3月4日、オーストラリアはシドニーで3日間に渡りコンテンツマーケティングカンファレンス「Content Marketing World Sydney」が開幕した。
本カンファレンスは、2011年から毎年開催されている。これまでの2回はいずれもアメリカにて開かれてきたが、近年アジアパシフィック地域においてもコンテンツマーケティングが注目されている状況を踏まえ、今年はシドニーでも開催されることになった。
本サイトを運営する日本SPセンターが、国内に拠点を置くマーケティング支援会社として初めて、本カンファレンスのメディアパートナーに認定されたことを受け、CONTENT MARKETING LAB編集部も参加。さっそく、カンファレンス初日のポイントをお伝えしたい。
5日に行われた最初のプログラムであるOpening Keynoteには、主催であるContent Marketing InstituteのJoe Pulizzi氏が登壇し、コンテンツマーケティング台頭の背景と、本カンファレンスがオーストラリアで開催される意義について語られた。
同氏が事業会社のCMO(最高マーケティング責任者)など上層部に、コンテンツマーケティングという概念を啓蒙し始めた2000年頃、すでにコンテンツの重要性については業界内で語られており、”Content”という言葉が流通し始めていた。
しかし当時「content」という言葉だけでは、「content」の重要性は理解されていたものの、それがマーケティング部門が担当すべき重要な仕事であるということまでは理解されなかったので「content marketing」という言葉を使いその重要性を説いていったそうだ。
Joe Pulizzi氏によれば、オーストラリアにいるマーケターは北米に比べて、すでのコンテンツマーケティングとの馴染みが深いのだという。同氏が2月25日に執筆したブログ記事によると、
96 percent of Australian marketers use content marketing:
Australian business-to-business (B2B) marketers (98 percent) use content marketing more often than their North American B2B peers (91 percent) do.
Australian business-to-consumer (B2C) marketers (89 percent) use content marketing more often than their North American B2C peers (86 percent) do.
オーストラリアにいる96%のマーケターがすでにコンテンツマーケティングを実践している。BtoBでは、北米が91%に対し、豪は98%。BtoCでは、北米が86%に対し、豪は89%
業界問わず、オーストラリアにおいてすでにコンテンツマーケティングの実践が始まっているという。
また、同じくブログの記事で、
Both B2B and B2C marketers in Australia use an average of 12 content marketing tactics.
BtoB、BtoCともに、オーストラリアのマーケターは、平均して12のコンテンツマーケティングの戦術を兼ね備えている
と、その戦略性の高さも評価している。
さらに、
Overall, 61 percent of Australian marketers (70 percent of B2C and 59 percent of B2B) plan to increase their content marketing budget over the next 12 months.
オーストラリアにいる61%のマーケター(BtoCが70%、BtoBが59%)が、次の一年間でコンテンツマーケティングに掛ける予算を拡大する計画がある
としており、今後さらに盛んに行われていくとしている。
これまであまり知られてこなかった事実だが、オーストラリアはアジアパシフィック地域における、コンテンツマーケティング先進国と言えるのだ。
続くキーノートプレゼンテーションには、著書『The NOW Revolution』で知られるJay Baer氏が登場。同氏は、昨年のCMW2012で、参加者アンケートの反響がもっとも大きかったセッションを行った人物でもある。今年は、“Youtility: Why Smart Companies Are Helping, Not Selling”という題目で、コンテンツ制作や顧客との関係構築の方法について語られた。
同氏によれば、これからは“Selling”の時代ではなく“Helping”の時代であるという。これら2つの単語は2文字しか違わないが、その差は大きい。何かを売り込むこと(Selling)は「今日の顧客を獲得」することしかできないが、手助けする行為(Helping)は「長い付き合いのできる顧客」を作ることができる。“Helping”するための手段を、Jay Baer氏は“Youtility”と呼ぶ。
“Youtility”には、3つのスタイルがあるという。1つは、「セルフサービス型の情報提供」。ユーザーは、企業や商品・サービスに対してなにか疑問が生じたときに、直接問い合わせる前に自分で情報を調べたいと考える。企業はそのために、情報を用意しておく必要がある。
例えば、家族経営の小さい遊園地ホリデーワールド は、“遊園地に遊びに来たときに疑問を持たなくても楽しめること”をゴールに設定しており、ウェブサイトではたくさんの情報を提供している。1つのアトラクションに対して、5つの角度から説明をしており、プールの水温も1時間ごとにチェックし公開している。
2つ目のスタイルは、「すべての質問に答える」こと。アメリカバージニア州の住宅向けプール施工業を営むRiver Pools and Spas社のウェブサイトでは、プールはコンクリート製とファイバーグラス製、ビニール製ではどれがよいのかなど、プール設置を検討し始める人が最初に思い浮かべる疑問を挙げ、答えている。プール施工業者のサイトではNo.1のアクセス数を誇り、その数は住宅向けプールメーカーをも抜く規模になっている。
3つ目のスタイルは、「リアルタイム性」。顧客が必要とする情報はその時々によって異なるため、顧客のタイミングに合わせた適切な情報を届ける必要がある。
例えば、米国オレゴン生まれのアウトドアウェアブランドColumbia Sportswear社が提供する「What Knot To Do」というアプリは、アウトドアスポーツの時に必要になることの多い、ロープの結び方についての情報を提供するという。かなりニッチな情報ではあるが、専門性が高く、かつ必要不可欠な情報だ。
Jay Baer氏によれば、長い付き合いのできる顧客を作るために有効な“Youtility”を設計するステップは、次の5つだ。
特にJay Baer氏が強く押すのは(3)以降のステップ。つまり、コンテンツを制作した「後」について。コンテンツマーケッターがよく陥りやすいのが、コンテンツを作ったらおしまいになってしまうこと。ソーシャルメディアや自社メディア、広告などを使って、制作したコンテンツを世に知らしめないと誰も見てくれないのだ(同氏)。
コンテンツマーケティングという概念がアメリカを離れて、欧州、オーストラリアへと広がっていく中で、発信者視点で単純にコンテンツをPublishするところから、お客様視点を持ちながら、便利さや使いやさという機能も備えたコンテンツを提供するという考え方へと進化してきているように感じたセッションでもあった。
執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo)