コンテンツマーケティングが脚光を浴びるようになった背景の一つには、トリプルメディアという考え方があります。トリプルメディアとは、多種多様なメディアを、ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアという3つのメディアに分けてコミュニケーションを設計する考え方です。それぞれのメディアについて簡単に説明しましょう。
まずペイドメディアですが、お金を払って場所や時間、伝達手段を買い、そこにメッセージを載せることができるメディアを指します。テレビ、新聞、雑誌、ラジオなどのマスメディアが代表例です。
次に、オウンドメディアですが、自社で所有するメディアを意味します。代表的なものとして、ウェブサイトや企業アカウントのFacebookやTwitter等があります。(注:SNS全てをアーンドメディアとする考え方もあります。)
最後のアーンドメディアですが、SNSやブログ上での自社商品に関する生活者の言及や、ECサイト上での商品レビューなどに代表される、獲得したメディアのことを指します。インターネット上のクチコミとも呼ばれます。
トリプルメディアが登場する以前は、企業が生活者にメッセージを届ける手段は、いわゆるマスメディア、つまりテレビ、新聞、雑誌、ラジオというペイドメディアが主役でした。ペイドメディアには、多くの生活者に到達できるというメリットがありますが、お金を払って場所や時間を買うわけですから、決められたスペース内、あるいは決められた時間内に効率よくメッセージを伝達する必要があります。当然、情報伝達の効率が求められ、短時間でメッセージを伝達することが重視されました。
情報が比較的少ない時代には、ペイドメディアの力は絶大でした。しかし、生活者が接する情報量が消費できる量を超えると、ペイドメディアは以前ほど効かなくなってきました。例えば、みなさんも、テレビを見ながらスマホで情報を収集するなど、一つの媒体に長く接触するというよりも、いくつかの媒体に断片的に接する事が多くなってきているのではないでしょうか?マルチタスク状態で何かに夢中になっている人に聞く耳を持ってもらうことほど難しいことはありません。この状態でセールスメッセージを届けることは、忙しい時間帯に、飛び込み営業を成功させるのと同じくらい難しいでしょう。
こういった情報過多な生活者の環境変化に対応するために、メッセージの伝達方法そのものに変化が求められました。トリプルメディアの中でも、ペイドメディア以外のオウンドメディアやアーンドメディアを活用する方法が研究されたのです。
しかし、これら新しいメディアにおいては、限られた時間内に、限られたスペース内でメッセージを伝達するという制約が外れたため、これまでのマス広告で培われた、いわば瞬間的なコミュニケーション手法が有効ではありません。制約がなくなったため、逆に難しくなったともいえます。そこで前回紹介した、コンテンツマーケティングにおける「適切なコンテンツで、きっかけを作る」という考え方が注目されるようになりました。
生活者の時間に割り込み一方的にメッセージを伝えるという考え方から、自社のセールスメッセージではなく、生活者の関心事に直結した情報を提供しよう、情報を必要としている人に対して、その情報が入手しやすい状態を作ろうというコンテンツマーケティングの考え方が、新しい情報提供の枠組みを必要としていたトリプルメディアとうまくフィットし、コンテンツマーケティングが注目されるようになったのです。
他社が運営する場所や時間をお金で買い、短時間で効率よく伝達するという考え方から、自らが情報を発信し、生活者と自然なきっかけで出会い、時間をかけて段階的に購入に導くという情報伝達スタイルへのパラダイムシフトです。この変化を一言で表現したのが、コンテンツマーケティングでよく言われる、Think Like a Publisher(パブリッシャーのように考えよう)あるいは、Act Like a Publisher(パブリッシャーのように行動しよう)というキーフレーズになります。
「パブリッシャー」とは、「編集者」と訳されることもありますが、コンテンツマーケティングにおける「パブリッシャー」は「編集者」ではなく、「情報発信者」を意味します。広告主がパブリッシャーのように考え、行動するということがどういうことなのかは、具体例を知ると理解しやすいと思います。
エナジードリンクで有名なRED BULLはコンテンツマーケティングを実践している企業の中でも、パブリッシャーのように行動している事例としてよく取り上げられます。スポーツ、カルチャー、ライフスタイルなど、自社の見込客の関心領域に沿ったコンテンツを掲載したTHE RED BULLETINというマガジン型のウェブサイトを運営するだけでなく、印刷した雑誌も作成しており、毎月230万部以上を発行しています。
従来であれば、見込客の関心を惹きつける役割は、テレビ番組や雑誌等に任せ、集まってきた見込客にテレビCFや雑誌広告でメッセージを伝達するという役割分担がなされていましたが、トリプルメディアの時代には、番組や雑誌自体を企業自身が提供するということが可能になりました。つまり企業自身が広告主という枠組みから抜けだし、パブリッシャーとなってメッセージを発信することができるようになったのです。
ペイドメディアしかなかった時代には、メディアが持つオーディエンスをお金で買い、集まる場所に情報を掲載するという手法しかありませんでしたが、この場合、広告はどうしても邪魔者になりがちです。トリプルメディアの時代には、企業自らが情報を発信し、情報自体で集客するということが可能になったのです。このダイレクトかつ自然な関わり合い方の方が、生活者は企業が発するメッセージに対して親しみを持つ可能性が高くなります。
トリプルメディアの誕生によって、新たなコミュニケーションの枠組みが必要とされ脚光を浴びることになったコンテンツマーケティング。次回は、コンテンツマーケティングが脚光を浴びることになったもう一つの理由、ZMOTについて紹介する予定です。