今回フォーカスする「マイクロサイト」とは、本体サイトとは別に構築されたサイトだ。独自URLで運用されることが多いが、場合によっては本体サイトの下位階層にカテゴリー別に整理されることもある。
このマイクロサイトを活用している好事例が、アメリカのウィスコンシン州に拠点を持つ溶接機メーカー、ミラー社のサイトだ。ミラー社はコンテンツマーケティング導入後、3年連続で二桁成長を遂げたといわれる注目の企業である。このサイトのトップページには、商品別、個人向け、プロ向け等いくつかの入り口が用意されているのだが、白眉は左下に位置する“Industry Resources”(業界別情報)というコーナーだ。
このコーナーには、以下6種のマイクロサイトへの6つの入り口が設けられている。
“商品視点”で見ると、溶接機は金属を溶接するための道具でしかない。ところが、各業界の“ユーザー視点”で見ると、発信すべき情報は一変する。例えば建設現場で(多少見栄えが悪くても)鉄骨を強固に溶接するための溶接機を求めているユーザーと、農場用のフェンスを作るために細かな作業ができる溶接機を求めているユーザーでは、検討するために必要な情報はまるで異なる。
以前、「『普及曲線』からコンテンツマーケティングを考える」の記事でも取り上げたが、多くのユーザーが属するマジョリティ市場を攻略するには、一本の強いメッセージを送るのではなく、ニッチなターゲットごとに効果的なメッセージを確実に送り分けていく必要がある。他の業界の事例などの情報は検討材料にされにくいのだ。このことを熟知しているミラー社は、たとえ結果的に購入する溶接機自体は同じであっても、購入に至るまでに必要な情報はターゲットの業種ごとに異なると考え、個々にコンテンツを用意し訪問を待ち受けているのだ。
このように「マイクロサイト」の手法を使えば、想定できるターゲットの情報ニーズに合わせて、より効果的なメッセージの語り分けが容易にできるようになるのだ。
では、これらターゲットが自分の関心度の高いマイクロサイトにたどり着いた後はどうなるのだろうか――?
マイクロサイトに格納されているアーティクルの数は約450本以上(2012年5月末現在)。つまり、約450の異なる興味や情報ニーズに応えられる情報構造になっているのだ。
商品主体でワンメッセージのキャッチコピーを作り上げて、至る所で同じメッセージを唱える方法と比べて、どちらがユーザーに対して親切であり、またウェブの力を最大限に利用しているといえるだろうか?
前回の「コンテンツマーケティングの基本構造(前編)」で取り上げたMint.comは、様々な情報ニーズに幅広く応え、何度も訪れてもらえるような多様な切り口を用意することで“ターゲットとの出会いを増やす”「ブログ形式」をとっていた。そして、今回紹介したミラー社は、自社の商品のターゲットとなる業種を理解しているため、より必要な情報にアクセスしやすい「マイクロサイト形式」を採用したといえる。両者に共通しているのは、ウェブの力を利用してきめ細かなメッセージの送り分けを行い、今まで取りこぼしていたかもしれないユーザーを積極的に自社の顧客にしようとしている点である。
ターゲットボリューム順に必要な情報を並べてみると右記のようなロングテールが形成されると考えられる。その場合、ボリュームゾーンによって形成される“ヘッド”に対してはマイクロサイトによるアプローチが有効と考えられる。逆にボリュームの小さいターゲットが集まる”ロングテール”部分へは、たくさんの切り口を用意するブログによるアプローチが有効といえるだろう。このようにコンテンツマーケティングの展開方法もそのターゲットボリュームに応じて調整していくことがとても重要といえるだろう。