こちらもBodenがイギリス発のブランドとしてのトーンを採用している結果と言えるだろう。ネット通販で衣料品を扱っている企業は数多くある中、Bodenならではのサービスをファンが実感できるのは、このような個性の強いトーンに起因している。

Bodenのベビーグッズのギフトページ

トーンから生まれるさらなるメリットの中に競合企業との差別化ポイントもあげられる。例として、イギリスのインターネット通信会社3社のQ&Aに掲載されている、インターネット回線が遅い時の対策を案内するコピーを取り上げてみよう。

まずは悪い例からご紹介。

●BT:「回線が遅いと“感じたら”」という見出しで、自社の回線は速いが、ユーザーによっては遅いと“感じる”ことがある点を強調している。さらに、Q&Aでは、回線が遅くなる原因について長いコピーで説明した上で、詳細は回線スピードを改善するチェック機能のページに飛ばすような施策をとっている。

●Virgin:「“いつもより”回線が遅いように感じたら」という見出しで、“いつも”は速いことを示した上で、改善するために参照できる別のウェブページをいくつか紹介している。

この2社の対応に共通した問題点は、ユーザーを悩ませている「問題」に対する解決策」ではなく「問題の原因」に焦点を置いていることだ。これは自社は悪くないという言い訳に聞こえてしまうし、ユーザーは提供されている回答欄からは改善策を得ることができない。一方で、次に紹介するOrangeは異なる切り口を選び、独自のトーンを生み出している。

●Orange:「Orange契約でも遅い回線のスピードを改善するためには」という見出しを設け、小見出しで方法をいくつか上げている。問題の原因や、それが自社の責任かどうかなどの説明よりも、困っているユーザーへ問題解決を提供することに目を向けているのだ。

実は各企業が挙げる改善策は、モデムの再起動や使っているプログラムの整理など、どれも同じような内容だ。だが、うまくトーンをかつようし、信頼を生み出しているのは、OrangeのQ&Aだと言えるだろう。

※これらのコピーは、Toole氏が調査した時点のものであり、現在、各社のウェブサイトでは変更されております。

最後に、ブランドトーンを持つことは、難解な課題やメッセージを親しみやすくする効果がある。製品を中心とする小売りの大手Best Buyは、店頭の対応についてのクレームが自社サイトのフォーラム(掲示板)に掲出されたとき、定型文で固められた謝罪を掲載するのではなく、個人に寄り添うトーンを使ってレスポンスを計った。CS担当者は「そんな対応は自分でも絶対嫌だと思う」と顧客の悩みに共感した上で、謝罪した。さらに、フォーラムではなくメールで個別対応をさせてほしいという依頼を出すことで、批判的なコメントの増加を防ぎ、炎上を防いだ。取り扱いにくく見えるクレームも、トーン一つで解決策を導きやすくなるのだ。

3回に渡ってお送りしてきた「Usability Week」におけるコンテンツストラテジーのセミナー内容はいかがだっただろうか?

本セミナーに関する3つの記事では、「コンテンツストラテジーを取り入れる」「戦略を立ててコンテンツを企画する」「企画したコンテンツを制作し編集・管理する」という、全てのプロセスにまつわるキーポイントについて触れてきたウェブのコピーライティングから始まったSticky Contentの代表であるToole氏だからこそ、「言葉選びやトーンなど、コンテンツの『表現の仕方』にも十分注意を払う必要がある」ということを強調しており、戦略立案だけでなく、コンテンツ制作の場でも活用できるポイントが多くあったのではないだろうか。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo