自宅のメンテナンスや大がかりなリフォームまで、DIYでやってしまうことも多いアメリカでは、ホームセンターで取り揃える商品群はかなり幅広い。膨大な種類の商品と、それらにまつわる多様なニーズにしっかり応えられる充実のコンテンツを実現しているのが、ホームセンター業界最大手の「Home Depot」のウェブサイトだ。
Home Depot社のウェブサイトは一般消費者向けサイトと、プロ仕様サイトに分かれているが、今回注目したいのは一般消費者向けサイト。その中でも特筆すべきは「Project: How-to」というセクションだ。ここには、“ユーザー目線”でニーズや利用シーン別に企画されたトピックスが豊富に用意されている。商品検討時にユーザーがどのような課題を持っているのか。商品購入後にそれらを正しく活用するにはどうしたらいいのか。ターゲットユーザーの知識レベルや購買プロセスのフェーズが異なっていても、しっかりニーズに応えられるように情報設計されているのだ。
“おもてなし感”あふれるHome Depot社のウェブサイトから、ユーザー目線のコンテンツ企画の方法と、ビジネスゴールへとうまくリードするメソッドを学ぶ。
工具や木材などのDIY商品を求める人が、単にその商品自体に魅力を感じて欲しがっているというケースはまれだ。その背景には必ず、「DIYをしたい・しなければならない」といった課題や目的を抱えていることが多いだろう。例えば「水漏れを直したい」「リフォームをしたい」「庭の花壇をきれいにしたい」など、商品選びの裏側ではそれを利用した解決策が求められているわけだ。Home Depot社のウェブサイトではDIYに取り組むユーザーの目線に沿い、商品に関する情報だけでなく、日曜大工や修理に活用できる、利便性の高いコンテンツが提供されている。
Project Guideではユーザーがやり遂げたいと思っていることに対して「どんな方法でそれを実現できるのか」という“ハウツー”を切り口にしたコンテンツが用意されている。
例えばトイレのリフォームを考える場合、どんな作業が必要なのかリサーチ中の“リフォーム検討段階”にある人に対して、Project Guide内に「Installing a Toilet(トイレの設置方法)」や「Replacing a Toilet(トイレの取り外し方)」などのページが用意されている。
コンテンツによって多少のばらつきはあるものの、下記のような情報を掲載している。
「用意するもの」の工具・材料リストからは、商品ページへと遷移できるようになっており、ユーザーの課題にハウツー情報で答えながら、ポテンシャルカスタマーを引き出す構造となっている。また、閲覧しながら作業することを考えたプリントアウトボタン、興味を持ったコンテンツを後で読めるようにストックできるアカウントサービス、自分で実行できるかどうかを検討する際の目安となる難易度や所要時間に関するプチ情報など、使いやすさに徹底的にこだわって企画されていることも、ターゲットユーザーの心を惹きつける大切なファクターとなっている。
トイレの取り付け方、壁の塗り方、タンクの水漏れ修理の方法など、ターゲットユーザーが持っている課題を解決するためのハウツー情報を提供するコンテンツだ。DIY商品を購入するターゲットユーザーがそもそも抱えている課題とは何なのかをしっかり分析した上で企画された、有益度の高いコンテンツ展開となっている。
Home DepotでDIY商品を購入する人は、日曜大工として行う人も多く、工具や素材についてあまり詳しくない人も多いだろう。そこで活躍するのがBuying Guideだ。ここでは「ヒューズ」「フローリング用木材」「煉瓦」など、“商品の選び方”を切り口にしたコンテンツが展開されている。
壁の状態や使用するペンキに合わせて、どのような素材・形状・サイズを選ぶべきか、プロの目線で詳しく説明されている。また、この他に、初心者向けだけでなくコアなDIYファンも満足できるような、「ハンマーの適材適所」や「コンクリートの選び方、作り方」などのコンテンツも用意されており、ただの商品紹介にとどまらない、読み応えのあるコンテンツになっている。
Project GuideやBuying Guideで課題解決方法を見つけられなかったターゲットユーザーに対しては、フォーラム形式のQ&Aページが設けられている。ユーザーが投稿した質問に対して、別のユーザーが回答したり、Home Depotの社員が回答したりする仕組みだ。ただ新たなソリューションを拡充するという目的だけでなく、ユーザーが質問を投げかけたり回答したりと、ウェブサイトに“積極的に参加する”ようになるというメリットにもつながる。さらにHome Depotの社員も回答者として参加することで、Home Depot社に人格を感じてもらえるという効果も。ユーザーのファン化や来店促進といった別の効果も期待できるだろう。
