私たち日本SPセンターは来年で50周年を迎える古い会社ですが、創業以来、「売る前に“教えてあげる”ことが大事」という「Teach & Sell」の考え方のもと広告制作を手掛けてきました。
一言で“教える”といっても、小学生に教えるのと高校生に教えるのとでは教え方が変わりますし、複雑な情報になるほど教える順序や方法が大切になりますよね。ですからこのTeachの部分に力を入れた広告を制作することで、他社と差別化を図ってきました。
2010年ごろに初めてコンテンツマーケティングを知ったとき、次のような説明を読んで、なるほどと思いました。
「まず必要なのは見込み客をHELPする情報。その先に売りがある」。
Teach & Sellと同じ考え方なんですね。それ以来コンテンツマーケティングの研究を進めているというわけです。おそらく日本で最初にコンテンツマーケティングを提唱し始めたのは、当社ではないでしょうか。
さて、今日はまず、コンテンツマーケティングとは何かという基本的な話から始めましょう。実は色々な捉え方があるのですが、私が共感したものを3つご紹介します。最初は、アメリカのContent Marketing Instituteによる以下の定義。
これはおそらく最も定番でわかりやすいものですね。次にご紹介するのは、有名なコンテンツマーケターJoe Pulizzi氏が2007年に書いた『Get Content, Get Customer』での定義です。
注目してもらいたいのは、どちらの定義にも出てくる「Relevant」という単語。海外ではコンテンツマーケティングを語るとき、この単語がとてもよく出てきます。「適切な・関連する」という意味がありますが、ポイントはこの「関連する」のほう。コンテンツマーケティングにおいては、見込み客の興味関心事に「関係のあるコンテンツであること」がとても重要なんです。だから私も今では、コンテンツマーケティングに必要なコンテンツは何かと問われれば、「Relevantなコンテンツを送り届けること」と答えています。
最後にもう一つ、「Think Like a Publisher」の著者であるレベッカ・リーブによる定義を紹介します。
ちょっと難しいですね。「コンテンツマーケティングはその他のマーケティングキャンペーンを構成する原子のようなもの」という部分はつまり、コンテンツマーケティングは既存のマーケティング手法に組み込んで使える手法だということです。
コンテンツマーケティングに近しい手法として「インバウンドマーケティング」がありますが、実はこれとは考え方が違うのです。インバウンドマーケティングは従来のマーケティングへのアンチテーゼとして生まれましたが、コンテンツマーケティングはこれまでのマーケティングを否定するものではなく、組み合わせることで新しい可能性を広げるものなのだ、と。それに気づかせてくれた印象深い定義です。
一般的なコンテンツマーケティングの書籍は、動画やブログ、SEOといった手法にフォーカスしたものが多いかと思います。この図でいう枝葉の部分です。
それはそれで正しいですし有益ですが、もっと基本的な原理の部分、つまりこの図の「土壌となる適切な(Relevantな)コンテンツ」を戦略的に考えることが、コンテンツマーケティングでは重要ではないかと考えています。そしてそこを掘り下げて書いている本は、実はまだないのではないかと。当社の本が他とは違う点を一言で言うなら、その「Relevantなコンテンツをどう作るか」にフォーカスしている、という点になります。
「適切なコンテンツ」の作り方について、本書では9つのステップで紹介していますが、今回は7つのステップにまとめてお話していきましょう。
コンテンツマーケティングの方法を端的に言うと、「誰に・何を・どうやって伝えるか/その効果をどう測定し運営していくのかを決めること」。実践においては、ステップごとに下記のような表を記述していくとわかりやすいと思います。この表はこちらからもダウンロードできるので、興味のある方はぜひ使ってみてください。
最初にお話した通り、誰に説明するかによって話の順序や語り方は全く変わります。
ペルソナ設定の目的は、見込み客のことをよく知り、彼らの情報ニーズを把握すること。中でも大事なのは「商品の認知レベル」です。商品のことをよく知っているのか、存在すら知らないのかによって提供すべき情報が変わりますから、ここは外さないでください。
ちなみにペルソナ設定はやり始めると楽しくて、ついついかっこいい写真を選んだり、人生の目標は?といった商品とは関係のないことまで設定しがちになります。
しかしあくまで目的は情報ニーズの把握。作業にのめり込んで使えないペルソナを作ってしまわないようにしましょう。まずは2、3人から設定してみるのがいいですね。人数の決め方は、実際にそれだけのペルソナに情報を出し分けられるか、という視点から考えるとよいと思います。
またBtoBの場合は、「ファーモグラフィクス」というものを作成します。会社のプロフィールを書き出し、キーマンは誰なのか・購買に携わる人は誰なのかを整理し、ペルソナを設定していきます。詳しくは本書をご覧ください。
ペルソナが決まったら、彼らのニーズを記述していきます。最低限押さえるべきポイントは、以下の6つです。
これらをあぶり出すには、既存顧客へのインタビューがいちばん効率的ですね。それができない場合もあると思いますが、どのような手法でもいいのでこの6つの情報はぜひ書き出してください。
カスタマージャーニーマップとは、ペルソナの動きを可視化したもの。ジャーニーマップのプロセス数は商品によって異なりますが、書籍では次の4プロセスで説明しています。
重要な点は、見込み客がどんな状況にあって、どんな気持ちでどんな情報を求め、どんな行動をとっているのかを、正しく記述すること。このマップができれば、おのずと提供すべきコンテンツとその手法が見えてきます。
ペルソナのことがわかったら、次は何をどんなタイミングと媒体で届けるかを決めていきます。「3」のカスタマージャーニーマップの下に、プロセスごとに提供するコンテンツと媒体を書き加えていきます。
ここでのポイントは、ユーザーが意識的に求めているコンテンツを書くだけではダメだということ。見込み客が自分に必要だと意識できていない情報は、いくら聞いても出てきません。だから企業しか知らない、絶対に伝えないといけない情報は、この段階で提供すべきタイミングを決めておきましょう。
CTAとは「Call To Action」の略です。カスタマージャーニーマップの各プロセスから、次のプロセスへ進んでもらうために「見込み客に取ってもらいたい行動」を指します。
たとえばウェブサイトでは、ダウンロードボタンやリンクボタンがCTAに該当しますね。しかしここでは、単純にリンクを貼るとかボタンを設けるというだけではなく、お客様が「得られる価値」について考えておくことが重要です。
お客様に行動を求めるのは、負荷がかかるということ。それを補うだけの価値を用意し、お客様に気づいてもらうことを常に意識してください。
コンテンツマーケティングでは、見込み客が購買プロセスを意図通りに進んでいるか確認することが重要です。そのため「5」で設定したCTAを測定可能な数値にする必要があります。それがKPI。きちんとダウンロードされたか、ボタンがクリックされたかといった、CTA達成の確認作業です。
「6」までができたら、いよいよ運営のフェーズに入ります。エディトリアルカレンダーとは、用意したコンテンツの配信時期をペルソナ別に記したスケジュールです。運用には月間カレンダーが便利ですが、併せて年間カレンダーも作ってみてください。これまでのペルソナ設定や情報ニーズ把握では思い浮かばなかった、季節がらみのアイデアに気づくこともあるのでおすすめです。
最後に、私がおすすめするコンテンツマーケティング関連書籍をご紹介します。現在数冊の関連書籍が出版されていますが、概念を語っているのか戦略を語っているのか、それぞれ違いがあります。何を読むべきか迷う方のために、おすすめしたいのはこの3冊です。
まずは比較的新しい『エピック・コンテンツマーケティング 』(著者: Joe Pulizzi)。コンテンツマーケティングのほぼ全範囲を網羅していますので、概要を知るにはぴったりかと思います。
ただ、翻訳本なので読みにくいと感じる方もいるかもしれません。そんな方には、もう少し実践的な内容になっている『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本 』(著者:宗像淳・亀山將)が良いでしょう。
さらに詳しいもの…となると、今回私たちが出版した『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書 』をぜひ読んでいただければと思います。
もし英語でも構わなければ、やはりまずはコンテンツマーケティングという考え方のはじまりについて書かれた『Get Content, Get Customer』でしょう。著者はContent Marketing Labでも何度も取り上げているJoe Pulizzi氏です。
またペルソナ設定を極めたい方には、かなり細かい内容ではありますが『Buyer Personas』(著者:Adele Revell)が非常におすすめです。
戦略といった点では、コンテンツマーケティングに限らずウェブ制作全般において非常に役立つ『The Content Strategy Toolkit』(著者:Meghan Casey)。こちらは間もなく日本語版が出るようなので、興味がある方はチェックしてみてください。