Home Depot社のウェブサイトは作業方法や商品の選び方などをよりわかりやすく伝えるために、動画コンテンツも充実している。ほとんどの動画が3分程度にまとめられており、作業前に軽く予習しておくのにぴったりの内容だ。Home Depotの社員によるレクチャーだけでなく、初心者らしき女性が登場し作業を体験するというレポート仕立てのものなど、バリエーションも豊か。動画の内容がまとめられたPDFページが用意されているものもあり、プリントアウトして保存したり、閲覧しながら作業したりするのに便利だ。
DIYファンというホームセンターのコアターゲットに対してのコンテンツも充実している。「日曜大工などで家のまわりのものを作るのが好きで、具体的なアイデアはまだないけれど、何かおもしろいものがあればやりたい」というターゲット層に対して、“次の制作アイデアを発掘する”コンテンツが展開されているのだ。
Home Depotのブログでは、あらゆるジャンルのDIYが取り上げられている。DIY好きな人にはたまらない、読み応え満点のコンテンツだ。「今あるニーズを満たす」というよりも、ブログを読むことで「やってみたい!」という気持ちを促進することを目的としている。高頻度で更新しやすいブログをコンテンツに採り入れることで、ターゲットユーザーのウェブサイトへの訪問頻度もUP。顧客とのエンゲージメントを深め、Home Depotのファンを育成することも可能な、パワーを持ったコンテンツだと言えるだろう。
DIYの中でも、一度の作業で終わりではなく継続的なケアが必要となるガーデニングに特化したマイクロサイト。季節性を考慮したお手入れ方法、ガーデニングアイテムのトレンド紹介、失敗しない為のコツなど、ガーデニングのプロによるコンテンツを提供することで、中長期的なエンゲージメントを図り、Home Depotのファン化を促進している。また、注目すべきは、読者が「居住地域」を選択できるようになっている点だ。気候帯によってその時期に必要な手入れが異なるガーデニングならではの仕組みで、居住地域ごとにその月にやるべきことリストが企画・制作されている。ユーザー視点からコンテンツを企画しているからこそ、地域性を配慮したコンテンツが用意されていることが見受けられる。
明確な課題を持ったターゲットユーザーに対して、ハウツー情報をわかりやすく伝えるという目的をもった動画コンテンツだが、実はDIYファンのニーズの掘り起こしという面でも大きなパワーを発揮している。動画は、単に作業方法を説明するだけではなく、DIYの“楽しみ方”も伝わるような仕立てになっているのだ。
http://howto.homedepot.com/videos/watch/2688286230001/Crate-Wall-using-French-Clete-System.html
たとえば、上記の「木枠とフックを使った壁収納の作り方」では、自分のセンスで好きに収納のサイズやレイアウトを変えられるDIYならではの楽しさが表現されている。
ターゲットユーザーの視点に立って丁寧に企画・制作されているHome Depot社のコンテンツ。注目すべきは、ただターゲットユーザーの視点を大切にしているという点だけでなく、購買プロセスの異なるフェーズにあるターゲットユーザーに対して、各々が“その次のフェーズ”にスムーズにステップアップできるようにコンテンツが企画されているという点にある。
つまり、まずは商品購入の背景にある“課題”に応えるコンテンツ(Project Guide)を提供し、接点を持つ。次に、”商品検討”を様々な知識によってサポートするコンテンツ(Buying Guide、How to Advice)によってターゲットとのエンゲージメントを図る。そして、DIY好きな人に多彩なトピックを継続的に提案するコンテンツ(The Blog)により“Home Depotのファン化”を狙う――といった具合に、ターゲットユーザーの「コンテキスト」を理解いした上で企画が設計されている。
優れた“コンテンツ”と、生活者の“コンテキスト”を理解した上での情報設計――この二つの側面こそが、Home Depot社のウェブサイトの発信力・求心力を高める原動力となっていることは明らかだ。